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俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
学園編

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主の知らぬ間に

掃除の後に…

 深夜、リベルタ西部へと続く街道。


 昼間なら商人の馬車や旅人が行き交う道も、今は不気味なほど静まり返っていた。


 月明かりだけが街道を照らし、その両脇には深い森が広がっている。


 その森の中を――


 三つの影が高速で駆け抜けていた。


「にゃー……」


 先頭を走っていたニアが小さく声を漏らす。


「どうしたの?」


 すぐ後ろを走るエルフィが尋ねた。


「…お腹すいたにゃー」


「ちょっと、さっき食べたばっかりでしょ」


 最後尾のクロエが呆れたように言う。


「夜食は別腹にゃー」


「まだ屋敷を出て一時間も経ってないよー?」


「動いたから減ったにゃ」


「燃費悪いなー」


「猫だから仕方ないにゃ」


「猫は関係ないでしょ!」


 三人は会話をしながらも速度を落とさない。


 普通の人間なら数時間はかかる距離を、恐ろしい速さで進んでいく。


 しばらくすると、先頭のニアが突然足を止めた。


「ちょっと待つにゃ」


 エルフィとクロエも即座に停止する。


「何かあったの?」


 ニアは答えない。


 目を瞑り匂いを嗅いで鼻を左右に僅かに動かす。


「血の匂いがするにゃ」


 クロエの表情が変わった。


「場所は?」


「あっちにゃ」


 ニアが街道から外れた森を指差す。


 三人は同時に地面を蹴った。


 木々の間を抜ける。


 そして数十秒後。


「これは……」


 クロエが足を止めた。


 森の中に、一台の馬車が倒れていた。


 車輪は壊れ、荷物が辺り一面に散乱している。


 馬の姿はない。


「襲われたみたいだね」


 エルフィの声から、いつもの軽さが消えていた。


 ニアが地面へしゃがむ。


「血があるにゃ」


 草の上に赤黒い跡が残っている。


 だが――


「死体がないわね」


 クロエが周囲を確認する。


 これだけの血が残っているにもかかわらず、人間の遺体はどこにもない。


「魔物に食べられた?」


 エルフィが尋ねる。


「それなら、もう少し痕跡が残るはずよね」


 クロエが壊れた馬車へ近づいた。


 側面には大きな爪痕が残っている。


「魔物に襲われたこと自体は間違いなさそうね」


「でも……」


 エルフィが地面を見る。


 血痕は森の奥へと続いていた。


 それだけではない。


「こっち引きずった跡があるよ」


「にゃ」


 ニアが頷く。


「誰かが連れていったにゃ」


 三人の視線が森の奥へ向いた。


「追いましょう」


 クロエが言う。


「了解♪」


「了解にゃ」


 三人は再び動き出した。


 血痕を追って森を進む。


 やがて――


「止まって」


 今度はエルフィが手を上げた。


 三人が木の陰へ身を隠す。


 森の先。


 僅かな明かりが見えていた。


「建物?」


 木々の隙間から、古びた小屋が見える。


 だが奇妙だった。


 こんな深い森の中にある小屋にもかかわらず、その周囲には複数の人影がいる。


 一人、二人……三人。


 さらに奥にもいる。


「見張り……?」


 エルフィが囁く。


「ただの小屋ではなさそうですね」


 クロエが目を細める。


 その時だった。


「来るにゃ」


 三人は完全に気配を消した。


 森の奥から何者かが歩いてくる。


 二人の男だった。


 その間には――


「っ……」


 一人の女性がいた。


 両腕を掴まれ、引きずられるように歩かされている。


「お願い……離して……」


「黙って歩け」


「嫌……誰か……!」


 男が女性の腹部を殴った。


「うっ……!」


 女性がその場に崩れる。


 エルフィの笑顔が消えた。


 ニアの目が細くなる。


 クロエは二人を手で制した。


「まだダメ」


「でも」


「目的を確認します」


 エルフィは不満そうだったが頷いた。


 男たちは女性を小屋の中へ連れていく。


「今の人たち……人間に見えたにゃ」


「ええ」


 クロエも同意する。


「少なくとも外見は」


「じゃあ、人型の魔物っていう話とは違うのかな?」


「まだ分からないわね」


 三人は小屋を監視する。


