二十一、ピア対ヘラルド ヘラルド視点
「・・・・・はあ・・死ぬかと思った」
漸く落ち着いた、と、体力を根こそぎ奪われた思いで、よろよろと廊下へ出たヘラルドは、走り寄る桜色の髪に眉をしかめた。
また、あの女か。
くっ。
腹に力が入らなくて、避けることも出来ねえ。
「ヘラルドぉ!さぼりだなんて、気が合うね!」
咄嗟に方向転換してその場を去ろうにも体が言うことを聞かず、易々とピアに近づかれ、にこにこと言われて、ヘラルドは益々顔を歪める。
俺は、さぼりじゃねえ!
体調不良だ。
お前と一緒にするんじゃねえよ!
「あのね、あのね。あたし思うんだけどね。ヘラルド確かに小さいけど、小さくったって、気にすることないよ!あの女は、色々馬鹿にするかもしれないけど、小さいのがヘラルドの魅力なんだって思えばいいよ!・・・わあ、あたしって天才じゃない!?『ピア可愛いくて天才』って誉めてくれていいよ!」
「あの女?」
色々、正したいところはあれど、それが一番気になるとヘラルドが問えば、ピアが何故か前のめりになった。
「レオカディアよ!あの嫌味な女!ほんっと、いけ好かない。あの女、ヘラルドが小さいからって馬鹿にして。悔しいよね。その気持ちよく分かるよ」
そう言うとピアは『あたし、怒っています!』と言わぬばかりに、頬を膨らませて見せる。
は!?
こいつ、何を言ってやがるんだ?
俺のこと、さっきから小さいって馬鹿にしてんの、お前じゃねえか。
レオカディアは、ちゃんと食って鍛錬すればいいって、肉巻きおにぎりくれた奴だぞ?
それに、レオカディアの言った通り、最近になって身長が伸び始めてるし、筋肉だっていい感じに育ってる。
親父や周りも、いい騎士になれるって言ってくれてんのに・・・こいつ、もしかして俺の自信を喪失させんのが目的か?
エルミニオの側近として、護衛として、生涯何があっても共に在る覚悟の自分に、その資格は無いと言うつもりなのかと、ヘラルドはピアを警戒する。
「それに。レオカディアって、すっごいわがままだし。エルミニオの婚約者だからって、態度大きすぎ。愛されてもいない、むしろ疎まれてる無能婚約者なのに、なあにを勘違いしているんだか」
そう、顔を歪め、唾棄するように言うピアに、ヘラルドは嫌悪が止まらない。
勘違いしてんのはお前だろう!
レオカディアが無能?
あいつの業績知らねえのか?こいつ。
それに、レオカディアが殿下に愛されていない?
そいつは、何処の殿下だよ。
うちの殿下は、レオカディアに心底惚れ込んでいますけど?
それこそ『一緒に居たいのは、レオカディア。だって大好きレオカディア』なんて、レオカディアが居ないとこで言うくらい、惚れまくってるぜ。
「ほんといやあよねえ、自分のことしか考えない、勘違い無能女なんて。でも、周りも分かってるから、ヘラルドがあの女を見捨てても、誰も何にも言わないよ!自信もって!はい!ということで、この飴あげる。あたしは、いつだってヘラルドの味方だから!」
にこにこと言い募るピアは、ヘラルドが呆れた目で見るのにも気づかず、何を勘違いしたのか、益々その桜色の瞳を輝かせた。
「あ、そうだヘラルド!あたしが、特別におまじないしてあげるねっ。『小さくたって問題無い。小さくたって大丈夫。小さくたってヘラルドはヘラルド』・・・ふふふふっ。これで、大丈夫。あ、お礼なんていいから、気にしないで。じゃ、またね!」
言いたいことだけ言い切り、ぶんぶんと手を振ってピアが去った後、残されたヘラルドは口元をひくつかせて、飴を強く握り込む。
「謹慎じゃ、生ぬるいってことか」
一体、ピアの目的は何なのか。
「俺を懐柔して、殿下に取り入ろうとでも言うのか?食堂でも、殿下の名を叫んでいたしな・・・っ、まさか、殿下の所にも行くつもりか!?」
その可能性に気付くや否や、ヘラルドは体調不良の我が身も忘れて、一目散に駆け出した。
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