02話 聖教国とうちの国の関係は
オンハーツの宗教は統一されていると言っていい。なぜなら、少ないとはいえ実際に神様に会う機会があるからだ。地球みたいに無数の神様がいるわけではない。
と言っても、どの神様を信仰するかで宗派は分れるらしい。オルマ教○○宗、という風に言う。この○○に信仰する神様の名前を入れるとか。僕はアーリアに名前をもらったから、オルマ教アーリア宗となる。
オルマ教を統括しているのがオルマ聖教国(通称聖教国)という小さな国だ。国自体が教会のようなもので、他の教会は支部というような形になる。だから、教会と国は不可侵であるらしい。教会の敷地内へ入ってしまえば、たとえ国賊だろうと捕まえることはできないのだ。逆もまたしかり。協力要請をしなければ侵略と見なされる。
僕が向かうのはリッツィア王国で最も大きい教会だ。まぁ、王都にあるのだから当然である。
「想像していたより小さくて質素ですね」
教会を見上げながら言った。
「もっと大きいのかと思ってました」
「城や有力貴族の屋敷より大きくするわけにもいかんしな」
国際的な何かがあるのだろうか。神の目があるから不正ができない、というのもあるのかもしれない。主に心理的な効果で。
聖教会は一見普通の役所のようだった。特に象徴するマークもないのでうっかり見逃してしまいそうだ。白、青、金の三色の建物であるという点以外では全くわからない。
白、青、金の組み合わせは神聖なものとされている。別に聖職者とか身分が高い人しか身につけてはならないという決まりはないが、結婚式の主役の服装だという暗黙の了解はあった。シクラン王国の勇者が金髪碧眼なのもこれと関係がある。
逆に、禁色は黒、紫、銀の組み合わせだ。葬式の服装になっている。例えば黒髪に紫の目の人は銀のものを身に付けたがらなかったりするので、贈り物には注意しなければならない。
そうそう。教会の呼び方だが、聖教会というのは各国の王都にある教会の事だ。その他は地方教会といい、聖教国は本教会とも呼ばれる。一般的に、聖教会と言えばその国の王都の教会を示す。
僕とお祖父様が中へ入ると、聖教会で一番偉い人が出迎えてくれた。オルマ教の聖職者は教皇>枢機卿>大司教>司教>司祭>助祭という順に地位が高い。教皇は王と同等で、聖教国のトップでもある。また、枢機卿は公爵と同じくらいだという話だ。聖教会を任されるのは大司教なので、彼は大司教だろう。
「お久しぶりです、ログルス様」
お祖父様に頭を下げると、僕の方を向く。
「お初にお目にかかります。スエ=リムールと申します」
「フィル・ブーゲンビリアです。今日はよろしくお願いします」
にっこりとあいさつを返す。身分はこちらが上なので頭を下げてはならない。
そう言えば、聖職者は少し変わった名前をしているようだ。家名はなく、彼の場合リムールというのが名前に当たる。“スエ”は地位だ。つまり、大司教を表す。
ちなみに、僕が名乗ったのは正式な名前ではない。フィラス・ディン・リャーナ・ブーゲンビリアというのが僕の名前だが、成人するまでは「幼名・家名」と名乗るのが決まりなのだ。他にも、僕は聖名を持っているので正式な場ではフィリアスを名乗らなくてはならない。色々と面倒である。
「フィル様はこのリッツィア王国とオルマ聖教国の関係をご存知ですか?」
長い廊下を歩いていると、リムールが尋ねてきた。
「いえ。何か特別なのですか?」
「はい。リッツィア王国もそうなのですが、翼人との関わりが深いのです」
「あまり知られている事ではないからな。それに、わざわざ公言する話でもない」
習った覚えのない僕に、お祖父様が言う。なるほど、一部の人しか知らないのか。
「翼人が昔、天使と呼ばれた事はご存知ですよね?」
「はい」
「あれは嘘とも言えないのですよ。翼人が神の言葉を他の種族へ伝えていたのは事実ですから。ただし、それは翼人が特別なのではなくて源神の泉があったからなのです」
源神の泉、とはまた聞いた事のないものだ。たくさんの本を読んだが、まだまだ知らない事はたくさんあるらしい。
「源神の泉は神水のわく泉の事です。神水とは神々が降臨なさる時に必要な水。リッツィア王国が建国される以前は翼人の住む土地にしかありませんでした。しかし、ザークフェル様が泉の独占は危険だとおっしゃったそうです。隠していてもいずれ知れる事ですし」
翼人の天使疑惑にそんな裏があったとは。翼人=天使が成り立ったからこそ魔人=悪魔という考えも広がったのだろう。気の毒に。
「ザークフェル様はご友人のカルナ様――のちの初代教皇――に源神の泉を託されました。カルナ様はオルマ教やオルマ聖教国をつくり、神水を各国の聖教会へ運んだそうです。我々は聖教会にある小さな泉を神水の泉と呼んでおります。以後、ザークフェル様とカルナ様の友好はお二人が各国の代表となっても続きました」
「つまり、リッツィア王国とオルマ聖教国のつながりは翼人が昔住んでいた土地に聖教国がある事と建国者が友人だった事ですか?」
「そうなりますね。その頃の名残と言いましょうか、この国とは良い関係を築かせていただいております」
言われてみると、歴史上聖教国との争いは一度もなかったように思う。いくら聖教国がオルマ教の総本山で、オルマ教がオンハーツ唯一の宗教だったとしても争いごとが全く起きないのはおかしいのだ。記録に残らないような小競り合いはあったかもしれないが、それは両国が協力してきた結果に違いない。
それはそれとして、なぜこの話を僕にしたのだろうか。身分的になのか、隠すほどの事でもないからか。両方かもしれない。
僕の立場は色々と厄介だ。リッツィア王国としても、シクラン王国としても。僕としては公爵位を継いで領地を治めるつもりだし、理解がある人は同じように思ってくれているだろう。だが、理解のない人――特にシクラン王国の人達はそうは思っていないらしい。刺客を送ってくるのがその証拠である。
とはいえ、僕がシクラン王国の継承権を放棄するなりしない限り今の状況は変わらないだろう。問題なのはシクラン王国の継承権を持っている事なのだ。リッツィア王国だけなら父上だって同じなのだから。
シクラン王国の継承権を持っている以上、リッツィア王国としても警戒せざるを得ない。意図的でなくとも情報を流されては困るのだ。そういう訳で、国家機密レベルの話を僕にはしないはず。ましてや、ただの子供ではなく神童と言われる僕なのだから慎重になるだろう。殿下に関しては仕方がないといったところか。
そんな事を考えた後で、自分が十歳である事を思い出した。翼人の平均寿命は三千歳だ。成人もしていない赤ん坊同然の子供に重要な話などするはずがない。
考えるだけ無駄かな。
そう片付けて、リムールとお祖父様の後に続いた。
設定、地名、家名にオルマ聖教国関係を追加しました。
第一章の登場人物を追加しました。
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