ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その2
明日3下巻発売されます!
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勘兵衛が家庭を持って少しした頃、ある青年と再会する。
彼は同じ村の出身で、名を世樹マヒトと言う。
情けないことに、懐かしい顔を見て思わず声を掛けてしまった。
「よう、どうしたんだよぼんやりとして?」
「貴方は……勘兵衛さんですか?」
「おう、天津勘兵衛だよ。マヒト久しぶりだな」
「勘兵衛さん⁉︎ 本当に勘兵衛さん⁉︎ なんというか……変わりましたね」
「まあな、いろいろあったんだよ。所でどうしたんだよ黄昏たりして? 女にでも逃げられたか?」
「そんなんじゃないんですけど、仕事をクビになってしまって……」
どうやら近くの銀行に勤めていたようだが、不渡りが出たらしく、責任を取って数人が銀行を辞めさせられたようだ。
その責任の中には新人のマヒトも入っていたらしく、理不尽にクビになったという。
次の就職先も決まらず、途方に暮れていた所に勘兵衛が声を掛けてしまったようだ。
「村に帰っても、兄が家を継いでいるので邪魔者にしかなりませんし、どうしようかと悩んでいまして……」
「そうか……なら俺を手伝わないか? 少しキツイが仕事ならあるぞ」
気紛れだった。
結婚して、子供が出来て、人との交流が心地良く、もっと誰かと関わりたいと思ってしまった。
きっと、勘兵衛の心が弱かったせいだろう。
マヒトとパーティを組むようになり、探索の足は鈍ってしまったが、それ以上の価値を勘兵衛に与えてくれた。
迷宮に仲間と一緒に潜るという心強さ。
安心を知ったことで、次々と仲間を増やして行き、充実した日々を送る。
だが、その裏で、勘兵衛は手を血に染め続けた。
「オエッゴホッ!ゴホッ! ……くそ、いつまでやらないといけないんだよ」
嘔吐物を出し切り咳き込むと、吐血していた。
迷宮の呪いとスキルが反発して、勘兵衛の体内を傷付けている。治癒魔法で回復は可能だが、それでも気怠さだけは取り除けなかった。
表では多くの人に慕われ、仲間と共に迷宮に潜る模範的な人物。
裏では、政府の犬として反乱分子を狩る殺し屋。
余りにも違う二つの顔に、勘兵衛自身追い詰められていた。
「あいあうとー」
「おお、平次は元気だなー」
それでも心を保っていられるのは、愛する妻や子供の存在が大きかった。
この子にだけは、自分と同じ道を歩かせない。この子の未来を絶対に守る。
勘兵衛は決意すると、何とかしてこの状況を打開する手立てを考え始めた。
だが、そう考えた矢先、ある指令が下る。
人の悪意という物は、どこまでも誰かを不幸にする。勘兵衛はそれを思い知らされた。
「は? 一般人を殺せっていうのか?」
「そうだ。その力、これからも我らの為に使ってもらうぞ」
「ふざけるな! 俺は奴らが、戦争を企んでいるからってやってたんだ! 誰がやるかよ!」
「お前に拒否権は無い」
「……おい、いつまでも俺が命令に従うと思ってんのか? ここでお前を殺すのは簡単なんだぞ」
脅しではない。場合によっては、本気でやるつもりだった。それだけ、目の前の男に憎しみを抱いていた。
だが、男は勘兵衛の脅しを意に介さない。
それどころか、好きにしたらいいという雰囲気すらあった。
男の姿を見て、殺されることも想定してここに立っているのだと、勘兵衛は理解してしまう。
そんな破綻した考えを持つ男が、口を開く。
「お前には守るべき家族がいるな? 大切な仲間もいる。皆を不幸にしたくないだろう?」
男の言葉に、勘兵衛は逆らえなくなってしまった。
◯
最悪の日々が続く。
仲間と探索していない日は、どこかに呼び出されては命令されるままに人を殺す。感情を殺し、ただ淡々と行動した。
どれだけの人を殺したのだろう。
築いた屍の数が多過ぎて、気が触れそうなる。
顔を拭った手から血の臭いがして、何度も何度も何度も何度も何度も手を洗った。それでも落ちなくて、切り落とそうとしてしまった。
「勘兵衛さん、大丈夫ですか?」
