19.三人の形
金持ちなら、お手伝いさんとかベビーシッターとか、家で人を雇うのは当たり前なんだろう。共働きで余裕があるなら家事代行や宅配といったサービスを使う方法もある。
うちも共働きだけど、双子の将来を考えたらそんなに余裕があるわけではない。その点、凛は同居させてもらう代わりにベビーシッターの契約料金だけで家事もやってくれる。
始めは元カノにベビーシッターを任せるのはどうなの?という迷いもあった。
双子の育児のためとはいえ、歳の近い男女が肌すら見せ合う。そんな状態を冴香は許容できるのか? もしも逆の立場だったら嫉妬に身を焦がしそうだ。
凛がベビーシッターとして来るようになってから一週間くらい経った頃に尋ねてみたことがあった。
「もしも今後、孝哉が欲求不満を抱えることがあったら、凛とカラダの関係になってもいい」
「おいっ!」
「嘘。そうなったら、自分の目が節穴だったと思って凹む」
思ってもみない言葉にびっくりして思わず声が出てしまった。冴香は頬を緩めていたが、目は笑っていなかった。
「信頼……されているんだ」
「そう。孝哉と凛の過去、それに再会後の状況を聞いて、なんとなくそう思った。凛はともかく、孝哉は間違いを犯さない。ましてや、我が子がいる前ではね」
夫を信頼し、その元カノをベビーシッターとして受け入れる。
改めて僕は冴香は精神的に大人で、器の広い女性だと思った。ただ、まったく嫉妬していないわけではない。言葉の端々や態度で自分だけを見て欲しいことが伝わってくる。
凛は僕に対して好意を抱いているのがわかる。でも、同居して以来あからさまに欲情を見せることなく、双子のお世話を最優先にしてくれている。
よく夫婦に子供ができると、妻の愛情は真っ先に我が子に向かうという。僕と凛は夫婦じゃないけれど、それに近いのかもしれない。
Win-Winの関係と言うのとはちょっと違うけど、バランスが取れている関係と言えるのかな。
話が弾んでいたら夜が更けていった。育児の朝は早い。凛は11時くらいに寝る支度をして、部屋に行った。
おやすみを言って見送った後、冴香が体を寄せてきた。シャンプーの香りがふんわりと鼻腔をくすぐる。
「明日、非番なんだ」
警察の仕事に曜日は関係ないというが、さすがに土日祝日は交代制になっているらしい。土日に出勤した分、平日に一日休めることもある。
冴香は明後日の土曜に出勤する代わりに明日の金曜は非番になるようだ。
「孝哉さえ良かったら、今夜……したいな」
「うん。いいよ」
「うふっ!」
冴香は嬉しそうに僕の腕を取った。
子供ができた夫婦は夜の生活の頻度はがくんと減るという。子育てに追われるというのが大きな理由だ。同時に夫婦の性的欲求が減少することもあるのだとか。
その点、うちは凛をベビーシッターとして雇っているために育児の苦労はだいぶ軽減されているのが大きい。
なにより、産後でも冴香は美しい。体形もすっかり戻った。
失礼かもしれないが、初めて会った頃の冴香は一つしか離れていないとは思えないくらい大人びた女性に見えた。
昔から大人っぽい雰囲気を持っていた冴香は、20代半ばあたりで容姿と印象が合致したというか、そこから老けることなく魅力を保っている。
外では凛々しく優秀な警察官である冴香だけど、僕と二人きりで過ごす時は甘えてくるのが可愛いくて、男としてその気になっちゃうんだよね。
始めは寝室にベッドを置こうかと考えたけど、布団にして正解だった。フローリングの床に布団を三つ並べている。
いつもは子供を真ん中にして川の字になるんだけど、今夜は双子を端に移動し、間に一つ挟んで僕は冴香と裸で抱き合っている。
「んっ、ちゅっ、孝哉、孝哉ぁ……あぁ」
「んっ、冴香………おぉ……」
