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「天才」 第二部 奮闘  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第44章

 

 ユージンがケニヨン・C・ウィンフィールドと改めて付き合うようになったのは最後の上昇期間中のことだった。元ニューヨーク州上院議員、〈ロングアイランド不動産〉の社長、土地開発業者、地上げ屋、投資家、芸術家で、ユージンとタイプも気性もとてもよく似たこの男は、この当時、不動産投機でかなり目立つことをやっていた。ウィンフィールドは背が高く痩せ型で、髪と目が黒く、少し鉤鼻だが攻撃的ではなく、威厳も気品もあり、知的で、人を引き付ける楽天家で、年齢は四十八歳だった。ウィンフィールドは、アイデア、夢、空想、実行力、ある程度の慎みと判断力を持ち、このとても複雑な死闘の中でも自分の立場を守れる世慣れた人のいい見本だった。本当は偉大な人物ではなかったが、それにとても近かったので、多くの人たちにそういう印象を与えた。深くくぼんだ黒い目は独特の輝きを帯びて燃えたので、目の中がほんのり赤いと人は想像したかもしれない。青白く少し痩せこけた顔には、あまり多くはないが優雅なメフィストの特徴がいくつかあった。彼はその言葉の本当の意味での悪魔には見えず、鋭敏で、繊細で、優雅だった。ウィンフィールドの手法は、金を持っている人たちに取り入って、その連中から彼が絶えず描いている計画というか夢を実現するのに必要な巨額の資金を引き出すというものだった。彼の空想はいつも彼の財布には大きすぎたが、とてもすてきな空想をしたので、そういうものや彼と一緒に仕事をするのは楽しかった。

 

 第一にウィンフィールドは不動産投機家だった。第二に彼は夢に夢を見たり、先を見る人だった。彼の構想は、どこかの都市に近いすてきな田舎のエリアで成り立っていた。そこはすてきな別荘が立ち並び、ちゃんと舗装された木陰の道が整備され、下水道、ガス、電気、ふさわしい鉄道、市街線と、よく計画された居住区のインフラがすべて提供され、同時にひっそり暮らせて、高級で、快適で、伝統的でありながら、彼が敬愛してやまないニューヨークの大都会の中心にしっかり結びついていなければならなかった。ウィンフィールドはブルックリンで生まれ育った。政治家、演説家、保険の外交員、請負業者、いろいろなことやってきた。彼はさまざまな郊外の住宅地……ウィンフィールド、サニーサイド、ルリタニア、ビーチズ……を計画して成功していた。いつも「O・P・M」と呼んでいる他人の金の助けを借りて、小さな四十、五十、百、二百エーカーの平地をいくつかのブロックに分けて、街路樹、時には中央を走る帯状の芝生、コンクリートの歩道、貴重な制限区域などを魅力的に配置していた。これまでにウィンフィールドの完璧な郊外の住宅地を見に来た人は誰もがいつも、その最新の造成地の真ん中に一等地を見つけた。これは社長のケニヨン・C・ウィンフィールド氏が建設して住むことになる豪邸用に確保されたものだった。言うまでもないが、そんなものは建設されなかった。ウィンフィールドは世界中を回って多くのものや場所を見てきたわけだが、ウィンフィールド、サニーサイド、ルリタニア、ビーチズは、彼が残りの人生を過ごしたい世界一の場所として彼によって熟慮の末に最終的に選ばれたことが、現地で土地の購入者に伝えられた。

 

 ユージンが会った時、ウィンフィールドはグレーヴゼンド湾の岸辺にミネッタ・ウォーターを計画していた。これはこれまでの彼のすべての計画の中で最も野心的だった。彼は十、二十、三十エーカーといった土地から三百から四百パーセントの利益を得ていたので、小さな仕事で彼が成功するのを見てきたブルックリンの政治家や資本家の一定数に、投資として関心を持たれていた。しかし彼の優れた才能にもかかわらず、これは時間のかかる仕事だった。今や三十万から四十万ドルの資産があり、生まれて初めて、資金繰りの問題から解放されたと感じ始めていた。これは、自分はほとんど何でもできると彼に思わせた。彼はあらゆる種類の人たち、弁護士、銀行家、医者、商人などの彼の言う「手っ取り早い連中」、投資できるちょっとしたお金を持つ全員に会って、金になりそうな人たちを何百人も自分の計画に誘い込むことに成功した。しかし彼の壮大な夢は一度も実現したことがなかった。もし実現すれば数百万ドルの儲けになる巨大な倉庫と輸送システムをジャマイカ湾に建設する構想を持ち、どこかに何かの豪華なサマーリゾートも作りたかったが、まだ頭でははっきりした形になっていなかった。広告は新聞を介してふんだんにばらまかれ、彼の看板というか彼の町についての看板がロングアイランド中に広まるようにばらまかれた。

