23「ヒロインと蓮見先輩」
「いらっしゃいませー、って愛莉チャンだ」
「晃樹先輩こんにちはー、言ってた通りに来ちゃいました」
愛莉姫のお話を聞いてから来たので昼ごはん時は既に過ぎているため、人があまり多くはない。
蓮見先輩はこちらを見て、愛莉姫に「お友達?」と聞いてこちらに笑みを浮かべた。
「ボクは蓮見晃樹って言います。キミの名前をお聞きしても?」
「東堂海砂です。愛莉ちゃんをよろしくお願いします」
「ッハハ、了解だよー! 愛莉チャンをよろしくされた!」
了解!と敬礼をする蓮見先輩は面白い人だ。愛莉姫は私の言葉にちょっと!というように照れてる。それを見て優しい笑みを浮かべる蓮見先輩に、これは脈アリなのではと疑ってしまった。
席に案内され、まだランチメニューが頼める時間だったのでランチメニューを頼む。やっと愛莉姫と二人きりになると、彼女はこちらを不満そうに睨んできた。それに気付かないフリをした。
「お待たせしました、どうぞ」
「ありがとうござ……玖珂先輩っ!?」
ランチメニューを持ってきた人物は紛れもない燃えるような赤髪の玖珂先輩であった。今日の日替わりのランチメニューはロコモコで美味しそうだが、玖珂先輩がこの店でバイトしている方が驚きだ。ケーキが美味しいと評判の店でだ。
「玖珂先輩、こんにちはー」
「ああ、姫野か。もうすぐ晃樹はバイト上がりだぞ」
「えっ、そうなんですか?」
「陸翔も上がりだよー」
ひょこっと玖珂先輩の後ろから玖珂先輩が持ってきたランチのもう一つを持って、蓮見先輩が現れる。嬉しそうにする愛莉姫は「なら」と言葉を続けた。
「バイト終わるまで待っているので、一緒に遊びませんか?」
「いいねー、楽しそうだね!」
「ねっ、ダブルデートみたいですよね」
それはオレも含まれているのか、玖珂先輩は二人を見つめながら、いや睨みつける。いかにもそうだよというように二人は満面の笑みを浮かべ頷いた。
はぁと思いっきりため息を吐き出すが、案外問題児と言われているも友達は大切にする方なので付き合ってくれるのだろう。本来の愛莉姫と蓮見先輩の二人きりにしようとする目論見が外れただけだ。
「海砂ちゃんもいい?」
「うん、玖珂先輩がいいならオッケーだよ!」
グッと親指を立て、愛莉姫によかったねと笑った。
美味しいランチを食べ終わり、デザートまで食べ終わる頃に玖珂先輩と蓮見先輩のバイトが終わったのか、私服に着替えた二人が席に来た。
「あっ、食べたねー」
「凄く美味しかったですよ!」
グッと親指を立てて笑顔を見せる。それに玖珂先輩が私の頭をポンポンと撫でた。まるでそうだろう?と言ってるみたいだ。
その玖珂先輩の行動を見ていた二人はヒソヒソと内緒話をしているよう。実際は二人の声は丸聞こえなので意味はない。玖珂先輩と私はお似合いとかどうちゃらと言ってるようだ。
「アンタらは本当に似た者同士だな」
嫌味ぽく言う言葉にしては、やけに優しい気がする。玖珂先輩らしく二人の仲を持とうとしているのが感じられた。似た者同士でさっさとくっつけというのが。
それから私達は店を出て、街の中をプラプラと歩きながら会話をする。蓮見先輩と愛莉姫はよく二人で話したり、時折こちらと混ぜて会話をしたりとかだ。端から見れば仲の良いカップルに見えたりする。
「……蓮見先輩も愛莉ちゃんのこと好きそうな感じなんだけど」
「アンタにもそう見えるのか?」
「えっ、はい! 二人を初めて見ましたけど凄く仲が良くて」
無意識の内に溢れた言葉に玖珂先輩が返事をする。だがこれではっきりと分かる。蓮見先輩は愛莉姫のことを大切に思っていることが。
でもゲームでは、愛莉姫が言うのは違う。蓮見先輩は昔はゲームみたいに好きな人が居たのかもしれない。それでも今は、とそう思いたい。
