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「天才」 第二部 奮闘  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第11章

 

 アンジェラがユージンの二枚舌の最初の証拠に出くわしたのは、トランクの荷造りをしてワシントンスクエアのアパートを離れようとしていた時のことだった。(デクスター氏が引き続き留守にするため、二人は部屋の明け渡しを強いられなかった)。ユージンは自分の芸術に関係する事以外は何事にも異常なほど無頓着だったため、ルビー・ケニーからのたった一通の手紙はもちろんのことクリスティーナ・チャニングから過去に何通か受け取った手紙まで、かつて便箋が入っていた箱に入れて、トランクの隅に無造作に放り込んでいた。どこか見つからない場所へしまったつもりだったが、このときには手紙のことをすっかり忘れていた。アンジェラは、中にあったいろいろなものを広げ始めたときにこの箱を見つけて開け、手紙を取り出した。

 

 この時、ユージンに関係がある物事への好奇心は、アンジェラの人生を支配している特徴だった。彼女はユージンと自分を結びつけるこの関係を抜きにしては、考えることも判断することもできなかった。彼と彼の問題は、まさに彼女の存在のすべてであり本質だった。アンジェラは怪訝そうに手紙を見て、それから一通を開けてみた……最初のはクリスティーナからのものだった。日付はアンジェラがブラックウッドで辛抱強くユージンを待っていた三年前の夏で、フロリゼルとあった。手紙は決り文句で始まった……「親愛なるユ……」しかしすぐに明らかな恋愛関係に話が及んだ。「今朝、アルカディでダイアナかアドニスの痕跡にひょっこり出くわしはしないかと見に行きましたが、大したものはありませんでした。ヘアピンが一、二本、夏のブラウスの壊れた真珠色のボタン、ある天才がスケッチで使った鉛筆の残りがあっただけです。木々は極力、妖精や木の精を意識しないでいるようでした。柔らかい芝生はどんな歩き方をしてもまったく乱れません。木々や森がどれほど物知りで自分の考えを明かさないか、不思議です。

 

 今、暑い都会はどんな様子ですか? あのゆらゆらと揺れたハンモックが恋しくありませんか? ああ、木の葉や露の匂いがしましたね! あまり根を詰め過ぎないように。あなたには気楽な未来とありあまる活力があるのですから。もっと休息をとって、もっともっと気楽に考えましょう。幸運をお祈りします……ダイアナ」

 

 アンジェラはすぐにダイアナとは誰だろうと考えた。この手紙を読み始める前に、彼女は次のページで署名を探していた。これを読んだ後は、名前を探し求めて夢中で次から次へと急いで手紙に目を通した。署名はなかった。「山のダイアナ」、「木の精」、「森の妖精」、「C」、「C C」……といったものがアンジェラを混乱させ、悩ませ、怒らせながら、続々と出てきて、突然明らかになった……少なくとも女の名前だった。それはフロリゼルに来るように誘うボルチモアからの手紙にあった……「クリスティーナ」

 

「ああ」アンジェラは考えた。「クリスティーナ! これはあの女の名前だ」女の名字の手掛かりが何か見つかることを期待しながら急いで残りの手紙を読む作業に戻った。アンジェラが軽蔑したその文面にはどれも同じ特徴があった……尊大で、体裁屋、芸術家特有の性格の悪い、偽善的で、もったいぶった物言いの、見せかけだけの大物ぶったところがあった。アンジェラはあの時からどれほどこの女を嫌っていただろう。どうすればこの女の喉をつかんで、この女が言った木々に頭を叩きつけてやれただろう。ああ、恐ろしい女だ! 何て大胆な女だろう! そしてユージンまで……どうして彼にそんなまねができたのだろう! アンジェラの愛に対して何という報い方だろう! 彼女のすべての献身に対して何という応え方をするのだろう! アンジェラが辛抱して待っていたまさにそのとき、ユージンはこのダイアナと一緒に山にいたのだ。ユージンがろくに気にもしなかったとき、明らかにこのときずっとろくに気にもしていなかったのに、アンジェラは小さな奴隷のように、ここで彼のためにトランクに荷物を詰めていた。どうすればユージンは彼女を気遣ったり、このようなことができたりしたのだろう! 気遣っていなかったのだ! 気遣ったことは一度もなかったのだ! 神さま! 

 

 アンジェラは、自分の最大の特徴である強い感情と悲嘆からなるあの狂乱状態に突入しながら、劇的に手を握ったり開いたりし始めた。突然、手がとまった。もっと安物の紙で違う筆跡の別の手紙があった。「ルビー」という署名があった。

 

「親愛なるユージン」……アンジェラは手紙を読んだ……「あなたの手紙は何週間か前に受け取っていたのですが、今まで返事を書く気持ちになれませんでした。私たちの関係が何もかも終ってしまったのはわかっています。それは構いません。仕方のないことだと思いますから。あなたはどんな女性のことも長く愛せないと思います。自分の活動領域を広げるためにニューヨークへ行かなければならなかったというあなたの言葉は本当だとわかっています。そうするべきです。でも私はあなたが来てくれなかったのが残念です。あなたは来てくれたのかもしれませんが。それでも私はあなたを責めません、ユージン。しばらくの間続いていたことと大して違いませんから。私は好きでしたがそれを乗り越えます。今後はあなたを真剣に考えないようにします。私が時々あなた送った手紙と私の絵は返してくれませんか? もうあなたにはそんなものいらないでしょうから。……ルビー」