 

 ユージンは〈サマーフィールド広告〉で働いていたときに初めて彼に会った。今回はヘムステッドにほど近いロングアイランドの北海岸にあるW・W・ウィルブランド邸でまったく新しい対面を果たした。別の家のパーティーで出会い一緒にダンスをしたことがあるウィレブランド夫人に誘われて、ある土曜日の午後、そこへ出かけた。ウィレブランド夫人はユージンの陽気で活発な態度が気に入って、いらっしゃらないと尋ねた。ウィンフィールドはゲストとして自動車でここに来ていた。

 

「これは、これは」ウィンフィールドは上機嫌で言った。「あなたのことはよく覚えていますよ。今は〈ユナイテッド・マガジンズ社〉にいるんですよね……確か……誰かがそんな話をしてくれました……とても景気がいい会社ですね。私はコルファックス社長をよく存じ上げています。一度サマーフィールドにあなたの話をしましたよ。驚異の人で、ものすごく有能だってね。あなたは砂糖農園のあのシリーズの広告をやっていたんだか、やらせていたんですよね。お気づきだったかもしれないが、私はルリタニアの広告であの精神を真似したつもりですよ。しかしあれから大した出世をしたものですね。私は一度サマーフィールドに、あなたという特別な人がいることを話そうとしたんですが、彼はそのことをまったく取り合おうとしなかった。とんでもないエゴイストですからね。彼は対等な立場で人と向き合う方法を知らないんだ」

 

 ユージンはサマーフィールドのことを考えて微笑んだ。

 

「有能な人ですよ」簡潔に言った。「私のためにたくさんのことをしてくれました」

 

 ウィンフィールドはこういうのが好きだった。てっきりユージンは彼を悪く言うと思っていた。ユージンの温厚な態度と、知的で表情豊かな顔が気に入った。次に大きな開発計画の広告を出したくなったとき、ユージンか、砂糖農園シリーズの絵を手がけた人のところに行って、広告のいいアイデアを考えてもらおう、と思いついた。

 

 親近感とは実に変わったものである。意志や意識とは関係なく、簡単に人を引き寄せてしまう。ユージンとウィンフィールドは少ししてからベランダに並んで座り、目の前に広がる緑の森と、白い帆が点在する長く広々とした海峡と、ぼんやり遠くに見えるコネチカット州の海岸を眺めながら、不動産事業全般と、どんな土地に価値があるのか、この種の投機は普通はどういう結末を迎えるのか、について話していた。ウィンフィールドはユージンに惹かれるものを感じたので、真剣に向き合いたかった。ユージンはウィンフィールドの青白い顔、細くてシミ一つない手、柔らかな灰色の布のスーツを観察した。世間の評判通り、有能そうに見えた……現にその姿はこれまでに見えたどの姿よりも良く見えた。ユージンはルリタニアとビーチズを見たことがあった。どちらも地域の価値が上がったという印象をあまりユージンに与えなかったが、それでもそこはすてきだった。中流階級にはぴったりのところだとユージンは思った。

 

「新しい分譲地を計画するのは、あなたにとって楽しいことなのでしょうね」ユージンは一度彼に言った。「未開の土地が街や家、あるいは村に変わるかと思うと、私にはすごく魅力的ですね。整地して、特定の位置に合うように家々の見取り図をかくという発想が、私の性格にぴったり合うんですよ。建築家に生まれたかったと時々思うことがあります」

 

