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第3章 3、気持ち

「止める気?」

「止めたいですね。私は子どもが欲しい、どうしても」

「あたしじゃなくてもいいじゃない。そのうち都合のいい人が現れるでしょ」

「テオフィール様がこの世からいなくなるまでに、ですか。数年のうちに、妙齢である金の腕輪の所有者を見つけることの困難さ、あなたならわかるでしょうに」

「知ったこっちゃないんだけど」


 ふん、と顔をそらしたアニカは、身体を乗り出してそのまま中庭の東屋のうえに飛び降りた。物音を一切たてず、そのまま器用に向かい側の屋敷の屋根へ飛び移る。

 仕方がない、とヴァルターも後に続いた。

 テオフィールの屋敷を過ぎたところで、アニカが顔をしかめて立ち止った。


「ついてこないで」

「そうはいきません」

「ねぇ、思うんだけど。子どもが欲しいなら、テオフィールに頼らずに、相手を探して全国を渡り歩いてみたら?」

「生まれてきた子どもをどうやって育てるんですか。教育面でいいとはいえない環境になってしまう」

「ああ、そう。そういうこともちゃんと考えてるのね。たしかテオフィールに頼れば資金面も豊富だろうけど。でも、血を奪われるのよ? 我が子にそんなことさせて平気なの」

「殺されるわけじゃないですから、ある程度の妥協は必要です。無償で手に入るものなど絶望くらいでしょう?」


 アニカは益々顔をしかめた。

 納得できていないのだろう。ほだされる様子は微塵もない。


「……なら、どうするの? このままついてきて、手籠めにでもする気?」


 ヴァルターは目を見張った。


(……手籠め)


 考えたこともなかった。

 相手の同意を得ることばかり考えていて、腕づくでという方向に考えが及ばなかったのだ。確かにそれも一つの手だが。

 ちらり、とアニカを見る。

 憮然と立つ彼女はヴァルターよりも百年は年下だろうに、こういうこと――子づくりに関してはなぜか先輩のように思えた。性からくる考え方の違いだろうか。


「子どもが欲しいんでしょ? どうしてそんな顔するの」


 アニカの言葉に、自分が困惑していることに気づいた。

 同じ金の腕輪の所有者だからといっても、体力ならおそらくヴァルターのほうが勝る。無理やり子どもを作ってしまえばいい。身ごもれば、アニカだって拒否できなくなるはずだ。


 けれど……けれど。


「……それは、違う気がするんです。やはり、あなたの同意がないと」

「目的は子どもでしょ? なんであたしの考えにこだわるの」

「それは」


 たしかに子どもが欲しい。けれど、そういう意味で子どもが欲しいわけではないのだ。


(……ああ、そうか)


 こつん、と自分の胸に小石が落ちてきたような感覚を覚えた。

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