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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【4巻8/20出版決定!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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378/414

ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その1

活動報告に3下巻のWEB用SSを記載してます。

内容は、3下巻のif物語となっております。

他に四種類のSSを書いております。特典情報はSS活動報告の下の方に載せております。

よろしくお願いします!

 神殺しの力を宿した刀を操り、目の前の神を殺した男に斬り掛かる。

 大剣を持つ白銀の男は、圧倒的な力を持って勘兵衛を圧倒する。


 くそっ!


 内心悪態を吐くが、形勢が逆転するわけではない。

 勘兵衛は強くなった。

 どこまでも強くなった。

 多くを殺し、狂いながらも力を手にした。

 奈落に落ちてからもウロボロスに見出され、ゴーレムに意識を操られ、最後にはダンジョンその物に選ばれた。


 だというのに、目の前の男に勝てない。

 まるで届かない。


 今、拮抗した剣戟が演じられているのは、田中ハルトが手加減しているからに過ぎない。


「舐めるなーっ‼︎‼︎」


 神殺しの刃と、ウロボロスの魔法を使い、果敢に攻め込む。


 今の勘兵衛は強い。

 聖龍やアクーパーラ相手でも、圧倒出来るだけの力を与えられている。

 これはダンジョンが与えられる最大限の力であり、最強である証でもある。


「ぐはっ⁉︎」


 だというのに、拳が腹に突き刺さり風穴を開ける。


 ……俺は何と戦っているんだ?