 

「昨夜窓辺に立ち、外の通りを眺めました。月は輝いていて、枯れ木が風に吹かれて揺れていました。原っぱの水溜りに浮かぶ月を見ました。銀色に見えました。ねえ、ユージン、私、死んでしまいたい」

 

 アンジェラはこれを読んで(ユージンと同じように)立ち上がった。どういうわけかこの悲哀が自分の気持ちと重なって、胸をえぐられる思いがした。ルビー! 誰なんだろう? 自分がシカゴに来ている間、彼女はどこに隠されていたのだろう? これは婚約していた秋から冬にかけてのことだろうか? きっとそうだ。日付を見ればいい。ユージンはあの秋、私の指にダイヤモンドの指輪をくれたのに! 永遠の愛を誓ったのに! 世界中どこにも私のような女性はいないと誓っておきながら、その最中にあろうことか明らかにこの女を口説いていたのだ。まさか! こんなことが実際にあるだなんて! ユージンは私を愛していると言っておきながら、同時にこのルビーとも恋愛をしていた。ユージンは私だけでなくルビーにもキスや愛撫をしていたのだ! これまでにもこういう状況があったのだろうか? ユージン・ウィトラはこうやって女性をだますのだ。ニューヨークに来たときに、私を捨てたくなっても不思議ではなかった。このルビーを扱ったように私のことも扱うつもりだったのだろう。それにクリスティーナ! このクリスティーナにも! 彼女はどこにいるのだろう? 何者だろう? 今はどうしているのだろう? ユージンのところへ行って彼の非道を告発する覚悟で飛び起きたが、彼がアパートにいないことを思い出した……散歩に出かけていた。今は病気で、かなりひどかった。こういう責められても仕方がない話を持ち出して、彼を責める勇気が彼女にあるのだろうか? 

 

 アンジェラは仕事をしていたトランクに戻って腰をおろした。この時のアンジェラの目は険しく冷たかったが、同時に恐怖と苦悶の愛情を感じさせるものがあった。安らかさに包まれた普段の顔は、聖母の特徴にとても良く似ていたが、今は引きつり、険があり、青ざめていた。明らかにクリスティーナはユージンを捨てていた。あるいは二人はまだ密かに連絡を取り合っているかもしれない。そう考えるとアンジェラは再び立ち上がった。しかしこれらの手紙は古かった。まるですべての手紙のやりとりが、二年前に途絶えたかのようだ。ユージンは女にどんなことを書いたのだろう?……愛情を書きつづっていた。アンジェラに書き送ったような口説き文句でいっぱいの手紙だった。ああ、男性の移り気、不誠実、責任感や義務感の欠如。アンジェラの父親とは大違いだった。彼女の兄弟は自分の言葉に嘘偽りがなかった。そして彼女は、最高に熱烈な求婚期間中でさえ相手を騙していた男とここで結婚した。彼女もまた彼に堕落させられていた……家名を汚してしまった。しばらくすると涙が出てきた。頬を焦がす熱い焼けるような涙だった。そして今、彼女は彼と結婚し、その彼は病気だった。彼女はこれを最大限に活かさなければならなくなるだろう。アンジェラはこれを最大限に活かしたかった。結局、彼女はユージンを愛していた。

 

 ああ、このすべてが残酷、不誠実、薄情、野蛮だった。

 

 この発見の後、数時間ユージンが外出していたおかげで、アンジェラは適切な活動方針を考える十分な時間が取れた。アンジェラは他人の意見や自分の愛情の影響をもろに受け、この男の才能にも感銘を受けていたので、この惨めさから自分の魂を救い出し、なおかつ彼を彼の邪悪な性癖から解放し、彼の情けない経歴を彼に恥じ入らせ、彼が自分にどれほどひどい仕打ちをしたのかと、彼がどれほど悔い改めるべきかを彼にわからせる方法以外は、すぐに何も考えられなかった。アンジェラはユージンに申し訳ないと感じてほしかった。苦しみの中でずっと後悔しながら申し訳なかったと感じてほしかった。しかし同時に彼にそれをさせることが自分にできないことを恐れた。人生を考えるときのユージンはとても霊妙で、まわりに無頓着で、あまりにも夢中になりすぎたので、アンジェラのことを考えるように仕向けさせることができなかった。アンジェラはこれに不満だった。ユージンには他に彼女に優先する神々がいた……自分の芸術という神、大自然という神、見世物としての人々という神。この一年間アンジェラはこのことで何度もユージンに不満を訴えた……「あなたは私のことを愛してないんだわ! 愛してないのよ!」するとユージンは答えた。「いや、愛してるよ。だけどずっときみと話をしてはいられないよ、エンジェルフェイス。僕にはやるべき仕事があるからね。僕の芸術は磨き上げられなきゃならないんだ。僕はずっと恋愛にかまけてはいられないんだよ」

