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崎坂三等陸曹の災難。

まずは本文上部を熟読してください。

この話は多数の従軍(他国含む)記者の著書を参考にに書きました。本来ならばそのまま載せたいところですが、著作権の関係上不可能です。できるだけ詞の意味を失わないように気を付けたつもりですが、何かあればご指摘をお願いいたします。


(登場人物及び会話場面は史実を元に考えたオリジナルです。)












崎坂三等陸曹の災難


まあこの肌を突き破る熱さをにも慣れた。しかし、だからって目の前の光景はないだろうよ。

水道工事についてある部落長がゴネだしたという報告を受け、工事の話に関わっていた真中一等陸尉と運転手役の崎坂三等陸曹は出掛けた。賃金についての不満だったらしくすぐに交渉は成功した。

もてなしの水を出され、飲んでいる最中に事件は起こった



―ボフバフッ!



立て続けに二回聞こえた爆音に八九式小銃を構え、慌てて飛び出した目の前には車の形を放棄した鉄箱が鎮座していた。要は熱でタイヤ内の空気が膨張し爆発したのだ。昨夜のタイヤの空圧調整はちゃんとしたはずだが、おそらく疲労のせいで落ち度があったのだ。



「えーっと、どうします?」



同じく、汗を垂らしながら唖然としている真中一尉に話し掛ける



「このままじゃ帰る足が無いっすよ。」

「不恰好だよなぁこれ。」



芝居がかった動作でがっくしと肩を落とし目の前の鉄箱を指差す。何の奇跡か軽装甲車の三輪がバーストを起し、なぜか一輪だけ残っていた。空に向かって伸びるMINIMIの黒光りする銃身がやけに虚しい。


「一応連絡しよう。何か回してもらえるかもな。」


「ですね。」



やっとこさ扉を開けたはいいものの、中の熱気に肌を焼かれるわエンジンを回した途端に吹き出した空調に顔を塞がれるわと連絡一つ取るのにかなり手間取った。


「こちらマルサン。HQエイチキュー、送れ。」

「こちら本部。」

「移動に使っている軽車のタイヤがバーストし運転不可。任務は完了したが帰還は難しいと思われる。指示を請う。」


ペラペラと紙をめくる音が数秒響き・・・・

「すまないが車両は全て任務に就いている。基地内の隊員も緊急対応班以外は残っていない。後もう少しで巡回警備班の車両を回せるはずだ、それまで待機せよ。」

「後少しとは。」

「二時間だ。」



二時間!?マジかい。



「了。」





「どうだ?」

「後二時間だそうです。」

「二時間!随分かかるな。」



さて、ここで彼らに一つの問題が発生した。実弾入りの機銃を装備した車両を放っておくわけにはいかない。さりとて動かせないが、どうするか。勿論警備をすることになるのだが、フル装備で大した水分も無しにこの炎天下に二時間も立ちっぱなしでいれば遅かれ早かれ脱水症状で倒れる。しかし選択権が無いのも事実であって・・・・・・・・



「・・・・。」

「・・・・。」



迷彩服を着た野郎二人が砂塵対策ゴーグルの下で眼光を光らせながら装甲車の周りを見る様子は異様だ。



なぜかって?パンクしてる車の周りを警備してるからだろうね。




「真中一尉、あ

「三分前にも言ったぞ。」」



不機嫌な声が返ってくる。いい加減死にそうだ。ちびちびと水筒の中の水を飲むが、そもそも長期任務用の容量ではなく既に空に近い。この周辺は水道環境があまりよくないから給水は無理だ。ついさっきにもてなしだと出された水に藻が浮かんでいたから間違いない。



「あのぅ。」



いつのまにか開いた窓から、現地で雇った毛むくじゃらの通訳が顔を出す。



「私、下りた方が良いのか?」

「いえ、結構ですよ。中のほうが快適でしょう?」



力なき笑顔。

勿論、涼ませろなんて言えるはずが無い。軽装甲車の車内は放っておくと軽く七十度を越えてしまうために一応はクーラーが付けられている。しかし、クーラーという負荷をかける事イコールエンジンパワーの低下を招き、突発的事案に対応できないとのことで最低限の使用しか許可されていない。

