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忙しない『暴食』


 学生の本分が学業だとしても部活に所属すれば、それこそが活動の中心になるのだろうと思っていた。

 ある意味でそれは的を得ていて、ある意味では全くの見当違いだった。


「それで、最近の部活動はどうなのよ?」


 瀬能はときたま思い出したかのように僕に部活の話題を振ってくる。本人がいくつもの部活を掛け持ちしているので、やはり部活動について考えている時間が多いのだろうか。それとも単なる話し始めの無難な会話、というやつかもしれないがそれは定かではない。

 どちらだとしても僕としてはありのままに今起こっていることを話すだけだ。


「まぁ、毎日絶賛活動中ではあるけれど。基本的には部室でごろごろしているだけだからなぁ」


 そうなのだ。仲良しグループと聞いた時からそうじゃないかと疑ってはいたが、どうやら本当に平時は特に決められた活動はないようだった。


「……ホントにそれで部活? 同好会とかじゃなくて?」


「確かに疑わしいがちゃんと認可されてるぞ」


 僕だって疑わしく思って三回ほど確認したのだから間違いない。


「ますますもって謎めいてるわね、大罪部」


「部員の僕ですら謎だらけだしな」


 肩をすくめる。


 僕は放課後、週に二、三回の頻度で部室に行くことにしているが、大抵こゆる先輩しかいない。

梅も僕と一緒に数回行っただけだし、芽吹は時々「お腹減ったー」といきなりやってきては部に常備されているお菓子やこゆる先輩お手製の漬物なんかをつまんだり懐に入れてはすぐに出ていくので、軽く会話とも呼べないような会話をして終わりだ。

 ついこの前の会話を例に挙げよう。扉を勢いよく開いて入ってきた芽吹に対し僕が声をかえた時のことだ。(まぁ、大体このパターンだけど)





「おっおー、こんちわー。おなかすいたー。あ、こゆるちん、たからっち、おはよー」


 元気よく挨拶をしてくる芽吹の姿がまぶしい。特にその運動服から除く生足もまぶしい。


「こんにちは、芽吹ちゃん。……ところで、そのあだ名はもうちょっとどうにかならないかしら?」


 その性格ゆえなのか人と打ちとけるのが異常に得意な芽吹はあって間もない僕らをあだ名で呼ぶ。しかも自分が創った独自のあだ名で、だ。

 先輩はそのあだ名に不満があるらしく呼ばれるたびにこうしてやんわりと改善を求めるのだけど、芽吹は「かわいいから変わらない!」と地味に意味の通らないことを云って切り抜けている。

 無論、僕に異存はない。むしろ、最初に呼ばれた時はあやうく気絶するところだったぜ。瀬能に聞いた話しじゃこういった天然部分が男子生徒を勘違いさせるらしい。

 その程度で勘違いして、ほんとバカなやつらだ……彼女は僕に気があるっていうのに。そう瀬能に言ったら「アンタがいい例ね」とバカを見る目で見られた。


「こんちは、芽吹。今日はどこで部活動?」


「今までは陸上部で、この後バスケ部にいって、その後は弓道部にお呼ばれしてる」


 一日三か所か。きっと彼女の身体の構造は僕とは大幅に違うのだろう。是非調べさせてほしい。隅々まで。

 そんな心中は一切見せず、僕は声援を送る。やはり頑張っている人を見ると応援したくなるものだ。それが美少女ならば特に。


「大変だなー。頑張ってくれよ。我が校の未来は芽吹の両肩にかかっていると言っても過言じゃないんだからさ」


「それは過言すぎる気がするけどねー、何事にも気は抜かないで全力でやるのは当たり前だよ! ……あ、お菓子発見! じゃあ、わたしはこの辺でドロンさせてもらうねー」


「また、なんて学生らしくないネタを……」


 目聡く羊羹を見つけた芽吹はまだ未開封の一竿をおもむろに開封し、まるでチョコバーでも食べるかのように齧りはじめた。お土産に持って行っても恥ずかしくないような高級羊羹に対しなんて食べ方だ。

 凄い食べっぷりだが、いつものことなので僕も先輩も気にしない。

 その羊羹を片手に携えたまま、芽吹は今入ってきた扉から出ていった。


「おじゃましました。こゆるちんもさよならー」


「……やっぱり、その呼び方はどうにかならないのかしら……ってもういないのね」


 最後に先輩がため息をついて終わり。

 芽吹とのやり取りはだいたいいつもこんな感じだ。


 結局、一年生は僕くらいしかまともに出ていない。

 部長は部長で生徒会の方が忙しいのか姿を見せないし、怠惰の三年生もまだ不登校のままだ。

 こゆる先輩と二人ということはそれだけ親睦が深まったのかといえばそうでもなく。

こゆる先輩とも入室の挨拶や世間話のようなことを少しする程度。あとは大体先輩は本を読んだりパソコンでなにかしているので、僕は手持無沙汰になり鞄に忍ばせてきたハーレクイン小説なんかを読んだりしている。