 

「いえ、そうじゃないわ! そういうことじゃないの!」アンジェラはいきりたって叫んだ。「あなたは全然私を愛していないわ、そうであるべきようにはね。あなたは気にもかけていないわ。もしあなたにその気があれば私はそれを感じるもの」

 

「ああ、アンジェラ」ユージンは答えた。「どうしてそういう話をするんだい? どうしてそうやって騒ぎたてるのかな? きみは僕が今まで知った中で一番おかしな女の子だよ。そろそろ分別をもってもらいたいな。少しは持つべき哲学を持って臨んだらどうだい? 僕たちは年がら年中べたべたしてはいられないんだよ!」

 

「べたべたですって! それがあなたの考え方なんだわ。それがあなたの話し方なんだわ! それってまるでやらなきゃならないことみたいだわ。ああ、愛なんか嫌い! 人生なんか嫌い! 哲学なんか嫌いよ! いっそ死ねたらいいのに」

 

「ねえ、アンジェラ、いったい、どうしてそんなに興奮するんだい? 僕はこんなの我慢できないよ。きみのこういう癇癪には耐えられないんだ。道理も何もあったもんじゃないからね。僕がきみを愛してることはわかってるだろ。それとも、僕は愛情を見せたことがなかったかな? もし愛してなかったら、どうして僕はきみと結婚しなきゃならなかったんだい? きみと結婚する義務なんかなかったのに!」

 

「まあ、あなた! あなたは!」アンジェラは両手を握り締めてすすり泣いた。「ああ、あなたは本当は私を愛してないんだわ! 気にもしていないわ! そして、これはこの調子で続いて、どんどん悪化して、愛と感情はますます少なくなって、しばらくしてあなたがもう私に会いたくなくなるまで……私を嫌いになるまで続くのよ! ああ、あなた! あなた!」

 

 ユージンはこの朽ちかけた愛の絵の中に悲哀を鋭く感じた。現に、彼女の幸せの小さな船を襲うかもしれない災いに対する恐怖には十分な根拠があった。ユージンの愛情はなくなるかもしれなかった……それは今、その言葉の本当の意味での愛情でさえなかった……彼女と一緒にいたいと願う情熱的で知的な欲望だった。現にユージンはアンジェラの精神や、考えの美しさに惹かれてアンジェラを愛したことがなかった。考えているうちに、自分が知的な工程を経てアンジェラと理解に到達したことが一度もなかったことに気がついた。それは感情か潜在意識のもの、明らかに理性や思考の精神性ではなく、もっと粗雑な感情や欲望に基づいた自然な結びつきだった。肉体的な欲望が関係していた……強く、激しく、抑えきれないものだった。そしてどういうわけかユージンはいつもアンジェラを気の毒だと感じていた……いつもそうだった。彼女はあまりにも小さかった。災いをとても意識して、人生とそれが彼女に何をもたらすかをとても恐れていた。彼女の希望や願望を台無しにすることは恥であった。同時にユージンは、彼が彼自身にもたらしたこの束縛を今では後悔していた……このくびきは彼が自分の首にかけてしまったものだった。彼はもっとずっとうまくやれたかもしれなかった。裕福な女性か、クリスティーナ・チャニングのような芸術を理解し哲学的見識を備えた女性と結婚して、一緒に平和な幸せを築いたかもしれなかった。アンジェラには無理だった。本当はアンジェラを十分にすばらしいとは思わなかったし、まともに構うことができなかった。こういうときに彼女をなだめて、彼女の不安には何も根拠がないことを信じさせようと努力し、すべてがうまくいっていないという彼女の潜在意識的な直感に共感しているときでさえも、彼は自分の人生がどれくらい違うものになりえたかを考えていた。

 

「そんな終わり方はしないよ」ユージンはなだめた。「泣くのはおよし。さあ、泣かないで。僕らはとっても幸せになるんだから。今きみを愛しているように、僕はこれからもずっときみを愛していくよ。きみも僕を愛してくれるだろう。それでいいじゃないか? さあ、さあ、元気を出すんだ。そんなに悲観的にならないで。さあ、アンジェラ。お願いだ。頼むよ!」

 

 アンジェラはしばらくすると明るくなるが、発作的な不安や憂鬱に襲われることがあった。これはよくあることで、どちらも全然予期していないときに、夏の嵐のように突然始まりがちだった。

 