(実際はエアコンをかけた状態の『最低』温度で四十二度だそうだ。レトルトパックを加熱装置無しで温められる熱量らしい。軽装甲車に乗車した隊員は口を揃えてここは天国だと言ったらしい。読者の方には今夏について考えて欲しい。)



真中一尉の


「通訳まで自分達と同じ苦労を感じる必要はない。エンジンは生きているのだからクーラーを効かせてあげよう。」


発言により、車内はがんがんに空調が効いていて涼しい。むしろ自分達にとって寒いくらいだ。


「でも私はこれ悪いことと思う。」

「いえ、ムジャラフさんは私達にとって重要人物ですから。」

「すみません。」



と、先程までゴネていた部落長が近づいてきてヤパニー!と話し掛けてきた。



「どうされました?」

素早く対応する真中一尉。


『どうした?トラブルか。』通訳からクリアな日本語訳が伝えられる。



「私達の乗ってきた車が故障しました。しばらく動けそうにありません。」

『そうか、残念ながらうちには整備工が居ないんだ。日本人の力になれなくてすまない。』


申し訳なさそうに瞳を伏せる部落長。先遣隊のおかげか日本受けは異様によく、簡単な話し合いの席でもいきなりチャイが出されたりと待遇がいい。



「後二時間ほどで私達は行きますのでご安心ください。」


『日本人はブッシュ(おそらくアメリカ軍の総称)と違っていい奴だ。』


「ハハ、有難うございます。」



一応は同盟国であるので乾いた笑みで茶を濁した。なぜ受けがいいか?それは追い追い語ろう。

部落長とひとしきり会話した後、じゃあ俺は会合があるからと数人を引きつれて町中へ消えていった。


「良かったですね、不審がられなくて。」

「そうもいかない。お前は自分の家の前にアメリカ軍の車が停まってたらどう思う。」


そう。最大の懸念はここだ。イラク市民はどこか幻想じみた希望があり


曰く

「二千万ドルの公共事業を立ち上げるらしい。」

曰く

「一週間もあれば全ての道路を直してくれる。」

等々、数えたら切が無い。イラク市民が求めているのは完全なる救済、復興。

しかし日本ができる行為はあくまでも支援であり、復旧。

ここで大きな意識のずれがあり、日本人は何もしてくれないのかという感情が出る結果となる。日本としては完璧な復興をしてしまうと自力での生活が難しくなり外国の力に依存してしまう結果を招くだろう。やはり自らの国は国民の力でというのが考えだ。

給水事業も指導や技術提供こそするが基本的に働くのはイラク人だ。




「いやっすね、怒鳴り込みますよ。」

「俺は日本で必要ないだの役に立たないだの言われるのが我慢できない。向うも夢を見てやがる!」

「落ち着いてくださいよ。無理矢理に法を捻曲げてまで来たんですからどこかで歪みが起きても仕方ないんじゃないですかね。」

「だからって、」


―プァーッッ!




いきなりのクラクション。団欒気分から一転、恐怖のどん底に落ちた。砂埃を巻き上げながらクラクションを鳴らしつつ爆走する一台の車。進行方向は・・・・俺らだ!



「薬室装填!」

「薬室装てーん!」



どこか夢見心地で見ていたが、真中一尉の命令に我に返り慌てて復唱し行動に移した。八九式小銃のボルトを手前に引き、薬室に弾丸を送り込む。

――とここまで無意識で行動してからふと気付いた。

(薬室装填って事は・・・・)



