表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

第3章 2、ヴァルターの気持ち

 ヴァルターは、紅茶を傾けながらため息をついた。


 部屋には一人で、他に誰もいない。一人の時間は気楽だが、同時にどこか物足りなくもあった。

 昼間はずっとアニカにへばりついているので、夜になると寂しく感じるのかもしれない。


「……どうすればいいんですか」


 ため息交じりに、一人つぶやく。

 アニカは最初、ヴァルターを愛することが出来れば子どもを作るのを承知すると言っていた。女性らしい発言にほほえましく思ったが、正直、誰かを自分に惚れさせるのは容易いと思った。

 この容姿を手に入れてからは引く手数多で、うっとうしく思うほどもてるからだ。

 だから、そのうちアニカも自分に惚れてくれると思った。

 けれど何もせずに惚れさせるのはさすがに無理だと察し、自分のことを彼女に話すことを思い至った。心を開くには、自分に隠し事があっては駄目だと判断したからだ。


 アニカはテオフィールに同情しているようだったし、どれだけ自分が子どもを欲しているか話せば、彼女もまたヴァルターに同情してくれるのではないかとさえ思った。

 けれど結果として、コリーナの存在は彼女の矜持を刺激してしまったらしい。

 アニカは同族である前に一人の女性だ、ということをわかっていながらも失念していた。器用な自分に呆れる。


 そろそろ寝ようか、と立ち上がったとき。


 アニカが動き出す気配がした。部屋は二つ隣なだけなので、鋭すぎる聴覚でじゅうぶん彼女の動きは観察できた。


(どこに行く……?)


 アニカは窓を開いているようだ。

 とっさに自分の部屋の窓を開いて、こっそりアニカの様子を観察する。身体を乗り出せば、窓枠に足をかけて出ていこうとするアニカの姿が見えた。


「どちらへ?」


 決してふつうの人間には聞こえないだろう、小声で言う。金の腕輪の所有者であるアニカには、十分聞こえるはずだ。案の定、アニカは驚いた表情でこちらを見た。

 驚いたのは一瞬だけで、アニカはすぐにいつもの無表情へ戻った。

 そういえば彼女が笑ったところを見たことがないな、と今頃になって気づく。


「出て行くの」

「テオフィール様を見捨てるということですか」


 僅かばかり、アニカの表情に動揺が走る。


「……仕方がないじゃない」

「助けられる命を見過ごすのですか」

「全部助けてたらきりがないわ」


 当然のように彼女はいう。

 たしかにその通りだった。金の腕輪の所有者は長寿だ。

 貧富の差が激しいこの時代、目につく者すべてを助けることなど、出来はしない。今こうしているあいだにも、大通りから離れた路地裏では、餓死しようとする者たちが大勢いるのだ。

 完全な冬がやってくれば、凍死者の数も半端なく出るだろう。


 寒さなど感じないヴァルターたちには、季節の脅威などまったくないのに、人間という生き物は不便だ。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