ダンジョン攻略32
活動報告に3下巻のWEB用SSを記載してます。
内容は、3下巻のif物語となっております。
他に四種類のSSを書いております。特典情報はSS活動報告の下の方に載せております。
よろしくお願いします!
どこまでも高い、終わりが見えないほど高く聳え立つ塔。
塔は凄まじく巨大で、まるで宇宙の果てまで伸びているかのようだった。
そんな塔だが、これまた巨大な蔦が巻き付いていた。
この蔦から感じる魔力は、イルミンスールの物だ。
それも、かなり昔に巻き付いているというのに、まるで枯れている様子が無い。
試しに切ってみると、中から瑞々しい緑が顔をのぞかせた。その傷も、あっという間に塞がってしまい、まるで血管のように脈動した。
この植物は未だに生きており、今もこの塔を飲み込もうと足掻いているのだろう。
しかし何だろう、この塔を見ていると危ない物を見ているような気持ちになる。なんというか卑猥な……、
『ちょっと、この子達傷付けないでもらえる?』
「ごめんごめん、塔が縛られて可哀想に見えたんだよ」
そう、まるでSMプレイかのように。
イルミンスールから注意されるが、この感想は変えられない。一度見えてしまったら、もうそれにしか見えないのだから。
とまあ、そんなことはどうでもよくて、入り口である。
残念ながら、この塔に入り口は無い。
何故なら塔に見えていたこれは、ただのエレベーターだからだ。
上階から地下に進むエレベーター。
ここに侵入するには、壁を砕くしかなかった。
結晶化した槍を生み出す。
貫くイメージをして、放つ。
槍は塔に直撃すると大穴を開けて砕け散った。
穴を開けたのは良いのだが、塔は穴を急速に塞いで行く。
こりゃいかんとフウマに跨り、穴の中に飛び込む。
塔の中は真っ暗で何も無かった。
エレベーターなのだから当然だが地面も無く、ただ真っ暗な世界があるだけ。
「……見られているな」
真下から視線を感じる。
俺が知覚する範囲に見ている奴はいないが、こちらを認識して強く意識しているのは間違いない。
イルミンスールの杖を手にすると、光り輝き暗闇を照らしてくれる。
照らし出された塔の内部は、やはりというか何も無い空間が広がっていた。ただ代わりに、壁には多くの絵が描かれていた。
写真や映像ではなく、ただの絵。
それは、まるで子供が描いたような物から、プロの絵描きが描いたような物までと、幅広く並べられていた。
その内容も違っており、目が無数にある人物から、地球には存在しないであろう場所の風景画。
そんな絵が、上にも下にも無限に続いている。
「どうしてだろうな……心が惹かれる……」
この絵を見て回りたいという欲求に駆られる。
余りにも膨大な量なので、そんなことは不可能なのだけれど、もしも時間があったらと考えてしまう。
本当にただの絵なのだろうかと、壁の風景画に触れてみる。
「やっちまった……」
失敗した。
無防備に触れたばかりに、この風景の記憶が流れ込んで来る。
ここにある絵は、ダンジョンに飲み込まれる前まであった世界の記録だ。
絵の一つ一つに、それぞれの長い長い記録が残されており、触れることで閲覧出来るようになっているのだろう。
俺が触れた絵は、山の風景。
その成り立ちから、ダンジョンに飲み込まれるまでの記録が流れ込んで来たのだ。
もしも人のままだったら、間違いなく頭がおかしくなっていた。
ここに入るなら、大怪獣共の領域にまで到達しないといけなかったのだろう。
俺は絵から離れようと、フウマの腹を蹴る。
だけどフウマは動かない。
「……フウマ? って⁉︎ 触れちゃってんじゃん⁉︎」
フウマの鼻先が絵に触れており、呆然としていた。
頭をバシバシ叩いて正気に戻すと、「ヒヒーン⁉︎」(痛いじゃろうがい!)とブチ切れていた。
まったく、危ない危ない。
ここの絵は危険だと改めて認識して、俺達は落下を開始、ひたすら下へ下へと降りて行く。
落下する間も、多くの絵画を目にする。
ダンジョンは、どれだけの世界を飲み込んで来たのだろう。多くの命を飲み込み、数え切れない悲しみを生み出して来た。元の目的が違っていたとしても、滅ぼしてしまっては意味がない。
「……止めないとな」
「ブル」
『そうね……』
ト太郎は眠っているのか、返事は無い……ああ、出していないだけだった。
一人だけ仲間外れみたいになってしまって、悪いことをした。
「……ト太郎?」
収納空間から取り出した長剣から、ト太郎の意識を感じない。
一体どうしたんだろうかと、二、三度振ってみるとイルミンスールから待てが掛かった。
『辞めなさい。聖龍は、転生の準備に入っているみたい。元々限界だったのにここまで頑張ったんだもの、ゆっくりさせて上げて』
イルミンスールの言葉に、そっかと頷く。
『きっと、あなたが力を手にしたから、安心したんでしょうね』
「……だったら、成った甲斐はあったな」
少しでも誰かの為になるのなら、こうなって良かったと思える。ましてや、それが仲の良い奴なら尚更だ。
「おやすみ、ト太郎」
収納空間にト太郎を入れて、大切に保管する。
ここから出たら、ちゃんと出してやらないとな。忘れてたら、一生このままの状態だから。
「ブル」
「ようやくだな」
ずっと落下し続けて、やっと底が見えて来た。
底は明るくなっており、途轍もなく広い白い空間だけがあった。
白い空間には見上げるほど大きな扉が設置されており、その扉の前には以前会った人物が座っていた。
「よう、久しぶり」
俺を見て、気軽に声を掛けて来る男がいる。
この男に以前会った時は、右腕が機械になっていたはずだが、まるで普通の人間のような姿をしていた。
「えーと……あんたは確か、二号の敵だったよな?」
「二号? あー……そうだったな、自己紹介してなかった。俺は天津勘兵衛。こう見えても、元は人間だったんだ。次はお前さんの番だ」
そう促して来る勘兵衛。
こいつは、俺の心臓を奪った盗人だ。
何で、そんな奴に自己紹介せにゃならんのだ。
殺すぞボケ!
