第42章: 六つの家、六つの対話
東京に、十二月の凍てつくような暗闇が静かに舞い降りた。この日、区立中学校の校門から五通の金の封筒が送り出され、同じ区内の別々の住所へと散っていった。しかし、その夜に交わされた会話は六つ。六つの異なる家族が、我が子の新しく、エリートな未来への扉を開けようとしていた。
一軒目:佐藤家佐藤家の広々とした、賑やかなリビングには、豚の生姜焼きとスポーツマッサージ薬の匂いが立ち込めていた。工場の社会人野球リーグで元キャッチャーをしていた大柄な父親が、ヨレヨレのトレーニングシャツ姿でソファに腰掛けている。「『新暁学園』の特待生、それもスポーツ全額免除だってぇ!?」彼の雷のような大笑いに、食器棚のガラスがガタガタと鳴った。父親は息子の肩を思いっきりひっぱたいた。その勢いで、少年は危うくコタツをひっくり返しそうになる。「うちのドジ助がなぁ! 野球場の予算だけで俺たちの町内が丸ごと買えるような名門校だぞ! 母ちゃん、ビールだ! うちから未来の甲子園スターが出るぞ!」母親はエプロンで涙を拭いながら、すでにスマホで親戚中に狂ったように電話をかけていた。佐藤自身は床に座り込み、だらしなく笑いながら、手の中の金の紙をいじり回していた。彼にとって学校の格式などどうでもよかった。ただ、あの新しいスタジアムのマウンドで、いつもの仲間たちと同じユニフォームを着て立てるのだと思うと、瞳の奥に激しい闘志が燃え上がるのだった。
二軒目:南家居心地のよい南家では、まったく質の違う、女の子特有の喧騒が広がっていた。南ちゃんは自分の部屋のベッドの上でキャーキャーと飛び跳ね、姉は契約条件をただ確認しようと、彼女の手から封筒を奪い取ろうと躍起になっている。「スポーツクラスター! 陸上競技よ!」南は両手を振り回して叫んだ。「お母さん、ドイツ製のプロ用ランニングシューズまで支給してくれるんだって! 1シーズンに2足も!」厳格な会計士である父親は、机に向かって端然と座り、「新暁学園」の紋章が押された印影をじっと見つめていた。彼のメガネが不敵に光る。「この学校の部活補助金があれば、連盟への登録費や遠征費の負担は一切なくなるな」父親はそう締めくくると、普段の厳しい顔に、滅多に見せない誇らしげな笑みを浮かべた。「よくやった、我が娘よ。お前のその足の速さが、ようやく我が家に本物の配当をもたらしてくれたな」
三軒目:田中家静かで、几帳面なまでに片付けられた田中のマンションでは、壁掛け時計の規則正しい刻み音だけが、耳をつんざくような静寂を破っていた。地図専門の測量技師である父親と、数学の教師である母親が向かい合って座り、息子の元に届いた特待生招待状を精査している。田中自身は、両手を膝の上できちんと揃え、椅子に真っ直ぐ座っていた。「サイエンス・クラスター、1年目から高度量子物理学のカリキュラムか……」父親はメガネを外し、静かに呟いた。「それに、研究活動への完全なグラント(研究助成金)も付いている」「あなたの知性が、公立中学のプログラムの枠を遥かに超えていることは分かっていたわ、お前」母親は、封筒の厚手の紙を愛おしそうになぞりながら、静かに言葉を添えた。「でも、彼らが地域の数理科学報に掲載されたあなたの論文に目を留めるとはね……。これは、東大への推薦枠を無試験で勝ち取れるレベルよ。私たちはあなたを誇りに思います」田中はメガネのツルを直しながら、かすかに頷くだけだった。その顔の筋肉は一つとして動かなかったが、少年の中には、数学的に完璧に計算された深い安堵感が広がっていた。
四軒目:麻衣家麻衣ちゃんの部屋には、古い本の埃とカモミールティーの香りが漂っていた。控えめな図書司書である母親が窓辺に座り、娘の金の招待状を大切そうに両手で抱えている。麻衣は、部屋着の上着の裾をいじりながら、メガネの奥の視線を泳がせ、恥ずかしそうに隣に立っていた。「学術特待生……」母親がそう呟くと、その目には、心からの、待ち望んでいた喜びの涙が溢れた。「麻衣ちゃん、これは……奇跡よ。うちの貯金じゃ、こんなレベルの私立の進学校にはとても通わせてあげられなかった。あなたの本への愛や、教科書にしがみついて過ごしたあの数々の夜は……決して無駄じゃなかったのね」「私……私はただ、やるべきことをやっただけだよ、お母さん」少女は蚊の鳴くような声で答えたが、その頬にはぽっと幸せそうな紅潮が広がった。あの「新暁学園」の巨大な新しい図書館で、これからも田中くんと同じ机に座って本を読めるのだと思うだけで、彼女の心はどんな紅茶よりも温まるのだった。
