二十、ピアVSエルミニオと対意味不明女対策部隊 エルミニオ視点
「はあ・・・あと、五年もあるのか」
突然教師不在となった、剣術の授業の最中。
エルミニオは、ため息と共に卒業までの、即ちレオカディアとの婚姻の日までの年数を呟いて、レオカディアが手芸を学んでいる棟を見つめた。
公私問わず学院でも、いつもレオカディアの傍にいたいエルミニオだが、男女別の授業だけはどうしようもなく、こうして遠くから彼女の居る建物を見守ることしか出来ない。
「今日は、レース編みだと言っていたな。くくっ・・ディアは、本当に苦手なようだ」
『エルミニオ様。今日は、レース編みの授業なのです。今日こそは、絶対にきれいな円形に仕上げてみせます!』と、拳を握って言ったレオカディアは、まるで戦地に赴く騎士のようで、そんなきりりとした表情をするディアも可愛いと、エルミニオは思わず思い返して微笑んだ。
「ああ・・・ディアに会いたい」
今日は、剣術の師範が突如帰ってしまったとかで、ひたすらの走り込みとなった。
そして今は漸くの休憩で、周りの子息たちは疲れ切って倒れ込んでいるなか、エルミニオは大木に寄り掛かり、只管にレオカディアが居る棟を見上げているという状況。
『殿下、絶対にここを動かないでくれよ?絶対だかんな!?』
セレスティノが領地の関係で欠席のため、ひとりエルミニオと行動を共にしているヘラルドは、腹の調子が悪いとかで、先ほど再びご不浄目指して駆けて行った。
「しかし遅いな。ヘラルド、大丈夫なのか?それにしても、奥方が産気づいたから帰宅か。僕もその時には、必ずそうしよう」
剣術師範の突然の帰宅理由に数年後の自身を想像し、エルミニオは何とも幸せな気持ちになる。
「僕とディアの子か。可愛いだろうな」
「エルミニオぉ!お、ま、た、せ。可愛いピアが来ましたよぉ!」
「は?」
きっと、ディアに似てとても可愛い。
そんな幸せな妄想を打ち砕く甲高い声に、エルミニオの機嫌は一気に下降するも、まったく気づいた様子の無いピアは、満面の笑みでエルミニオの前に立った。
「エルミニオ!名ばかりの婚約者なんて、ほんっとうに大変ね!エルミニオは、日々お仕事で忙しいのに、あの女は、公務も手伝わずにわがままばかり。それなのに、エルミニオの婚約者だからって、学院で幅をきかせるなんて、常識知らずもいいところ・・・あたしには、まったく理解できないわ!」
はあ?
ディアが我儘ばかりで、何もしないだと?
ディアは、ずっと僕と一緒に公務に励み、王太子妃教育に励んでくれているが?
それに何だ?
学院で幅をきかせている?
いつ、ディアがそんな高慢な態度を取ったっていうんだ。
・・・しかし、我儘を言うディアか。
この間も思ったが、それはさぞかし可愛いだろうな。
『エルミニオ様。お願い。あの宝石が欲しいの』
『エルミニオ様。あのね、新しいドレスがね、ほしいな、なんて』
いい。
考えるだけで、凄く可愛い。
「ほんっと、あの女が未来の王太子妃だなんて信じられない。でも、安心して。幅をきかせるあの無能女の常識知らずは、みんな知っていることだし、エルミニオにはあたしっていう、強い味方がいるから!だから、はい!これ舐めて、元気出して!・・・あ、みんなにもあげるね!」
エルミニオが遠い世界で妄想しているうちにも、ピアの弁は止まらない。
そして、手持ちの袋から飴を取り出したピアは、勢いに任せて無理やりエルミニオにそれを握らせ、周りに居たSクラスの他の男子学生にも笑顔で飴を配ると、嵐のように去って行った。
「エルミニオ王太子殿下。あの女、アギルレ公爵令嬢に対し事実無根の誹りをするなど、許されることではありません」
「先日、食堂で王太子殿下たちに不敬をはたらいて、謹慎になっていた女ですよね?今日の事も、学院に報告した方がいいのではないですか?」
ピアが去った後、眉間にしわを寄せた学友たちがエルミニオの周りに集まり、口々に進言する。
「そうだな。まさか、授業中にこのような騒ぎを起こすほど、愚かとは思わなかったが・・・級長。担任に事の次第を報告してもらえるか?」
「はい。もちろんです、王太子殿下」
「それと、皆も貰った飴の回収をしたい。このまま調査機関に回す」
「そうですね。怪しいこと、極まりないですから」
まるで汚物を見るように見つめると、級長は即刻飴を集め始め、学友たちも、さっさと手放したいと言わぬばかりに渡した。
「協力、感謝する。あと、ここに居ない学生や教員に配ろうとする可能性もある。その折には抵抗せず受け取って、しかし決して口にすることなくこちらへ回してほしい旨、伝達してほしい。くれぐれも、あの女にだけは伝わらぬように」
「畏まりました」
そこまで指示すると、エルミニオはふっと表情を緩める。
「王太子殿下?」
「いや。ディアが聞いたら、自分は確かにわがまま者だと言いそうだと思って」
くつくつと笑うエルミニオの、嘘偽り無い言葉に、しかし周りは納得いかないとばかり、首を大きく捻った。
「アギルレ公爵令嬢が、わがままですか?失礼ですが、何故そのようなことを?」
「アギルレ公爵令嬢といえば、未だ若年ながら様々な食を開拓し、公道や港を整備して国の発展に尽力していると有名な方ではないですか」
「その通りです。かくいう我が領も、アギルレ公爵家の公道整備のお蔭で、商人の行き来が迅速になり潤った土地です」
「我が領もです。アギルレ公爵令嬢が発案した通り、野生動物を一部家畜化することで、農地への被害も減り、収入も増えて、領民の生活がより安定しました」
そんなアギルレ公爵令嬢が何故わがままなのかと、王太子であるエルミニオに迫る勢いで学友たちが言葉を紡ぐ。
「それが、わがままだとディアは言うんだ。『自分がほしいと思ったから、食べたいと思ったから、わがままを言った』と。尤も、アギルレ領では『うちのお嬢様が我儘を仰る度に、領が潤う』と言っているがな」
自慢の婚約者だ、と笑うエルミニオに、全員が納得と頷いた。
「本当に、お似合いのおふたりです」
「おふたりの御世にお仕えできること、嬉しく思います」
アギルレ公爵令嬢の才を疎むことなく汲み取れる王太子の才も、また素晴らしいと学友たちの瞳が輝く。
「王太子殿下。あの意味不明女の害が広がらぬよう、必ず我らで脇を固めます」
強く言い切った級長が差し出した手に、皆が己が手を重ねたその瞬間、Sクラス男子生徒に依る、対意味不明女対策部隊が結成された。
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