それぞれの事情
セレスティアたちが転入し初めての放課後
放課後、
鐘がリベルタ中央魔導学院に響き渡る。
「ふぅ~、今日も終わったー!」
レイは大きく背伸びをした。
隣の席ではミオも肩を回しながら微笑む。
「久しぶりの講義だったけど、やっぱり学院って疲れるわね」
「座ってるだけなんだけどね」
「それでも疲れるわよね」
二人は笑い合いながら席を立った。
その時だった。
「セレスティアさん! アストレア王国ってどんな国なんですか?」
「アイリスさん! 交流戦の決勝、本当に凄かったです!」
「フィオナさんも普段は護衛のお仕事をされているんですか?」
教室の前方では、セレスティア、アイリス、フィオナの三人が大勢のクラスメイトに囲まれていた。
転入初日ということもあり、質問攻めにあっている。
「すごい人気ね」
ミオが苦笑する。
「まぁ交流戦優勝国の代表だからねー」
「確かに、しばらくはあんな感じでしょうね」
レイは三人を見ながら小さく笑った。
「俺たちは帰ろう」
「そうね」
二人は荷物を持ち、教室を後にした。
廊下へ出ると、他の生徒たちも帰宅するため賑わっている。
他愛もない話をしながら学院正門へ向かう。
すると後方から声が響いた。
「レイさん、ミオさん!」
二人が振り返る。
人混みを抜け、セレスティア、アイリス、フィオナの三人が小走りで追い掛けてきていた。
「はぁ……なんとか追いつきました」
セレスティアは息を整えながら微笑む。
「え、どうかしましたか?」
レイが尋ねる。
「実は、お二人に少しお話ししたいことがありまして……」
しかしその瞬間、周囲の生徒たちがまたざわつき始めた。
「あっ、セレスティア様だ」
「レイたちと話してるぞ」
「何の話だろう?」
あっという間に周囲の視線が集まってくる。
セレスティアは困ったように笑った。
「ここでは少々目立ってしまいますね」
レイも周囲を見渡し苦笑する。
「確かに」
ミオも頷いた。
「これじゃ落ち着いて話せないわね」
セレスティアは静かに言う。
「私たちは現在、ユノベルの温泉宿へ滞在しております。そちらでお話しようかとも思ったのですが……」
その言葉を聞いたレイとミオは一瞬だけ顔を見合わせた。
(やっぱり俺たちのことに気付いているよね)
(ええ、間違いないでしょうね)
二人は口には出さなかったがお互いの顔で読み取った。
レイは穏やかに微笑む。
「それなら、俺たちもユノベルに屋敷があります。よかったら、そこでゆっくり話しませんか?」
セレスティアは少し驚いた表情になる。
「よろしいのですか?」
「もちろんです。人目もありませんし、その方が落ち着いて話せます。」
ミオも笑顔で頷いた。
「温泉宿からも近いから、不便はないと思います」
セレスティアは安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。では、一度講義室へ戻り荷物を取って参ります。」
アイリスとフィオナも軽く一礼する。
「すぐ戻ります」
三人は再び学院の中へ駆けていった。
レイとミオは学院正門で待つことにする。
数分後。
旅行用の鞄を持った三人が戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「それじゃあ行きましょうか」
学院前で待機していた馬車へ五人が乗り込む。
メイドが手綱を引くと、馬車はゆっくりと走り出した。
夕日に染まる街並みを抜け、ユノベルへの街道を進んでいく。
馬車の中では学院生活のことや、ユノベルの街並み、温泉街の話など、他愛のない会話が続いた。
そして30分ほど経った頃、
「着きましたよ」
馬車が大きな屋敷の前で止まる。
レイが先に降り、続いてミオ、セレスティア、アイリス、フィオナも馬車を降りた。
目の前に広がる立派な屋敷を見上げ、セレスティアは思わず息を呑む。
「とても立派なお屋敷ですね……」
ミオが微笑む。
「父が学院生活のために用意してくれた屋敷なの」
「さあ、どうぞ」
レイが門の扉を開ける。
セレスティアたちは軽く一礼し、レイとミオに続いて屋敷の中へ足を踏み入れた。
