06.悪意(凛・高校時代②)
【はじめに】
未成年の飲酒を窺わせるシーンがありますが、あくまでもフィクションです。
20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
また、可哀そうというか、胸糞な展開がありますのでご注意ください。
高二でよくつるむようになった友達が二人いた。
一人は美希。黒髪ショートで身長170cmもあって、すらりとした体形。教室ではダルそうにしているけど、成績優秀で学年でもトップクラス。あまり感情を表さず、クールで人とつるむのが苦手なタイプに見えた。1学期に隣の席になり、苦手な数学の問題に悩んでいた私に解き方を教えてくれたのをきっかけに話すようになった。
詳しく話さないけど、違う高校を受験して不合格。二次募集で入ってきたらしい。
もう一人は安祐美。美希とは対照的に小柄で金髪に染めたツインテールというギャルっぽい子だった。女子の前では態度悪いけど、男の前では可愛い子ぶってあざといという噂。本当は共学に行きたかったけど、成績が伴わなかったと言っていた。
同性には敬遠されるタイプで、クラスで浮いていたので声をかけてみたら、くっついてくるようになった。11月にバイト先でイケメン大学生の彼氏ができたらしい。
彼氏ができた安祐美がグループデートに度々誘うようになってきた。彼女のいない男友達に女の子を紹介したいと彼氏から頼まれたらしい。
たかくんと付き合っていることは二人に明かしていたし、今までは断っていたんだけど、喧嘩が長引いていた私は年明け早々の誘いに乗ってしまった。
「たまには年上の男と遊んでみるのもいい経験だよ」と美希から言われていたし。
安祐美は彼氏から頼み込まれていたから、私が受けるとすごく喜んでいた。
まぁ、これも友達付き合いの一環だからね、と私は軽く考えていた。
冬休み明けの最初の土曜日。ボーリングやカラオケ、ビリヤード、その他いろいろ遊べる複合施設に行くことになった。
来たのは安祐美の彼氏である高橋光生。安祐美が自慢するだけあって、爽やかそうなイケメン。
高橋のツレである佐藤優紀。あまり印象の残らない地味な外見だけど、眼鏡なのもあって、真面目そうに見えた。
最後の一人が平野翔太。二人より身長が高くて180cm以上。がっちりとした体格で日焼けした肌。明るめの茶髪で顎髭にピアス。ワイルドなチャラ男というか。同じ学科だというけど、この人だけが異質だった。
私を見た三人の反応はそれぞれだった。さすがに高橋は一瞥しただけで安祐美と目を合わせて微笑したけど、時々私の胸のあたりに視線を送ってきた。
佐藤も遠慮がちだけど、私の方をちらちらと見ているのがわかる。
それに対して平野は私の顔から足まで舐めるように見て、視線を外さない。まるで獲物を見つけた獣のように思えた。
「ヒュー! 美人だし、めっちゃスタイルいい子連れてきてくれたじゃん! そそるぜ。たまんねぇなぁ」
下心丸出しの平野の言葉に私は内心うんざりしていたけど、これも友達付き合い。たかくん以外の男と深く関わるつもりはない。そう思っていた。
遊ぶのはそれなりに楽しかった。たかくんと喧嘩していたことを少しだけでも忘れられた気がした。
男たちの胸への視線は慣れているので、気にしないようにしていた。
ただ、安祐美は彼氏である高橋、美希が佐藤と一緒になったので、残りは私と平野という組み合わせになる。何かというと隣に座ってきて、私の体を触ろうとする平野がうざかった。
「なんだよ~。凛ってツンデレってやつぅ? 二人きりになったらデレてくれるんかぁ?」
いきなり名前を呼び捨てにするのも気に食わなかった。
絡んでくる平野をいなしているうちに時間は過ぎていって、解散となった。
安祐美と高橋は別行動になり、私は美希と途中まで帰る。その道すがらで聞かれた。
「楽しかった?」
「うん。まぁ」
「彼氏に報告して反応を見たら?」
「実は……今、ちょっと喧嘩してて」
「へぇ~。じゃあ、乗り換えるのもありじゃない? 年上の方が包容力あるって」
「それはない!」
