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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その2

明日3下巻発売されます!

よろしくお願いします!

 勘兵衛が家庭を持って少しした頃、ある青年と再会する。


 彼は同じ村の出身で、名を世樹マヒトと言う。

 情けないことに、懐かしい顔を見て思わず声を掛けてしまった。


「よう、どうしたんだよぼんやりとして?」


「貴方は……勘兵衛さんですか?」


「おう、天津勘兵衛だよ。マヒト久しぶりだな」


「勘兵衛さん⁉︎ 本当に勘兵衛さん⁉︎ なんというか……変わりましたね」


「まあな、いろいろあったんだよ。所でどうしたんだよ黄昏たりして? 女にでも逃げられたか?」


「そんなんじゃないんですけど、仕事をクビになってしまって……」


 どうやら近くの銀行に勤めていたようだが、不渡りが出たらしく、責任を取って数人が銀行を辞めさせられたようだ。

 その責任の中には新人のマヒトも入っていたらしく、理不尽にクビになったという。

 次の就職先も決まらず、途方に暮れていた所に勘兵衛が声を掛けてしまったようだ。


「村に帰っても、兄が家を継いでいるので邪魔者にしかなりませんし、どうしようかと悩んでいまして……」


「そうか……なら俺を手伝わないか? 少しキツイが仕事ならあるぞ」


 気紛れだった。

 結婚して、子供が出来て、人との交流が心地良く、もっと誰かと関わりたいと思ってしまった。


 きっと、勘兵衛の心が弱かったせいだろう。


 マヒトとパーティを組むようになり、探索の足は鈍ってしまったが、それ以上の価値を勘兵衛に与えてくれた。

 迷宮に仲間と一緒に潜るという心強さ。

 安心を知ったことで、次々と仲間を増やして行き、充実した日々を送る。


 だが、その裏で、勘兵衛は手を血に染め続けた。


「オエッゴホッ!ゴホッ! ……くそ、いつまでやらないといけないんだよ」


 嘔吐物を出し切り咳き込むと、吐血していた。

 迷宮の呪いとスキルが反発して、勘兵衛の体内を傷付けている。治癒魔法で回復は可能だが、それでも気怠さだけは取り除けなかった。


 表では多くの人に慕われ、仲間と共に迷宮に潜る模範的な人物。

 裏では、政府の犬として反乱分子を狩る殺し屋。


 余りにも違う二つの顔に、勘兵衛自身追い詰められていた。


「あいあうとー」


「おお、平次は元気だなー」


 それでも心を保っていられるのは、愛する妻や子供の存在が大きかった。


 この子にだけは、自分と同じ道を歩かせない。この子の未来を絶対に守る。

 勘兵衛は決意すると、何とかしてこの状況を打開する手立てを考え始めた。


 だが、そう考えた矢先、ある指令が下る。

 人の悪意という物は、どこまでも誰かを不幸にする。勘兵衛はそれを思い知らされた。


「は? 一般人を殺せっていうのか?」


「そうだ。その力、これからも我らの為に使ってもらうぞ」


「ふざけるな! 俺は奴らが、戦争を企んでいるからってやってたんだ! 誰がやるかよ!」


「お前に拒否権は無い」


「……おい、いつまでも俺が命令に従うと思ってんのか? ここでお前を殺すのは簡単なんだぞ」


 脅しではない。場合によっては、本気でやるつもりだった。それだけ、目の前の男に憎しみを抱いていた。

 だが、男は勘兵衛の脅しを意に介さない。

 それどころか、好きにしたらいいという雰囲気すらあった。


 男の姿を見て、殺されることも想定してここに立っているのだと、勘兵衛は理解してしまう。


 そんな破綻した考えを持つ男が、口を開く。


「お前には守るべき家族がいるな? 大切な仲間もいる。皆を不幸にしたくないだろう?」


 男の言葉に、勘兵衛は逆らえなくなってしまった。





 最悪の日々が続く。


 仲間と探索していない日は、どこかに呼び出されては命令されるままに人を殺す。感情を殺し、ただ淡々と行動した。


 どれだけの人を殺したのだろう。

 築いた屍の数が多過ぎて、気が触れそうなる。


 顔を拭った手から血の臭いがして、何度も何度も何度も何度も何度も手を洗った。それでも落ちなくて、切り落とそうとしてしまった。




「勘兵衛さん、大丈夫ですか?」