 この手紙の発見は、今、ここには優しさ以上のものがあるかもしれないという、アンジェラが時々自分をごまかそうとするときに使った感情の確認になった。この手紙は、そんなものはないという彼女の疑念を裏付けて、何度も悲惨なまでに彼女を打ちのめしたあの敗北感と絶望感をもたらした。ユージンが悲惨な精神状態にあったために彼がアンジェラのひたむきな配慮と心遣いを必要としたときにもこれがあった。今、アンジェラをユージンと喧嘩させ、癇癪を起こさせ、荒れ狂わせ、彼女を慰める作業まで強いることは、かなりつらい負担になっていた。ユージンはそんな気分ではなかった。自分を傷つけずにこれに耐えることはとてもではないができなかった。彼は陽気な雰囲気を求めていた。自分から自分を引き離して自分を完全体にしてくれる愉快な楽観主義を見つけたいと願っていた。ユージンはノルマ・ホイットモアや、舞台で活躍中のイサドラ・クレーンや、モデルでありながらとても活発に知性の自然な魅力を備えたヘダ・アンデルセンをぶらっと訪ねて会うことが珍しくなく、ミリアム・フィンチとも時々会った。フィンチは彼がそこにいた事実をいちいちアンジェラに隠そうとしなかったが、彼がひとりなのを見ると喜んだ。これこそほとんどアンジェラに対する反発の証拠のようなものだった。ユージンは何も言わなかったが、他の人たちは、アンジェラが一緒に来なかったので、ユージンは何も言われたくないのだと決めてかかって、彼の願いをくみ取った。彼らは、ユージンが結婚に失敗して、おそらく芸術か知性の面で孤独を(かこ)っているのかもしれないと考えがちだった。彼らは皆、ユージンの健康状態の悪化に気がついてかなり心配して悲しんだ。もしこの時期に彼の健康が彼を破滅させるとしたら、あまりにもひどすぎる、とみんなが考えた。ユージンは、アンジェラがこういう知人巡りに気づくのではないかと怯えて暮らした。まず第一にアンジェラは自分を連れて行かなかったことに憤慨するだろうし、次に、もし最初に提案したとしても、反対するか、別の日を設定するか、無意味な質問をしただろうから彼女には話せないと思った。ユージンは、何も言わず、何も言う必要を感じずに、好きなところに行く自由が好きだった。かつての結婚前の自由にあこがれた。ちょうどこの頃は芸術的な仕事ができず、気晴らしや楽しい芸術についてのおしゃべりが必要だったため、特に惨めだった。人生がとても暗く醜く見えた。

 

 ユージンはいつものように自分の境遇に落ち込んで戻りながら、アンジェラが一緒にいることに慰めを見出そうとした。二人のいつものお昼の食事の時間の一時に現れて、アンジェラがまだ働いているのを見つけたので言った。「なんだ! でも始めたからには続けたいよね? きみはいつもこつこつ働いてくれるよ。かなり大変なんだろ?」

 

「いいーえ」アンジェラは怪訝な顔で答えた。

 

 ユージンはその声の調子に気がついた。アンジェラはあまり体力がないのでこの荷造りで気が立っているのだと思った。幸いなことに、家財道具の大半はこの部屋のものだったから、扱うトランクは数個しかなかった。それでもアンジェラが疲れていることに間違いはなかった。

 

「かなり疲れてるのかい?」ユージンは尋ねた。

 

「いいーえ」アンジェラは答えた。

 

「そう見えるけどね」ユージンはアンジェラにそっと腕をまわしながら言った。彼が手で上を向かせたその顔は青白くてひきつっていた。

 

「身体は何でもないわ」アンジェラは悲しみに打ちひしがれてユージンから顔をそむけて答えた。「心の問題よ。ここよ!」と心臓をおおうように手をおいた。

 

「今度はどうしたんだい?」どうせ虫の居所でも悪いのだろうと疑って尋ねてみたが、それが何なのかはさっぱり思いつかなかった。「心臓が苦しいのかい?」

 

「本物の心臓じゃないわよ」アンジェラは答えた。「私の心の問題、私の感情よ、でもそれが問題なんだとは思わないわ」

 

「今度はどうしたんだい、エンジェルフェイス」ユージンはアンジェラを気の毒に思うあまり粘り強く尋ねた。彼女のこの感情的な能力には彼を動かす力があった。これは演技だったかもしれないし、そうではなかったかもしれない。悲しみは本物かもしれないし、想像の産物かもしれない……いずれにせよ彼女にとっては本物だった。「何があったんだい?」ユージンは続けた。「だだ疲れてるだけじゃないかな? こんなことはやめて、どこかへ出かけて何か食べようよ。そうすれば気分だってよくなるよ」

 

「だめよ、食事が喉を通らないわ」アンジェラは答えた。「もうやめて、あなたのお昼の支度をするわ。でも私は何も欲しくないの」

 

「なあ、どうしたんだい、アンジェラ?」ユージンは食い下がった。「何かあったんだよね。それは何なんだい? きみは疲れているか、病気か、何かが起こったんだ。僕がしたことが関係するのかな? 僕を見てごらん! そうなんだね?」

 

 アンジェラはうつむいたままユージンから離れた。どう切り出したらいいのかわからなかったが、できることならユージンにものすごく後悔させたかった。自分が味わったのと同じくらいの思いをさせたかった。後悔すべきだと思った。もしユージンに恥や思いやりを感じる本物の感情があったなら後悔するだろうと思った。彼の恥知らずな過去を前にしたアンジェラの状態はひどいものだった。アンジェラには自分を愛してくれる人が誰もいなかった。頼れる人が誰もいなかった。彼女の家族ですらもう彼女の生活はわからなかった……がらりと変わってしまったからだ。アンジェラはもう別人だった。以前よりも大物で、重要人物で、有名人だった。ここニューヨーク、パリ、ロンドン、そして彼女が結婚する前のシカゴやブラックウッドでユージンと共にした経験が彼女の視点を変えてしまった。アンジェラは、自分の考えはもう以前と同じではないと思った。そして、こうして自分は感情的に捨てられた……本当は愛されていなかった、本当はこれまで一度も愛されたことがなく、ただの人形かおもちゃにされただけだった、と気づいてとてもつらかった。

