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◆エピローグ◆



 結局あの夜バルコニーで私を抱き上げてくれたロンバルトは、そのまま私を攫いはせずに、パーティー会場に戻った挙げ句その場で婚約発表をしてしまった。


 お父様も、お母様も、勿論フェルミーナとジルベルト様も驚きで固まってしまったのだけれど……ロンバルトは気にした様子もなく来賓や家族が見守る前で私に「絶対にあんたを幸せにするからな!」と宣言してくれたのだ。


 そうまでされてしまったら――しかも、自分達にとっては可愛い娘であるのに、もらい手が一向に見つからなかった私。


 それだけでお父様もお母様も、フェルミーナとジルベルト様も。さらには家臣の皆も大泣きして祝福してくれたので、他国の使者や来賓は置いてきぼりのポカーン状態である。


 しかもロンバルトったら、婚約発表したその日の晩からその……とても愛してくれたものだから――私はその後の三日三晩ほどの記憶がない。


 すぐにも国を出発したかったけれど、ロンバルトのせいで結果待ちの期間を半年ほども取られてしまった。


 でも、その半年で私とフェルミーナの間にほんの少しだけあった、わだかまりのような物もすっかりなくなって……私達は晴れやかな気分でサヴォイを出国することが出来たのだわ。


 目の前で今年で五歳になる息子を肩に乗せて遊んでやっているロンバルトの背中を見つめて、私は深く幸せな溜息をついた。そんな私の溜息を耳聡く聞きつけた二人が勢い良くこちらを振り返る。


 息子のアルバートは私に顔のパーツは似ているけれど、太りやすい体質は受け継がなかったようで、なかなかのハンサムに成長していた。


「どうしたんだアデリーナ? 腹が重いのか?」


「母ちゃん、腹が痛いならオレ、父ちゃんから降りるから抱っこしてもらいなよ!」


「お、さすが俺の息子だ! 母ちゃんは大事にしなきゃならん!」


「うん! そんで、元気な弟か妹を早く産んでもらわなくちゃ! 今のままだと……抱っこしてもらえないもん」


 目の前で肩から下ろしてもらったばかりのアルバートが寂しそうにそう言うものだから、あんまり意地らしくてその小さな身体をギュウゥッと抱きしめる。


 すると腕の中でアルバートが恥ずかしそうに「母ちゃん、お腹の赤ちゃん出てきちゃうから!」と身を捩った。


「うふふ、そんな可愛いことを言うアルバートを抱っこ出来ないのは私だって寂しいのー! 早く元気な赤ちゃん産んでアルバートには頼りになるお兄ちゃんになってもらわないといけないもんね?」


 アルバートと二人でクスクス笑いながら頬ずりをしあっていたら、急に私とアルバートの身体が宙に浮いた。


 驚いて視線を上げれば、そこには少しだけふてくされたようなロンバルトの顔があって……。


「おいおい、二人とも俺を仲間外れにするんじゃねぇぞ。寂しいだろうが」


 と、そう言って無精髭のある頬を私とアルバートに擦り寄せた。


 隣でアルバートが「父ちゃん痛いよ!」と叫んでいるけれど、私はそのちょっとだけ痛い頬ずりに堪らない幸せを噛みしめながら頬ずりを返す。


 すると、それに気付いたロンバルトが不意に私の唇に口付ける。


 アルバートが今度は「父ちゃんズルイ!」と叫べば「あぁ? 母ちゃんの唇に口付ける権利はこの専属騎士様だけの特権なんだよ!」と我が子相手にムキになって叫び返している。


 幸せ。


 幸せ。


 両側にある幸せに口付けをして、ニカッと笑う二人に微笑み返す。


 今こうしてこの太い腕に抱き抱えられた私は、あの頃の私よりもお腹の赤ちゃん分さらに重いのに。


 私の愛しい山賊騎士は今日もこう言って豪快に笑うのだ。


「俺の豊穣の女神様とその息子、それにまだ顔も分からん天使様は、俺の腕には軽すぎるな!」


 ――――と。



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