01話 王都に到着しました
このまま番外編を投稿し続けているとうっかり本編より多くなりそうだったので、先に本編にしました。
番外編の方もぼちぼち執筆します。
今回から王都編です。
リッツィア王国の初代国王はザークフェル・アデラードというらしい。もう何千どころか何万年も昔の話だ。
まだ国がなかった頃、オンハーツでは地球と同じように天使や悪魔が信じられていた。神が地上に及ぼす影響は尋常ではなく、仲介役となったのが天使である。
悪魔に関しては純粋に神や天使に逆らう者だ、主神に敵対する神に使える者だ、悪に染まった天使(要するに墮天使)だ、と様々な説がある。尤も、アーリアに言わせれば天使や悪魔など空想でしかないらしい。もちろん神は実在するが。
天使や悪魔がいるかいないかは置いておくとして、とにかく信じられている時代があった。そして、その天使と悪魔像はおおよそ地球のものと同じだったのである。
つまり、天使とは白い羽を持ち慈悲深い神の使い。悪魔とは黒い羽を持つ悪の化身。
地球と違ったのは、正にその特徴を体現した種族が存在した事だ。
それが悲劇の始まりだった。
……とまぁ、詳しく話すときりがないのでまたの機会という事にしよう。一つ言っておくとすれば翼人は優遇され、魔人は迫害されたのである。
その翼人は神の如く崇められ、あぐらをかいて生活していたわけだが、それを良しとしない人物がいた。ザークフェル・アデラードだ。
歴史書によると、ザークフェルは「自分達は天使でも、ましてや神でもないのだから崇められ、貢がれて生活するなどおこがましい。神への冒涜だ」と主張した。また、「他者に頼らず自給自足の生活をすべきだ」と浮遊大陸に翼人だけの国を作ったとか。それがリッツィア王国である。
とはいえ、歴史が改竄されるのは世の常だ。実際は「働かないなんて無理!」というワーカーホリックな転生者のザークフェルがせっせと働き出し、「ザークフェル様は何て素晴らしい方だろう!」と慕われるようになった。
ここで勘違いしてはならないのが、ザークフェルがよくある善人な英雄ではないという事。そうであれば王国は地上にできていただろうし、翼人だけの国ではなかったはずだ。そうならなかったのは、ザークフェルがある意味自己中心的な性格をしていたからである。
ザークフェルからしてみれば働くのは当然。働かざる者食うべからず、である。しかし、同族達は働かない。自分が必死に働いている横でゴロゴロしている(自分から働き出したのだが、そこは一切無視)。気に食わない。それなら働かざるを得ない状況にしてやろう。
と、いうわけで翼人をまとめて浮遊大陸に閉じ込めた。御丁寧に逃走防止の結界付きで。
これがリッツィア王国誕生の裏話である。ザークフェルが王となったのは唯一“働き方”を知っていたからであり、本人の意思ではない。ちなみに結界は翼人がきちんと働くようになってからザークフェルが消した。
この後王都の名前がアデラードになり、彼の子孫が王族となったのはザークフェルの知らぬ事だったりする。
で、王都アデラード。
リッツィア王国の都市には、基本的に壁がない。オンハーツの街には必ずと言っていいほどある魔物から身を守るための壁だ。主な理由としては必要がないからだろう。
翼人は魔人と同じように、魔法に特化した種族である。ついでに言うと、攻撃より防御が得意だ。そのため小さな村であっても強力な結界が張ってある。敵や魔物がそう易々と入れないほどの結界だ。ゆえに壁は必要ない。
ただし、結界が解かれる可能性はゼロではなかった。翼人の誰かが手引きするかもしれないし、結界を解くだけの力を持つ魔人などがいるかもしれない。結界は万能ではないし、魔物の強さによっては意味を為さない場合もある。
まぁその辺り、ザークフェルも馬鹿ではない。主要な都市にはきちんと壁を作った。僕は今、その壁を窓から見ている。
「高いですね……」
窓からでは上が見えない。行儀が悪いので窓から身を乗り出す事はしないが、機会があれば近くで見てみたいと思う。
「どのくらいあるのですか?」
「ん?壁か?そうだな……少なくとも城や塔よりは高いだろうが」
正確にはわからないのだろう。気にした事もないのかもしれない。
止まっていた竜車が動き出した。並んでいる人達が見えるが、さすが公爵家。順番など関係ないようだ。
「このまま屋敷に行くが、教会は明日にするか?」
「そうですね。今日は休みたいです」
時間はまだ昼を過ぎたばかりだが、さすがに疲れた。道の整備はある程度できていたので予想していたほどではないものの、たまる疲労は車の比ではない。
来る途中お祖父様に王都の話をしてもらった。簡単に分けると平民街、貧民街、貴族街、王城になるらしい。平民街は居住区、商業区、工業区にも分けられる。貴族街は明確に区分されているわけではないが、領地なしと男爵、子爵と伯爵、侯爵と公爵で暗黙の了解があるとか。面倒臭い。
竜車が商業区の屋台の前を通る、なんて事はなかった。当たり前と言えば当たり前だが、貴族がそんな場所を通るはずもない。貴族専用門から貴族街まで直行である。
道の両側にはきらびやかな店が並んでいる。お祖父様によると、ここは貴族街と平民街の間らしい。貴族相手の店が集まる場所だ。竜車が通れるように、道はかなり広く作られている。
貴族はあまり出歩かない。そのためここへ来るのは使用人か御忍び、今の僕のように竜車で通る貴族くらいだ。店側もそれをわかっていて、置いてあるのはサンプルばかり。基本はオーダーメイドで、貴族の屋敷に呼ばれて行くのだ。
貴族の関心を引くためなのか、無駄にキラキラしい店を一瞥して僕は目を逸らした。女でもあるまいし、服や宝石に興味はない。母上に、と思わなくもないが、母上なら素晴らしいものを大量に持っているのでお土産にはふさわしくないだろう。
母上の土産について考えているうちに、お祖父様の屋敷に着いた。
いや、僕の家でもあるのだが、もっぱらお祖父様が住んでいるのであまりそういう気がしない。祖父の家に遊びに来た感覚だ。
屋敷を見た感想は、まぁこんなものか、といった感じだった。うちの屋敷がすごいので麻痺してしまっているのかもしれない。何せ、隣の屋敷が見えない程度には大きかったから。
染まってきてるなぁ、と思う今日この頃であった。
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ありがとうございます!
07/27 誤字修正
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