第41章
二人がニューヨークへ戻るのはこれが二回目だったが、最初の数日はアンジェラにとって歓喜のひと時だった。孤独と不幸の七か月を過ごしてから、病気の夫と暗澹たる前途のもとに戻って来た一回目と違って、以前は疑っていたにもかかわらず、今は威厳と繁栄と富の輝かしいキャリアを楽しみにしていた。ユージンは今やそれほどの重要人物だった。彼のキャリアはかなり際立ったもので、ある意味では認定されたも同然だった。銀行にはかなりの預金があり、約七パーセントの一定金利がつく株式への投資額は総額三万ドルに及んだ。モントクレアには二百×二百の土地が二区画あった。そこはゆっくりと地価が上昇していると言われていて、ユージンの現在の推定価格では約六千ドルだった。節約できた余剰資金をもっといい利回りの株かどこかの健全な商業的事業に投資する話が出ていた。もう少しして適切な時期が来たら、いっそ出版の世界から完全に足を洗って、芸術への関心を復活させてもよかった。ユージンは確かにこのチャンスに近づいていた。
二人がニューヨークの住居に選んだ場所は、七十九丁目近くのリバーサイド・ドライヴにある新しいとても豪華なワンルームマンションで、ユージンはずっとそこに住みたいと思っていた。この有名な大通りと、閉ざされた庭園の雰囲気があって、雄大なハドソン川の壮大で見晴らしのいい眺めと、色彩豊かなすばらしい森と、見事な日没が見られるこの名所が、ユージンの目にとまったのはずっと前のことだった。初めてニューヨークに来たときは、おしゃれな馬車が流れるようにグラント将軍の墓の方へ押し寄せて行き戻って来るのを眺めながら、ここを散歩するのが楽しみだった。ユージンは午後に何度もちょうどここかもっと先の公園のベンチに座って、楽しそうな男女の騎手の一団が馬で元気よく駆け抜け、彼らの階級の知人に会釈し、公園の管理人や道路の清掃係に偉そうな態度で優しく話しかけ、快適に余暇を過ごしたりぼんやり川を眺めたりする様子を見物したものだった。当時の彼には、それはすばらしい世界に見えた。そんなところに住めるのは大富豪だけだ、と思っていた……彼は世の中の金融の仕組みをあまり知らなかった。乗馬用のコートと半ズボンを格好良く着こなした男性と、硬い黒の帽子をかぶり、すその長い黒の乗馬用スカートをはき、黄色の手袋をはめて、どうみてもきゃしゃな杖にしか見えない短い乗馬用の鞭を見せびらかす、シックな装いの若い娘たちにユージンはすっかり心を奪われた。当時の彼は考えでは、これが……真っ昼間にこんなところで乗馬をしていられることが……上流階級の栄誉のほぼ頂点だった。
それから長い道のりを歩み、多くのことを学んだが、ユージンは今でもこの通りを大都会の生活の優雅さと豪華さを完璧に表す数少ないものの一つだと考え、そこで暮らしたかった。話し合いの末にアンジェラは、家賃が三千から三千五百以下、バスルームは二つ以上、部屋は九から十一くらいあるアパート探しを任された。やってみたところ、高さ十八フィート、長さ四十フィート、幅二十二フィートの大きな部屋を含む九部屋とバスルームが二つあるとてもすてきなアパートが、三千二百ドルという今や二人にとって割と手頃な金額で見つかった。各部屋はとても感じのいい十五世紀風の彫刻と着色が施された古い英国製のオーク材で美しく仕上げられ、壁は入居者の裁量に任されていた。タペストリー、シルク、他の壁の調度品など、希望するものは何でも提供された。
ユージンは自分のアトリエにライン川の古城によくある緑がかった茶色のタペストリーを選び、それ以外の場所は壁の調度品に合う青と茶色のシルクにした。血を流すキリストの像を飾る茶色で染めたオーク材の立派な木の十字架を持つという長年の夢を今ようやくかなえた。それを、小さなベッドの柱くらいある縦長の重たいブロンズ製の燭台に立てられた、二本の巨大なロウソクの陰の暗い隅に置いた。部屋が暗くなったときに明かりが灯されて悲しげに揺らめくと、このロウソクは、時々ここに集まる陽気な人たちに独特の美しい魔法をかけた。古い英国製オーク材のグランドピアノが一角を占め、近くにフランス製の焼き目を入れた木材の立派な楽譜戸棚があった。彫刻と溝が施された高い背もたれの椅子が何脚もあって、彫刻の施されたイーゼルには彼の最高傑作のひとつが飾られていた。黄色く染められた大理石のネロの胸像をのせた黒い大理石の台座があって、その好色で堕落した顔は険しい表情で世界をにらんでいた。北側の壁には十一本のアームを持つ金メッキの燭台が下がっていた。
床から天井まで届く雨戸のついた横幅が広く縦長の二つの窓からはハドソン川西域の景色が一望できた。窓の外には椅子が四つ置ける程度の小さな石造りのバルコニーがあって、車道の美しく涼しげな風景が見えた。夏場は日よけが欠かせない地上九階の建物だった。おおよそ静かに流れる川の向こうには大きな工場の煙突と輪郭が見えた。停泊地には、軍艦、不定期貨物船、帆船などの船がいつもいて、小さな船が絶えず行き来する風景は、晴天でも悪天候でもいつも見る者の目を楽しませた。ここは美しいアパートで、フィラデルフィアから持ち込まれた家具のほとんどが美しく収められ、見事に調和した。逆風でも簡単には壊せない丈夫でびくともしない資産という念願のゴール間近まで二人を運んだ、あの長い奮闘とまずまずの勝利の成果を満喫するために、ようやく落ち着いたのがここだった。
ユージンは、長い間ずっと脳裏を離れなかった贅沢、快適、栄誉の象徴にようやく自分とアンジェラが囲まれたことに気がついて、喜びと満足とで我を忘れた。私たちのほとんどは、将来の豪邸の家具を頭に思い描いて人生を歩みはするが、その実現を目にする特権には決して恵まれない。絵や、掛け軸や、使用人を上手に有効に選ぶのだ。ユージンの思いはついに実現した。