「最悪は覚悟しておけ!警告無しの危害射撃かもしれんぞ!」


『危害射撃』


その単語に身体がびくりと反応した。諸外国が実射撃を行う場合、警告・威嚇・危害のサイクルがある。自衛隊も警告が二種類あるものの大方似ている。


しかし、自衛隊は軍隊『ではない』のが災いして戦闘に入ったときに致命的な点がある。自衛の字面が示す通りあくまでも自らを守る為でのみ武器使用が認められており、銃弾が飛び込んできたぐらいの状況でないと反撃ができない。


つまり反撃するためには




『自らを危険な場所に身を置かなければならない』

のだ。

それこそ命を投げださなければならず、初撃で大方の勝敗が決まる現代戦において始めから負けを認めているようなものだ。



目測で百メートルをきった。アメリカ辺りであったら既に穴だらけにされることだろうが。だが、世界一厳しい銃規制が災いしてまだ威嚇さえできない。



「一尉!もう百きりました。威嚇しましょう!」

「まだだ!まだなんだ。」



真中一尉自身も動揺と怒りがまぜこぜになった怒号を張り上げる。


(あれ?)


急に周りの空間が見えなくなり目の前の車と自分しかいないような錯覚に陥った。空気が水飴のようなどろりとした液体で満たされ、全てがスローモーションで進んでいった。



――ああ、死ぬな。


妙に達観している自分に驚いた。死をこれほど冷静に受け容れようとは想像もつかなかった。ゆるりゆるりと・・・・


死ぬ?


俺が?


なんでだ?


いやだ。


死にたくなんかないっ!!

訓練の賜物か、脳が電気信号が伝えられる前に反射が起こった。

崎坂はセレクターを安全から3(三連バースト。一回のトリガーアクションにより三発弾が発射される)に切り替え空に構えた。



「なにやってるんだ!」


怒号が響き、肩を掴もうと手を伸ばす。



「もう無理です、威嚇します!」



心臓の脈打つ音が大きく聞こえ、だくだくと全身に血を送っている脈動さえ感じられる。心持ち瞳孔が開いている気がする。意を決し、トリガーを引こうとすると。件の車は急ブレーキを掛け50メートルほど手前で停まった。

中から二人組が降りてきた。



一人は激昂し、大声を喚き散らす大男


もう一人は友人だろうか、必死に宥めようとしているが見てとれる。インテリ系のすっきりとした男。

何を言っているかは分からないが、おそらく『何でここにいるんだ』とでも叫んでいるのだろう。

まあ通訳が居ない状況でどうこう言っても仕方無いので、車内にいる通訳を呼び寄せた。



「ムジャラフさん、お願いします。」

「はい。」



自分も行こうとしたが、軽装甲車の警備を無くすわけにも行かず、話し掛けた真中一尉と通訳は少し離れた場所に行き、崎坂三等陸曹は軽装甲車の警備に戻った。




「ふぅ・・・・。」


驚いた。勿論、この地域に派遣される以上はいろんな危険に晒される事は覚悟していた。しかし、いざとなると全く体が動かなかった。思い返してみると、自分のしようとした事が非常に恐ろしく感じられた。


視線を後ろに飛ばした。後ろ姿を見る限りでは、ある程度は落ち着いてきたらしく怒号はもう聞こえずに落ち着いた話し合いになっているようだ。

不意に真中一尉が握りこぶしに立てた親指で後ろを指していた。


(俺を表しているのか?)


すると、激昂していた男がこちらに向ってくるではないか!


「げ。」


思わず、口から本音が漏れた。男の顔は無表情でより恐ろしく、それでいて大股で歩くのだからより恐ろしい。

ずん、ずん、ずん!


ズイッ!



勢い良く手を差し出された。イラクではシェイクハンズは一般的ではないはずだが・・・・?

友好の印と受け取ろうと右手をわずかに動かした瞬間に


ガシィッ!

いや、グシャッ!か?


