ユノベル襲撃、その後
ユノベルが襲撃を受けた直後の話です。
「それで、エルフィとエルミナが交戦していた指揮をしていた女性はどうしたの?」
ルピナが聞いた。
「それが、さっきの爆発と蒸気で見失っちゃったんだよね。エルミナが間違いなく撃ち抜いた感触があるって言ってるから一緒に溶けちゃったのかも」
「隠れてやり過ごすなんてタイプじゃなかったから一緒に溶けてなくても出て来ないなら致命傷を受けてるはず。放っておいてもそのうち絶命すると思います」
エルフィとエルミナがそれぞれ答えた。
「一応、彼女にも尋問したかったけど、どうせ口は割らなさそうね」
ルピナが言う。
––ガサッ
「誰!?」
ミリエルが気配に気付き言った。
「どうやら、迷い猫がいるみたいだよ?」
エルフィが木の陰から浴衣姿の女性を連れてきた。
女性は今さっき起こった惨劇を思い出して軽いパニックに陥っている。
目の前には魔族や人間たちが意味をなさない鎧ごと溶けている光景が広がっていた。
「見られたなら消す?」
リズが言う。
「待って待って待ってー消さないでくださいー!」
女性が言う。
「町は結界が張ってあって出る事はできなかったはずなんだけど…」
ルピナが言う。
「それは、仕事終わりに温泉に入って、少し熱くなったので町の外を散歩していたところだったんですー」
女性が言った。
「そんな時間に温泉に入れるのって…あなたの名前は?」
ミリエルが尋ねた。
「リリアナと言いますーお願いですから助けて下さいー!」
ミリエルは手帳をペラペラとめくる。
「あっ!やっぱり、あなたメイドに来てる方ですよね。でも、おかしいですね。リリアナさんは一般のメイド従事になってますよね。あの時間って事は…」
ミリエルが言う
「じゃーアビス・ローゼス見習って事?」
リズが言う。
「そう言う事になるわね。リリアナさん、今日、見た事は他言無用でお願いしますね。でなければ、本当に消える事になりますよ」
ルピナが言う。
「はいぃぃ!」
リリアナが返事をした。
死体たちはきれいに燃え尽きていた。
「さぁ、では生き残りを連れ帰って尋問しましょうか」
ルピナがそう言った。
––––
ヴァルゼオンがその場に到着したのはそのすぐ後であった。
「なぜ町に異変がない。アストレアが率いていた軍勢はどうしたというのだ」
(何が起きている?)
ヴァルゼオンは辺りを注意深く見渡す。
(ここで戦闘があったのか?いや、金属が溶けたような後が少しあるくらいだ。…もし、想像が正しいとしたらこちらが一方的に蹂躙された?いや、バカな。魔族の他人間ども合わせて1000はいたんだぞ?)
ヴァルゼオンはふと木の陰を覗き込んだ。
「––アストレア!!」
一体これはどう言う事なんだ。
ヴァルゼオンは思考が追いつかない。
目の前には最愛のアストレアが瀕死の重傷を負い今にも死にかけている。
ヴァルゼオンはアストレアの側に跪きアストレアの名前を呼んだ。
「あぁヴァルゼオンさ、ゴホッ!」
「あまり喋るんじゃない、アストレア!」
「…ヴァルゼオンさま、黒い衣をまとった者たちに気をつけ…」
アストレアは最後まで話せず力なくそのまま目を閉じた。
「––アストレアぁぁぁ!!うぁぁぁぁぁぁ!」
(アストレアは何にやられたと言うんだ)
「黒い衣を纏ったものにやられた…のか?」
ヴァルゼオンが独り言を呟いた。
「その女は黒い衣を纏ったものにやられたのかい?」
突然、話しかけられた。
全く気配を感じなかった。
そしてヴァルゼオンは言った。
「お前は誰だ。それに黒い衣を纏ったものを知っているのか!」
「俺の名前はレイ。黒い衣?モヤ?がかかった奴らなら何回か戦った事がある。どうやらその傷はそいつらに一突きでやられたんだろうね」
「どんな奴らなんだ?」
「詳しくは知らないけど、とにかく強い。普通とは違う感じ。狂ってると言う表現が正しいかな」
「そうか、引き止めて悪かったな。アストレア、俺が必ずお前の仇を討ってやる」
「その女性はきみの恋人か何か?」
「あぁ俺の最愛の女だ」
「そうか、その女性を助ける事ができるかも知れないけど俺にまかせる気はあるかい?」
「はっ?これだけ瀕死の重傷を負ってるんだぞ?下手な事言ってると殺すぞ!」
「まあまあ、きみら魔族だよね、魔族の源の魔力を分け与えれば助かるかも知れないだろ?」
「これだけ深傷なんだ、どれだけ魔力がいると思っている」
「そんなにいらないと思うよ」
レイはアストレアの腹部に手を当て魔力を送った。
アストレアの傷が癒えていく。
ヴァルゼオンが信じられないという顔をしている。
「傷は癒えたけど目を覚ますかはこのアストレア次第だ、手遅れじゃなかったら目を覚ますだろうね。早く連れ帰って休ませるといい」
そして、レイが立ち去ろうとした時、
「待て」
ヴァルゼオンが呼び止める。
レイは足を止めた。
「なぜお前は俺たちが魔族だとわかった」
「ん?」
レイは少し考えるように空を見た。
「……匂い、かな」
「匂いだと?」
「あぁ。普通の人間とは違う。きみは特に濃い」
ヴァルゼオンの目が細くなる。
「それだけで見抜いたと言うのか」
「さぁ?自分でもよくわからない。でも昔からわかるんだよね」
レイは笑う。
その笑顔に悪意はない。
だが、
ヴァルゼオンの本能が警鐘を鳴らしていた。
(……何だ、この男は)
自分は冥府十王。
数多の人間を見てきた。
強者も弱者も。
だが、
目の前の男からは“底”が見えない。
「じゃあ俺は行くよ。恋人、大事にしてあげて」
レイは軽く手を振り、そのまま闇の中へ消えていった。
ヴァルゼオンはしばらく動けなかった。
(……レイ)
その名前だけが頭に残る。
––––
「まさか、お前ほどの者が失敗をしたというのか」
円卓に集まった中のグラディウスが言う。
「私がリベルタ中央魔導学院に大量の強化魔獣を放って襲わせようとした時に黒い服を着た者たちに全滅させられたと言ったわよね」
リリスがヴァルゼオンに言った。
「今回はリベルタではなくユノベル侵略だった。それに強化魔獣ごときとは違う。魔族な人間ども合わせて1000はいたんだぞ」
リリスに言い返した。
「ユノベルはリベルタのすぐ側の町だし、強化魔獣は魔族一人に匹敵する強さを持っているわ。数も1000は放っていたわ。私たちの事をバカにして話を聞かないからこんな事になるのよ!あーアストレアがかわいそう、ふふ」
ヴァルゼオンは何も言い返せずただ復讐を誓うのであった。
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