何度もキスを交わし、互いの体を撫でまわして愛撫する。冴香の艶やかな声と柔肌の匂いもあいまって、ボルテージが上がってくる。
準備万端となったところでコンドームを用意する。出産して10か月ほど経つので妊娠は可能だが、冴香の仕事の都合もあって、今は避妊している。
もう一人作るかどうか。孝輔と鞠香を見ていると子供は本当に可愛くて、欲しい気もするし、迷うところで結論は出ていない。
コンドームを装着したところで僕はさっきから視線を感じていたドアの方をちらっと見る。そこには小さな隙間が開いていて、誰かがいる。その正体はわかっている。
冴香によると、2年前に凛の部屋でセックスした時から覗きの快感に目覚めてしまったらしい。あの時、凛はクローゼットの中に隠れていて、僕たちの行為を覗いていたのだと聞かされて驚いたものだ。
同居している以上、声や音を完全に防ぐのは無理だ。凛に覗かれるのは冴香自身が了解しているので、それで良しとしている。凛は覗いているだけで満足で、介入していることはない。
始めは居心地の悪さを感じていた僕だけど、慣れというものは恐ろしい。今では気にならなくなった。むしろ、僕と冴香の愛の営みを見せつけてやろうという気になっていた。
互いの性器を触り合いながら冴香の耳元に口を寄せる。
「今夜も凛が見てるよ」
「あの子、本当に好きねぇ」
「今夜も見せつけてやろうよ」
「あん! もう、エッチ……」
「ふふっ。冴香可愛い。そろそろ我慢できなくなってきたよ」
「あぁ、孝哉ぁ、欲しい」
僕はあぐらをかいて座った。寝室の照明は暗くしてオレンジ色の常夜灯のみだが、屹立しているモノがドアの方から見えるはずだ。みじろぐ微かな音と息を呑む気配がわかる。
「孝哉ぁ」
冴香が対面から僕の肩を掴み、腰を落としてくる。
「ぐっ!」
「あぁん!」
僕たちは向かい合いながら繋がった。冴香の嬌声の合間、微かに喘ぐ声が聞こえた。凛が覗きながら自分を慰めているのだろう。
元カノを住み込みのベビーシッターとして雇い、夜の生活を見せている。そんな事情を他人が知ったら異常だと思うだろう。
だけど、僕たちはうまく回っている。いつまでもこの状態が続けられるとは思わないけど、特に問題がなければ変える必要はないかなと思う。
【完】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
高校時代、うまくいっていたはずの恋人から突然別れを告げられる。
10年後に別れの真相を聞かされた上で復縁を願われるも、10年の間に主人公は新たな恋を成就させて結婚間近であり、復縁を断る。
ある方の短編を読んで自身の過去の恋愛を思い出し、さらにそこから妄想を膨らませて始まった物語でした。
過去の凛が別れを告げるならどういった出来事がふさわしいかを考えていたら、彼女にとっては可哀そうな内容になってしまいましたね。厳密にはNTRではなかったし、聞かされた孝哉にとってはノーダメージでもなかったという結果になってしまいました。
その後、三人の関係をどうするかが悩みどころでした。私がメインで書いているノクターンノベルズでは男主人公が複数の女をモノにしちゃうという内容はありがちです。ただ異世界ではなく、現代が舞台だと制約があります。過去のノクターン作品では法律を強引に変えて重婚OKにしたこともありました。
本作では孝哉があっさり凛を受け入れるのはなんか違う。だけど凛にも少しは救いを用意したいと思って、こういう結果に収まりました。冴香の器が大きかったおかげです。
最後の方は凛の愛情の行き先が双子に向かったので、孝哉とは良い同居人になったという感じでしょうか。
現実なら「普通ありえないだろ!」となるところですが、物語なのでこういう三人の形もありなんじゃないでしょうか。




