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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の憂鬱、彼女の鬱憤
7/102

その7 彼はHPが低めです。

「寺山くーん。たまには()()以外の本も読んでね」


「先輩、今ソレ言わないでほしいっす!」


 オレが彼女をテーブル席に案内して、

(さあ、どんな話をしよう)

といろいろ考え始めた時、先輩が「痛いところ」をいきなり突いてきた。

 この図書室には”手塚治虫”の「ブッダ」やら「火の鳥」やらが置いてある。

 オレは小説は読まないが、漫画は好物だ。

 ここに来るたびにそれら()()をあさっていた。

 偽装工作で「太宰」やら「夏目」やら「芥川」をこれみよがしにテーブルに置いていたのだが、見破られていたとは。


「はは、やっぱりそうなんだ」


 彼女がさらにトドメを刺しに来る。

 くっ、アサシンが二人だと。おれには無理ゲー過ぎる。

 だが、図書委員としての面子だけは……。

 いや、そんなものは最初からないから別にいいんだが。

 ただ、漫画ばかりを読んでいるというのは、女子の目からしたらどう考えても減点要素だろう。

 オレは彼女からマイナス査定を受けたくない。 

 

「寺山って小説とか読むタイプじゃないもんね」


 くっ、すでにマイナスだったか。


「まあ、ワタシもこの頃は全然読んでないけどね」


 お気遣い痛み入ります。


 さて、テーブル席を確保したのはいいんだが、どうすんだオレ?

 本の好みを聞いたところで「ふーん」としか言えないぞ。

 自慢じゃないが、どの本が人気だとか、どういう本はドコソコにあるとか、全然知らない。

 

「寺山のお薦めは? なんかある?」


 そんなにいじめないで。

 

「ちょっと本見てくるね」


 オレのリアクションに満足したようで、彼女は席を立つ。

 くそぉ、こんなことになるなら、もっと本を読んでおけば……。

 いや無理でしょ。オレに読書スキルの適性はない。

 人間、自身の適性を見極めるのに早いに越したことはないよな。

 こんなダメ人間をヨソに、彼女は左手人差し指をあごに当てながら、本棚の前をゆっくりと移動する。

 真剣な表情で一冊一冊タイトルをしっかり見て、うなづいたり首を振ったり。

 だからあ、それ反則だって! かわいすぎるから、それ!

 これ以上、オレにダメージ与えるのヤメテ。


 いい本がないのかな?

 手にとってパラパラめくってはすぐ戻す、を繰り返す彼女。

 もう10冊目くらいだろうか。

 とそこでカウンターから声が。


「寺山くーん、奥の棚の一番下」


 はい? なんですか、先輩?


「左から三冊目」


 いや、だから?


「それ、カノジョさんにとってあげてー」


 「カノジョさん」って……。もしかして本当に誤解してませんか、先輩?

 カウンターに目を向けると、あいかわらず本に視線を向けたまま。

 なんなんだ、このヒト?

 オレは言われるままにその本をとった。

 「カノジョさん」に渡す前にパラパラとめくってみる。

 独特の匂いがオレの鼻をくすぐる。

 紙の匂い。インクの匂い。埃の匂い。ああ、本の匂いだ。……いい匂い。

 匂いは記憶を揺り動かすものらしい。

 母親に絵本を読んでもらった時のこと。

 誕生日に本を買ってもらった時のこと。

 初めて図書館に行った時のこと。

 その一瞬にオレは様々なことを思い出し、その懐かしさに身を震わせた。


「なになに?」


 嗅覚での感動を満喫したオレのところに、彼女がやってくる。

 本を選んでいた時とは一変、幼児のように興味津々な無垢な表情をオレに向ける。

 あ、もうダメだ。

 ここは図書室じゃない。処刑場だったんだな、オレの。


 お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。


 ”てらやまよしきはちからつきた”  

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