愛理の本気
次の日の土曜日
裕子と待ち合わせの場所は、裕子が住んでる町の駅前にあるお洒落なカフェ。約束の時間より10分前に着き、アイスコーヒーを頼んで裕子を待つ。5分ほどたった時、
「久しぶり、健司君」
そこには、にこやかに笑う愛理さんがいた。
「ど、どうしたの? 裕子は?」
俺があたふたしていると
「こないよ。私が裕子に頼んだの」
そう言った。彼女も注文を頼み俺の顔をじっと見つめる。
「まず、今日は騙してごめんね。こうでもしないと二人っきりで会ってくれないと思ったから。でも、健司君も悪いんだよ。紹介なんだから健司君も私に自分の意思をはっきり伝える責任はあるよね。」
「そうだね。やっぱり俺が悪かった。あのさ、紹介に対する返事…… 」
俺が彼女に気持ちを伝えようと話し始めたとき、彼女は俺の言葉をさえぎって話し出す。
「今、健司君には好きな人か、付き合い始めた人がいる… だから私とは付き合えない…その彼女に悪いので、私と二人で会うことはできない… こんなところかな」
彼女は全てを見抜いていた。あまりにも的を射ているので度肝を抜かれた。
「私はそれを責めに来たんじゃないよ。逆に健司君にとっては良いことだしね。」
「では、私の答えを言うよ。私は健司君のことが大好きになりました。これが正直な答え」
俺は何も言えなくなった。
「ほんとは私と付き合ってほしかったけど、健司君が他の人を選んだんであればそれは仕方のないことだしね。」
「愛理さん、ごめんね… 本当は俺がきちんと… 」
「だけどね、私は健司君のことを好きな気持ちは変わらないよ。たとえ他の人と付き合ってもね。だから私は自分の気持ちを健司君に直に伝えに来たんだ。私とは友達としてこれからも続けてくれないかな? 当然、私も健司君の邪魔をしないように約束する。決して健司君の付き合いを妨害することはしない。彼女との仲を悪くするようなことも絶対しない。健司君がその人と幸せになれるように手伝う。」
彼女は何を言ってるんだ? と俺は思った。自分に何の得もないことを何故するんだ?
「私は、自分の好きになった人には幸せになってほしいと思う。健司君の幸せそうな顔を見ることが私の幸せ。健司君は私にはメリットがないと思うんだろうけど、私が誰を好きになるのかを決めるのは私の自由。たとえ健司君が振り向かなくても私は自分の意思を変えるつもりはない。今は健司君の顔を見続けるには友達になるしかない。だったらそれでいい。健司君に無理矢理私を押し付けて、みんなを不幸にすることなんてしたくない。たとえ健司君が私と友達になってくれなくても私は健司君のことを好きなことはやめないよ。 でもね、健司君以上の人が現れたら、その人を好きになるよ。だから心配しないで」
俺は彼女の言葉に何も言い返せない。自分にはそんな覚悟もない。彼女がそれでいいんなら、それが一番の方法なのかもしれない。俺も彼女は素晴らしい人だと思う。そんな彼女を俺は傷つけたくない。
「健司君は私を信用できる?」
「もちろん。十分信頼できるよ」
「なら、友達になってね。もちろん、二人っきりで遊ぼうとは言わないから」
「分かった。これからは友達としてよろしく」
「ありがとう。健司君 裕子には私からうまく言っておくから… 」
「そう言えば、何で健司君はその人のことを好きになったの… 教えてほしいな…」
彼女ははっきりと自分の意思を言ってくれたが、俺は当然それを全て納得することはできなかった。 ただ、彼女の意志は固い。俺に言える意見は何もない。
「私ね、思うんだけど健司君の好きな彼女と私は多分、気が合うと思うよ。私もその人も健司君の同じところを見て健司君を好きになったと思う。健司君の素敵なところに気づくんだから、その人も凄いよね」
俺には彼女の言っている意味があまりよく分からなかった。そういえば、麗奈は俺のどこを好きになってくれたんだろう?
