まさか、これが今噂の悪役令嬢!?
死神としての初仕事を邪魔されたミルク。
はてさて、邪魔をしたのは…
ドン!
後ろから、衝撃があった。
それでわたしはよろめき、鎌の魂刈り取り軌道を真彦さんから外してしまった。
幸い、鎌は誰か他の人の魂を刈り取ることはなかったけど。
真彦さんは?
真彦さんは!? トラックに撥ねられたの? まだ苦痛の中にいるの?
「あ~ら、ごめんあそばせ。私のお仕事と被っちゃったみたいで、ちょーっとぶつかってしまいましたわ」
後ろから響く、わざとらしい、甲高い声。
そして、キキキキという耳障りな車のタイヤが滑る音。
衝突音。
後ろから聞こえたこの声、聞き覚えがある。
わたしは、涙ぐみながら振り返った。
そこには、やや釣り目がちで、鼻の高い、紅色の長髪をグラデーションにしている白いドレスの、『天使』が居た。
天使の、ララファさんだ。顔見知りという程度で仲良くはない。
なぜこんな人が今ここにいるのだろう?
けど、今はそんなことよりも。
「どう、して……、どうして、真彦さんの魂を抜く邪魔をしたんですかッ!?」
「いやねえ、邪魔するつもりなんてありませんでしたわよ。私には私の仕事がありましたの、ほら」
そういってララファさんは、とっくに事切れている中年男性の魂を自分の隣まで引っ張りあげてくる。
「この方はね、あなたが担当してた人を轢いちゃったトラックの運転手ですの。享年五十六歳。死因は地面に倒れていた原付と人間を轢いた事によるハンドル操作のミス。頭を強くハンドルに打ってお亡くなりに」
そ、そんなことはどうでもいい……!
「そんなことはどうでもいいって顔ですわね。曲がりなりにも死神なのですから死者に対してもう少しは興味を持ちませんと。
この人は温かい家庭に恵まれて育ち、特に悪いことをするでもなく、順当に徳を積んで、幸せな家庭を築いて、子供が独り立ちする頃にこうして今寿命を迎えられましたの。
だから天使の私がこうして顔を出したのですわ。不幸な人の魂を抜き取るこわ~い死神じゃなくて、『天使』の私が」
いちいちこちらの神経を逆なでするように言ってくるララファさん。
けど、わたしは彼女の言っていることをほとんど聞きも理解もしていなかった。
今はただ、真彦さんの魂がどうなっているかの方が心配だ。
わたしはララファさんの方から目を逸らし、死神の”目線”で真彦さんの魂の状態を視た。
なんと、真彦さんの魂はまだ真彦さんの体の中にあった。普通、人間が死ぬと魂は即座に死神か天使が抜き取るため、わたしは死んだ人間の魂が抜かれずに放置されているところなど初めて見た。
たしか死神になるために受けた講義内で聞いた話ではこんなケースについても習った気がする……。
えっと、死神や天使や悪魔が魂を抜き取るのに失敗した人間は問答無用で『転生の炉』行きか……もしくは……
「あー、失敗しちゃいましたわね。魂抜くの。お可哀想に。彼、今死ぬほど痛い目に遭っているのに死ねないでいるのよ」
「そんな……、わたしのせいで……」
しばらくすると、救急車がやってきて、まず、真彦さんが、そしてトラックの運転手が担架に乗せられて運ばれていった。
ピーポーピーポー……。
山上大学の坂道にひどい血痕を残し、救急車が走り去ると、わたしは呆然と地面まで降りていき、というより、落ちていき、血痕の脇にへたりこんだ。
わたし、実はまだ背中に羽がないんだから浮かぶことはできてもすいすい飛んだりはできないんだけど。
と、わたしが行くべきは真彦さんの魂の場所!
こんなところでへたり込んでいる場合じゃない。
また後ろからララファさんが何か言ってきたけど、もう無視してわたしは救急車を追いかけた。
どうやら、真彦さんは山上総合病院という病院に搬送され、一命を取り留めたらしい。
一命を取り留めた?
やっぱり、死神養成学校の講義で習ったとおりだ。
死神や天使が魂を抜くのに失敗すると、直接『転生の炉』に行ってしまうか、あるいは一度肉体に魂が留まり続ける。
真彦さんはなんか妙に転生したがってたけど、どうやら今魂は転生せずに肉体の方にしがみついているみたいだ。
それがいいことなのか、悪いことなのかはまだ分からないけど。
とにかく真彦さんの魂のところへ急がなきゃ!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ジャンル「悪役令嬢」というものがよく分からなかったのですが、
ララファはそのテンプレからは外れてると思います。
なにせ、令嬢、ではないですからね。
性格が迷走しまくったキャラですが、今のところこんな感じに落ち着きました。




