どうも、佐藤です
運命とは、常に自らの手中にあると。
そんなフレーズを、どこかで聞いたことがある気がするけど。
或いは、どっかの偉い人がもっと難解に言い回してそうだけど。
実際の所、別段そんなことはなく。
運命なんてものは所詮、誰にも掴めない気まぐれでしかないだろうなって僕は思う。
……何故かと言われれば、本当に簡単な話。
「好き、好きなの。愛してしまったの。だから私に、あなたを死ぬまで愛させて……!!」
こんな可愛い、黒髪美人さんが。
あの愛咲さんが。
わざわざ頭を下げてまで、僕に告白してくる運命なんて、僕の手の中にあるわけないのだから。
朝。
澄み渡った青空と、穏やかな太陽と、五月末の温い生温い風と。
そして、いつもよりちょっと朝早く起きられて、お腹も快調という喜びを胸に。
変わり映えのない通学路をいつもより少し早めに。
わしゃわしゃと風を体で感じながら、のんびりチャリンコで進んでいた最中のことだった。
河川敷を越えて、もうじき学校へと差し掛かる頃。
信号のそば。
同じ高校の制服に袖を通し、チャラめの二人組に絡まれて、せっかくの青信号を渡れず困っている女生徒が一人。
「あの、やめてください……!」
「いいじゃんいいじゃん! 学校なんてサボってさ、僕達と楽しく遊ぼうぜ? なあ?」
……ここ、うちの学校とそう遠くないってのに。
朝っぱらからいい大人が。幼気な学生相手に、よくもまあお盛んなことで。滑稽だぜ。
実にお決まりな。
そして周囲も見て見ぬ振り、知らぬ存ぜぬ。
正直言って、爽やか絶好調だった今までの朝の気分が台無しだよ。早起きは三文の得とは?
──ま、しゃーないね。見ちゃったからね、はいよー。
「はいどいたどいたー!」
「うえっ!?」
ちょうどと、タイミングを見計らって。
絶妙な隙間へ割り込む形で、敢えての大声携えて、我が愛馬を滑らせて。
そうして呆気にとられてくれた両者のうち、片方──女生徒の方へ、真っ直ぐ手を差し伸べる。
「ほら、走って。信号、赤になっちゃう」
「え、あ、はい!」
惚けていた彼女は、すぐさま我に返り。
僕を彼らとの壁に利用して、真っ直ぐ前へと駆け出していく。
まこと、天は美少女に甘いのか。
信号チカチカ、都合良く。
振り返れば数秒遅れたチャラ男共はどうにも踏み出せず、青から赤へと切り替わってくれる。
半端に常識がありはするのか、無理に追ってくる様子もない。
なんともまあ。
朝っぱらから盛るってなら、獣のようになりふり構わず追ってくればいいものの。まったくもう。
「あ、あの、ちょっと……!!」
「ああ、ごめんね。ちょい無茶させちゃった。よっこらせっと」
そうして、信号越えて少し。
背後をチラ見し、気骨のない彼らが来てないことを確認しつつ。
呼吸を荒げながらこちらへ声掛けしてくる彼女に、思い出したと速度を緩め、チャリを降りる。
「なんか困ってたから割り込んだけど、もしかしなくても、迷惑だった?」
「い、いえ、そんな……! あ、ありがとうございます……!」
こちらが謝ると、逆に頭を下げてくる彼女。
改めて見てみると……おお、中々に美人さん。
正直、ナンパしたくなるのも分かってしまう。
綺麗な黒髪伸ばして姫カット。
手足もスラリとした、間違いなく僕より背の高い、モデルみたいに長身な美人さん。
着物もスーツもゴスロリも、どんな服でもきっと着こなしてしまえそうな、そんな御方だこと。
それにふと見れば、緑のリボンは僕のネクタイとお揃カラー。
どうやら同学年らしいが、こんな美少女見たことないしクラスメイトではない。
うん。つまりはまあ、ただの他人だね。
馴れ馴れしくして後で変な噂流されるのもあれだし、敬語にしておこうっと。
「あ、あの。どうして、私を、助けてくれたんですか……?」
「理由? ……あー、ここ、学校行くのに便利なんですよね。けど見て見ぬ振りしたらさ、明日から通りにくくないです?」
「は、はあ……?」
「ごめん。深い理由はないかも。そういう気分だったからで、聞き流してくれて構わないですよ……おおっ」
我ながら、何ともまあ適当な誤魔化しだと。
つい目を逸らす形で背後へ首を向けてしまえば、なんとそこには先ほどのチャラ男コンビが。
なんだ、追ってきてるじゃん。
ガキに舐められたままじゃ終われないって感じで、恥も外聞もなく、必死こいてがむしゃらに。
いいね。そういうの、案外嫌いじゃないよ。
「あの。あいつらまた追ってきたんで、これ乗って先行ってください」
「え、そしたらあなたは……!?」
「もちろんランです。あ、自転車は駐輪場に適当に置いといてくれればいいんで。それじゃ」
それだけ伝えて、強引に愛馬を押しつけて。
親指ビシッと、サムズアップ。
まさしくさすらいのヒーローみたいな気持ちで、全力で街を駆け出そうとして──。
「あ、あの! せめて、お名前だけでも!」
「あー、うん。佐藤です。覚えなくていいんで、じゃ」
振り返ることなく。
たった一言。それだけ伝えて、今度こそ走り始める。
悩んだ末。
口から出した名前は、この僕──鈴木湊のフルネームではなく。
この国で最も多い名字。そして確かクラスにも一人いたはずの、佐藤。
素直に本名を言わなかったのは……まあ、何となく。
こんな一期一会で覚えられても困るし、何より、そっちの方が格好良いから。それだけ。
──それにしても、まあ。
『待てやごらぁー!!』
「……いいじゃん。美少女助けてランニングだなんて、中々に面白いね」
せっかく爽やかな朝だったのに。
まさか男の怒声に背中を押され、こんな泥臭く汗まみれに鬼ごっこする羽目になろうとは。
……ま、これも立派な青春の一コマ。
捕まってボコされるのなんて、心の底から面倒だし。
何より。
面白いを面白いままで終わるために、せいぜい頑張るとしようかね。おー。
※自転車で人の間に割り込むのは大変危険です。良い子は創作に影響されず、真似しないようにね!
新作です。完結まで毎日投稿の予定です。
感想や評価、ブックマーク等していただけると作者はとても嬉しいです。