 そんな疑問を抱きつつ、まるで走馬灯のようにこれまでの出来事が頭を過ぎて行く。




◯




 天津勘兵衛は、少々特殊な生まれをしていた。

 父は華族であり、母はその妾。

 初めての男児ということで、最初こそ大いに歓迎されたが、正妻に男児が産まれると一気に待遇が悪くなった。


 屋敷に居場所が無くなり、このままでは殺されると心配した母が、勘兵衛を連れて出て行ったのだ。

 母の実家に身を寄せると、ここでは大いに歓迎された。

 祖父がおおらかな人物であったというのもあるが、家を継ぐ叔父が気前よく受け入れてくれたのだ。


 おかげで、勘兵衛は大いに愛情を受けて育った。

 村の中でも差別されず、平等に扱われていた。


 そんな自分が恵まれているのだと理解していたし、村のみんなに恩返しがしたいと考えていた。


 だが、その願いも消えてしまう。


「はあ? 戻って来いだ⁉︎」


 ある日、父親からの手紙が届いたのだ。

 華族であり、陸軍将校である父は、まだ学生の勘兵衛を呼び戻そうとしているのである。

 目的は、正妻の子の代わりに勘兵衛を従軍させる為。


 ふざけるなと破り捨てたかったが、出来なかった。

 命令に従わなければ、家族や村に何をされるのか分からなかったからだ。

 赤い令状ではなく、父親の手紙で従軍が決定した勘兵衛。

 まだ十代前半という若さで、戦争に参加する。


「必ず帰って来なさい」


 母は涙を堪えて送り出してくれた。

 震える肩を見ながら、勘兵衛は「無事に戻って来るから」と告げて故郷を離れた。

 戦況は劣勢で、従軍したほとんどの人が帰らないと噂で聞いており、勘兵衛はもう帰れないと覚悟していた。


 記憶に無い父親と再会して、『俺は父親似なんだな』と勝手な感想を抱いてしまう。

 屋敷には父方の親族も揃っており、感心した声が上がった。


 その中には腹違いの弟がいたようだが、まったく関心が湧かなかった。それどころか、ここにいる全員に興味が湧かなかった。

 どうせ、直ぐに会えなくなるのだ。

 覚えておくのは、家族や村の人達だけで良いと思っていた。


 勘兵衛は直ぐに操縦士養成学校に入隊させられる。

 そこには、勘兵衛と同年代の者達が集められており、自然と仲良くなって行った。


 最悪の時代。

 戦争は多くの命を奪い、人を狂わせる。

 同じ釜の飯を食った仲間達が死に、取り残されて行く。


 次は自分の番だ。

 覚悟を決めて、今か今かと呼ばれる時を待つ。


 勘兵衛が命じられたのは、戦争が終わる少し前だった。

 敗戦は濃厚。

 それでも死んで来いという。


 反発する心はあっても、先に散って行った戦友に会えるのだと無理矢理納得させて、戦闘機に搭乗した。



◯



 生き残れたのは奇跡だった。

 特攻したというのに、奇跡的に海に投げ出されて命は助かったのだ。

 ただ、助かったのは命だけで、敵国の捕虜になってしまう。


 死を覚悟した。

 元々死ぬつもりだったので今更怖くはない。


 そう思っていた。


「ははっ、震えてら……死にたくない。母さんの顔が見たい……」


 生にしがみ付いてしまい、仲間の元へは行けなくなる。

 情けない己がどうしようもなく申し訳なく、心に深い影を落としてしまった。


 捕虜になって数日後、日本は巨大な爆弾を落とされ終戦した。



◯



 捕虜から解放されてから、一度だけ実家に帰った。

 ただ無事な姿を見せたかったのと、母の顔が見たかったからである。

 家に戻ると、とても歓迎されたが、それが却って勘兵衛を追い詰める。


 自分だけが生き残った。

 皆死んでしまったのに、自分だけがのうのうと生きている。

 自分だけが、暖かい家族に迎えられている。


 そんな己を、愚か者めと呟いていた。



 勘兵衛は、もう昔のような生活には戻れない。


 捕虜から解放されて、勘兵衛は明るく振る舞うように心掛けているが、心はどこか死に場所を求めていた。


 そんな時に、あるチラシを目にする。

 内容は、爆弾を落とされた街の復興作業。

 戦勝国が直々に募集しており、多くの人を集めているようだった。


 勘兵衛は、良いきっかけだと思いこの話に飛び付いた。


 それが破滅の始まりだとも知らずに。



◯



 復旧作業という名目で集められた者達に課せられた仕事は、迷宮と呼ばれる巨大な洞窟の探索だった。

 仕事の無いこの時代、数千人規模で人は集まり、次々に洞窟の中に投入されて行く。


 武器は鉄の棒、防具は鍋の蓋と風穴が空いた鉄のヘルメット。あとは二食分の食料。

 これだけを渡されて、勘兵衛も投入された。


「何だよここは⁉︎」


 襲って来るツノ兎を叩き落とし、もう一撃を加えて止めを刺す。

 息切れしながらも、必死に戦い命を繋ぐ。

 近くには、同じように放り込まれた男がいるが、残念ながら喉を貫かれて死んでいた。


 混乱する頭を鎮めながら、死んだ男の装備を拝借する。

 明らかに異常な世界。

 ここで生き延びるには、綺麗事は捨てなければならないと悟ってしまった。


「……なにやってんだろうな」