 

「ああ、あなた!」アンジェラは甲高い歯切れのいい声で叫んだ。「私、どうしたいいのかわからない! 何って言ったらいいのかわからない! 何を考えていいのかわからない! せめて何を考えればいいのか、何をすればいいのかがわかればいいのに!」

 

「どうしたんだい?」ユージンはつかんでいた手を離して、考えをある程度アンジェラだけでなく自分や自分の状況にも振り分けながら尋ねた。ユージンの神経はこの感情的な癇癪のせいで限界に達した……かなり頭が痛かった。手まで震えた。心身ともに健康なときなら問題はなかった。しかし、病気になり、彼の想像によれば心臓が弱っていて、ほんのささいな衝突で神経がイライラし始めた今のようなときは、ほとんど彼には耐えられなかった。「どうしてきみは普通に話さないんだい?」ユージンは強く言った。「僕がこれに耐えられないことは知ってるよね。体調が悪いんだ。一体何なんだい? こんなやり方をして何になるんだい? 説明してくれるんだろうね?」

 

「それよ!」アンジェラは窓台によけて置いていた手紙箱を指で差して言った。ユージンがそれを見ればそれが何かをすぐに思い出すだろうとアンジェラは見越していた。

 

 ユージンは見た。箱を見てすぐに思い出した。ユージンは緊張して箱を恐る恐る手に取った。これは抵抗する力のない顔面に一撃を喰らったも同然だった。彼のルビーやクリスティーナの扱い方の異様な性質のすべてが、当時の彼に見えたようにではなく、今のアンジェラにそう見えているようによみがえった。アンジェラは彼のことをどう考えただろう? ここでユージンは、僕はきみを愛している、きみと一緒に暮らせて幸せであり満足している、僕に気があるのを知ってきみが過度に嫉妬している他の女性たちの誰にも僕は関心を持っていない、僕はいつもきみを、きみだけを愛している、とずっと言い続けていた。それなのにこの手紙が突然明るみに出て、これまでのすべての主張や断言を嘘にしてしまった……彼を卑怯者か、悪党か、自分でもわかっている貞操泥棒のように見せた。アンジェラの無知と認識不足につけ込んだ仲良しという暗闇から引きずり出されて、明確な証拠という白日の下にさらされたユージンは、どうすることもできずに目を凝らし、神経過敏で震え、頭痛がしていた。何しろ彼は本当に感情的な議論に対応できる状態ではなかった。

 

 おまけにアンジェラは今泣いていた。ユージンから離れて、マントルピースによりかかり、胸が張り裂けんばかりに泣きじゃくっていた。その音には本物の説得力を持つ痛ましさがあった……その震え方は彼女が感じた喪失感、敗北感、絶望感を表していた。ユージンは、なぜこんなものをトランクに残すほど自分は間抜けだったのだろうと不思議に思いながら箱を見つめていた。

 

「こればかりは何とも言いいようがない」ユージンはアンジェラのところまで歩きながら最後に言った。言えることが何もなかった……それを彼はわかっていた。ユージンはものすごく後悔した……アンジェラにはすまないと思い、自分でも後悔した。「全部読んだのかい?」気になって尋ねた。

 

 アンジェラはそうだとうなずいた。

 

「でもね、クリスティーナ・チャニングのことはあまり気にかけてはいなかったんだ」ユージンは否定的に言った。何か言いたかった。アンジェラの落ち込んだ気分を和らげそうなことなら何でもよかった。どうせ大したことでないことはわかっていた。このどちらの関係も重要なものではなく、彼の関心や反論は軽い女遊びのようなものだった、とアンジェラに信じさせることさえできればよかったのだが。しかしルビー・ケニーの手紙を読めば、ルビーが必死に彼を慕っていたことがわかった。ルビーのことでユージンは何も反論できなかった。

 