「アンタもアイツらのこと応援しているんだろ?」
「は、はい! って玖珂先輩でも応援って言葉言うんですね」
玖珂先輩が応援という言葉は似合わない、意外だ。そう関心してると思いっきりため息を吐き出し、弱い力であるが頭を叩かれる。
「アンタは失礼だな」
「あはは、つい思ったことを口にしてしまい」
再度思いっきりため息を吐き出される。そんな空気に天の助けという名の愛莉姫と蓮見先輩があそこの公園のベンチでちょっと休もうとのことだ。
ベンチに行き、少し離れたところでアイスを売ってあるところがあるからと愛莉姫が買いに行くと言い、ついて行こうとした。
「海砂ちゃんは休んでていいよ。ちょっと玖珂先輩でいいから!」
グイグイと玖珂先輩の腕を引っ張り、何かを察した玖珂先輩は愛莉姫に着いて行った。
蓮見先輩と残された私は取り敢えずベンチにへと腰をかけた。
「本当にあの二人は仲がいいなぁ。羨ましいよ」
「蓮見先輩?」
「ああ、ごめんね。東堂チャンに言ってもダメだと思うんだけど、ちょっと」
ああ、何だか分かる気がする。蓮見先輩が確実に愛莉姫に気があることは確かなのにそれを実行しないことが。
「なら愛莉ちゃんは玖珂先輩に取られちゃいますね」
「えっ?」
「だって、話聞いただけだと蓮見先輩は愛莉ちゃんのことが好き。だけど玖珂先輩に遠慮してか、思いは伝えないって感じですよ?」
驚いたように目を丸くし、こちらを凝視してくる蓮見先輩に私は出来るだけ微笑んだ。
「遠慮……ではないんだ。ボクと愛莉チャンは次元が違うというか、ボクが好きになってはいけない。好きになってもらう資格はない」
「それは……?」
困惑する私を思ってか、蓮見先輩は薄く微笑む。だがその微笑む瞳の奥は切なそうに揺れていた。
「ボクは好きだった女性がいた。だけど本当は好きだったのか際も怪しい。ただボクはその子を好きということで自分の保身を守っていたんだ」
大切だった友達同士の仲違いが起きる前の話。それまでは三人でよく遊んでいたという。だが二人は容姿も良い、文武両道で一目置かれていた。いつの間のか抱く感情は劣等感。二人に並びたい。そういう気持ちがあり、友達の一人の婚約者はこちらがないものである二人の隣に立つほど文武両道で容姿も良い。そんな子と一緒に居れたら二人とまだ友達でいていい気がした。
そう語る蓮見先輩は今にも泣きそうだ。
「愛莉チャンと会って初めて知ったよ。ボクの好きは決して好きではなかったことが」
「だから愛莉ちゃんの側にはいれないって言うんですか?」
「……ボクは卑怯だから。こんなにも卑怯なのに愛莉チャンと出会って初めての感情を知り、愛莉チャンと結ばれる? そんなのはダメなんだ……ボクには」
「なら、姫野はオレが貰う」
さっきまではいなかった玖珂先輩の声が聞こえ、バッと彼の方を見る。そしてすぐに愛莉姫がどこにいるか探すとまだアイス屋の前でアイスを待っているようだ。それに玖珂先輩の手には二つのアイスを持っている。先に持ってきてくれたようだがタイミングが。
というか、玖珂先輩はさっき何て言ったか。姫野はオレが貰う、って言った気がした。まさかの三角関係来てしまったのか。
「それは……」
苦虫を潰したかのような蓮見先輩の表情に玖珂先輩がフッと笑った。
「嫌なんだろ? 奪われるのが……なら晃樹、アンタの答えはもう決まってる」
「陸翔……」
ああ、そうか。玖珂先輩は蓮見先輩の背中を押すために。なんかこう男同士の友情を見て、感動した。
何も言わずに二人を見て微笑んでいると、目の前にアイスを差し出される。
「ありがとうございます、玖珂先輩!」
「いや、このバカによくここまで聞き出した」
これで二人は大丈夫だろう。そう笑う玖珂先輩は優しい表情をしていた。
何やかんやで楽しい一時を私は楽しんだ。