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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の目算、彼女の誤算
102/102

その6 彼女は潤みます。

 そう来たか……。

 

「おっはよー、映子ちゃーん」


 午前十一時。家にやってきた泉美の恰好に、ワタシはため息をつくしか出来なかった。

 

「ちょっと泉美、何よその恰好」


「えー、可愛いでしょー」


 確かに可愛いし似合っている。それは認めるわ。でもね、ゴスロリって……。季節無視のスケスケコーデで来られるよりはマシなのだけれど、これはこれで危険な香り。芳樹君、こういうの好きそう。


「それに映子ちゃんだってー」

 

 何よ。


「気合入れ過ぎー。()()()になるのはいいけど、魂胆も見え見えなんだけどー」


 くっ、早くも言われてしまった。そう、今ワタシが着ているのは、男の子だったら無視できないはずの胸元ゆるゆる系。芳樹君の視線をこの谷間に吸い込むつもり。


「ブラはちゃんとしているもの。問題ないでしょ」


 チラリズムは王道よね。どの角度が効果的かも鏡見ながら研究したんだから。


「そうなんだー。付けているんだー」


 ん? もしかして……。


「ちょっと泉美、まさか……」


「大丈夫だよー。ちゃんと付けてるよー」


 ほっ。泉美のことだから、またノーブラかと思った。


「ニップレス」


 こらぁ!


 芳樹君の家までは歩いて十五分弱。意外と近かったことに驚いた。もっと早くに知っていれば、一人で押し掛けていたのに。これが臍を噛むということなのね。

 そうしてワタシの家で時間調整を兼ねた打ち合わせ。もちろん勉強会のね。試験範囲の確認と互いのヤマの情報交換などなど。 

 そして予定通りに出発。男の子の家に行くなんて初めてだなと少々興奮気味。

 それにしても、ゴスロリ少女と並んで歩くことになるとは思っても見なかったわ。ワタシはちょいギャル系だし、傍からはどう見えるのかしら。……うーん、考えないようにしよう。

 

「あれ?」


 もうそろそろと言うところで泉美が声をあげた。


「どうしたの?」


 すると泉美はスマホを取り出して、画面に地図を広げた。


「あそこの家のはずなんだけど……。前に来た時と……」


 そうして指差した一軒の家。


「えっ、嘘?」


 泉美の戸惑いが一瞬で理解出来た。

 空き家? 

 そう、その家は周囲の家とどこかが違っていた。家そのものは外観もキレイだし、窓が閉め切られているわけでもない。でもどこかが……。

 近付いてみると「寺山」という表札がかかっていた。間違ってはいないみたい。

 でもなんだろう、この違和感。


「緊張しちゃってるのかなー。芳樹君の家が何だか特別に見えるー」


 泉美の言葉にワタシも無理矢理自身を納得させた。気が高ぶっているせいだろう。気のせい気のせい。そう、余計なことは考えないで勉強会を()()()()()()ね。


 そして午後一時ぴったりに、泉美と一緒にインターホンを押した。


「「コンニチハー」」


 休みの日の芳樹君てどんな感じなのかな? 寝ぼけ眼で髪はボサボサ。まだ着替えてもいなかったり?

 すると、中から足音が聞こえすぐにドアが開けられた。出てきたのは、長袖Tシャツとジーンズといういたってシンプルな恰好の芳樹君。

 やだ、何? ちょっとカッコいいわ。爽やかさが素敵。


「いらっしゃい」


 あーダメダメ、こっちが見惚れてどうするの。ここは主導権を握らないと。

 

「ねぇ、何か一言あってもいいんじゃない?」


 ふふん、どう? この露出高めのコーデは。ほら、この色香に惑わされなさい!

 って、やだ、そこまでじっくり見ないでぇ。


「ねぇねぇどうかなぁ、芳樹君の趣味に合わせてみたー」


 泉美ぃ、芳樹君を変な世界に連れて行かないで。


「うん、二人とも良く似合ってる」

 

 あら、随分とお上手になっちゃって。前だったらしどろもどろだったのにね。でも嬉しいわ。ワタシって単純。


「えーと、とにかく上がる?」


 ついにこの時が。くぅ、苦節十六年、ワタシの人生の新たな一歩。


「あ、そうね。上がらせてもらうわ」

「お邪魔しまーす」

 