 アンジェラはクリスティーナ・チャニングという名前をはっきり見て、脳裏に焼きつけておいた。これは時々ユージンが敬意のこもった感じで口にするのを聞いたことがある女性の名前だと今、思い出した。ユージンはアトリエで、彼女がどれほどすてきな声をしているか、どれほど魅力的な舞台の存在感があるか、どれほど感情豊かに歌うことができるか、どれほど知的に人生をとらえているか、どれほど美しく見えるか、いつかどうやってグランドオペラへ戻ってくることになるか、などを話したことがあった。なのに彼はその女と山にいた……アンジェラがブラックウッドで辛抱強く彼を待っている間、彼はその女と愛し合っていた。これは瞬時にアンジェラの胸にあった好戦的な嫉妬心をかきたてた。これは彼女のまわりで続いているように見えた陰謀や策略をものともせずに、彼を守り抜こうとかつて彼女に決意させたのと同じ嫉妬だった。あんな連中にユージンをわたしてなるものか……あの意地の悪いお高くとまった芸術家ども……あの連中が束になってユージンを奪おうとしても、あの中の誰にも、まとまったすべてにもわたすものか。アンジェラが東部にきてからずっと、彼らは彼女にひどい扱いをしていた。ほぼ一様に彼女のことを無視していた。当然、彼らはユージンに会いに来る。そしてユージンが有名になった今、彼らはユージンに対しては、いくら親切にしてもしすぎることはなかったが、まあ、アンジェラには特に用はなかった。アンジェラはこういう目に遭ったことがなかった! 彼らの目にあった批判的な、偽善的な、品定めでもするような表情を彼女は見たことがなかった! アンジェラには十分な知性がなかった! 文学や芸術を十分にわかっていなかった! 人生については彼らと同じくらい、あるいはそれ以上に……十倍くらい……詳しかった。それなのに、ふんぞり返って歩いたり、すましたり、じろじろ見たり、作り声で話せなかったので、彼らは自分たちがまさっていると思った。そして、哀れな生き物、ユージンもそういう態度だった! 傲慢! 安っぽくて、下品で、感じ悪い、自分本位の成り上がり者ども! そもそも彼らの大部分は何も持っていなかった。よく見ると彼らの服はただのぼろい服に飾りをつけただけだった……仕立ては雑で、素材も粗末で、ただ一緒に吊り下げられただけだった。それなのにそんなものをあんなに堂々と着ていた! アンジェラもそういうのを見せるつもりだった。いつかユージンが余裕を持つようになったときに、彼女も着飾るつもりだった。今それをやっている最中だった……初めて来たときよりも盛んにやっていた。近いうちにもっと盛大にやるつもりだった。感じ悪い、下品で、安っぽい、自分本位の、見せかけのものを。そういうのを見せてやるつもりだった! ああ! アンジェラはこういうことがどんなに嫌だっただろう。

 

 今、泣きながら、アンジェラはユージンがこの忌まわしいクリスティーナ・チャニングにラブレターを書けるという事実についても考えた……同じ種類の人間であることは間違いなかった。彼女の手紙がそれを示していた。ああ! アンジェラはどれほど彼女を嫌っていただろう! 毒を盛るためでなければ近づけないほどだった。アンジェラの嗚咽は怒りより悲しみの方がはるかに大きかった。ある意味で彼女は無力であり、それを自分でわかっていた。自分が感じたことをそっくりそのままユージンに見せる勇気はなかった。アンジェラはユージンのことが怖かった。彼は彼女を捨てるかもしれなかった。ユージンはアンジェラのすべてを我慢できるほど本当は彼女のことが大切ではなかった……それとも大切だっただろうか? この疑念は、これ全体を構成する恐怖と落胆と完全敗北の特徴だった……せめてユージンが大切に思ってくれたなら。

 

「泣かないでほしいな、アンジェラ」ユージンはしばらくしてから訴えるように言った。「これはきみが考えるほど悪いことじゃないだろ。悪く見えるけど、僕は当時結婚していなかったし、この人たちのことだって大して気にかけてはいなかった……きみが考えているほど本気じゃなかったんだ。本当に違うんだよ。きみにはそう見えるかもしれないが、本気じゃなかったんだ」

 

「本気じゃなかった!」アンジェラは突然逆上してあざ笑った。「本気じゃなかったですって! 一人はあなたをハニーボーイとかアドニスと呼んで、もう一人は死んでしまいたいと言っているのに、それって、あなたが本気じゃなかったように見えるのね。あなたが本気じゃなかったことを、みんなに納得させてもいい頃だわ。私はちょうどその時、ブラックウッドにいて、あなたが来るのを待ちわびていたわ。なのにあなたは山にいて他の女と愛し合っていたのよ。あなたの愛情の程がわかるわね。あなたが山で他の女と楽しいひと時を過ごしている間に、私を放ったらかしてつらい思いをさせて待ちぼうけをくわせることができた時点で、あなたは自分の本気度を見せたんだわ。『愛するユージン』、『かわいいハニーボーイ』、『アドニス』! それがあなたの本気度を物語ってるじゃない!」

 

 ユージンはどうすることもできずに前を見つめた。アンジェラの辛辣さと逆上は、ユージンを驚かせ、苛立たせた。ユージンは、アンジェラがこの時に顔や言葉に見せた凄まじい怒りを抱けることを知らなかった。彼女が立派に正当化されていること以外は知らなかった。でも、どうしてこんなに辛辣なのだろう?……野蛮といってもいいのではないだろうか? ユージンは病気だった。彼女は病人に対して何の配慮もないのだろうか? 

