その5 彼は少々にぶい子です。
「こんちゃー」
オレはカウンター内で本を読んでいた高橋先輩に挨拶する。
「こんにちは、寺山君。今日は当番?」
「そうっす。カウンター代わりますよ」
高橋先輩は「図書室の魔女」というあだ名を持つ3年生。
今度その由来を聞いてみたい。
昼休み、放課後、いつ来てもカウンター内にいて本を読んでいる。
ここに住んでいるんじゃないかって噂まである。
とりたてて美人というわけでもない。ごく普通。
スタイルも、まあたぶん普通。
スラリとしてて。ホント、スラリとしてて。
「ちょっと! 今変なこと考えてなかった?」
ギクッ!
「いえ。そんなことないです、ないです」
あわてて両の手をふって否定する。
さっきのこともあったから、思わずそこに目がいってしまったようだ。
あぶないあぶない。気をつけなければ。
この先輩の場合、モミジでは済まないような気がする。
さて、オレが図書室に来るようになったのは、漫画も置いてあるということ以外に、この先輩に会えるから、というのがある。
誤解しないでほしいが、これは恋愛感情などではない、と思う。
なんて言うんだ、コレ。うーん、よくわからない。
あえて言うなら……。
うん? あえて言う必要ってあるのか? いやない。反語だったっけ。
とその時、一つの言葉がポンと頭の中に浮かんだ。
(怖いもの見たさ)
その瞬間だ。
パン!本を閉じる音。
そして、カウンター内からニッコリとオレを見つめる高橋先輩。
ただし、目が……、目だけが笑っていない。
え、なにこの人? ホント魔女? こわい。こわすぎる!
「で、そちらはカノジョ?」
ふう。今の一件は流してくれたか。助かった。
そしてツレについて、オレ的には嬉しい誤解発言。
「いえ、単なる同級生です。借りたい本があるみたいだったんで」
今のところ否定するしかないのが悲しいな、オレ。
うん、なんだ? 先輩が首を振りながらため息をついている。
「っそ。じゃあカウンター当番は私がやるからいいわ」
じゃあ、の意味がわからないんですが?
その哀れな小動物を見るような目もなんで?
「せっかく来たんですけど」
なんだかんだ言いながらですね、真面目にやっている姿を見せたいんですが?
と言ってもいつものごとく室内には誰もいない。
でもカウンターの中でなら、いろいろやっているフリはできるはずだ。
「カノジョのエスコート。それが今日のお仕事ね。頑張って」
いや、カノジョじゃないって言いましたよね。
隣のこの人、そういうの怒っちゃうタイプなんです。
これ以上オレを危険にさらさないでください。
それにエスコートってなに? お仕事? なにを頑張るの?
言っていることに理解が追い付かない。
で、おそるおそる隣の地雷装備者に目をやると……。
あれ、どうした、その顔は?
心ここにあらず、どころじゃないような?
初めて見る表情だな。
くそぉ、かわいいからもっと見ていたいけど、そうもいかない。
おーい、早く戻ってこーい。