「リビングでいいよね。飲み物とか用意するから、適当に座ってくれる?」


「「はーい」」


 逸る気持ちを抑えつつ案内された部屋へ入ってみると……。

 あれ、まただ。

 普通のリビングで、テレビを始め調度品はちゃんとそろっている。それなのに何だろう、この違和感。

 あーダメダメ。よそ様の家のことをあれこれ詮索するのは礼儀知らずよね。ウチと違ってキレイに片付いているだけのことじゃない。勘違いよ、きっと。


「そう言えば二人とも昼メシは?」


 うぅ、あれこれ見て回りたい。いろいろ聞きたい。でも落ち着きがないって思われるのもなんだし……。うん、ここは自重自重。


「大丈夫。早めに済ませてきたから」

「私もー」


 これは事前に泉美と打ち合わせ済。満腹状態だと頭も働かなくなるからね。


「そう言えば泉美、コーヒー苦手って言ってたから紅茶用意したんだけど、アールグレイじゃなくてもいい?」


 あれ、何でそんなこと知っているの? あ、そうか、この間桜田先輩と会った時か。たしかにそんなこと言っていたっけ。でもよく憶えていたわね。

 

「あ、覚えていてくれたんだー。嬉しい、ありがとぉー。何でも大丈夫だよー」


 むむむぅ。泉美の嬉しそうな顔はまぁ仕方ない。でも……。


「何?」 


「ちょっとぉ、何でワタシには聞いてくれないの?」

 

「あれ、映子はダージリンじゃなかったっけ? だからそれ用意したんだけど」


「あ、そうだったんだ。ありがとう」


 うわぁ、頬が緩みそう。芳樹君てば、意外に女の子喜ばせるの上手。

 

「えー、映子ちゃんばっかりずるーい」


 ズルくないわよ。だいたい泉美は好みがうるさ過ぎるの! その点ワタシは扱いやすいでしょう、ねぇ芳樹君。


「じゃあ他のにする? と言ってもアールグレイは切らしているからセイロンかアッサムになるけど」


 あれ、もしかして芳樹君てば紅茶に詳しい? 女の子ウケばっちりなんですけど。


「芳樹君が好きなのは?」


 ここは芳樹君の好みをしっかり把握する場面よね。いつか家に来てもらった時にはそれを淹れてあげよう。


「あ、オレはコーヒー派だから」


 ちょっとぉ、いきなりそれはないでしょ! 泉美も分かりやすくプンプンしている。


「とりあえず、勉強しよう。一緒の科目? それとも各自?」


 あ、逃げた。

 でも仕方ない。その為に来たのだし、あまり関係のないことで時間を潰してもね。さぁ切り替え切り替え。


「ワタシ数学やる、一番苦手だから。分からないところ教えて」

「じゃあ私もー。次のテストでは絶対百点取りたいから教えてー」


 テスト範囲になりそうなところから、いくつか芳樹君に質問してみる。

 さぁ、本日のメインイベント。胸元チラリ大作戦。ほらほら、ブラも可愛いの着けてきたよ。見て見てぇ。

 ……。

 って、何で見てくれないのよー。

 泉美は泉美で、あの大きなおっぱいをさぁ触れと言わんばかりにテーブルに乗せているけれど、それにもノーリアクション。

 ワタシ達の色ボケっぷりだけが空回りしている。あー何だろう、この挫折感というか罪悪感。

 ごめんなさい、ワタシが悪かったです。真面目に勉強します。

 ……。

 芳樹君の説明はとても分かりやすい。すんなり頭に入って来た。

 やっぱり頭良いんだ。それが何だか嬉しくて、今度は問題を解くことに熱中してしまったり。

 

「こんなものかな?」

「そうだねー」


 何だろう、すごく集中出来た。泉美も満足そうな顔をしている。一時間が短く感じるなんて久し振り。キリもいいし、ここらで休憩かな?


「そうだ、私クッキー焼いてきたー。一緒に食べよー」

 

 おやつ係の泉美。きっと上手に出来ているだろう。でもね……。


「ワタシも作って来たんだけど……」


 泉美にばっかりいい顔はさせないんだから。ワタシだって少しは出来るってところ見せてあげる。

 って芳樹くーん、その顔は何?


「ちょっとぉ、ワタシだってお菓子くらい作るわよ。というかこれからは料理だって頑張るんだから」


 昨日の悪戦苦闘の成果をとくと御覧じろ!

 泉美の作った可愛らしいクッキーの横に、袋からコロコロッとベビーカステラ。


「最初マフィン作ろうと思っていたのよ、そうしたらたこ焼きプレートしか見つからなくて……」


 後で聞いたら、マフィンプレートは茶色のシリコン製で、食器棚にちゃっかり収まっていた。黒色鉄板製だとばかり思っていたから、アウトオブ眼中になっちゃったのよね。

 あの時のお母さんの呆れ顔ったら……。あ、思い出したら恥ずかしくなってきた。

 と、芳樹君がその一つを口に運ぶ。ドキドキ。


「うん、うまい」


 やった!

