番外編 嵐月と子供達
俺が嵐月様と出会ったのは二歳の頃だったらしい。
嵐月様は元々、俺の父である光村 雄介の守護龍で悪霊退治でのパートナーである。母である光村 夕凪(旧姓は日野枝だが)の守護龍も嵐月様の妹の月華様だった。現在は嵐月様と俺--光村 陽一が一緒に組んで悪霊退治をやっている。月華様は妹の優花と一緒に組んでいた。俺が中学二年生で優花は小学六年生だ。まだまだ、子供な俺たちだが。父さんと母さん、伯母の八重子さん達に毎日ビシバシと鍛えられていたのだった。
「……陽一。今日は悪霊退治に行くぞ」
そう言ってきたのは人型の嵐月様だ。黄金の髪に琥珀の瞳、白く透き通った肌のスラリとした超美形の青年の姿をしている。父さんも美形だが。嵐月様の美貌は百倍も千倍も上をいく。女性だったら傾国の美女になっていただろう。それくらいの綺麗な方だが。俺や次男で弟の裕司、優花にはそっけない態度を取る事が多い。けど実は不器用で真顔で優花に花や綺麗なガラス細工の小物を持ってきてやっているのを見た事がある。俺にも剣や珍しい外国の置物をくれた事があった。ちなみに嵐月様がくれた剣は片手剣というらしくて今でも愛用している。
「……わかった。行こうか」
「退治と言ってもお前は見ているだけでいい。まだ、危なっかしいからな」
「はい」
頷くと嵐月様は苦笑した。珍しい表情だ。俺の頭を軽く撫でるとすぐにいつものポーカーフェイスに戻る。そして俺は月華様と優花も伴って自然公園に向かった。
四人で行くとそこには小さな女の子の幽霊がいた。嵐月様と月華様は各々、懐刀と双剣を構える。けど俺は剣を構えずに母さんから教わったお札をウェストバッグから出した。
「……我らを守り給え。オン……」
祝詞と真言を唱えるとキインと音が聞こえて周りに透明な壁ができる。いわゆる結界だ。月華様は女の子の幽霊を睨みつけていた。嵐月様もだ。
「……お兄ちゃん。あの子、寂しそうな顔をしているね」
「ああ。可哀想とは思うが。優花。ここから動くなよ」
優花は黙って頷く。俺はそれを見て取ると嵐月様と月華様を見守る。幽霊が目を赤く光らせてゆっくりと立ち上がった。地面に蹲っていたのでわからなかったが。どうやら優花と似たような年頃の子のようだ。ピンク色のワンピースを着て髪は肩につくほどの長さにしている。顔立ちも綺麗な感じだ。表情は険しくなっているが。幽霊は手からゴオッと炎の球を出して嵐月様に投げつけた。
「危ない!!」
俺はとっさにお札を出すと祝詞をまた唱えた。
「……水神よ。かの者を清め給え。払い給え!」
お札から大量の水が溢れ出し大きな水球となる。それが瞬く間の速さで炎の球にぶつかりドオンッと大きな音が鳴った。水蒸気で辺りに霧ができる。俺は優花の手をぎゅっと握った。しばらくして霧が晴れると月華様が幽霊に近づいて柄の部分を鳩尾に叩き込んでいた。体がくの字に曲がり幽霊は気を失ったらしい。
「……陽一さん。こちらに来てください」
「月華?」
「この子はまだ幼い。話しかけてこの世へのこだわりを解いてやった方がいいです」
嵐月様が渋面になる。幽霊に話しかけて成仏させるのはかなりのリスクを伴う。辛抱強さがないとできない。
「わかった。俺と優花でやってみるよ」
「お願いしますね」
月華様が優しく笑った。俺は近づくと経本を出した。幽霊が成仏する気になったら巻きつけてやるためだ。幽霊は少し経つと目が覚めたようでゆっくりとまぶたを開けた。
『……あたし……』
「……目が覚めたようだな」
『お兄さん。誰?』
幽霊はきょとんとした表情で問いかける。俺は出来るだけ静かに語りかけた。
「俺は陽一。隣にいるのが妹の優花。さっきは悪かったな」
『あたし。父ちゃんと母ちゃんとはぐれちゃったの。迷子になって。そしたら車にひかれて……』
「そうだったのか。ご両親と離れ離れになっちまったんだな。一人で辛かったろうに」
俺が言うと幽霊は顔をしかめた。するとポタポタと目から涙が流れ落ちた。
『……父ちゃんと母ちゃんに会いたい。陽一さんだっけ。優花ちゃんも。あたし、どうしたらいいの?』
「……じゃあ。私達があなたのご両親を呼んでみるわ。いいかな?」
『いいの?』
優花が頷く。仕方ないと俺はため息をついた。
「わかった。なあ、君の名前とご両親の名前。教えてくれ」
『……うん。えっと。あたしは古村 美江。こむら みえっていうの。父ちゃんは古村 三郎で。母ちゃんは真知子って言うんだ』
「ありがとう。んじゃ、優花。呼ぶぞ」
俺は優花に呼びかける。二人して頷きあって頭の中で幽霊--美江ちゃんのご両親に呼びかけた。するとふわりと二人程の白く透き通った影が舞い降りた。
『……美江』
低い男性の声が聞こえる。向かって左側の影がはっきりとした人の形を取った。人の良さそうな中年の男性が現れた。
『あ。父ちゃん!!』
美江ちゃんは輝くような笑顔で男性に駆け寄る。男性は美江ちゃんの体を抱きとめた。
『美江。やっと会えた。置いて行っちまってすまんな』
『ううん。いいの。迎えに来てくれただけでいいの!』
美江ちゃんはそう言いながらもボロボロと涙を流した。俺は優花や月華様、嵐月様と笑いあった。その後、何度もお礼を言われながら美江ちゃん親子を見送った。三人はふわりと天に召されていったのだった。