五軒目:長野家(ゆりの家)ゆりの小さなリビングには、ある種の神聖な緊張感が漂っていた。重厚な金の封筒が、木製のコタツの真ん中に鎮座している。仕事を終えて疲れ切ったゆりの父親は、便箋に書かれた非の打ち所のない、美しい毛筆の楷書体に釘付けになっていた。「学業成績、および書道美術における卓越した成果に対する、個人指名型の特別奨学金……」彼は一文字ずつゆっくりと読み上げ、その声を明らかに震わせた。「エミ、この紙を見てくれ。これは……本物の評価だ」彼は妻に視線を向けた。その瞳には、複雑で深い理解の色が映っていた。長野エミは隣に座り、穏やかに微笑んでいたが、その指先はわずかに震えていた。ゆりの両親は、娘がどれほど勉強に身を捧げてきたかをよく知っていたが、同時に彼らは大人の、現実的な人間だった。この新しいエリート校から、これほど破格で、あまりにも個人的な条件の契約が届くなど、連想される理由はあまりにも明白だった。二人は言葉を交わさずとも、この金の封筒の「本当の出所」がどこにあるのかを察していた。エミは窓の外へ、意味深な視線を走らせた。塀を隔てたすぐ向こう、贅を尽くした庭園の奥で、朝香邸の灯りが煌々と輝いていた。「うちの娘が一番優秀なのは事実だ」ゆりの父親は、書類を丁寧に折りたたみながら、裏にある意味を込めて静かに言った。「だが、この扉の向こうには、明らかにとても強大な誰かが立っている。ゆりを取り残したくないと願う、誰かがね」「ええ」エミは、駆け寄ってきたゆりの肩を優しく抱き寄せながら、穏やかに同意した。「でもね、この封筒はお前が勝ち取ったオール100点の成績と、完璧な筆遣いに対して贈られたものよ。これはお前の努力に対する正当な報酬よ、ゆりちゃん。お前は自分の力でこれを掴み取ったの。そして、この扉を開くのを手伝ってくれた人たちは……ただ、お前の平穏を大切に思ってくれているのよ。そのことだけは、絶対に忘れないでね」ゆりは嬉しそうに微笑み、母親に寄り添った。彼女のツインテールが軽快に揺れる。彼女の心はあまりにも純粋で、贈り物に裏の意図を探るような真似はしなかった。最も重要な目的は果たされたのだった。歪んだ「援助」に対する気まずい恐怖が家族の喜びを汚すことはなかった。なぜなら、両親は隣人のその形を変えた不器用な気遣いを、沈黙という名の気高い感謝をもって受け入れたからである。
六軒目:朝香邸(竜之介の家)朝香家の当主の部屋は、重厚なシルクのカーテンが固く閉ざされ、薄暗がりに包まれていた。重厚なデスクの後ろには、竜之介の父親が座っている。彼の前にはホルダーに収まったウィスキーのグラスが置かれ、向かいのソファには朝香清子がエレガントに腰掛けていた。そして竜之介自身は、壁際に非の打ち所のない直立不動の姿勢で、手を後ろに組んで立っていた。この六番目の家には、金の封筒など届かなかった。朝香家こそが、その封筒を作り出す側だったからである。「『新暁学園』の理事会から報告書が届いた」父親は、ウィスキーを一口含み、冷静に口を開いた。「標的となった五つの特待生枠はすべて処理され、本人たちに手渡された。隠蔽工作は完璧だ。長野家もグラントを受け入れた。エミとその夫もおおかたの事情は察しただろうが、彼らのプライドが傷つくことはない。余計な詮索は一切ないはずだ」「見事だわ」清子は柔らかく微笑み、息子の方へ顔を向けた。「竜之介、彼らのグループを丸ごと転校させるというあなたの提案は、極めて先見の明があったわね。あのようなエリート校では、ゆりさんには幼馴染という忠実な環境が必要よ。地元のスノブ(気取り屋)たちに彼女を傷つけさせないためにもね」竜之介は、両親からの賞賛を厳かに受け止め、頭を静かに、かつ毅然と下げた。十四歳の彼の顔は氷のように冷徹な、帝王の仮面のままであったが、その胸の奥では、一匹の「龍」が満足げに翼を広げていた。「それが最も合理的な選択肢でした、父上、母上」少年の口から、鉛のように重く、絶対的な確信に満ちたバリトンボイスが響いた。「私自身の『新暁学園』への世襲枠による入学はすでに確定しております。随臣の配置も終わりました。ゆりの安全を確保するための環境は、絶対的な深度で構築されています。移行への準備は完了しました」竜之介の父親は満足そうにグラスを持ち上げ、息子に向かって乾杯の合図を送った。東京の六つの家は、その夜、それぞれの感情を抱いて眠りについた。ある者は嬉し涙を流し、ある者はスポーツへの情熱を燃やし、そしてある者は冷徹なチェスプレイヤーのような計算を巡らせて。しかし、公立中学「3年A組」の六人の少年の運命は、すでに一つの切っても切れない結び目として固く縛られていた。名門「新暁学園」の門はすでに開かれている。そして『龍』は自らの率いる忠実な軍勢の先頭に立ち、この新しい世界へと、自らの『百合』を導き入れる覚悟を決めていた。
面白い、つづきが読みたいと思ってくださった方は、ぜひ下にある【▼】から評価やブックマーク登録をよろしくお願いします! 励みになります!