「そいつはいいな。そうだったらそれこそ理想的だったのに」ウィンフィールドは答えた。「問題なのは何よりも資金繰りです。土地代と造成費は調達しないとなりませんからね。特別な造成をするとなるとお金がかかります。何にしてもすべての仕事が終わるまで、お金の大半が戻ることだって、実は期待できません。そのときは待つしかないんです。家を建てても、それを貸せないんです。何しろ貸した瞬間に新築として売れなくなるんですから。造成したら、たちまち税金まで跳ね上がるんです。男性であれ女性であれ、計画の趣旨に正確に合致しない相手に一か所でも土地を売ろうものなら、その人が近隣全体の価値を台無しにする家を建てるかもしれません。契約じゃあまり厳密にデザインの詳細まで決められませんからね。家にかかる費用の最低価格と使用される資材の性質しか明記できないんです。美意識なんて人によって大きく変わりますからね。地域の好みも変わるかもしれません。あなたが東で建設を計画しているときに、ニューヨークのような都市全体が突然西に建てたいと決定を下すかもしれない。だがら……まあ、こういうことがすべて考慮されねばならないわけです」

 

「なるほど道理ですね」ユージンは言った。「しかし、ふさわしい計画がふさわしい方法で発表されたら、ふさわしい人たちを自然に引き寄せるのではありませんか? あなたは自分の考えで条件を決めないのですか?」

 

「あなたは決めるでしょうね」ウィンフィールドはあっさり答えた。「あなたなら問題に十分注意して気をつければ、できるのかもしれません。残念なのは、あなたは時としてすばらしすぎるんです。私は完璧を目指す試みが無に帰すのを見たことがあります。センスがよく、保守的で、お金のある人たちは、普通、新興住宅地や郊外に移り住むことはありません。あなたが相手にするのは、にわか成金と投資の初心者ですよ。ほとんどの人は、生活環境を改善するために自分の財産を限界までつぎ込みます。そして彼らはいつもわかっていないんです。お金があるからといって、あなたの努力の結果がわかるほどのセンスがあるとは限らないし、センスがあるからといってお金があるわけではない。それができるのならもっとうまくやるんでしょうけど、それができない連中なんです。私の立場の人間は、芸術家であり、教師であり、聴罪の司祭であり、投資家であり、すべてをひとまとめにしたようなものなんです。大規模な不動産開発業者を始めるのなら、こうでなければいけないんです。私だって成功もすれば大失敗もしました。ウィンフィールドは大失敗の一例です。未だに悩みの種ですよ」

 

「私は常々、海辺のリゾート地か郊外で設計をしたいと思ってました」ユージンは夢を語るように言った。「海外のリゾート地には一、二か所しか行ったことがありませんが、国内のリゾート地は……特にニューヨーク近郊のは……どれも本物じゃありませんね。とても好条件に恵まれているのに、出来上がったものはひどい。計画性が全くなく、どこも細部が全然なってない」

 

「同感です」ウィンフィールドは言った。「私も長年そう考えていました。そういう場所なら建設できるし、作り方さえしっかりしてたら成功すると思います。でも、お金がかかるでしょう、莫大な金がね。それに、資金を投入する者はお金が入るのをひたすら待つことになります」

 

「でも、本当に価値のあることをする絶好の機会になるでしょうね」ユージンは言った。「どうすればああいう美しいものを作れるのか、誰もわかってはいないらしい」

 

 ウィンフィールドは何も言わなかった。しかしその考えは彼の心に残って離れなかった。もし実現すれば、この手のもので世界で最も理想的な場所……自分の記念碑……になる海辺の開発を夢見ていた。ユージンが美についてこういう考え方を持っているのであれば、彼は協力してくれるかもしれない。少なくともその時が来たら、この件を彼に話してもいいかもしれない。ひょっとしたら、ユージンは投資に回せるお金を少しくらい持っているかもしれない。こういう計画をやるとなると何百万ドルもかかるが、小さなひとりひとりがみんなで支えてくれるだろう。その上、ユージンなら彼自身もウィンフィールドも両方が儲かるアイデアを持っているかもしれない。考える価値はあった。こうして二人は別れた。数週間も数か月も再会することはなかった。しかし両者は互いに相手を忘れなかった。

 


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