 探索中、ぼうっとしているとマヒトが心配して声を掛けて来た。


「ああ、大丈夫だ。もう直ぐ30階なんだ、気を引き締めて行けよ」


 そう告げると、大柄で野太い声の男が答える。


「おお、大将こそ大丈夫か? 心ここに在らずだったぞ」


 彼は本田剛一。仲間の中で一番歳上だが、とても気さくで心待ちの良い人物である。


「大丈夫だって。剛一さんも酒は控えてくれよ」


「わははっ! それは約束しかねる!」


「ちょっと、探索中はお酒飲まないでって言ってるだろ‼︎」


 そんな剛一に注意するのは女性の戦士、一ノ瀬ナナオという。

 マヒトが気になっている人物でもあり、ナナオも少なからず意識しているようだった。

 この二人が夫婦になったら、盛大に祝ってやろうと皆で話していたりする。


「ナナオ、言って分からない人には、こうするしかありません」


 それから最後の一人、魔法使いの西尾ネネが手から水を出して剛一の頭にぶっかけた。


「冷て⁉︎ やめろネネ! つーか痛てー⁉︎」


 水の出力が増し、激しく剛一を攻め立てる。

「これで酔いも覚めたでしょう」そうネネは得意げにしていた。

 それを笑いながら見て、勘兵衛は癒される。


 この四人が、勘兵衛の仲間達だ。

 とても大切で、もう一つの心の拠り所になっている居場所でもあった。


 探索は順調に進み、30階を突破する。

 この時代、ここまで到達出来た探索者は勘兵衛達だけである。

 勘兵衛自身は、一人でもっと奥深くまで潜っているが、それは公表していなかった。

 必要無いというのもあるが、これ以上目立って厄介ごとを引き寄せたくはなかったのだ。


 しかし、どんなに勘兵衛が望まなくても、面倒ごとはやって来る。


 家でくつろいでいると、誰かがやって来た。

 玄関で妻が応対しているが、何やら困った様子だ。なので勘兵衛が出向いたのだが、そこには見たくない顔が立っていた。


「あなた、あなたにお客様が来ているんだけど……」


 初老の男性は紳士の格好をしているが、その目は相手を見下しており、とても対等な者に向ける物ではなかった。

 実際に、勘兵衛のことを見下していたのだろう。態度には、あからさまな侮蔑が含まれていたのだから。


「何であんたがいる?」


「実の父親に対する態度ではないな。躾がなっていない」


「あんたのことを父親だなんて思ったことは一度も無い。用が無いなら、さっさと出て行ってくれ」


「用事ならある。明日、我が家に来い。ここで死ぬより、真っ当な生活が出来るようにしてやるぞ」


 父親は、それだけを告げると出て行った。

 一体何なんだと怒りが湧いて来そうだが、何故か最後の言葉に惹かれてしまった。


「ここで死ぬより、真っ当な……」


 探索者として生きるのに、不満があるわけではない。

 ただ、もう一つの仕事が余りにも辛く、もしかしたらという淡い期待を抱いてしまう。

 父親は、腐っても華族だ。今ではもう特権階級は消えてしまっているが、それでも力はまだ残っている。

 もしも政府に働きかけてくれたら、愚かにもそんな希望を抱いてしまった。




 恐らく駄目だろうな、とは思っていた。

 勘兵衛という優秀な手駒を、そう簡単に手放してはくれないと分かっていた。




 翌日、機関車に揺られ屋敷に到着すると、以前と同じように大勢の親族が集まっていた。


 勘兵衛を見て何やらぶつぶつ言っているが、一睨みして静まらせる。

 ここにいるのは、豚と変わらない。

 いや、食料になる分だけ豚の方がマシだろう。

 そう認識したのだが、豚の中に異物が混じっていた。


「勘兵衛さん、少しは落ち着いてはどうですか?」


「お前はっ⁉︎」


 そいつは、裏の仕事を勘兵衛に指示する男だった。


 どうしてここにいるのか、直ぐには理解出来なかった。

 しかし、父親が来て判明する。

 この男が、勘兵衛の腹違いの弟だと。


「こいつは、お前の弟だ。探索者の中から、お前を見出したのもこいつだ。何の価値も無いお前に……」


 話は、ほとんど聞いていなかった。

 元々この家系は、政府を支える家系だの、御庭番の一つなどと、どうでもいい内容をペラペラと喋り続けた。


「勘兵衛、これまでの成果を認め、特別に我が××家の末席に名を加えてやろう。これからも国の為、仕事に励めよ」


 ……こいつは何を言っているんだ?