 

「きみが考えるほど悪いことじゃなかったって言ってんだろう」ユージンは初めて怒りと反発を少しにじませてぼそっと言った。「当時僕は結婚していなかった。クリスティーナ・チャニングが好きだった、ルビー・ケニーが好きだった。それが何なんだ? 今さらどうしようもないだろ。そのことで僕は何を言うことになるんだい? きみは僕に何と言ってほしいんだい? 僕に何をしてほしいんだい?」

 

「ああ」アンジェラは無力な非難の怒りから、自分を哀れむ惨めさを嘆く口調に一気に変えながら、すすり泣いた。「あなたはそんなところに立ってよく私に『それが何なんだ?』なんて言えるわね。それが何なんだ! それが何なんだ! あなたなら何て言うつもり? あなたなら何て言うべきだと思うの? 私はあなたをとても高潔で誠実な人だと信じてたのに! ああ、知ってさえいれば! 知ってさえいれば! 目が覚めて自分が愛されていないことを知るくらいなら、百回溺れ死んだ方がましだったわ。ねえ、あなた、あなたってば! 私どうしたらいいのか自分でもわからないわ! 自分に何ができるのかわからないわ!」

 

「でも僕はきみを愛している」ユージンは、この恐ろしい嵐を静めてくれるなら何だって言ってやるし、やってやると思いながら、なだめるように断言した。どうしてこういう手紙をそのへんに放置するほど愚かでいられたのか、自分でもわからなかった。神さま! 彼は何というへまをしでかしたのだろう! 家の外で安全に保管しておくか、捨ててしまえばよかったのに! しかしユージンはクリスティーナの手紙を保管しておきたかった。それだけすてきだったからだ。

 

「ええ、あなたは私を愛してます!」アンジェラはカッとなった。「あなたがどれくらい私を愛しているのかわかってます。この手紙が教えてくれましたから。ああ、あなた! あなた! 私、死んでしまいたい」

 

「いいかい、アンジェラ」ユージンは必死に答えた。「この手紙がひどいものに見えるのはわかる。僕はケニーともクリスティーナ・チャニングとも恋愛をしたさ。だけどね、どちらも結婚するほど大切ではなかった。もし大切だったらしてたさ。僕が大切だと思ったのはきみなんだ。信じようが信じまいがね。僕はきみと結婚したんだ。なぜ僕はきみと結婚したのさ? それを答えてくれよ? きみと結婚する必要なんかなかったのにね。なぜ僕はしたんだい? きみを愛したからだよ、もちろん。他にどんな理由があるっていうんだい?」

 

「クリスティーナ・チャニングを手に入れることができなかったからよ」一つの重大事実から別の重大事実を推論する人の直観で、アンジェラは怒って言い放った。もし手に入れることができていたら、してたでしょう。わかりきったことだわ。彼女の手紙がそれを示しているもの」

 

「彼女の手紙にそういうことは何も書かれていないだろ」ユージンは怒って答えた。「僕が彼女を手に入れることができなかっただって? やろうと思えば簡単にできたさ。僕は彼女を欲しくなかった。もし彼女のことが欲しかったら、僕は彼女と結婚してただろうね……これは確かだ」

 

 ユージンはこんなふうに嘘をつく自分のことが嫌になったが、しばらくはこうしなければならないと感じた。振られた恋人の役などまっぴらだった。もし本気で努力していたら、クリスティーナと結婚できたかもしれないとぼんやり想像した。

 

「とにかく」ユージンは言った。「僕はこの問題できみと議論する気はない。僕は彼女とは結婚しなかった。だからきみがここにいる。そしてルビー・ケニーとも結婚しなかった。まあ、きみはきみの好きなように考えればいいさ。でも僕は知ってるんだ。僕は二人とも好きだった。しかし結婚はしなかった。代わりにきみと結婚した。この点は多少は認められるべきだろう。僕はきみを愛していたから結婚したんだと思う。完全にはっきりしてるんじゃないかな?」ユージンは、自分はアンジェラを……ある程度は……愛していたと半分自分を説得していた。

 

「ええ、あなたがどういうふうに私を愛しているかはわかってます」アンジェラは、ユージンが強く主張し、知的に克服するのがとても困難なこのとても奇妙な事実をじっくりと考えながら譲らなかった。「あなたは引くに引けなくなったから私と結婚したのよ、それが理由でしょ。わかってるんだから。あなたは私とは結婚したくなかったのよ。これはとてもはっきりしてるわ。あなたは他の人と結婚したかったのよ。ああ、やれやれだわ!」

 

「ああ、よくそんなこと言うね!」ユージンはけんか腰で答えた。「他の人と結婚だって! 僕は誰と結婚したかったんだい? その気になれば、僕は何度でも結婚できたんだ。だけど結婚したくはなかった、それだけだよ。信じようが信じまいがね。僕はきみと結婚したかった、だからしたんだ。そんなところに立ってそんなことを言う権利はきみにはないと思うよ。きみの言ってることは事実じゃない。自分でわかってるだろ」

 

 アンジェラはこの論点をさらに掘り下げて考えた。ユージンは私と結婚した! なぜしたのだろう? ユージンはクリスティーナとルビーを大切にしていたかもしれない。しかし私のことも大切だったに違いない。なぜ私はそのことを考えなかったのだろう? そこに何かがあった……私を騙したいただの欲望以外の何かが。おそらくユージンは少しは私のことが大切だった。いずれにしても、ユージンと議論したところで勝ち目がことは明らかだった……彼は頑固に、理屈っぽく、論戦好きに、なりつつあった。アンジェラはこんなユージンをこれまで見たことがなかった。

 

