1-②
「あの、エリオット様」
「なんだ?」
「よろしければ、花の種をもらえませんか?」
「種?」
エリオット様はきょとんとした顔をする。
「別邸の前に花壇がありますよね。お許しいただけるなら、そこでお花を育てたいなって……」
どきどきしながら尋ねると、エリオット様は少し考えた後でうなずいた。
「わかった。今度、庭師に種を用意させよう」
「本当ですか?」
「ああ。この花の種と、それから他の花の種も何種類か用意してやる。楽しみにしておけ」
エリオット様は腕組みをして得意げに言った。
「ありがとうございます、エリオット様!」
弾んだ声でそう言ったら、エリオット様は満足げな顔でうなずいた。
私は幸せな気分で、エリオット様と別れ別邸に戻るのだった。
***
「シリウス、花壇に水をあげにいきましょう!」
『また行くの? あんまりあげ過ぎてもよくないと思うよ』
ベッドの上で丸まっていたシリウスが呆れ顔して私を見る。
しかし私は種を植えられたことが嬉しくて、一刻も早く花壇に行きたい気持ちでいっぱいだった。
約束をした翌日、エリオット様は早速庭師に用意してもらったという花の種をたくさん持ってきてくれた。
綺麗なレースの包みに入った種は、まるで宝石のように輝いて見えた。
それ以来、私はすぐさま花壇に種を植えて、毎日水をあげに行っていた。
花壇の土は随分長い間使われていなかったようで状態が悪くなっていたので、土を耕したり肥料を混ぜたりした。
それから、もしかしたら精霊が力を貸してくれるかもと思い、花壇の前で精霊たちに力を貸してくれるよう頼んでみたりもした。
土づくりの成果か、精霊のおかげか、芽はぐんぐん育って、一ヶ月経った今では蕾が開きかけるところまできていた。
『すごい成長スピードだね』
「本当ね。頑張って土を耕した甲斐があったわね!」
『ていうか、ちょっと異常じゃない?』
シリウスは怪訝な顔で言った。
私は首を傾げて花壇を眺める。
自分でお花を育てるのは初めてだけれど、この成長スピードは異常なのだろうか。
「じゃあ、精霊たちが力を貸してくれたのかしら?」
私にはほかの精霊師のように精霊を操れないし、いくら精霊に力を送ってもなかなか変化を起こせないので、確証は持てない。
でも、もしそうだったら嬉しいと思った。
ふと、花が咲きかけた蕾を眺めながら思い浮かんだ。
「この花、エリオット様にお渡ししたら喜んでもらえるかしら?」
『あいつに花を愛でる感性あるかな』
「きっとエリオット様ならこのお花の美しさをわかってくれはずよ! エリオット様は素晴らしい方ですもの」
私が言うと、シリウスはやれやれといった顔で、好きにしなよと言った。
私は早速、別邸の裏にある物置から植木鉢を持ってきて、その中に土ごと花を移した。
「エリオット様、次はいつ来てくれるかしら」
『そのうち来るんじゃない?』
シリウスは興味のなさそうな顔で言う。
私は植木鉢に入れた花を眺めながら、彼がやってくるのを楽しみに待った。
「……これはなんだ?」
「エリオット様にいただいた種から咲いた花です! エリオット様にも受け取っていただきたくて」
私が少し得意になって植木鉢を渡すと、エリオット様は目をぱちくりしていた。
「まだ一ヶ月しか経ってないだろ。もう咲いたのか? 庭の花壇も花でいっぱいになっていたし……」
「土づくりを頑張ったんです! それに、もしかしたら精霊が力を貸してくれたのかもしれません」
「本当か?」
エリオット様は不思議そうな顔をしていた。
不思議そうな顔をしてはいたけれど、植木鉢を受け取ってくれる。
「別に花が欲しいとは言ってないんだがな」
「そ、そうですか……? いらなかったでしょうか」
私が少し落ち込みながら言うと、エリオット様はしかめ面で言う。
「いらないとも言ってない。仕方ないから受け取ってやる」
「ありがとうございます、エリオット様……!」
私は嬉しくなって言った。
エリオット様は花をじっと眺めながら、ぽつりと呟く。
「……こういうのも悪くないな」
「え?」
「なんでもない。これはもらっておく」
エリオット様はそう言うと、背中を向けて去っていってしまった。
私は彼の後ろ姿を見送る。
「渡せてよかったわ」
『意外とちゃんと受け取るんだね、あいつ』
シリウスは、さほど興味がなさそうにエリオット様を横目で見ている。
私はとても幸せな気分で、色とりどりの花の咲く花壇を眺めるのだった。
終わり
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