へん
『六花彩湯国』の第一の首都の『藤』。
声は聞こえていたと思う。
声に出せなかっただけで。
芽衣さんの必死になって訴える声音。
ああ、わたくしの事をこんなにも心配してくれる人が居るなんて。
などと、感激、感銘、感動するわけでもなく。
ただただ、無感激に無感銘に無感動に疑問を抱くだけ。
他人の為によくもまあここまで動けるなという事。
(まあ、芽衣さんは他人の為とは言えないですね。芽衣さん自身が強くなる為にわたくしが必要だと言っていましたし。要は、わたくしを助ける事は、芽衣さん自身を助ける事になる。何でしょうね。それ。変なの)
変な人だった。
変な人たちだった。
他の人と同様に、変な人間たち、変な雪男。
(あの人たちと何が違うのでしょうか?)
自分の価値を押し付けてくる点では同じなのに、何故。
あの人たちに抱く甚だしい嫌悪感を、勇者一行の三人には抱かないのか、生じないのか。
面倒だという気持ちは甚だしょっちゅう常に生じてはいるけれど。
嫌悪感は、ない。
だから、だろうか。
五年という長い月日を共に過ごせたのは、
(確かに癒院長には癒院から追い出される形で勇者一行に参加させられたけれど。あの人たちの傍に居るのが本当に苦痛で飛び出したように、勇者一行の三人に耐えられぬほどの嫌悪感苦痛を抱いていたとしたら、癒院長も追い返す事はせずに癒院に受け入れてくれたはず………多分。いえ。追い返されたでしょうか? もしかしたら追い返されたかもしれませんね。追い返されたとしたらもう、わたくしに行くところは、ない。死ぬしかない)
ちらちらと、
頭に浮かぶものの、ただ、死ぬ、という選択肢はどうしても実行しようとは思わなかった。思えなかった。
あの人たちなんかの所為で、こんな世界なんかの所為で、死ぬというのは、気に喰わないという反発心なのか何なんか。
積極的に生きたいとも死にたいとも思えなかった。
揺蕩いたかったのだろうか。
熱いとも冷たいとも思わないぬるま湯で、ただぼんやりと過ごしていたかったのだろうか。
やりたい事も見つけず、他人の為に動く事もせず、生きていないじゃないかと指摘されながらも、これでいいと無視をしながら生きていたかったのだろうか。
(そうなのでしょうね。きっと、わたくしに最も適さないはずだったのです。勇者一行など。類まれなる治癒の力さえなければ、こんな面倒な事にはならなかったのに)
「聖月っ! 聖月っ! せいげつ!!! さっさと自分の身体を治癒しやがれ!!! じゃないと俺に殺されるぞ!!!」
ああもう、本当に。
(2025.1.20)




