第20話
翌日、5人は丸一日かけて全ての旅館の捜索を終えた。2日目に見つかったアイテムボックス以上のアイテムは見つからなかった。探せる場所は全て探した。
「他に無いと分かってすっきりしたな」
ラッセルがそう言ったが皆同じ気持ちだった。これでこの村での滞在は終了だ。5人は教会に向かうと、アイテムボックスを持っていた商人の私物や書類、そして現金を箱に入れて女神像の前に置いた。これらはここに置いていく。
祈りを捧げるが女神から啓示は無い。
「昨日と同じだ。何も啓示がなかった」
祈りを終えたラッセルが言った。
「問題ないと言うことかな?」
「そうじゃない?」
「俺もそう思う。明日の朝から西に向かおうか」
小さな村に4泊した彼らは、翌朝街道を西に進み出した。途中で果実を見つけるとローウアイテムボックスに収納する。これから先何が起こるか分からない中、食料や水はいくらあっても困らない。
街道を進んで行くこと10日、彼らは大陸の南西の端に着いた。カイルがランカウイの街から西に進み始めてから1年近く経っていた。
西に向かう街道を歩いて魔獣と遭遇するのは1日に数度だ。あれほど数が多かった魔獣は一体どうなったのか。どこに消えてしまったのか。
5人は南西の一番角にある崖の上に立っている。目の前には穏やかな海が広がっていた。波が岸壁の岩にぶつかる音が聞こえてくる。
「風が気持ちいい」
そう言ったローズの髪が風になびいている。
「絶景だな」
「ああ、そして平和そのものだ」
目の前に広がる景色、そして彼らが立っている背後には、今まで歩いてきた道が草原の中に真っ直ぐに伸びていた。この景色を見ていると、2年ほど前にこの大陸が魔獣によって蹂躙されたとはとても信じられない程に穏やかな風景だ。
「あそこに港がある。今夜はあの港街で野営だな」
ラッセルが言うと全員が海岸線の北にある港町に顔を向けた。
街道はこの場所から北に向きを変えて伸びている。岸壁から離れた彼らは街道を2時間程歩いて港街跡に着いた。例によってこの街も完全に破壊されていた。街の中には倒壊している建物があり、港では破壊された漁船などがそのままに放置されている。1年以上もの間、誰も乗らなかった木造の船は朽ちはじめていた。近づくと船底に穴が空いている船もある。
市内にある教会も被害を被っているが、女神像は無事だ。その女神像の前でお祈りを捧げる5人。祈りが終わると夕刻までの間、港町を探索する。残っているのは魚網だったり大きな水槽だったりと港町ならではの品物が多い。
「残りの場所は明日捜索して、そのまま北を目指そう」
いつもの通り教会の前で焚き火をする。焚き火を囲んで夕食をとりながらカイルが言った。
「ずっと思っていたんだけどさ、スタンピードの時には、この大陸中で数え切れない程の魔獣が湧き出して一斉に人間を襲ってきた。奴らはどうなったんだろうか。俺が田舎の街を出て旅を始めて1年ちょっと。大陸の東から西に歩いてきたが魔獣にであるのは日に数度だ。山の方に出向いた時も多いとは思えなかった」
「消えたのか、どこかに行ったのか」
「死んじゃったとか?」
「それしか考えられないよ」
「俺もそう思ってるんだ。まさか黒幕の近くに集まってる。なんて事はないよな」
カイルがそう言うと流石にそれはないんじゃないかと否定する4人。言った当人もその可能性はほとんどないと思っているが、万が一そうだったら流石にこの5人だけで対処するのは無理だろう。
「何らかの事情でスタンピードが発生し、これまた何らかの事情でそれが終わった。俺は全てをコントロールしているのが黒幕だと思っている。どこかにいるその黒幕を見つけてぶっ倒すのが俺たちの使命だろう。俺たちがやることは決まってる。難しく考えなくてもいいと思うぞ」
ラッセルの言う通りだ。自分たちが女神から才能を授かったのはその黒幕を倒す為だ。正解のない理屈を捏ねても仕方がない。カイルは今のラッセルの言葉で自分が余計なことを考えすぎていることに気がついた。そうだ、難しく考えても仕方がない。
「ラッセルの言う通りね。難しく考えても答えがでない」
「そうそう、使命を実行することに全力を尽くしましょう」
「うん、そうしよう」
「魔獣はいいとして、この大陸に住んでいた多くの人たちは本当に皆死んでしまったのだろうか」
食事をしている時にスミスが言った
「カイルはランカウイという街の人たちが近くの島に避難して生き残っていると言ってたよな」
「ああ、その通りだ。実際にそこに住んでいる騎士から話を聞いている。1万人以上の人が街から島に逃げたそうだ」
「あとはローズがいたアルバートン。あそこにも数千人が住んでいる」
ラッセルが最初にカイルに言い、次にローズを見て言った。
「そう。3,000人程が住んでるわ」
「他の人は皆死んじゃったのかな」
スミスの言葉に全員が黙った。
「俺はそうは思っていないんだ」
しばらくの沈黙の後、カイルが言った。
「この大陸のどこかに、スタンピードを乗り越えてひっそり隠れて暮らしている人がいる。俺はそう信じている。その人たちは街道から外れた小さな街に住んでいるのかもしれないし、山の中にある軍の要塞の中かもしれない。でも必ずいる。俺はそう信じているから黒幕を倒して皆を幸せにしてやりたい。でないと女神様が俺みたいな孤児に能力を与えてくれた訳がないんだ」
カイルが言った言葉を皆自分の中で消化していた。
「カイルの言う通りだな。たとえそれが数十人、数百人でも、どこかに隠れている人がいるならばその人たちのために俺はやる。与えられた能力を全て使って黒幕を倒す」
「2人の言う通り。それが女神様の意思よね」
「「その通り」」
ローズの言葉に全員が声を揃えた。
次の日、彼らは港があった街の残りの場所を捜索したが、目ぼしいものは見つからなかった。最後に教会で祈りを捧げると街を後にして再び街道を北に進んでいく。
その後も彼らは街道沿いにある廃墟を訪ね、そこにある教会に顔を出して祈りを捧げ続ける。どの街でも教会の中にある女神像は無傷だ。
「ここでも何も言わなかったわね」
祈りを終えて立ち上がるとレミーナが言った。彼女から少し遅れて立ち上がったラッセルが彼女を見た。
「自分たちのやっていることが正しいということだよ」
「うん、分かっているんだけど、ちょっと不安になっちゃったの」
「心配しなくても女神様は俺たちを見ている。大丈夫だよ」
「そうね」
カイルが言っているのは山の中で龍を倒した時のことだ。教会でもないのに全員に啓示があった。あれ以来ここにいる5人は常に女神様が自分たちを見て、そして自分たちを正しい方向に導いてくれると信じている。
いくつかの小さな村があった場所で野営をして北に進んだ彼ら、港の街を出てから20日後の夕方、彼らは野営に適した場所を探しながら街道を歩いていた。
「伏せろ!」
先頭を歩いていたラッセルが小さな声を出すと全員がその場でしゃがみこんだ。
「こっちだ」
ラッセルに続いて街道から西に広がる草原に移動した彼らは、少し進んだところにある小さな丘の手前に移動した。
「あれを見ろ」
ラッセルが指差した先には廃墟となった街があり、崩れた塀の向こう側、街の中で何かが動いているのが見えた。