なんて悪態を吐きつつ、様子を伺う。
今目の前の男に、前のような凶暴さを感じない。魔人ではあるのだろうが、何だか違うような気もする。
どちらかというと、普通の人。
ナナシを穏やかにしたような普通の人だ。
……まあ、自己紹介くらいいいか。
「田中ハルト。間抜けにも、あんたに心臓を奪われたアホだよ」
「あー、あの時は悪かったな。自分で考えていたつもりだったが、こいつの言いなりになってしまってたんだよ」
勘兵衛は壊れた機械の腕を掲げながら、申し訳なさそうな顔をする。
だが、次の瞬間には、真剣な表情に変わった。
「んで相談なんだが、帰ってくれないか?」
「……は?」
「俺を殺してもいい、死ぬほど苦しめてもいい、だからここは見逃してくれ。頼む」
膝をつき、首を垂れる勘兵衛。
いわゆる土下座という奴だ。
そこまでして懇願する理由は何だろうか?
ここにある物が何なのか、理解しての行動なのか?
「おい、ふざけるなよ。ここに何があるのか分かってんのか?」
「分かってる。それでも頼む、俺を正気に戻してくれたんだ。こいつを殺さないでやってくれ‼︎」
必死の願いなのだろう。
それでも、俺が引くことは無い。
「……そこをどけ、今更引く気はない」
「どうしてもか?」
「ああ」
「そうか……なら、仕方ないか……」
諦めたのか、勘兵衛はゆっくりと立ち上がり、いつの間にか持っていた刀を恐ろしい速度で振り抜いた。
「……やっぱ駄目か」
勘兵衛の神速の一刀は鎧に触れると同時に砕け、俺はゆっくりとした動作で殴り付ける。
これでも、ゆっくりと動いたつもりだ。
そのゆっくりとした拳は刀を握った右腕を粉砕し、勘兵衛の体内を滅茶苦茶にし、肉体がミンチになりそうな勢いで扉の近くに叩き付けた。
生きているのが不思議な状態になった勘兵衛は、血反吐を垂らしながらも起き上がろうとする。
「おい、やめとけ。俺には、あんたを殺す理由はあるんだぞ」
これ以上、向かって来るのなら容赦しない。
ナナシの父親で、二号の恩人らしいが、俺には関係無い。
何故なら、それ以上の怒りをこいつには抱いているからだ。
ヒナタが死んだのは俺が油断したせい。それが全てだ。でもな、切っ掛けを作った奴には怒りが湧くんだよ!
腕に操られていたとか、クソどうでもいい。そんな下らない言い訳を聞く気は無い。
「無理……だな。俺、……が、最後の……砦、らしい、からな」
勘兵衛の肉体が変化して行く。
ウロボロスに似たモンスターの肉体が侵食して行き、全身を覆う。一度肉体が肥大化すると、直ぐに元の大きさに戻ってしまった。
凝縮された肉体。
人型ではあるが、その力はウロボロスを上回る。だが、
「変身するならさっさとしろ」
もう一発殴り飛ばして壁に叩き付ける。
何、敵の前で変身してんだよ。こんなお約束を俺にやらせたこいつが悪い。
勘兵衛は折れ曲がった首を戻しながら立ち上がる。
今のでかなりのダメージにはなっただろうが、扉の奥から力が送られて、一瞬で回復してしまう。
凝縮されたウロボロスの肉体を持った勘兵衛。
新たなダンジョンの守護者になり、最後の砦として俺の前に立ち塞がる。
「ははっ……容赦ないな。じゃあ、次はこっちの番な」
二本の刀が勘兵衛の両手に握られる。
「フウマ、離れてろ」
「ブル」
フウマが離れると同時に、大剣と刀が衝突する。
衝突した衝撃で辺りに亀裂が入るが、直ぐに修復される。
これなら、耐えられるか?
「余裕だな」
「あんたじゃ、俺には勝てないからな」
「言ってくれるな!」
勘兵衛は力を込めると同時に、姿勢を低くし刀にある力を宿す。
それはヤバい。
「天断ち!」
白銀の光が放たれ、俺を襲う。
ギリギリで回避すると、天断ちはフウマを横切って上空へ消えて行った。
勘兵衛の攻撃はそれだけに留まらない。
二本の刀に天断ちを宿し、巧みな動きで攻めて来る。
そうだったな、俺のアマダチはこいつに奪われてたんだった。
アマダチは、存在の根幹を打ち砕く力。
ウロボロスやアクーパーラのような、巨大な存在にも通用する神殺しの力。
どれだけ強い相手でも、アマダチは通用する。
もしも、ウロボロスが大地から力を補充していなければ、この姿に変化しなくても俺が勝利していた。
アマダチには、それだけの力がある。
勘兵衛は舐めていい相手から、油断ならない敵になった。
18時投稿。




