↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/14

どうも、佐藤です

 運命とは、常に自らの手中にあると。

 そんなフレーズを、どこかで聞いたことがある気がするけど。

 或いは、どっかの偉い人がもっと難解に言い回してそうだけど。

 

 実際の所、別段そんなことはなく。

 運命なんてものは所詮、誰にも掴めない気まぐれでしかないだろうなって僕は思う。


 ……何故かと言われれば、本当に簡単な話。


「好き、好きなの。愛してしまったの。だから私に、あなたを死ぬまで愛させて……!!」


 こんな可愛い、黒髪美人さんが。

 あの愛咲さんが。

 わざわざ頭を下げてまで、僕に告白してくる運命なんて、僕の手の中にあるわけないのだから。




 


 朝。

 澄み渡った青空と、穏やかな太陽と、五月末の温い生温い風と。

 そして、いつもよりちょっと朝早く起きられて、お腹も快調という喜びを胸に。

 変わり映えのない通学路をいつもより少し早めに。

 わしゃわしゃと風を体で感じながら、のんびりチャリンコで進んでいた最中のことだった。


 河川敷を越えて、もうじき学校へと差し掛かる頃。

 信号のそば。

 同じ高校の制服に袖を通し、チャラめの二人組に絡まれて、せっかくの青信号を渡れず困っている女生徒が一人。


「あの、やめてください……!」

「いいじゃんいいじゃん! 学校なんてサボってさ、僕達と楽しく遊ぼうぜ? なあ?」


 ……ここ、うちの学校とそう遠くないってのに。

 朝っぱらからいい大人が。幼気な学生相手に、よくもまあお盛んなことで。滑稽だぜ。


 実にお決まりな。

 そして周囲も見て見ぬ振り、知らぬ存ぜぬ。

 正直言って、爽やか絶好調だった今までの朝の気分が台無しだよ。早起きは三文の得とは?

 

 ──ま、しゃーないね。見ちゃったからね、はいよー。


「はいどいたどいたー!」

「うえっ!?」


 ちょうどと、タイミングを見計らって。

 絶妙な隙間へ割り込む形で、敢えての大声携えて、我が愛馬(チャリ)を滑らせて。

 そうして呆気にとられてくれた両者のうち、片方──女生徒の方へ、真っ直ぐ手を差し伸べる。


「ほら、走って。信号、赤になっちゃう」

「え、あ、はい!」


 惚けていた彼女は、すぐさま我に返り。

 僕を彼らとの壁に利用して、真っ直ぐ前へと駆け出していく。


 まこと、天は美少女に甘いのか。

 信号チカチカ、都合良く。

 振り返れば数秒遅れたチャラ男共はどうにも踏み出せず、青から赤へと切り替わってくれる。


 半端に常識がありはするのか、無理に追ってくる様子もない。

 なんともまあ。

 朝っぱらから盛るってなら、獣のようになりふり構わず追ってくればいいものの。まったくもう。


「あ、あの、ちょっと……!!」

「ああ、ごめんね。ちょい無茶させちゃった。よっこらせっと」


 そうして、信号越えて少し。

 背後をチラ見し、気骨のない彼らが来てないことを確認しつつ。

 呼吸を荒げながらこちらへ声掛けしてくる彼女に、思い出したと速度を緩め、チャリを降りる。


「なんか困ってたから割り込んだけど、もしかしなくても、迷惑だった?」

「い、いえ、そんな……! あ、ありがとうございます……!」


 こちらが謝ると、逆に頭を下げてくる彼女。


 改めて見てみると……おお、中々に美人さん。

 正直、ナンパしたくなるのも分かってしまう。


 綺麗な黒髪伸ばして姫カット。

 手足もスラリとした、間違いなく僕より背の高い、モデルみたいに長身な美人さん。

 着物もスーツもゴスロリも、どんな服でもきっと着こなしてしまえそうな、そんな御方だこと。


 それにふと見れば、緑のリボンは僕のネクタイとお揃カラー。

 どうやら同学年(タメ)らしいが、こんな美少女見たことないしクラスメイトではない。

 

 うん。つまりはまあ、ただの他人だね。

 馴れ馴れしくして後で変な噂流されるのもあれだし、敬語にしておこうっと。


「あ、あの。どうして、私を、助けてくれたんですか……?」

「理由? ……あー、ここ、学校行くのに便利なんですよね。けど見て見ぬ振りしたらさ、明日から通りにくくないです?」

「は、はあ……?」

「ごめん。深い理由はないかも。そういう気分だったからで、聞き流してくれて構わないですよ……おおっ」


 我ながら、何ともまあ適当な誤魔化しだと。

 つい目を逸らす形で背後へ首を向けてしまえば、なんとそこには先ほどのチャラ男コンビが。


 なんだ、追ってきてるじゃん。

 ガキに舐められたままじゃ終われないって感じで、恥も外聞もなく、必死こいてがむしゃらに。

 いいね。そういうの、案外嫌いじゃないよ。

 

「あの。あいつらまた追ってきたんで、これ乗って先行ってください」

「え、そしたらあなたは……!?」

「もちろんランです。あ、自転車は駐輪場に適当に置いといてくれればいいんで。それじゃ」


 それだけ伝えて、強引に愛馬を押しつけて。

 親指ビシッと、サムズアップ。

 まさしくさすらいのヒーローみたいな気持ちで、全力で街を駆け出そうとして──。


「あ、あの! せめて、お名前だけでも!」

「あー、うん。佐藤です。覚えなくていいんで、じゃ」


 振り返ることなく。

 たった一言。それだけ伝えて、今度こそ走り始める。

 

 悩んだ末。

 口から出した名前は、この僕──鈴木(すずき)湊(みなと)のフルネームではなく。

 この国で最も多い名字。そして確かクラスにも一人いたはずの、佐藤。

 

 素直に本名を言わなかったのは……まあ、何となく。

 こんな一期一会で覚えられても困るし、何より、そっちの方が格好良いから。それだけ。

 

 ──それにしても、まあ。


『待てやごらぁー!!』

「……いいじゃん。美少女助けてランニングだなんて、中々に面白いね」


 せっかく爽やかな朝だったのに。

 まさか男の怒声に背中を押され、こんな泥臭く汗まみれに鬼ごっこする羽目になろうとは。


 ……ま、これも立派な青春の一コマ。


 捕まってボコされるのなんて、心の底から面倒だし。

 何より。

 面白いを面白いままで終わるために、せいぜい頑張るとしようかね。おー。

※自転車で人の間に割り込むのは大変危険です。良い子は創作に影響されず、真似しないようにね!


新作です。完結まで毎日投稿の予定です。

感想や評価、ブックマーク等していただけると作者はとても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。