強い口調で言い切った私に美希はつまらなそうな顔をして黙り込んだ。
気まずいまま別れたけど、翌週も美希はいつも通りで安心した。
次の週末は遊園地に行った。入ってすぐにカップルごとの行動となり、私はずっと平野と一緒。
しつこく絡んでくる平野に閉口した私はついに諦めて、肩を抱かれてしまった。それでいい気になったのか。人気の無い場所で抱きすくめられて、抵抗したけど力じゃ敵わなくて。
「彼氏は同い年だって? そんなガキより俺の方が絶対いいって。セックスにも自信あるぜ。俺の女になれよ」
「絶対嫌っ!」
キスされそうになったけど、なんとか振り切って逃げた。
もうこんなことはやめよう。私はたかくんじゃなきゃやだ。
安祐美と美希に連絡を入れて私は一人で帰り、学校で平野とはもう会いたくないと言った。
でも、二人がかりで責められた。
安祐美の彼友に女の子を紹介するという約束なので、勝手に一人抜けるのは許されないという理由。
私だって、たかくんという彼氏がいるし、もう我慢の限界。
言い合いになった結果、もう一度だけ六人で会う。それを最後にすることになった。
「「「かんぱーい!」」」
寒い時期だから鍋パーティーをやろうという提案だった。場所が平野が一人暮らししているアパートというのが引っかかったけど、実家暮らしの高橋は祖父母含めた家族がいて厳しく、佐藤のアパートは狭いという理由でそうなった。
卓上コンロや食材・飲み物まで用意してくれた以上、女性陣は野菜や肉を切って鍋を用意した。
男性陣は早々にビールを開けていたけど、未成年であるうちらはソフトドリンク。炭酸果汁のジュースをグラスに注いでもらって乾杯した。
「やっぱ、冬は鍋だよな!」
「可愛いJKが作ってくれた鍋だぜ。最高じゃん!」
「俺たち幸せだぁ」
酒が入っていたせいか男たちはやけにハイだった。三人の中で一番おとなしい佐藤ですらはしゃいでいた。
ローテーブルの左右には安祐美と高橋、その対面に美希と佐藤が密着して座っている。ベッドの縁にどかっと座った平野が隣に来るように私を呼んだけど冗談じゃない。今日は平野に近づくつもりはなかった。
お父さんが亡くなった後、家計を支えるためにお母さんはフルタイムで働いてくれていた。私は家事の多くをこなし、たかくんが来るとよく料理を振舞っていた。
だからその日も鍋奉行として働き、キッチンとテーブルを往復していた。
「全然食べてないじゃん! 凛も食べな!」
「せっかく用意してくれたんだから飲もうよ」
よく食べる男性陣のために食材を補充していたけど、少し落ち着いてきた頃に安祐美と美希に言われた。
そういえば最初の乾杯の時に飲んだだけで、全然食べてなかった。お腹も減ったな。
私は平野の対面の位置に座ると、言われるがままにグラスをあおった。
部屋の暖房に加えて、鍋の熱気で頬が火照って暑いくらい。防寒と肌を見せないためにセーターとズボンにしたのが仇になった。
みんな顔が赤い。ビールを飲んだ大学生たちはわかるけど、なんで安祐美や美希まで顔が赤いんだろう?
安祐美は高橋と抱き合っていちゃいちゃしてる。あ、今キスした。
美希は佐藤を膝枕してる。あの二人も仲良さそうだ。
「ほれ、もっと飲めよ」
アルコール臭の吐息が頬に当たる。ふと気づいたら、隣に平野がいて愕然とした。さっきまでぼーっとして気づかなかった。いつから? そういえばトイレから出た後に手を引かれて……。
動こうとしたけど、肩を抱かれていて身動きが取れない。
平野が開いた缶を口元に寄せてくる。肩から回してきた手で顎を上げられて強引に飲ませられた。口に収まりきらずに少し零れる。缶のパッケージに「7%」という表示があった。どういうこと?
「くくっ。エロくてたまんねえなぁ」
いやらしい笑みを浮かべた平野が口を近づけてきたのを何とか避ける。腕を振り払いたいけど、さっきから力が入らず、頭が朦朧としている。もしかして、酒を飲まされたんじゃ……。
「じゃあ、私たち行くねー」
「おう」
平野から離れようともがいているうちに美希と佐藤が連れ添って出ていくのに気づいた。安祐美と高橋の姿もない。いつの間に?
