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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の憂鬱、彼女の鬱憤
10/102

その10 彼女はある意味チョロインです。

 あー、あぶないあぶない。

 いろいろな表情を堪能したところで最後にアレだもん。破壊力倍増だよ。


 そしてワタシはその本を手にする。

 するとどうだろう。

 指先からスーッと何かが入り込んできたような気がした。


 「渡しましたよー」


 ちょっっと声大きくない?


「じゃあ、貸し出しするからこっち来てもらってくれるー」


 うわ、負けじと大きな声。

 え、貸出? この本をですか?


「はあ?」


 それにはワタシも同感。疑問符だらけだ。


「寺山君にも貸してあげるからー」


 あの貼紙って意味あんの?って思ってしまう。


【室内では静かにしましょう】


 なんだかはがれそう。

 そしてワタシたちはカウンターに行き、顔を見合わせる。


「ええっと、たしか新開さん、だったよね」


「「えっ!」」


 彼も一緒に驚きの声を上げた。

 えっ、なんでワタシの名前? 

 そして差し出されたワタシの貸出カード。


「新開、先輩と知り合いだったの?」


「ううん」


 隣で彼が聞いてくる。彼が教えたわけじゃない?

 じゃ、なんで? 会ったことはないはず。


「イッ!」


 どうしたんだろ、と見てみると彼の手の甲にカードが突き立てられている。

 いたそー。

 なにか不埒なこと考えたのを見破られた? 

 この先輩、読心術でも使えるのかしら。


「あ、ごめん。君のカードはいらなかったんだ」


「はあ?」


 ワタシにはカード。でも彼にはいらない? どういうこと?


「先輩。新開のこと知ってたんすか」


 うん、そこが知りたい。


「オレが悪かったっす。許してください」


 あ、また。

 悪かったっていうことは……。ホントしょうがないなあ。

 今のはワタシでも「あ、なんか失礼なこと考えていそう」って思っちゃったよ。


「知ってた、わけじゃないわ。思い出しただけ」


「はあ?」


 じゃあ、前に会ったことがあるのかしら? 全然わからない。

 それとも、ワタシが何か目立つようなことをしたとか? 

 ううん、そんなことはない。上級生に名前覚えられるようなマネしたことない。

 と、先輩がワタシに向き直る。

 あ、なんだろう。第一印象とだいぶ違う。

 少し微笑んでいる。優しそうな目。


「あなた、前にここで本借りたことがあったでしょ」


「はい。一学期始めの頃に一回だけ」


 そう、図書室を利用したのはその時だけ。


「その時、私が当番だったの」


 えっ、そうだったの? 全然覚えていない。 


「でね、その時の本って、今まで一人にしか借りられていないの」


「まさか」


 彼がワタシのセリフを横取りする。

 もしかして、その一人って……。


 「そう。だから嬉しくてね、あなたがカードにタイトルを書き込む時に、話しかけようかって思ったくらい」


「そう、だったんですか」


 一応の合点がいった。

 けれど、それで名前を覚えられていたほうとしては、ただ唖然とするしかない。

(あ、輪ゴム)

 カウンターに隠れた位置で人差し指に引っ掛けている。

 何するつもりかしら? と思ったらやっぱり隣か。


「イテッ!」


 コレ、彼がなにかしたとかじゃなくて、ただいじってるだけ?

 でも文句言わないって事はやましいことがあるってことだよね。

 ホントしょうのない人。

 しかもリアクションが面白いから、ついやりたくなる気持ちはよく分かります。 


「だからね、その本も、あなたに合うと思うの。読んでみて」


 ワタシに合う? うん、たしかにそうかもしれない。

 さっき本を手にした時に、言葉にはできない感覚があった。 

 予感のようなもの。


「あ、ありがとうございます。読んでみますね」


 ワタシはカードを受け取りタイトルを書き込んだ。

 あれ? そういえば彼にも貸すとか言ってなかったっけ。

 でもカードしまっちゃったよね。

 すると、先輩は鞄の上においてあった文庫本を彼に手渡した。


「寺山君にはコレ。私の本だけど、君に合うと思うの。読んでみて」


「先輩のっすか?」


「うん。さっき読み終えたの。面白かったからオススメよ」


 彼が素直に読むとは思えないんだよなあ。

 あ、でもこの先輩に渡されちゃ読まないわけにはいかないか。


「そんなに深く考えなくていいわ。感想文を書けなんて言わないから」


 それはワタシもパスですね。感想文はあまり得意じゃないし。


「無理して読まなくてもいいわ。でも……」


 ここで先輩が眼鏡をはずして、髪をかきあげた。

 顎から肩にかけて白い肌の曲線が露わになり、ワタシは目を奪われる。

 その気がないワタシでさえ思わず唇を寄せたくなるほどに、それは魅惑的だった。


「読んでくれたら、とても嬉しい」


 ドキッ! 

 雰囲気がさらに変わった。顔だけじゃなくて、全体の感じが……。

 吸い込まれそう。ナニコレ? 

 先輩は何もしていない。

 けれど優しく抱きしめられているような……。

 ワタシのほうが美人だなんて少しでも思ったのは大間違い。

 ドキドキが止まらない。  

 オネエサマって呼んでしまいそう。


「でね、オススメさせてもらった立場でね、二人にはお願いがあるの」


 オネエサマの言うことなら何でも聞いちゃいます。


「ルール、っていうのかな。それを守って本を読み進めてほしいの」


 どういうことだろう。ルール?

 意図が読み取れない。少し頭の中で思案をめぐらせていると……。

 あ、いつのまにか戻ってる。彼をいじっているときの顔だ。

 さっきのオネエサマのほうが良かったのに。


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