 死にたがっていたのに、生きようと足掻いている。

 己の本質が見えたようで、無性に気持ち悪くなった。


 喉元まで迫り上がってきたゲロを飲み込み、奥へ奥へと向かう。そこで特殊なモンスターを倒し、後にレアスキルと呼ばれる特殊能力を手に入れる。

 二日掛けて十階に到達して、ボスモンスターの討伐に成功した。


 疲れた体で、何も考えずに魔法陣に寄り掛かると、迷宮の一階に飛ばされた。


「戻って来れたのか?」


 洞窟から出ると、戦勝国の兵士に捕まり尋問を受ける。

 迷宮に何があったのか、何を見て来たのか、何を手に入れたのか、事細かく尋問された。

 それに対して、勘兵衛は素直に答える。

 少しでも知識があったなら、当たり障りなく答えて最悪は回避出来ただろう。だが、スキルの重要性を認識されていない時代では、それも不可能だった。


 勘兵衛は馬鹿正直に答えた結果、国に目を付けられてしまう。



◯



【全属性魔法】【鑑定】


 この二つが、最初の探索で手に入れたスキルである。


 あの時、勘兵衛と同じように迷宮に放り込まれて生き残ったのは、五百人以上とかなり多かった。

 勘兵衛と違って、仲間を募り連携して進んだのが良かったようだ。彼らは、最初に組んだ奴らでチームを組んでおり、今では率先して迷宮に挑んでいた。


 そんな中で、勘兵衛は一人で迷宮に挑み続ける。


 潜る度に強敵と戦い新たなスキルを手に入れて行く。

 三ヶ月もすると、スキルの数は十を超え、レアスキルも新たに手に入れる。すでに、たった一人で軍を相手に戦えるまでに強くなっていた。


 これを脅威と見た戦勝国は、政府に探索者の危険性を伝え制御するよう働き掛ける。

 政府は直ぐに動き出す。探索者が得る成果物を安値で買い叩き、危険思想を持つ探索者を選別し粛清するようになったのだ。


 これは、危険な力を持った探索者を抑止する為の仕方ない犠牲。

 戦争を抑止する正義。

 そんな下らない建前を掲げて、実行して行った。


 そして、その実行役に選ばれたのが勘兵衛だった。


 探索者の中でも突出した力を持ち、身内という弱みがある。その上、戦争という物にトラウマを抱えており、平和の為になら犠牲を厭わない人物。


 選ばれるべくして選ばれた。


 それが、天津勘兵衛という男だった。


「オエー……はあ、はあ、どうしてまた戦争なんて考えてんだ。あれだけ死んだのに、まだ足りないのか」


 迷宮内で危険な思想を持った探索者を殺し、流れ込んで来る高揚感に嘔吐する。

 スキル【完全異常耐性】の副作用で、大量の高揚感が拒絶に変わってしまい、狂わずに済んでいる。だが、一度でもスキルを切れば、この高揚感に飲み込まれるだろう。

 そうなると、勘兵衛はただの殺人鬼になってしまう。欲望に従った結末を理解してしまい、必死に抵抗していた。


「……くそ、くそくそくそくそくそっ‼︎ 何で大人しくしないんだ! やっと平和になったんだぞ! あんなに人が死んだのに、どうしてそんなに人殺しをやりたがるんだよ‼︎」


 ダンゴムシに処理される亡骸に必死に訴え掛ける。

 返事なんて無いのは理解しているが、それでも言わなければ気が済まなかった。

 もうこの頃には、勘兵衛は狂い始めていた。


 迷宮を出ると、勘兵衛は明るく振る舞うようにしている。

 笑顔を振り撒くのではなく、頼り甲斐のある男を演じる。愛想がいいだけでは、この時代は食い物にされる。だからこそ、強い男を演じていた。

 目的は、人を助ける為。

 殺した分の人を救う為。


 それだけの為に、強い男を演じた。


 ただ、この姿は多くの人を魅了する。

 誰もが余裕の無い時代に、見返りを求めず困っている人を助け続ける。それはまるで、物語に出て来るようなヒーローの姿だった。


 相反する二面性を持ちながら、必死に正気を保つ。

 せめて、どちらかに傾けられたら救われたのだろうが、勘兵衛はどこまでも情けない勘兵衛だった。


 情けない勘兵衛も、迷宮である出会いをする。


「おい、何やってる?」


 迷宮の低い階層で、探索者が一人の女性を襲おうとしていた。


「たっ、助けてください!」


 懇願されるままに、勘兵衛は探索者を一掃する。

 もちろん殺してはいないが、二度と悪さ出来ないように心に恐怖を植え付けた。

 その様子に助けられた側もドン引きするかと思ったが、女性は勘兵衛に感謝を告げる。


 女性とは迷宮の外でも良く会うようになり、仲を深めるようになるのに時間は掛からなかった。これは勘兵衛自身、心の拠り所を求めていたというのも大きく関係していた。


 だから、家族を作るなんて大きな失態を犯してしまった。

勘兵衛の話は、これ含めて7話あります。

ごめんなさい。

明日、明後日は3話ずつ投稿します。

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― 新着の感想 ―
ダンジョン助けて=世界滅びろですね。わかります。
力と賢さは=ではないからなー
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