四年間、死ねんことになっちゃいました
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近くで誰かが泣いている。
意識もないまま、自分が車に轢かれて死にかけていることは分かったが、それ以上に分かったのは聞き覚えのある声の誰かが傍で泣いていることだ。
「真彦さぁん……、わたし、約束守れなかったよぉ……」
ミルク……。
ミルクだ! ミルクの声だ!
ええい、体のどこかよ動け! 俺の体のどこか、動いてくれ。
そう念じるとあっさりとミルクに自分の言いたいことが伝わった。
「ミルク、来てくれたんだな。会いたかったよ」
「ま、真彦さん! 意識が戻ったんですか?」
「いや、どうやら魂とやらだけでミルクと話をしてるらしい。というか、こういうことは死神のお前のほうが詳しいんじゃないのか?」
ああ、約束は守られたのか、守られてないのか、いまいちよく分からないけど、よかった。とにかくもう一度ミルクと話せた。ミルクのことを思い出せた。
体は相変わらず動かせなかった。だが、ミルクの方を向くことはできた。そして、その顔が見える。目は閉じているはずなのに。
ミルクの顔は泣き腫らしてくしゃくしゃだった。
あーあ、せっかくの可愛い顔が台無しだ。
けど、泣き顔でも、こうしてまたミルクの顔を見ることができて、俺は幸せだ。
「そんな悲しそうな顔するなよ。俺は満足してるんだぞ。ミルクとまた会えて」
「でも、真彦さん、わたし、失敗しちゃったんです。魂抜くの。だから、天界へ連れていけなくて」
「らしいな。でも、別にいいや。こうしてミルクと話したことが夢じゃなかったって証明できて。もう一回きちんと抜いてくれればいいんだろ?」
事故で、重傷を負い、助からなかった。それで終わりだ。
そして俺の魂はミルクと共に天界とやらに逝けばいいんだ、とそのときは思った。
「それが……非常に申し上げにくいのですが、一度死神が魂を抜くのを失敗するとですね……」
「ん? なにか問題なのか?」
「実は四年間、『死ねん』との語呂あわせで四年、誰にも魂を抜けなくなってしまうんですよ……」
すると、なにか、俺たちは四年間も現世と天界の間の遠距離恋愛か?
連絡を取る手段もないというのに。
「本当なら高確率で『転生の炉』に行って無理矢理転生させられちゃうんですけど、真彦さん、転生しなかったみたいで」
「な……」
するとなにか、俺はミルクとは再会できたが、転生の機会は逃したという訳か。
まあ、ミルクと逢えたことの方がよっぽど嬉しいんだけど。
「あのっ、わたし、たぶんこれから四年間、もしかしたらそれ以上、この魂抜きを失敗した罰を受け続けなきゃいけないんですけどっ」
不意にミルクがそんなことを言う。
罰? そんなものがあるのか。
普通に考えたら人間に四年も長く生きさせることになって、得をさせたように受け取れなくもないのだが。
「と、とにかく、えらいことをしてしまったんです。わたし。これからめちゃくちゃ怒られて。えっとえっとそれから……」
そんなことを言っているミルクが急に光り輝きだした。
「ああ、時間切れです! 言い忘れましたが、次に死ぬまで、真彦さんの記憶からはあの約束も、この夢も消えてしまいます。だ、だから今のうちに……」
「えっ、待て! 俺ミルクのこと忘れるのか!? 嫌だ、忘れたくないぞ」
「だから真彦さん!」
ミルクの体が突然見えざる力に引っ張られるように俺から離れていく。
「ミルク!」
「四年間! 浮気しないでくださいねーっ!」
その言葉を最後に、俺の意識も闇へ落ちていく。
しかし、待て。
浮気するな?
俺はミルクに気持ちを明確には伝えていないぞ?(バレバレなのかもしれないが)
しかし、「浮気してほしくない」ということは脈ありか?
って、俺はこれからミルクの記憶をなくす訳で、つまり四年間は女っけなしで再会した時にはまったく女を知らないままミルクと再会しないといけないと――
次の瞬間。
うわああああああああああああああああああああ。
魂だけになっている間は感じなかった激痛が全身に思い出されて、その痛みで俺は再び気を失った。
真彦は割とイケメン設定です。
ただ、今まで勉強一筋で女っ気がなかっただけなんです。