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第3章 4、心から願うもの

 自分は、子どもが――家族が欲しいのだ。


 コリーナが望んだのは、愛する人の子どもだった。子どもを迎えて、家族として暮らすこと、それが彼女の望みだった。

 ヴァルターがコリーナに拾われたのも、家族が欲しいという理由からだった。孤独な人生を歩んできたヴァルターをコリーナは我が子として育て、そして死んでいった。


 無理やり子をつくったとして、ヴァルターが得るのはカタチだけの家族に他ならない。身ごもったアニカは子どもを愛するだろうけれど、きっと、ヴァルターのことを生涯許しはしないだろう。


 それでは駄目なのだ。

 都合がいいかもしれないが、ヴァルターが欲しいのは、もっと愛情に満ちたなにかなのだから。


 ふと、気づく。

 これはアニカが最初に言ったことと同じではないか。


 ヴァルターを愛したら子どもを作ることを了承する。そう言った彼女の言葉こそ、ヴァルターが心から望むものだった。


「じゃあ、もう行くから」

「待って!」


 思わず声をあげてしまい、慌てて口元を抑える。


「……なに」


 騒がれてはまずいと思ったのか、アニカは非常に嫌そうな顔で振り向いた。


「もう少し時間をください。あなたを愛したいから」

「へい?」

「茶化さないでください、真面目な話なんです。私はあなたを愛したい」


 緊張が伝わったのか、アニカは面食らったように目を瞬いた。


「子どもが欲しいからでしょ」

「ただ子どもが欲しいだけでは、駄目なんです。私は、あなたも欲しい」

「……どういう意味?」

「家族になりたい。一人は嫌なんです」


 口に出して、初めて自覚する。

 そう、一人は嫌だ。コリーナが死んでからずっと、子どもが欲しくて地上を彷徨ってきた。けれどそれは、もうとっくにコリーナのためではなくなっていた。


 ただ自分が、ヴァルター自身が、一人でいることが嫌だったのだ。

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