話が終わり、彼女が少し散歩をしたいというので近くの公園に向かって歩く。
「明日からは普通の友達だよ」
「そうだな」
「でもね、今日はまだ紹介された女の子だよ」
そう言って、彼女は俺を抱きしめた。びっくりして離そうとする俺に
「先週の今日は二人で手を繋いで歩いてたんだよね。健司君が私に悪いことをしたと思う気持ちがあったら、お詫びにあの時私が健司君にして欲しかったことを今からして。そしたら、私の気持ちに区切りがつけられる」
「 思いっきり抱きしめて……」
俺は彼女の気持ちに抗えず、彼女のことを思いっきり抱きしめた。彼女はずっと俺の胸に顔をうずめていた。
「ありがとう…」
「明日からは友達だから… もうこんなことはしないから… 」
そういって俺を見上げる彼女の顔には涙がこぼれていた。 愛理さんを紹介された頃には何となく麗奈のことが気になっていた。 なぜそれを正直に彼女に話せなかったのか…
彼女と別れて家に帰る。確か先週は彼女と知り合えて楽しい気分で家に帰った。今は何とも言えない気分で家に帰っている。麗奈にも愛理さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
俺は何をやっているんだろう……
その日の夜
愛理は裕子に電話をかける。
「もしもし、裕子。今家に帰ったよ」
「どうだったの… 健司と」
「どうも何も、初めから結果は分かってるよ」
「昨日、裕子に試してもらったよね? 不意に“立花先輩”って……」
「うん。明らかに健司は動揺してた」
「だから確信したの。健司君の好きなのはその立花先輩よ」
「今日は、明日への希望を繋げに行ったんだ」
「何それ?」
「まず、あのままだと健司君は私と二人で会ってくれない」
「それで私にあんなこと頼んだの…」
「そうしないと最後の賭けにも出れないしね…」
「2人で会い、私だけを見て私の言葉を聞いてもらう… これが出来ないと健司君の心に声が届かない。 あのままだったら友達にもなれず、もう健司君と会う機会も訪れない… だから先へつなぐ努力をしたの」
「なんて言ったの?」
「決して健司君と彼女の付き合いを邪魔しない。健司君が幸せになるように協力する…だからこれからは、健司君の友達にしてほしい… かな」
「あんた それでいいの?」
「だって健司君を好きな気持ちを変えることなんてできないもん。自分の生き方は自分で決める。他人から見たら馬鹿みたいに見えてもいい… 」
「愛理らしいよね… どうせ私が何を言っても聞かないでしょ…」
「さすが裕子、よく分かってる」
「愛理はほんとのとこ、何を考えてるの?」
「裕子… 聞いたことがある? 高校生のカップルが結婚まで行く確率… 」
「いくらぐらいなの… 」
「5%以下だよ。だから私は95%にかける。だからと言って健司君たちの付き合いを邪魔したりはしないよ。いつか別れが来る場合がほとんど。その時に健司君の近くに私がいないとどうしようもない。だから友達になって一定の距離以内でいないと…」
「なんか、愛理とは感覚が違いすぎてよく分からない… でもね、その間に健司君はどんどん彼女と仲良くなるんだよ? そんなの見ていられないでしょ?」
「なんで? 今知り合って、最高に愛し合っても1年でお別れ,その後に知り合って結婚してずっとそばに居て50年… 裕子ならどっちがいい?」
「何とも言えない…」
「私は途中の過程なんてどうでもいいの。最後に健司君の傍にいるのは誰か… なの」
「とりあえず愛理はそれでいいんだよね?」
「うん、いいよ」
俺は何も考えていなかった。初めて女の子を本気で好きになり、夢中になって浮かれていたのかもしれない。毎日、今まで感じたことのない感情が沸き起こり、自分の心の変化に気づくのも楽しかった。今思えば、麗奈への告白も愛理さんとの一日があったからできたと感じる。
俺は愛理さんとの体験を利用して、麗奈との関係を深めた。愛理さんが多少俺に好意があったのも、なんとなく気づいてた。でないと、あんな笑顔を見せてはくれなかっただろう。それなのに、愛理さんは今でも俺のことを思っていてくれている。このままでいいのか?
だからと言って麗奈と別れて愛理さんへ向かうのか? それはあり得ない。麗奈は何も関係がない。よく親父に「人の言葉に真摯に向き合え」と言われた。全然ダメダメだ。
真摯に向き合っているのなら、その人の言いたいことも分かってあげられたはずだ。愛理さんは強い。俺ならとっくに心が砕けている。愛理さんが俺を思ってくれる気持ち、麗奈が俺を思ってくれる気持ち、そんなものに比べて俺が麗奈を思う気持ちは小さすぎるのかもしれない。俺も強くならなければいけない。
俺は麗奈のことが好きだ。でもそれがどの程度なのかは分からない。だからもっと麗奈のことを見つめよう。それでもっと好きになっていこう。そうして初めて愛理さんの気持ちも理解できるかもしれない。
多分俺は今まで本気で誰かを好きになったことがないのだろう…