 

「猫さんのクッキー、可愛い」

「ベビーカステラって久し振りー。縁日以外じゃ見掛けないもんねー」


 泉美のクッキーも美味しい。サクサクと軽い食感がちょうどいい。うん、次はこれ作ろう。 


「二人ともお腹大丈夫? ケーキ用意してあるんだけど食べる?」


 えっ、ケーキ? やだ、ここでそんなこと言われたら……。


「「食べる!」」


 あ、思わず。でもこれは仕方がない。その単語には抗えない魔力があるのよ。


「バナナケーキのほうは焼き立てだよ。レアチーズも多分うまく出来ていると思う。どっちがいい? てか両方出すな」


 意外過ぎる言葉が飛び出した。焼き立て? 上手く出来た? 

 

「ちょっと待って。焼き立てって? もしかして作ったの?」

「芳樹君、ケーキとか作れるのー?」  


「時々な。この頃はあまり作らなかったんだけど、ちょっと張り切ってみた」


 えー! 何だか普通に言っているけど、ケーキ作るのって大変だよね。 


「あ、バナナケーキは半分がチョコで半分がアーモンドね」


 運ばれてきたのはホールのレアチーズケーキと、シフォン型に入ったバナナケーキ。

 

「「うっそぉー!」」


 目はケーキに釘付け。お店に並んでいてもおかしくないクオリティーの高さだわ。


「ねっねっ、コレ本当に芳樹君が作ったの?」

「すっごーい。私なんかよりずっと上手ー」


 鳴れた手付きで皿に移してナイフを入れる芳樹君。バナナケーキからはふわっといい匂い。


「映子がレアチーズ好きみたいだったから。泉美、ごめん。モンブランはちょっと材料なくて……」


 えっ? 


「ううん、バナナケーキも大好きだよー。ありがとー」


 そうか、ワタシのために作ってくれたんだ。

 ……。

 えっ、やだ、視界がウルウル。ちょっとぉ何よコレ? 込み上げてきちゃったじゃない。 

 慌て顔の芳樹君に何とか今の心境を説明する。


「だってー、これってアレでしょ。この間のこと覚えていて、わざわざ作ってくれたんでしょう。こんなの嬉しくて泣いちゃうに決まっているじゃない」

 

 言葉にしたら、余計に波が押し寄せてきた。

 あ、涙落ちた。超感動。サプライズ過ぎるわ。もしかして夢でも見てる?


「とりあえず味見してくれる? もっと甘い方がいいとか、そういうのあったら今度作るときの参考にするし」


 ケーキを皿に並べたかと思ったら、バナナケーキには生クリームを添えている。うわぁ美味しそう。

 とワタシのお皿のケーキには赤い……、ベリーソース? すごいすごい、キレイ。


「さ、存分にご賞味あれ」


 コレ食べなくても分かるわ。絶対美味しいに決まってる。

  

「「うっまーい!」」


 もう想像以上。こんなにおいしいケーキ、今まで食べたことないよ。


「ちょっとちょっと、どうやったらこんなの作れるの?」

「これじゃまた太っちゃうー」


 もう何よ、その包み込むような笑顔は?

 学力だけじゃなくて女子力もワタシより上とか、ちょっと許せないぞぉ。芳樹君てば何者?

 

「良かったよ、美味しいって言ってもらえて。ほら、作るのはいいけど他の人に食べてもらう機会ってあまりないから、実は心配だったんだ」


 味見役だったらいつでもワタシが引き受けるわ。って、家族の人に食べてもらったりはしないの?


「ねぇ、そう言えばさ、今日はご両親って? お仕事?」

「帰ってきたら食べてもらえばいいのにー」

 

 芳樹君の両親てどんな感じなのかな? 会ってちゃんと挨拶したい。 


「ああ、オレん()、父子家庭ってやつ? なんだよ。で、親父は今出張中でね。月に一度帰ってくるかどうかでさ」


「「えっ!」」


 言葉を失うとはまさにこのこと。「親父はゴルフ、お袋はカルチャースクール」的な返事を想像していたところにこれだもの。脳内処理が追いつかなくて、ちょっとパニック。

 えっ、お母さんは? えっ、じゃあ今一人暮らしってこと? えっえっ、えー! 


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