この機会を逃しちゃいけない。
立ち上がろうと腰を浮かした途端、背後から両手を回されて、がっつりと抱きすくめられてしまった。力が強くて身動きが取れない。
「離して」
「つれないことを言うなよぉ」
「嫌、嫌っ!」
「へへっ。ここまでお膳立てしてもらったんだからなぁ。据え膳食わぬは男の恥って言うし」
私はベッドに倒され、欲望丸出しの顔をした平野が覆いかぶさってきた。
気づいたら朝になっていた。隣にいたのは裸の平野で、私自身も裸になっていることに気づいて悲鳴をあげた。
体に残る痕跡から犯されたのは間違いなかった。脱がされた服を探したけど、どこにも見つからない。
そのうち平野が起きて、裸の私を見てニヤニヤ笑った。
「いやぁ、抱き心地のいい体だったわ。どうだ? 彼氏より俺の方が良かっただろ?」
「うるさい! 私の服、返して!」
毛布で体を隠し、必死に訴える私を平野は嘲笑った。
服もスマホも財布も全部、このアパートのどこかで預かってもらってると言った。欲しければ自分で探してみろという。2階建てアパートの10部屋のどこか。全て律陵大学の男子学生が住んでいると言った。この寒空の下、裸のまま出られるわけがない。
絶望のあまり座り込む私に平野が迫ってきた。欲望に目をぎらつかせている。
「なぁに、明日の夜になったら帰らせてやんよ。それまでに俺の色に染め上げてやる。俺無しにはいられなくしてやっから」
それから私はいいように平野に弄ばれた。逃げ出すことはできず、力では敵わない。思い切り叫んだら頭を叩かれた。それにいくら暖房が効いているとはいっても、裸のままで過ごすのを強要されて心が折れた。
私が抵抗できなくなると、昼夜関係なく、のべつ幕無しに犯し、奉仕を強要する。
まるでケージに閉じ込められたペットのような気分だった。
平野は今まで何人もの女と経験を重ねてきて、セックスにも自信がある口ぶりだった。
でも、私からしたらただ乱暴なだけ。胸も強く揉まれて痛かった。
「彼氏のよりでかくていいだろ?」なんてドヤ顔で言うけど、モノ自体はたかくんと変わらない。
たかくんと私は初めて同士で最初はうまくいかなかったけど、回数を重ねる度に良くなっていった。それはたかくんの優しさと思いやりがあってこそ。暴走しがちな私をうまく受け止めてくれた。きっと体の相性も良かったんだと思う。
平野にやられている間は全然気持ちよくなかった。体の防衛反応で濡れたのを平野は勘違いしていい気になっていただけ。
そんな苦痛を強いられた二日間が過ぎて、日曜の夜に知らない男がゴミ袋にまとめられた私の持ち物を持ってきて、やっと私は解放された。
帰り際に平野に言われた。これからも俺の呼び出しに応じること。彼氏よりも優先すること。言うことを聞かなければ、裸の写真やハメ撮りした写真をネットにばらまくと。
ショックで頭が回らなかった。一度で終わらず、この後も獣のような男に支配されなければならないの……。
さらにスマホの日付を見て気づいた。たかくんの誕生日を過ぎていたことに。とぼとぼと歩きながら涙が止まらなかった。
私は浅はかな考えで誘いに乗った挙句、たかくんを裏切った。あんな男に汚されてしまった上、これからも関係を強要された。こんな愚かな女じゃ、たかくんとは付き合えない。もう、たかくんの顔を見れない。
数日後、学校に行った私は安祐美と美希に八つ当たりした。すると美希はせせら笑うように言った。ずっと私のことが嫌いだったという。
彼女は中学時代に成績優秀だったけど、受験日に熱を出して第一志望の珠崎高校に落ちていた。自分より頭の悪い底辺女が珠崎高校の男子と付き合っているのがむかついた。
そこで女好きなクズ男をあてがってみようと思いついた。ちょうど安祐美に大学生の彼氏ができたのが好都合だった。
安祐美の彼氏である高橋が友達のために女の子を紹介して欲しいというのは嘘で、美希が安祐美を通じて高橋に持ちかけた話。同じ学科の平野が乗ってきた。
安祐美は深く考えずに美希の企みに乗った。あくまでも彼女は自己中心的で誰が誰とくっつこうが別れようが関心ない。
「これからは平野と付き合えばいいじゃない?」と平然と言った。
結局、私は友達だと思っていた女の悪意に気づかなかった。
そして私は大好きなたかくんだけでなく、友人も失った。