 ある意味、僕が一番部活動に勤しんでいた。

 だれか、新入生である僕に手本を見せる気はないのだろうか。


「……ホント、なんなんだろうなぁ」


 まだまだ春の心地よい日差しのあたるの窓際の席で、僕はまどろみながら、一人ごちるのであった。









 今日も今日とて僕とこゆる先輩のふたりだけが部室にいた。4人いても広いくらいだった部室は二人になると更に広く寂しく感じた。

 けど、そこは僕。こんな美人の先輩とふたりっきりで同じ空間にいることに歓喜しよう。


「そういえば、先輩」

 

 ちょっと一息入れようと本を閉じて僕は先輩に聞いた。


「この部活の二つ目の目的である『世界を救う』ってのが、ボランティアみたいなモノだってのは聞いたんですけど、具体的にはどんなボランティアなんです? 今まで一度もなかったですけど……っていうか待っているだけじゃそうそう問題なんてやってきませんよね?」


 それを聞くのを忘れていた。

 というか今更ながらに思い出した。

 前から疑問には思っていたが、まぁそのうち活動するのだし、別に今聞かなくてもいいかと避けてきた話題だ。

 行動力はあっても、実行に移すのは苦手である。


「基本的には生徒会の手伝い、ということになるわね」


「手伝い? 資料配布とかそういう雑用を手伝うんですか?」


「そういうのもたまにやるけど大体はもうちょっと面倒なモノが多いから。そうね……私達はいわば秘密結社のようなものなのよ」


 秘密結社と来たか。


「……胡散臭すぎて何もいえません」


「それは私自身感じてるけど、だって、本当のことなんだもん……」


 ふくれっつら先輩も可愛い。ほっぺを指でつついて頬を窄ませて、口から出てきた息を僕の口に入れたい。


「けど確かに秘密結社というとなんだか嘘っぽくて変な感じがするわね……。う~ん、私はこの表現はあまり好きじゃないんだけど生徒会の下請会社みたいなものって言った方がいいかしら? 主な作業は生徒会に舞い込んだ依頼を代わりに片づけるっていうのなんだけど」


「それは生徒会が仕事をしてないのと一緒じゃないですか」


「普段はちゃんと生徒会がやってるんだけど、生徒会にも忙しい時期とか色々あるのよ。新学期の始まりや終わりはそういった生徒間の問題が特に多いし、他にも常に色々とお話が舞い込んでくるからあまりよくないのよね」


「にしては、やることないですよね……ウチは」


 今はもう5月も終わるところなので忙しい時期に被るわけではないけれど、僕が入部した当初なんかはちょうどその繁忙期にあたるはずだ。なのにあの時も……というか未だに一度もそういった活動はしていないのはどういうわけだろう?


「今年の副会長が椋鳥さんだからね。彼女が一人でほとんどやっちゃうから、こっちに案件がまわって来ないのよ」


 なんとあの椋鳥女史、美人なだけでなく能力も申し分ないのか……完璧さんだな。


「彼女が会長やれば良かったのに……」


「私もそう思う」


 深々と先輩は僕に同意した。なぜ、あの人が生徒会長をせず、ウチの部長が生徒会長を兼任しているのか。裏取引でもあったんじゃないだろうか……。


「けど、そういうことなら今年のあまり活動はないですかね? 読書にも流石に飽きてきましたし、何か女性の役に立つ仕事ならやっても良いんですけど……」


 僕もあまり活動的なほうじゃないし、「生徒会の手伝い」と聞いて事務仕事や雑用が想像されているので仕事がないことに越したことはないと思う反面、これだけ暇ならそういった雑務をこなすのも悪くないと思っている自分がいる。さすれば、他のメンバーも来てくれ――そうではないけれど、それを口実に呼び出すことはできる。


「まぁ、あまり回っては来ないんじゃないかな? 椋鳥さんが優秀だから。回ってくるとすればよっぽど時間を取られるようなモノか、部長が面白そうだと直感したヤツなんかは無理にでもこっちに引っ張ってくるんじゃないかな?」


「……やっぱり暇なままでいいです」


 部長が選んだヤツはなんか危なそうだ。

 それで話が一区切りついたので、またこゆる先輩はパソコンをいじり始めた。

 僕も手元のハーレクインへと目を落とす。

 今日も大罪部はこんな感じだ。




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