屋敷へ入ると、広々とした空間が五人を迎えた。
「お帰りなさいませ」
数名のメイドが一斉に頭を下げる。
「ただいま」
レイが軽く返事をすると、メイドたちは再び一礼し、それぞれの持ち場へ戻っていった。
セレスティアはその様子を見つめながら感心したように呟く。
「とても統率の取れた屋敷ですね」
「みんな優秀だから助かってます」
レイは少し笑って言った。
ミオも頷く。
「広いから人手がないと維持できないのよ」
五人は廊下を歩きながら、食堂や客間、中庭などを一通り案内する。
窓から見える手入れの行き届いた庭園を眺め、フィオナが感心したように言った。
「警備だけでなく、お庭まで綺麗に整えられていますね」
「毎日誰かが手入れしてくれてるからね」
レイが答える。
一通り案内を終えると、応接間へ移動した。
ソファへ腰掛けると、メイドがお茶と茶菓子を並べ、一礼して静かに部屋を後にする。
しばらく静かな時間が流れた。
セレスティアがゆっくりと口を開く。
「まずは、お二人のお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
レイとミオはやっぱり来たかと顔を見合わせ、小さく頷いた。
「分かりました」
レイは紅茶を一口飲み、静かに話し始める。
「俺は、生まれつき無属性なんです」
三人は真剣な表情で耳を傾けた。
「父上も母上も前例のないことだったので、とても心配してくださいました。色々な文献を調べても原因は分からず、父上は『リベルタ中央魔導学院なら何か分かるかもしれない』と考え、俺を学院へ通わせることにしたんです」
レイは少し笑う。
「ただ、王子という立場のまま学院へ通えば、余計な注目を集めてしまいます。だから学院ではルーヴェンの名を名乗らず、一人の学生として生活してみなさい、と父上に言われました」
ミオが苦笑する。
「私は弟が心配で勝手について来ただけなの。父上には『お前まで行くのか』って呆れられたけどね」
レイも思わず笑った。
「積荷に隠れてついてきたんですけどね」
セレスティアは驚いた表情を見せ柔らかく微笑む。
「そうですか、やはり……」
その表情が少しずつ真剣になる。
「交流戦でお会いした時から、どこか幼い頃にお会いした事があるのではないかと思っておりました」
「ですが、お二人ともルーヴェンを名乗っておられませんでしたので、気づくのが遅れてしまったのです」
レイは小さく頷く。
「正体を隠して学院生活を送るよう言われていましたからね」
セレスティアは安堵したように微笑んだ。
「今日ようやく確信することができました」
応接間が静まり返る。
今度はセレスティアが姿勢を正した。
「では、次は私のお話をさせていただきます」
アイリスとフィオナも自然と表情を引き締める。
「一年前、アストレア王国の女王――私の母が亡くなりました。」
その一言で空気が変わった。
「表向きは病死とされました。しかし、私は以前から違和感を抱いていました。」
「母は長い期間をかけて少しずつ体調を崩していたのです」
セレスティアは視線を落とす。
「そこで信頼できる者たちに密かに調査を続けてもらっていました」
ゆっくりと顔を上げる。
「そして先日、その調査結果が密かに届いたのです」
静寂が部屋を包む。
「やはり、母は毒殺されていた可能性が極めて高いとの事」
レイとミオの表情も真剣なものへ変わった。
「……そうでしたか」
ミオが言うとセレスティアは静かに頷く。
「私は以前からもしかしたらと思っておりました。だからこそ、今回の交流戦を利用して国外へ出ることを決めたのです」
アイリスが続ける。
「私たちはどうしても代表にならなければなりませんでした」
フィオナも頷いた。
「セレスティア様のお側を離れるわけにはいきませんでしたから」
セレスティアは真っ直ぐレイを見る。
「そして今後、私はアストレア王国へ戻るつもりはありません。しばらくの間、この地へ留まり、事実上の亡命という形になります」
その場の誰もが息を呑む話であった。
セレスティアもいのちを狙われる可能性があるようです