 勘兵衛は呆然としながら、あることを考えていた。


 それは、この馬鹿げた茶番の終わらせ方。


 まるで壊れたラジオのように喋り続ける父親は、まるでノイズが掛かったかのように見えなくなった。それは周囲の人間もそうで、家畜以下の価値しか見出せなかった奴らが、醜い化け物に変化して見えた。


 こいつらは一体何なのだろう?

 迷宮に現れるモンスターの方が、よほどマシに見える。

 何を意気揚々と人殺しを語っている。

 お前が正義だとでも言いたいのか?

 それとも、俺を惑わせる幻術を使っているのだろうか?


「……ああ、ここは迷宮なのか」


 だから、ここにいる奴らは、新種のモンスターなのだろう。


「モンスターは殺さないとな」


 突然の力の行使。

 ここにいるのは、魔法と呼ばれる力を見たことの無い者がほとんど。それも、現最強の探索者が放った魔法に反応出来た者はおらず、皆が石の杭により腹を貫かれた。


 悲鳴を上げられる者はおらず、突然の出来事にショック死するか、口から呻き声が漏れるだけ。

 その光景を見て、何だ、ここのモンスターは弱いな。そんな感想しか抱けなかった。


 ただ、心の奥にある蟠りが取れたような気がしてスッキリしていた。


 勘兵衛は軽い足取りで、扉に向かう。

 まだまだ、殺さなくてはいけないモンスターが、この迷宮にはいるのだ。容赦しては、他の探索者が危険な目に遭うかも知れない。


 先達として、そこら辺はしっかりとやっておこうと考えてしまった。


 そんな心優しい勘兵衛の肩を掴む輩がいる。


 何だ? と見てみると、一体のモンスターが必死に口を動かしていた。


「兄……さ、なん…で、やっ……みと…め……のに……」


 そのモンスターは、勘兵衛に指示を出していた男だったが、すでに勘兵衛は理解出来なくなっていた。


「悪い、モンスターの言葉分からないんだわ。でも、苦しめるのは趣味じゃないな」


 今も生きている奴らに、追加で杭をプレゼントし脳天を貫いた。


「にっ……」



 それが、勘兵衛を追い詰めた男の最後の言葉。



 男はただ、兄を家で受け入れてもらう為に、奮闘していたに過ぎない。たとえ恨まれたとしても、結果的に幸せになれるのだから良いと思っていた。殺されても、跡目が兄に移行するだけなので、それで良いと思っていた。だが、その考え自体が失敗だった。

 何せ、とんでもない怪物を目覚めさせてしまったのだから。




 勘兵衛は部屋を出ると、スキル【生命探知】を使いこの屋敷にいる者全てを知覚する。

 そして、全てを狩るために動き出す。


「さあ、やるか」


 そこに老いも若いも男か女かも関係なく殺されて行く。

 老人は死に、若い男女も死に、幼子も等しく殺されてしまう。


 全てを殺し終えた勘兵衛は立ち止まり、深呼吸をする。


 余りにも凄惨な現場でも、勘兵衛に取っては慣れ親しんだ場所だった。

 何せ勘兵衛の目には、本物のモンスターに見えていたのだから。


「早く帰って、みんなで迷宮行かないとな……」


 怪物となった勘兵衛は、いつも通りの様子で帰宅する。

 まるで、何事も無かったかのように。

いろいろ意見いただきありがとうございます。

でもごめん!

絶望に挑む男の話を書きたかったんです!

ほんとごめん!

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― 新着の感想 ―
深みが出るからいいと思うで この物語のテーマはコミュニケーションかな?と思うくらいどいつもこいつもちゃんと会話しろ!という結末やな弟さん そう言う意味では田中はオークやいろんなのとボディランゲージで会…
そんな文句言うようなもんですかねー 書きたいこと書けば良いと思います
この人が狂っていった話見たかったので嬉しい。 だがやはりクソな話マシマシですなぁ。 人を使い捨ての道具としかみないの本当に腹が立つ。
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