掴まれた。物凄い力で。

握った手を上に持ち上げると


「アシ・・・・・!」



始めの方しか聞き取れていないが、握り合っている手に額を擦り付けながら、つまりは頭を軽く下げているのだから謝られているようだ。


「・・・・?・・・・・・!」

「あ、オーライオーライ。」



とりあえず、何を言っているかがわからない。適当に誤魔化していると、ニヤニヤといわく有りげな様子でこちらに歩いてくる真中一尉。



「どーいう事ですか?」



因みに未だ手は握られていて謝られている。


「その人が謝りたいって言ってたから『私はいいから向こうにいる人にしてください』と言ったわけだ。」

「そうですか。なんだったんですか?」

「勘違いだそうだ。」

「勘違い!?」

「ああ。彼によれば、友人とドライブしている最中にたまたま部落長の家の前を通ったら俺らが居たというわけだ。それで、連れ去ろうとしていると思って猛抗議したんだそうだ。」



気が抜けた。

まさか、勘違いに向けて緊張していたとは夢にも思っていなかった。


『いや、本当にすまない!私の勘違いだ。』

「気にしないでください。勘違いぐらい誰にもありますから。」

『本当にすまない。頼むから出ていかないでくれ!』



こんなふうに懇願されることもあった。先遣隊の人脈構成術が効いているせいだろうか。

しかし、依存されても困る。ここは一言言っておくべきだろう。


「私達は貴方の国の国民ではありませんから永続的に留まる事はできません。」

一息入れて続ける。


「でも、貴方達と友達になることはできます。二人手を取り合ってこの国を良くしていきましょう。」






「『貴方達と友達になることはできます。』かあ。なかなか善い事を言うではないか崎坂三等陸曹殿。」


先程の二人が乗った車を見送りながら話し掛ける。


「茶化さないでくださいよ。」

「ふざけてないさ。」


笑顔が消えて真面目な顔になる。


「ただ、そうやって真面目に考えてもらえて有り難いんだ。自分の意志を持たない腑抜けだと、そのうちに自分を英雄だと思い込んでダメになる。たとえ下の人間でもお前みたいに地に足つけて真正面から物を見据える人間が必要なんだ。」

「ん〜、なんかそう言われると恥ずかしいっすね。」

「お?下っぱのくせに照れてやがるなコイツ!」

「な、なんすかいきなり。」


なんだかんだいいつつ真中一尉自身も相当緊張していたらしく、ずいぶん顔も弛んできている。

当たり前だが、上官も人間なんだなと感じた瞬間であった。










さて、劇的な出会いも終り『本来』の警備に戻った。やはり、じっとしていると肌に刺さる熱線をいやでも認識してしまう。まだ二時間経ってないのかと絶望し崎坂は体を軽装甲車に預けた。


「はい、・・・・ええ、あの・・・につきましては報・・・・はい。え?無し!それ・・・・」


何やら通信をしているらしいがなかなか聞き取れない。

「ふぃ〜。」



出てきた真中一尉に通信内容を聞いてみた。




「なにかありましたか?」

「お前、悪い方と良い方どっちから聞きたい?」

「良い方で。」

「ん。色々あっただろ?それ関係で午後の任務は無くなるそうだ。代わりに状況調査だってよ。」


早い話何をしていたかを根掘り葉掘り聞かれるんだな。外に立ちっぱなしじゃ無い分マシだと考えた。


「悪い方はなんですかね。」「聞いて驚け!警備班に問題が発生したらしくてな。しばらく動けないんだそうだ。」

「えっ!?」

「おう、つまりは後小一時間頑張れって話だ。」







崎坂は自らの不運を嘆くのであった・・・・・・・・

ふざけた感があるかもしれませんが、真面目に書くとどうしても語句の被りが多数発生してしまうので、悩みぬいてこの方法にしました。『タイヤ』空気圧をパンクしないギリギリに保のが大変だったようです。『薬室装填』引き金を引けば発射されてしまうために通常は禁止です。しかし何回かしたことのある隊員もいるようです。『イラク市民の幻想』一番描きたかった点です。前にドキュメント番組で自衛隊が設置したが使えない水道設備が強調していましたね間違いです。製造の難しい機械類を賞与し土木は任せたんです。だから単に工事が終ってないだけなんですね

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