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魔物
『六花彩湯国』のどこか。
ありがとうございます。
七愛は湯気に溶け込みそうな声音で言った。
「ありがとうございます。私の事を案じて言って下さったのですね。では、心行くまで秘湯に浸かっていようと思います。と、言いたいところですが」
ちゃぷんちゃぷんちゃぷんと。
七愛は躊躇なく立ち上がると、音を立てながら歩み始めた。
奏斗の方へと真っ直ぐに。
「ああ。何故でしょう。私は今。もう、この秘湯を干上がらせたくて堪らない。消し去りたくて堪らない」
「え?」
未だ秘湯に浸かっていた奏斗は異変に気付いた。
秘湯の水位が少しずつ少しずつ緩やかながらも下がってきているのだ。
とても厚い湯けむりもそれにつれ、どんどんどんどん薄くなっては、消えていき、そして、姿を露わにさせた。
「君を消し去りたくて仕方がない」
「七愛、さん」
奏斗は七愛の姿を見上げては目を見開いた。
右目の上の額から不格好な一本角が生え、右頬には水仙の入れ墨が施されていたのだ。
(この、姿、は、)
角に、花の入れ墨。
七愛の姿は、魔物の特徴と一致していたのである。
(2025.1.12)