その後の幕間(田中タエコ)
今回の投稿はこれで最後になります。
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「ママ、オヤジどこ?」
「ハルト? ハルトなら、ちょっと大人の用事で出掛けているかなぁ……」
田中タエコは、娘の日向が誰を探しているのか理解している。
どうして日向が、自分の兄をオヤジと呼ぶのか事情は聞いているし、どうしてタエコのお腹に宿ったのかも、何となく理解している。
日向には前世の記憶があるのも受け入れているし、親である自分達よりハルトに懐いている理由も許容している。
タエコにとって日向は、大切な娘さんであると同時に、魂的には孫という関係でもあった。
「ママ、だっこして」
「は〜い」
タエコは日向がとても可愛い。
子供達は皆可愛いが、一番末っ子である日向は特に甘やかして可愛がっていた。
タエコは間近で日向の顔を見る。
魂の影響か、幼児だというのにとてつもなく整っており、本当に私の娘か⁉︎ と驚くほどだった。
日向に笑い掛けると、日向もニヘラッと笑う。
うん可愛い。
それだけで、娘が世界で一番可愛いと理解してしまった。
「オヤジいつかえってくる?」
「さあ、向こうのご両親に挨拶に行ってるから、今日は帰って来ないかもしれないね」
そう言うと、日向は悲しそうな顔をする。
「ごめんね。ハルトにとって大事な時期なの、日向ちゃんも応援してあげようねー」
日向も大事だが、ハルトも大切な息子なのに違いはない。
だからこそ、成功して欲しいと心の底から願っていた。
そう、やっと不出来な息子にも、大切な人が出来たのだ。
年齢でいうのなら決して遅くはないのだけど、上の兄と姉が早々に結婚してしまったのもあり、今か今かと待ち侘びていた。
たとえどんなに強くなろうと、人からかけ離れた存在になろうと、世界を守った救世主様になろうと、その事実は変わらなかった。
タエコは、息子のハルトが何をしたのか理解していない。
認識しているのは、ダンジョンという危険な所に挑んで強くなり、何か大きなことを成し遂げたんだなぁ。というくらいだ。
ハルトが世界を救ったと知らされても、あの呑気で馬鹿で鼻をほじっているような顔しか思い浮かばなかった。
ハルトが何をしたのか教えてくれた自動人形は、タエコを見下ろして言う。
「主様、上手く行くと良いね」
「マリンちゃん」
四年前から一緒に住むようになった同居人で、ハルトが帰って来るまで一緒に家事や日向の面倒を見てくれた友人だ。
ハルトから「日向の護衛に置いていくから、後よろしく」とさも当然のように言うものだから、当時は混乱したものだ。夫の甚九郎もどうしたらいいのか分からず、役立たずだった。
タエコは率先して自動人形に話し掛けて、名前が無いというのでマリンと名付けたのだ。それから、マリンはタエコと交流を深めて仲良くなって今にいたる。
「これが上手く行ったら、主様もついに結婚かぁ。世も末だね……」
「そんな言い方しないでよ」
「あはは、ごめんごめん」
マリンの言葉を聞いて、ハルトが帰って来た時のことを思い出す。
ハルトの影響で、田中家は有名になってしまった。
数年前のグラディエーターに出場したのもそうだが、未曾有の被害をもたらした黒龍との戦い。その映像が世界中に出回り、一気に注目を浴びてしまったのだ。
ハルトの兄姉の家庭にも、様々な所から連絡が来ていたらしく、疲弊している様子だった。
中には、力で言うことを聞かせようとしていた輩もおり、もしフウマがいなかったら大変なことになっていただろう。
しつこい連絡も、フウマのお友達という奈良さん(ぬらりひょん)という頭の大きな人が対処して、無くなった。
これらの出来事のおかげで、ご近所さんにも警戒されるようになり、一時期は避けられていた。
それも、フウマによる治安維持活動のおかげで無くなったが、ハルトが帰って来たことで緊張が走ってしまう。
ハルトは気付いていないが、というか気にしていないが、ご近所どころか街全体から警戒されていたのだ。
誰も余計なことをしないように、不興を買わないように、危害を加えないように細心の注意を払っていた。
中には、バズり目的で特攻しようとする馬鹿もいたが、目に見えない力に捕まり排除される。
その側には、いつも子狐がいたそうだが、きっと関係無いだろう。
ご近所さんから警戒されていると言っても、一週間もすれば慣れて来る。というより、ハルトはそもそも無闇に暴れるような奴ではなかったのだ。
現代人としての常識をそこそこ持ち、無闇矢鱈に危害を加えたりしない。
それどころか、怪我した子供を治療したり、迷子の子を交番に届けたり、動けない老人を介護したり、町内を清掃したりと、なんか思ってたのと違う行動をしていた。
それに加えて、痩せていたというのも好印象だった。
太った体は、あの黒龍と戦った姿を彷彿とさせるが、痩せた姿はどこにでもいる成人男性だ。
映像と違うというだけで、ハルトに対する印象は和らいでいた。
その内、ご近所さんの警戒心も解けて、これまで通り接するようになって行った。
タエコも井戸端会議に戻れて一安心だ。
そこで、ハルトのことを聞かれることは多かった。特に収入や仕事、それから恋人の有無についてだ。
あれだけ有名なのだから、さぞお金を持っていると思われたのだろう。
なので、無職で収入は無いと本当のことを伝えると、同情の目を向けられてしまった。
どんなに功績を残したとしても、無職に対して世間の目は冷たいのだ。
そんな無職な息子に、念願の恋人が出来た。
「それにしても、まさか幼稚園の千里先生とはね……」
調千里のことは、日向が幼稚園に通い始めた頃から知っている。
就職の為、ダンジョンがある街からこっちに引っ越して来たと聞いている。フウマとは昔から知り合いで、この幼稚園もフウマからの紹介だったらしい。
フウマちゃんからの紹介?
頭にクエッションマークが飛びまくったが、タエコはなんとか飲み込んだ。
あのフウマなら仕方ない。
タエコの中で、フウマは理解するのを諦めた境地の存在に達していた。
千里は日向の担任になり、突飛な行動をする日向の面倒をよく見てくれた。日向も懐いていたし、とても良い先生なのだという印象を抱いていた。
「まさか義理の娘になるとは……」
美人な先生というので、幼稚園では大人気の先生だ。
生徒は懐いていて、他の先生からも信頼が厚い。元探索者というのもあり、トラブルが起こっても大抵のことは解決出来る。
ハルトのイメージが昔なままのタエコは、ハルトとは釣り合ってないなと思ってしまった。
おかげで、田中家に挨拶に来た時は、
「もしかして、騙されてない?」
と本気で心配したくらいだ。
冗談と思ったのか、千里は笑っていたがタエコはいたって真面目だった。
何はともあれ、これで一番心配だった次男が落ち着いてくれる。
「ううう……」
そう安堵したいのだけど、一番下の子が寂しそうにしているのを見ると、とても複雑な気持ちになる。
家庭を持てば、ハルトは家を出て行くだろう。
そうなると、ハルトに懐いている日向が寂しい思いをしてしまう。
それは困る。
世界で一番可愛い娘が悲しい思いをするのは間違っている。
そう考えたタエコは、ある迷案を思い付く。
「うち、二世帯住宅に改装出来ないかな?」
「うわぁー……」
トチ狂ったことを言い出したタエコに、マリンがドン引きしたのは言うまでもない。
次書くならフウマの話かなと考えております。




