第十二話
ガッタン、という揺れでわたしは目覚めることができた。
「いっ…!」
打ちつけた頭がまだ少し痛む。
そうっと荷台から頭を出し、辺りを見渡す。
(ここ、どこ…?)
冷たい風が吹くたびに、パラパラと乾いた土が舞い上がる。
それが頬に当たって、少し痛い。
(な、なにこれ…?)
畑は荒れ果て、屋根は一部壊れていたり、戸も外れた家が多く見える。
(ちが、う…)
土がひび割れており、そこに植えてある作物は既に枯れ果て、中途半端に残っている。
だれも、世話する人などいないような…今まで見たこともない景色にサァと血の気が引く。
また、家も同じように一部だけでなく、隙間から見える中の様子が、傾いた椅子、なにも置かれていないホコリが被ったように見える棚で、生活感がまるでない。
軒先には、干からびた野菜が吊るされたままになっていた。
まるで、途中で生活をすることを止めたという方が合っている気がした。
ズサ…と思わず後退りをする。
「…で、ん…?なんか後ろから物音しなかったか?」
「…!」
わたしは手で口を抑え、なるべく息を潜める。
うるさくなる心臓のせいでバレないか不安だった。
どうして、こんなことに…。
「おい、いいだろ。早く済ませようぜ」
「…あ。あぁ、そうだよな」
オトコたちが去ったのを確認してからもう一度周りを見渡す。
(どうしよう…)
またオトコたちが戻ってきて見つかっても困る。
でも、この高さから飛び降りるのは…。
もう一度荷台から顔を出す。
キっとわたしは地面を睨む。乾ききって硬いように見えるが、飛び降りても最悪骨折くらいで済むだろう。
意を決してわたしは荷台から飛び降りた。
ビリ、と裾が破ける音がし、間抜けな格好ではあったが、なんとか着地でき、ホっとする。
足裏がジンジンと痛むが、骨が折れなくてなによりだった。
立ち上がって服のホコリを払い、わたしは急いでこの場から離れる。
取り敢えず、隠れられそうな場所を探しながら、遠目で馬車を見守る。
(う…狭いし、汚い…)
悪臭が酷くなり、服で口を覆いながら原因を探す。
なにかが倒れているのが見え、近付いて覗くと、しおしおに枯れた植物の間で、干からびた牛が死んでいた。
いや、牛なのだろうか?
皮が骨に張り付き、目は窪み、生き物だったのかすら怪しく思う。
死体だと思われるのに、その周りにハエが集っていないのに気付き、背筋が粟立つ。
叫び声を上げそうになるのを一生懸命堪えた。
(な、なに…こんな…恐ろしい…!)
馬が鳴く声が聞こえ、慌てて馬車を見ると既に離れきっていた。
「う、うそ…」
荒れ果てた地で、どこかも分からないのに帰る方法すら無くしてしまった。
こんなことなら、あのオトコたちに見つかった方がマシだったのかもしれない。
「あ!み、身分証…!ない…!」
服を隈なく探すが見つからない。
どうやら気絶する前に掴めなかったようだ。
見知らぬ地で迷子になった挙句に久世さんの身分証もなくしてしまい、絶望感に襲われる。
言いつけを破り外に出て、そのうえ迷子だなんて…わたしを探してくれる人はいるのだろうか。
(久世さんは…そんなわけないか)
フっと苦笑する。
頭では来ないと分かっているのに、なぜか久世さんのことを考えてしまう。
あの日、わたしの袖を掴んだ久世さんを思い出すと、なぜか期待してしまう。
…ううん。自分で選んでここまで来てしまったんだから、どうにか帰れるよう考えよう。
わたしはどこかに情報が落ちていないかと、もう一度辺りを見渡す。
不気味なほど、なにもなかった。
(待って…静かすぎるような…?)
砂埃は舞っているのに、風の音が聞こえない。
村のはずなのに、人の話し声も動物の鳴き声もしない。
壊れている戸がパタパタと動いているのに、きしむ音一つない。
ひゅっというわたしの呼吸音だけが一面に響いている。
なにかが、おかしい…。
(なに…この村…ほんとに、こんなところがあるの?)
ゾワっと背筋が凍る。
とにかく、早くここを脱しよう。
恐怖心を沈めるために希望があることを考える。
もっとマトモな村があるかもしれない。
こんな場所だとしても、馬車で来たのだ。
どこかに首都に繋がる道があるはず。
川沿いを歩けばきっとどこかに辿り着くはず。
水の近くには人がいると聞いたことがある。
もしかすると、馬車が偶然通りかかるかもしれないし。
それに事情を話せば、乗せてもらって帰れるかもしれない。
(…大丈夫。一人でも、できる)
身分証を握りしめようとしている自分に気付き、乾いた笑いが出る。
一人でと決めたはずなのに、その直後にもう落としてしまったものを探していたなんて滑稽だ。
グっと手と膝に力を入れる。
どこも怪我はしていない。これくらい、なんてことない。
「しっかりしなきゃ…」
声に出すと、より気合いが入った気がする。
身を潜めるのは止め、川を探そうと歩き出す。
その時、誰かがわたしの手首を掴んだ。
「わっ…!?」
「…お前、だれだ…?」
先ほどの牛に負けないくらい、皮と骨がくっつきそうなほど痩せたオトコだった。
(…人?いたんだ!)
「あ、あの、わたし…馬車に置いていかれてしまって…」
「お前…」
手を掴まれたまま、グイと服を引っ張られる。
オトコはわたしの服を凝視すると、みんな!と、なにもないところへ声を掛ける。
なにも、なかったはずなのに、いつの間にか…いる。
爛々とした多くの目が、いくつもこちらに向いていた。
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