探索中、ぼうっとしているとマヒトが心配して声を掛けて来た。
「ああ、大丈夫だ。もう直ぐ30階なんだ、気を引き締めて行けよ」
そう告げると、大柄で野太い声の男が答える。
「おお、大将こそ大丈夫か? 心ここに在らずだったぞ」
彼は本田剛一。仲間の中で一番歳上だが、とても気さくで心待ちの良い人物である。
「大丈夫だって。剛一さんも酒は控えてくれよ」
「わははっ! それは約束しかねる!」
「ちょっと、探索中はお酒飲まないでって言ってるだろ‼︎」
そんな剛一に注意するのは女性の戦士、一ノ瀬ナナオという。
マヒトが気になっている人物でもあり、ナナオも少なからず意識しているようだった。
この二人が夫婦になったら、盛大に祝ってやろうと皆で話していたりする。
「ナナオ、言って分からない人には、こうするしかありません」
それから最後の一人、魔法使いの西尾ネネが手から水を出して剛一の頭にぶっかけた。
「冷て⁉︎ やめろネネ! つーか痛てー⁉︎」
水の出力が増し、激しく剛一を攻め立てる。
「これで酔いも覚めたでしょう」そうネネは得意げにしていた。
それを笑いながら見て、勘兵衛は癒される。
この四人が、勘兵衛の仲間達だ。
とても大切で、もう一つの心の拠り所になっている居場所でもあった。
探索は順調に進み、30階を突破する。
この時代、ここまで到達出来た探索者は勘兵衛達だけである。
勘兵衛自身は、一人でもっと奥深くまで潜っているが、それは公表していなかった。
必要無いというのもあるが、これ以上目立って厄介ごとを引き寄せたくはなかったのだ。
しかし、どんなに勘兵衛が望まなくても、面倒ごとはやって来る。
家でくつろいでいると、誰かがやって来た。
玄関で妻が応対しているが、何やら困った様子だ。なので勘兵衛が出向いたのだが、そこには見たくない顔が立っていた。
「あなた、あなたにお客様が来ているんだけど……」
初老の男性は紳士の格好をしているが、その目は相手を見下しており、とても対等な者に向ける物ではなかった。
実際に、勘兵衛のことを見下していたのだろう。態度には、あからさまな侮蔑が含まれていたのだから。
「何であんたがいる?」
「実の父親に対する態度ではないな。躾がなっていない」
「あんたのことを父親だなんて思ったことは一度も無い。用が無いなら、さっさと出て行ってくれ」
「用事ならある。明日、我が家に来い。ここで死ぬより、真っ当な生活が出来るようにしてやるぞ」
父親は、それだけを告げると出て行った。
一体何なんだと怒りが湧いて来そうだが、何故か最後の言葉に惹かれてしまった。
「ここで死ぬより、真っ当な……」
探索者として生きるのに、不満があるわけではない。
ただ、もう一つの仕事が余りにも辛く、もしかしたらという淡い期待を抱いてしまう。
父親は、腐っても華族だ。今ではもう特権階級は消えてしまっているが、それでも力はまだ残っている。
もしも政府に働きかけてくれたら、愚かにもそんな希望を抱いてしまった。
恐らく駄目だろうな、とは思っていた。
勘兵衛という優秀な手駒を、そう簡単に手放してはくれないと分かっていた。
翌日、機関車に揺られ屋敷に到着すると、以前と同じように大勢の親族が集まっていた。
勘兵衛を見て何やらぶつぶつ言っているが、一睨みして静まらせる。
ここにいるのは、豚と変わらない。
いや、食料になる分だけ豚の方がマシだろう。
そう認識したのだが、豚の中に異物が混じっていた。
「勘兵衛さん、少しは落ち着いてはどうですか?」
「お前はっ⁉︎」
そいつは、裏の仕事を勘兵衛に指示する男だった。
どうしてここにいるのか、直ぐには理解出来なかった。
しかし、父親が来て判明する。
この男が、勘兵衛の腹違いの弟だと。
「こいつは、お前の弟だ。探索者の中から、お前を見出したのもこいつだ。何の価値も無いお前に……」
話は、ほとんど聞いていなかった。
元々この家系は、政府を支える家系だの、御庭番の一つなどと、どうでもいい内容をペラペラと喋り続けた。
「勘兵衛、これまでの成果を認め、特別に我が××家の末席に名を加えてやろう。これからも国の為、仕事に励めよ」
……こいつは何を言っているんだ?