 しばらくして、別の男が外へ出てきた。


「次の搬送は?」


「夜明け前だ」


「今日は何人だ?」


「六人。村から三人、街道で三人」


「少ないな」


「最近、冒険者が増えてる。派手に動くなって言われてるだろ」


「分かってるよ」


 三人の表情が変わった。


 行方不明者。


 村から消えた住民。


 街道で姿を消した旅人。


 間違いない。


「当たりみたいだね」


 エルフィが小さく笑った。


 だがその笑顔に、普段の明るさはない。


「どうする?」


 クロエは少し考える。


「まず捕らえられている人たちの人数と場所を確認します。その後――」


「全員ぶっ飛ばすにゃ?」


「……場合によっては」


「やったにゃ!」


「嬉しそうにしない!」


 三人は小屋の周囲へ散った。


 エルフィは裏手へ。


 ニアは屋根へ。


 クロエは正面を監視する。


 数分後。


 三人は再び森の中へ集まった。


「地下があるよ」


 エルフィが言った。


「裏側に地下へ続いてる通気口みたいなのがあった」


「匂いもするにゃ。人がたくさんいるにゃ」


「やはりここが一時的な収容場所って事ね」


 クロエが考える。


「でも六人どころじゃないにゃ」


「何人くらい?」


「分からないにゃ。でも十人以上はいるかにゃ」


「……別の日に攫われた人たちもいるということね」


 クロエが小屋を見る。


 ならば優先すべきは救出。


 しかし――


「問題はこの先です」


「この先?」


「先ほど『搬送』と言っていました」


「あっ」


 エルフィが気付く。


「ここが本拠地じゃない」


「ええ」


 ここを潰すだけなら簡単だ。


 だが、それでは黒幕へ辿り着けない。


「泳がせるにゃ?」


「そうしたいところですが、捕らえられている方々を危険に晒すわけにもいきません」


「じゃあどうするの?」


 クロエが僅かに考えた。


「二手に分かれよう」


 二人を見る。


「私とニアでここに残り、人質を救出します」


「私は?」


「搬送役を追ってください」


 エルフィが笑って言った。


「尾行だね♪」


「絶対に気付かれないように」


「任せてー」


「それと」


「うん?」


「一人で突っ込んじゃダメだからね」


「…………」


「返事は?」


「はーい♪」


「今の間は?」


「何もないよー?」


 明らかに怪しい。


 クロエがため息をつく。


 その時――


「誰だ!」


 三人が同時に振り向いた。


 いつの間にか、一人の男が森の中へ入ってきていた。


「そこで何してる!」


「…………」


「…………」


「…………」


 三人が顔を見合わせる。


「見つかったにゃ」


「見つかっちゃったねー」


「あなたたちが普通に喋るからでしょう」


「クロエも喋ってたにゃ」


「そうだよー」


「…………」


 男が剣を抜いた。


「何をごちゃごちゃと……!」


 次の瞬間。


 男の姿が消えた。


「え?」


 いや。


 消えたのではない。


 ニアが一瞬で間合いへ入り、その顔面を掴んでいた。


「静かにするにゃ」


「むぐっ!?」


 そのまま地面へ叩きつける。


 ドンッ!


「ぐっ……!」


 男の意識が飛んだ。


「静かにって言った本人が一番大きな音出してるよ?」


「にゃ?」


 ニアが首を傾げる。


「確かに」


 クロエが額へ手を当てる。


 当然――


「何の音だ!」


「誰かいるぞ!」


 小屋の周囲が一気に騒がしくなった。


 複数の男たちが武器を持って森へ入ってくる。


 エルフィが楽しそうに短剣へ手を掛けた。


「どうする?」


 クロエは迫ってくる男たちを見る。


 そして静かに息を吐いた。


「あーあ、仕方ない」


 大斧を取り出す。


「予定変更!」


「全員ぶっ飛ばすにゃ?」


「人質の安全を最優先に」


「了解ー♪」


 三人の空気が一変した。


 数秒前まで掃除当番を気にしていた三人の姿は、もうない。


 そこにいるのは――


 レイ・ルーヴェンに仕える黒十華。


「侵入者だ!」


「捕まえろ!」


 男たちが一斉に襲いかかる。


 クロエが巨大な斧を肩へ担いだ。


「では――」


 エルフィが二本の短剣を抜く。


 ニアが両手の鉤爪を構える。


 三人の視線が敵へ向いた。


「さぁお仕置きの時間です」

さぁお仕置きの時間です

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