詠唱
『六花彩湯国』の第一の首都の『藤』。
『聖月っ! 聖月っ! せいげつ!!! さっさと自分の身体を治癒しやがれ!!! じゃないと俺に殺されるぞ!!!』
(なんて言ったけど、)
水、火、風、土、金の魔法を組み合わせた最大級の攻撃魔法を絶え間なくぶっ放し続けていた芽衣は、聖月を見下ろしては口を歪ませて笑った。
(これっぽっちも傷つけられてないんだよなあ)
幾重にも張り巡らされた厳重な結界が立ち塞がっているが如く、最大級の攻撃魔法をぶつけ続けているにもかかわらず、死傷重傷ばかりか、聖月の身体には一切合切傷を付けられていない状況であった。
不可思議なのは、芽衣が結界を視認できない事。
いつもならば、聖月が張り巡らせる結界は、高等であれ中等であれ下等であれ、芽衣は視認できていたのだが、今回はまるで視認する事ができなかったのだ。
しかも、最大級の攻撃魔法が弾き返されるわけでもなく、聖月に吸収されているという。
(う~ん~。実は傷ついているけど、治癒魔法を使って目にも止まらない速さで傷を治しているとかか? 俺にも見えない速度で? 持久戦になるかあ? やっぱり、魔法じゃなくて、拳で。いや。でも。多分。単なる勘だけど。魔法じゃないとだめな気がする。ううううう~~~。本当は魔法じゃなくて、殴る蹴るの肉弾戦にしたいけど。殴る蹴るができなくて、めちゃくちゃストレスが溜まるけど~~~)
「ああもう! 分かってるよ! 詠唱すればいいんだろ!」
水の精霊、火の精霊、風の精霊、土の精霊、金の精霊に詠唱するようにせっつかれた芽衣は、地団太を踏んだのち、精霊たちに合わせて詠唱を続けるのであった。
(ああもう! ああもう! ああもう! さっさと戻って来いよ! 聖月!!!)
口が二つあればいいのに。
芽衣は強く思った。
口が二つあれば、一つは魔法の詠唱を言い続けて、もう一つは、聖月の名前を吠え続けるのだ。
(2025.1.20)




