1-①
セラフィーナ10歳の頃の話です!
私の名前はセラフィーナ・シャノン。
私は精霊師の名門であるシャノン家に生まれたにもかかわらず、精霊を操ることが出来なかったため冷遇されていた。
そんな私をこの国の第一王子であるエリオット様は婚約者に選んでくれて、王宮の別邸に連れてきてくれた。
現在、私は唯一仲良くしてくれる猫型精霊のシリウスと、別邸で平和な日々を過ごしている。
『セラ、この別邸本当に何もないね……。古いし、隙間風が入ってくるし……』
「でも、シャノン家の物置部屋に比べたら天国みたいな場所よ。こんなに広くて机もベッドもクローゼットもあるのよ」
『全部古びているけどね』
シリウスはそう言って顔をしかめる。
「いいじゃない。古い宮殿も素敵だわ。そうだ、二階の窓で景色を眺めましょうよ」
『また?』
「だって、あの窓から見える景色とっても素敵でしょ?」
私がそう言うと、シリウスは若干不満そうにしながらも「まあいいけど」と言ってくれた。
私はシリウスを肩に載せて二階に上がり、窓のそばへ行く。
二階の窓からは、本宮殿とその周りを囲う美しい庭園が遠くに見える。私はこの景色が好きで、よくここへ来ては眺めていた。
「王宮のお庭は綺麗ね」
『そうだね。別邸付近は荒涼としているけれど』
私の肩の上で、シリウスはしかめ面をして言った。
確かに、煌びやかな王宮の中でこの別邸付近だけ寂しげな空気を纏っている。
遠くに見える景色は美しいけれど、少し視線を下げて別邸の周りを眺めると、そこには荒涼とした地面が広がっていた。
けれど、私にはそれはそれで悪くないように思えた。
「あの花壇にお花を植えたら綺麗になると思わない?」
『確かに、少しはましになるかも』
「そうよね! 一から作れるって楽しそうよね」
「物は言いようだね」
シリウスは、淡々と言った。
別邸での生活は平和だ。
シャノン家で物置部屋に押し込まれ、両親からの折檻や、お姉様や使用人たちからの嫌がらせに過ごしていた日々に比べると、天国のように思える。
せっかく精霊師の家系に生まれたというのに精霊師としてろくに王家やエリオット様の役に立てないのは切ないけれど、私は日々現在の暮らしに感謝しながら別邸で過ごしていた。
しばらく外の景色を眺めていたら、だんだん日差しが明るくなってきたので、私は窓から離れて塔に行く準備をする。
ここへ来てから、私はエリオット様の命令で毎日塔に上って精霊に力を送っていた。
私に唯一出来ることなので、しっかりやり遂げなくては。
私は気合を入れて、塔まで急いだ。
それから、私はいつも通り、長い階段を上がって塔の一番上まで登り、大きな窓から空を見上げながら精霊に祈り始めた。
うっすらと感じる精霊の気配が、だんだんと濃くなっていくのを感じる。
私はサフェリア王国の精霊たちが元気でいられますようにと、ひたすら力を送り続けた。
空が夕焼け色に染まりだした頃、私は一旦力を送るのをやめた。
今日はここまでにしようと、部屋に鍵をかけて塔を降りる。
「今日はなんだかいつもより精霊の気配が濃い気がしたわね」
『そうだね。セラの祈りが効いてるんじゃない?』
シリウスは機嫌よさげに言った。
それから私たちは、別邸まで歩いて行った。
歩いている途中、庭園の花壇に見たことのない花が咲いているのが見えた。
目が覚めるような鮮やかな青い色をした、とても綺麗な花だった。
私は思わず声を上げる。
「わぁ、綺麗! シリウス、花壇を少し見ていってもいいかしら?」
『いいよ、好きにしなよ』
シリウスがそう言ってくれたので、私は軽い足取りで花壇に近づく。
毎日この道を歩いていたけれど、こんな綺麗な花が咲いているのに気づかなかった。
最近蕾が開いたのだろうか。
明日から塔に上った後はここに寄ってみようかしらなんて考えながら、その花を眺める。
「おい、そんなところで何をしてるんだ」
「え?」
後ろから声が聞こえ、驚いて振り返る。
そこにはエリオット様が立っていた。
「エリオット様! どうしてこちらへ」
「俺は剣術の稽古の帰りだ。お前こそ一体ここで何をしていたんだ?」
「ええと、お花がとても綺麗だったので」
私は言い訳するように答える。
エリオット様には、本宮殿には呼ばれた時以外は近づかないように言われている。本宮殿のそばの花壇までくるのも良くなかっただろうか。
しかし、エリオット様は特に怒った風でもなく尋ねてきた。
「その花が気に入ったのか?」
「はい、とても綺麗な花だと見惚れてしまいました」
私がそう言うと、エリオット様は花に視線を向ける。
それから淡々と言った。
「それならお前にやる。庭師に切らせよう」
「え?」
私は驚いてエリオット様を見る。
まさかお花をくれるなんて思わなかった。予想外の言葉に一瞬喜びかけたけれど、庭師を呼ぼうとするエリオット様を見てはっとする。
「ま、待ってください! いいです、大丈夫です!」
「どうしてだ? 気に入ったんだろ」
「せっかく咲いたばかりなのに、切ってしまうのはお花がかわいそうなので……」
「花にかわいそうなんてあるか?」
エリオット様は不思議そうな顔をする。
しかし私がなおも止めると、庭師に花を切らせるのは思い留まってくれた。
エリオット様は、私の見ていた花に触れながら首を傾げて言う。
「欲しいなら摘んでしまえばいいのにな。お前の思考回路はよくわからない」
「そ、そうでしょうか……」
「せっかく俺がやると言っているのに……」
エリオット様はそうぶつぶつ呟いてた。
せっかくのご厚意だけれど、やっぱりこんなに美しく咲いている花を切ってしまうのは躊躇われる。
それから、私はふと別邸の前の花壇のことを思い出した。




