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三十、薔薇祭







「レオカディア。今日、一番の獲物を君に捧ぐと誓う」


「はい。エルミニオ様。楽しみにしております」


 レオカディア毒殺未遂の犯人を捕らえることが出来ないまま、季節は夏を迎え、薔薇祭の頃となった。


 幸い、先に行われた建国祭では、厳重な警戒態勢を敷いたことが良かったのか、特に大きな事件はなく、安堵も覚えたレオカディアだが、ピアの攻略計画は着々と進んでいるようで、エルミニオ達からは、遂にクッキーを貰ったという報告も受けている。




 ヒロイン、懸命に稼いでいるんだろうなあ。




 攻略用の飴やクッキーを買うにも、当然の如く代金が必要であり、ゲームではそれを日雇いのバイトで稼いでいたと、レオカディアは懐かしく思い出した。




 子守りに、掃除に、売り子。


 色々あったな。


 


「しかし、漸く狩猟大会には参加できる年になったな」


「やっとだぜ!腕が鳴るぜ!」


 薔薇祭では、幾つかの行事が存在し、年齢によって参加できる物が決まっている。


 中でも花形の剣術大会は、毎年腕に覚えのある騎士たちも参加するとあって、国中の娘たちの話題が集中することで有名だった。


 しかし、その剣術大会に参加できるのは、十八歳以上の者のみ。


 そして、次点で人気のある狩猟大会も参加資格は十五歳からとあって、エルミニオ達は今日という日をとても楽しみにしていた。


「あら。セレスティノもヘラルドも、私と一緒に薔薇を愛でるのは嫌だったということ?」


「い、いや。そうじゃねえけど!」


「分かっていて、言うな」


 去年までも、当然一緒に過ごしていたレオカディアがわざとらしくそう言えば、ヘラルドが焦ったような声をあげ、セレスティノは、そのような煽りには乗らぬと薄く笑う。


「あら、残念。だって、私だけ詰まらないんだもの」


 レオカディアは、弓を得意としている。


 それは、幼い頃よりエルミニオ達と共に鍛錬したからなのだが、この狩猟大会で女性が獲物を狩ることは出来ない。


 女性は、獲物を狩るのではなく、獲物を狩る男性の助手をするのが役目とされており、共に森へ入れるし、共に馬で歩くことも出来るが、自身で狩ることは許されていない。


「ディア」


「大丈夫よ、エルミニオ。それに私、的を射る方が好きだから」


 何とも言えない顔で自分を見ているエルミニオに気付いたレオカディアは、そう言って笑顔を見せた。


「では、行くか」


「はーい。みんな、矢の管理人は私なんだから、置いて行ったりしないでよね」


 わざとらしく眉を上げて言えば、ヘラルドとセレスティノも釣られたように笑い、四人はそれぞれ馬に乗って森のなかへと入って行く。


「それにしても、弓で、という縛りさえ守れば、狩りをするのは単独でもいいし、女性を含めた五名ほどのチームでもいい。おまけに、開始時間も、終了時間も決まっていない、今日であればそれでいいなんて、相当ゆるい・・んんっ・・自由な規則よね」


「ディア。緩い規則って言っちゃっているよ」


 ぱかぱかと馬を歩かせながら、呆れた目で言ったレオカディアに、エルミニオが苦笑した。


「しかし、レオカディア。その緩い規則とするために、様々な論争があったらしいぞ。そもそも、女性は狩猟大会に参加すること自体、出来なかったそうだからな」


「ああ。僕も聞いたことがある。しかし、それを不服とした女性たちが立ち上がり、矢の管理のみという妥協点はあるものの、狩猟大会への参加資格をもぎ取ったわけだ。それで、チームを組む必要が生じたんだな。元は、単独だけだったというから」


「へえ。薔薇祭の狩猟大会に、そんな歴史が」


 自分も女性なのに知らなかったと、レオカディアは反省し、感心して隣で馬を歩かせるエルミニオを見る。


「ああ、いや。多分、ディアにはわざと教えていないと思う。その、女性の社会進出をあまり強く訴える妃になっても困るとか何とか、大臣たちが言っていたから」


「・・・まあ。へえ、ふううん、そうなんですね」


「お!鹿だ!」


 胡乱な目になったレオカディアから、そっと目を離したエルミニオは前方に運よく獲物の姿を捉え、手綱を握り直した。


「殿下。ゆっくりと回り込みましょう」


「俺達は左右から行くから、殿下は直進で」


「分かった。ディア、行くよ」


「はい。エルミニオ様」


 獲物を見つければ、それまでの会話も感情も吹き飛ばして連携を組む。


 師の教え通りにレオカディアは、エルミニオに続きながら矢立てと矢の確認を急いだ。



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