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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の憂鬱、彼女の鬱憤
9/102

その9 彼はチョロイです。

 えーい、リセットだリセット。

 手にとった本を「カノジョさん」に渡し、オレは他に誰もいないことをいい事に


「渡しましたよー」


 と許容デシベルを超える声で先輩に答える。


「じゃあ、貸し出しするからこっち来てもらってくれるー」


「はあ?」


「寺山君にも貸してあげるからー」


 先輩? あの貼紙って先輩が作り直したって聞いたんすけど。


【室内では静かにしましょう】


 なんかはがれそうだぞ。

 オレたちは顔を見合わせ、カウンターの前に立つ。


「ええっと、たしか新開さん、だったよね」


「「えっ!」」


 二人同時に発する。

 先輩はというと、貸出カードボックスから「新開映子」という個人カードをすでに取り出していた。


「新開、先輩と知り合いだったの?」


「ううん」


 先程のリアクション、そして今の表情からウソではないことがはっきりわかる。

 じゃ、なんで先輩は彼女の名前を知っているんだ? やっぱり魔女なのか?


「イッ!」


 カウンターに置いた左手を、オレのカードでつつかれた。

 しかも角。イッテー!


「あ、ごめん。君のカードはいらなかったんだ」


「はあ?」


 ダメだ。全然わからない。とりあえず順序よく聞いていこう。


「先輩。新開のこと知ってたんすか」


 先輩が、意地悪そうな顔をオレに向け、意地悪そうな目で睨み、意地悪そうな口を今まさに開かんと……。


「オレが悪かったっす。許してください」


 左手にはまたもやカードが突き刺さっていて。

 意地悪そう、ではない。この先輩は意地悪だ。性悪だ。


「知ってた、わけじゃないわ。思い出しただけ」


「はあ?」


 先輩はそう言うと、オレが今まで見たことのないような表情を彼女に向ける。

 それは例えば……。そう、姉が妹をいつくしむような……。


「あなた、前にここで本借りたことがあったでしょ」


「はい。一学期始めの頃に一回だけ」


 彼女は、次に何を言われるのだろうかと不安げな表情のままだ。


「その時、私が当番だったの」


 え、それだけ? それだけで覚えてたって? ウソだろ。 

 チラッ。先輩の一瞥。こわい。


「でね、その時の本って、今まで一人にしか借りられていないの」


「まさか」


 彼女は口元に手を当て、驚きの表情を隠さない。

 そうか、その一人って……。


「そう。だから嬉しくてね、あなたがカードにタイトルを書き込む時に、話しかけようかって思ったくらい」


「そう、だったんですか」


 それにしても、やっぱり魔女すぎる。そんなことくらいで、普通名前覚えるか?

 オレは両手を引っ込めている。これで攻撃は受けないぜ。


「イテッ!」


 なんだ? 鼻に当たり落ちた物を反射的につかむと、それは輪ゴムだった。

 先輩、いったいどこから出したんですか? オレ視線外してなかったですよね。

 どうやったのか全然わからなかった。


「だからね、その本も、あなたに合うと思うの。読んでみて」


 でもね、先輩。

 いくら彼女にオススメだからって、その本の場所を正確に覚えているとか……。

 いや、やめよう。これ以上は身が持たない。

 次は下手したら弓矢でも飛んできそうだしな。


「あ、ありがとうございます。読んでみますね」


 彼女は素直にその本を受け取り、カードにタイトルを書き始めた。

 あれ? そういえばオレにも貸してくれるって言ってたよな。

 あ、でもカードしまわれちゃったぞ。


「寺山君にはコレ。私の本だけど、君に合うと思うの。読んでみて」


「先輩のっすか?」


「うん。さっき読み終えたの。面白かったからオススメよ」


 うーん、どうしたものか。

 いくら先輩のオススメって言っても、1ページで挫折しそうだよな。


「そんなに深く考えなくていいわ。感想文を書けなんて言わないから」


 オレの考えていることを先読みしてくる。

 そう、読書は苦手なだけだが、感想文を書くのは嫌いだ。


「無理して読まなくてもいいわ。でも……」


 ここで先輩が眼鏡をはずして、髪をかきあげる。

 うう、いい! 男心をくすぐる仕草。

 そして、ほんの少し、ほんの少しだけ首をかしげて……、先輩は変身する!


「読んでくれたら、とても嬉しい」


 な、なんだ? 

 オーラというのか? 先輩の周囲に柔らかい光が集まっているような……。

 まるで少女のような愛らしさに、大人の女性の包容力を掛け合わせたような、そんな雰囲気。

 やられた。はぁ……。なんですか、それ。

 魔女から聖母に早変わりって反則すぎるでしょ!

 もう守ってあげるしかないです。

 あ、違う。読まないわけにはいかないですよ。

 先輩はとりたてて美人じゃない。

 だがそれは「普段は」という但し書きが必要だったのだ。

 ごく普通、を装っていただけ。

 先輩はズルすぎる。


「でね、オススメさせてもらった立場でね、二人にはお願いがあるの」


 なんですか? 今ならなんでも聞きますよ。


「ルール、っていうのかな。それを守って本を読み進めてほしいの」


 おっと、ワケのわからない注文キター!

 あ、また顔が魔女に戻ってますよ、先輩。    


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