紫陽花狼草
『六花彩湯国』の第三の首都の『紫陽花』。
汐桜の三角建物の根城にて。
紫陽花狼草。
赤、薄紅、黄、橙、青、紫、白、薄緑、黒。
紫陽花の花と装飾花で全身を形成する狼の外見をした、自由自在に動く事のできる獰猛な植物。
この紫陽花狼草から見事に摘み取った花(装飾花ではなく小さな小さな花を、である)を使えば、吸血鬼の血の効力から解き放たれる。
(もう、紫陽花狼草は絶滅している。か)
汐桜はテーブルに乗せて読んでいた深紅の表紙に分厚い本を閉じた。
(どうしようもないんだ。琥紺。本当に、どうしようもない。勇者ならばと、奇跡を信じて生き返らせた結果、魔王の忠実な僕となった勇者はきっと命じられる事だろう。仲間を殺せ、と。絶望の上塗りだ。そんな事になるくらいなら………そう言えば、吸血鬼とは、エルフと同様に星の守り手だ。星を癒す事に特化している、いや、星を癒す為だけに存在しているような種族だ。それが何故、他の生物を弄ぶようになったんだ? そもそも吸血鬼やエルフは仲間が悪逆非道の限りを尽くしているにもかかわらず、何故放っておく? それが、吸血鬼とエルフの総意、だからか? つまり、星の意思。星を癒す為に必要な行為。だとしたら………だとしたら。エルフが勇者を吸収しようとしたのも頷ける。邪魔者を排しつつ、勇者の力を我が物にする為だ。麿たちにできる事など本当に。星に歯向かうなどできようがないだろう)
「は。はは、は」
真紅の拍子に分厚い本の題名を指の腹でなぞっていた汐桜は、渇いた笑声を熱せられた喉から無理矢理に吐き出したのであった。
(2025.1.29)




