17-1
その後、私たちは三日ほどサフェリア王宮に滞在した後で、ラピシェル帝国へ戻ることになった。
今回は逃亡するわけではないので、ゆっくりと準備を進めることができた。
シャノン公爵家にも、エリオット様と婚約解消することになった件やラピシェル帝国へ向かう件を手紙で報告することにする。
当然、シャノン家はそんな決断を許してくれるはずがないので、その手紙は私たちが出国した後で王家から届けてもらうことになった。
『なんだかとんとん拍子に進んだね』
「そうね。怖いくらいに」
私はベッドに腰掛けながら、私の膝に足をかけてきたシリウスの頭を撫でる。
サフェリア王国を出るまでもういくらもないけれど、現在、私は出来る限り塔に上って精霊に力を送るようにしている。私が出ていくまでに、少しでも王国の空気が浄化されるようにと願って。
結局この国を出ていくつもりの私がこんな行動をするのは、ただの自己満足なのかもしれないけれど。
そして、三日後。とうとうラピシェル帝国へ戻る日が訪れた。
私は部屋を眺めながら感慨に浸る。
結局、本宮殿のこの部屋で過ごしたのは数週間ほどだった。最後まで自分の部屋だという感覚がないまま終わってしまった。
サフェリア王国での私の居場所は、最後まであの寂しいけれど居心地のいい別邸だったように思う。
『セラ、やっとこんな国とおさらばできるね!』
「ええ……」
シリウスの言葉に曖昧な返事をする。
このまま行ってしまっていいのだろうか。何かやり残したことがある気がする。
エリオット様の悲しげな顔が頭から離れない。
すると突然、慌ただしい足音と共にノックの音が聞こえ、扉が開いた。
そこには王宮の侍女が立っていた。
いつも本宮殿で私の世話をしてくれている、冷ややかな態度のあの侍女だ。彼女は珍しく焦った顔をしている。
「セラフィーナ様、少しよろしいでしょうか。シャノン公爵がいらしています」
「お父様が?」
「はい。来ていただけますか」
侍女にそう急かされ、私は戸惑いながらもうなずいた。
お父様が用事とは一体なんなのだろう。シャノン家には私が帝国へ行くことはまだ知らせていないはずだけれど、まさかどこかから話が漏れたのだろうか。
侍女に案内され、部屋まで向かう。
中に入ると、そこには前回と打って変わって厳しい顔をしたお父様がいた。
お父様は部屋に入ってきた私と目が合うなり立ち上がって、つかつかこちらへ歩いてくる。
「セラフィーナ!! ラピシェル帝国に行くとは一体どういうことだ!?」
お父様は私の目の前にやってくるとそう声を張り上げた。あまりの剣幕に後退りしてしまう。
やはりお父様は私が帝国に行くことを知っていたらしい。
「お父様、どうしてそれを……」
「王宮に勤めている私の元部下から聞いた。私に黙って二度も帝国へ逃げられると思ったのか?」
「……申し訳ありません、お父様。けれど、私はラピシェル帝国でやらなくてはならないことがあるんです」
「何を勝手なことを! エリオット様がせっかくお前のような出来損ないを気に入ってくださったのだぞ!? なぜその気持ちを無下にするんだ!!」
お父様は顔を紅潮させ怒りを露わにしている。
私の肩ではシリウスが唸っていた。
「お父様、私は……」
「お前のような出来損ないがようやく役に立ったかと思えば……。あの方はソフィア様のただ一人の息子なのだぞ!!」
「……ソフィア様?」
突然出てきた名前に困惑する。ソフィア様とは、エリオット様の亡くなったお母様……つまり元王妃様のことだ。前回の面会で、お父様が随分と称賛していた方。