勘兵衛は呆然としながら、あることを考えていた。
それは、この馬鹿げた茶番の終わらせ方。
まるで壊れたラジオのように喋り続ける父親は、まるでノイズが掛かったかのように見えなくなった。それは周囲の人間もそうで、家畜以下の価値しか見出せなかった奴らが、醜い化け物に変化して見えた。
こいつらは一体何なのだろう?
迷宮に現れるモンスターの方が、よほどマシに見える。
何を意気揚々と人殺しを語っている。
お前が正義だとでも言いたいのか?
それとも、俺を惑わせる幻術を使っているのだろうか?
「……ああ、ここは迷宮なのか」
だから、ここにいる奴らは、新種のモンスターなのだろう。
「モンスターは殺さないとな」
突然の力の行使。
ここにいるのは、魔法と呼ばれる力を見たことの無い者がほとんど。それも、現最強の探索者が放った魔法に反応出来た者はおらず、皆が石の杭により腹を貫かれた。
悲鳴を上げられる者はおらず、突然の出来事にショック死するか、口から呻き声が漏れるだけ。
その光景を見て、何だ、ここのモンスターは弱いな。そんな感想しか抱けなかった。
ただ、心の奥にある蟠りが取れたような気がしてスッキリしていた。
勘兵衛は軽い足取りで、扉に向かう。
まだまだ、殺さなくてはいけないモンスターが、この迷宮にはいるのだ。容赦しては、他の探索者が危険な目に遭うかも知れない。
先達として、そこら辺はしっかりとやっておこうと考えてしまった。
そんな心優しい勘兵衛の肩を掴む輩がいる。
何だ? と見てみると、一体のモンスターが必死に口を動かしていた。
「兄……さ、なん…で、やっ……みと…め……のに……」
そのモンスターは、勘兵衛に指示を出していた男だったが、すでに勘兵衛は理解出来なくなっていた。
「悪い、モンスターの言葉分からないんだわ。でも、苦しめるのは趣味じゃないな」
今も生きている奴らに、追加で杭をプレゼントし脳天を貫いた。
「にっ……」
それが、勘兵衛を追い詰めた男の最後の言葉。
男はただ、兄を家で受け入れてもらう為に、奮闘していたに過ぎない。たとえ恨まれたとしても、結果的に幸せになれるのだから良いと思っていた。殺されても、跡目が兄に移行するだけなので、それで良いと思っていた。だが、その考え自体が失敗だった。
何せ、とんでもない怪物を目覚めさせてしまったのだから。
勘兵衛は部屋を出ると、スキル【生命探知】を使いこの屋敷にいる者全てを知覚する。
そして、全てを狩るために動き出す。
「さあ、やるか」
そこに老いも若いも男か女かも関係なく殺されて行く。
老人は死に、若い男女も死に、幼子も等しく殺されてしまう。
全てを殺し終えた勘兵衛は立ち止まり、深呼吸をする。
余りにも凄惨な現場でも、勘兵衛に取っては慣れ親しんだ場所だった。
何せ勘兵衛の目には、本物のモンスターに見えていたのだから。
「早く帰って、みんなで迷宮行かないとな……」
怪物となった勘兵衛は、いつも通りの様子で帰宅する。
まるで、何事も無かったかのように。
いろいろ意見いただきありがとうございます。
でもごめん!
絶望に挑む男の話を書きたかったんです!
ほんとごめん!