「ああ!」アンジェラは泣きじゃくって、このとても難しい論理の領域から、非論理的な涙というもっと安全で快適な領域へと避難した。「どうしたらいいのかわかんない! 何を考えたらいいのかわかんないわ!」

 

 アンジェラはひどい扱いを受けた。これに疑問の余地はなかった。彼女の人生は失敗だった。しかし、たとえそうでもユージンにはかなりの魅力があった。ユージンがあてもなくあたりを見回して、あるときは反抗的、またあるときは訴えかけるように、そこに立っている間に、アンジェラはユージンが全面的に悪いわけではないと見なさずにはいられなかった。ユージンはこの一点だけが弱かった。彼はきれいな女性が大好きだった。きれいな女性はいつも彼を口説き落とそうとしていた。彼が全面的に悪いわけではないのかもしれない。彼が十分に悔い改めさえすれば、この問題は立ち消えになってもよかったかもしれない。しかし許されることではなかった。アンジェラはユージンが自分をだましたやり方を絶対に許すことができなかった。彼女のユージンに対する理想はかなり絶望的に打ち砕かれてしまった……しかし、とりあえず様子を見ながら一緒に暮らしてもいいのではないだろうか。

 

「アンジェラ!」ユージンはアンジェラがまだ泣きじゃくっているうちに言った。彼女に謝らなければならないと感じていた。「僕を信じてくれないか? 僕を許してくれないか? きみがこうやって泣くのを聞くのは嫌なんだ。僕は何もしてないと言っても無駄だだろ。どうせ何を言っても無駄なんだから。きみは僕のことを信じないだろうしね。僕はきみに泣いてほしくないんだ。だから謝るよ。これを信じてくれないかな? 僕を許してくれないか?」

 

 アンジェラはこの話を興味深く聞いたが、思考は堂々巡りを続けた。ユージンに対して絶望し、後悔し、復讐を誓い、批判し、同情し、自分の立場を維持したい、彼の愛を手に入れて維持したい、彼を罰したい、たくさんあることの中の何でもいいからしたい、と同時に思ったからだった。ああ、彼がこんなことさえしなかったら! そして彼は病人でもあった。ユージンは彼女の思いやりを必要としていた。

 

「僕を許してくれないか、アンジェラ?」ユージンはアンジェラの腕に手を添えて穏やかに頼んだ。「もうこういうことはしないよ。僕を信じてくれないか? さあ、泣くのをやめてくれないか?」

 

 アンジェラは悲しみを引きずったまま、しばらくためらった。どうしたらいいのか、何を言うべきか、わからなかった。これでユージンはもうアンジェラを裏切ろうとはしないかもしれない。彼女が知る限り、ユージンはこれまでのところ裏切ってはいなかった。それでも、これは恐ろしい事実の発覚だった。ユージンが体を動かして適切な姿勢をとったのと、アンジェラが戦うことと泣くことに疲れて、同情を切望したのとが同時に起こったため、アンジェラは引き寄せられるがままにユージンの腕に抱かれ、頭を彼の肩に寄り添え、そこでこれまで以上に大泣きした。その瞬間ユージンはものすごく悲しくなった。本当にアンジェラにすまないと思った。これは正しくなかった。自分を恥じるべきだった。こんなことは絶対にすべきではなかった。

 

「ごめんよ」ユージンはささやいた。「本当にすまなかった。僕を許してくれないか?」

 

「ああ、どうすればいいのかわからない! 何を考えればいいのかわからないわ!」アンジェラはしばらくしてうめき声をあげた。

 

「頼むから許してよ、アンジェラ」ユージンは問いかけるように抱きしめながら促した。

 

 結局アンジェラが疲れ果てて承知するまで、この言い訳と泣き落しはさらに続いた。この衝突のせいでユージンの神経は擦り切れて糸のように細くなった。ユージンは青ざめ、疲弊し、頭が混乱した。こんな場面が何度もあったら気が狂ってしまうと思った。しかもこんな時でさえ愛撫や愛欲の世界を通り抜けねばならなかった。アンジェラを普通の状態に戻すのは簡単ではなかった。この女遊びっていうのは割に合わない仕事だなとユージンは思った。それがあらゆる種類の不幸につながるようにユージンには思えた。そしてアンジェラは嫉妬深かった。神さま! 興奮すると彼女は、怒りっぽく、狂暴で、好戦的になるのだ。ユージンはこれを疑ったことが一度もなかった。アンジェラがそういう態度をとっているのに、どうすればユージンはそんな彼女をまともに愛せただろう? どうすればユージンは彼女と心が通じ合えただろう? アンジェラがどう自分をあざ笑ったかを……クリスティーナが自分を捨てたことでアンジェラがどんなふうに自分をなじったたかを……ユージンは思い出した。疲れて、神経が高ぶり、休息と睡眠が欲しかったのに、今、さらに愛し合わなければならなかった。ユージンはアンジェラを愛撫した。アンジェラは徐々に最悪の気分から抜け出したが、その時でさえ彼は本当に許されたわけではなかった。彼はただ理解が深められただけだった。そしてアンジェラは本当にまた幸せになったわけではなく、ただ希望を抱いただけだった……そして警戒を怠らなかった。

 


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