第14話
「黒幕、大ボスがいるであろう場所は、山奥だと思うんだよ。そう考えるとここで山の中の移動をすることは良い鍛錬になるよな」
周囲を警戒しながら食事を摂っている5人。
「今のラッセルの話を聞いて思ったんだけどさ、ひょっとしたら女神が俺たちに鍛錬の場を与えてくれたのかも知れないな。強い敵を相手に鍛錬しろって」
カイルが言うと流石にそれは考え過ぎ、読み過ぎじゃないのという声がした。言った当人も言われてみれば確かみ読みすぎか。と苦笑する。
「ただ良い機会であるのは間違いないな。ここで負ける、苦戦する様じゃ黒幕は倒せないってことだろう。明日からも気合いを入れて頑張ろう」
ラッセルの言葉に全員が頷いた。
大きな木の根元や、凹んでいる斜面の窪みなどで野営をしながら細い山道を進んで4日目、彼らが山の中を歩いていると川の流れる音が聞こえてきた。ちょうどそこからは道が少し下りになっていてその先に進むと渓谷があった。渓谷の幅は20メートルくらい。渓谷の深さは50メートルはあるだろう。下には水が流れているが激流だ。しかも両岸ともほぼ垂直な崖になっている。下に降りてまた上がるのはどう見ても不可能だ。
細い山道はこの渓谷の手前で切れている。つまりここから先、渓谷の向こう側は前人未到の地だ。
「道はここまでだ。でも女神の啓示から考えると敵はもっと奥にいるはずだ」
前の景色に顔を向けたまま、確認する様にカイルが話すのを頷きながら聞いている4人。
「それは分かるがどうやって向こう側に行く?流石にこの距離は俺でも厳しいぞ」
そう言ったラッセルはカイルの隣に並んで立って目の前の渓谷を見る。
10メートルならジャンプして向こう側まで飛べる能力があるラッセルだが、20メートルとなると流石の彼でも無理だ。
渓谷の向こう側に渡る術がない。5人は渓谷の端で立ち止まった。左右を見ても渓谷は同じ様な幅と深さで遠くまで続いている。
「どうしましょう。見る限り左も右もずっと同じ幅で渓谷が続いてるみたいね。見る限り狭くなっている場所がないわ」
渓谷の左右を見ていたローズが言った。スミスやレミーナも同じ様に左右の見ている。
「カイル、どうする?」
「木を倒すしかないだろうな。木を向こう側に倒して橋にするんだ」
周囲を見ると太い幹を持った高い木が何本も生えている。長くて幹が太い木を反対側まで倒して橋の代わりにするしか思い浮かばない。
「他にアイデアがあれば言ってくれ」
カイルが聞くが皆黙っている。
「じゃあ、皆で一番長そうな木を探してくれ」
「それだったらこれはどうだ?
スミスが1本の木の幹を叩きながら言った。見ると確かに真っ直ぐ上に伸びている大きな木だ。
「いいな。これにしようか。長さも十分あるし、幹も太くて頑丈そうだ」
「斧で切るの?」
木の上の方を見ていたローズが視線を戻すとカイルに聞いた。
「スミスとラッセルが斧で切ってくれ、俺は風魔法で削る。いいか、こちら側から切り込みを入れて倒すんだ。レミーナは周囲の警戒を頼む。魔獣を見つけたら木こりは中止して敵を倒すぞ。ローズはスミスとラッセルに強化魔法を頼む」
カイルが説明をしている間にスミスとラッセルはそれぞれの魔法袋から斧を取り出していた。ローズの強化魔法がかかると2人が斧を大木に振り下ろす。同時にカイルが風魔法で木を削り始めた。ローズも強化魔法をかけるとレミーナと一緒に周囲を警戒する。
「カイル、無理すんなよ。俺とスミスがいるんだから」
斧を振り下ろしているラッセルが言った。
「ああ、ありがと。魔力が切れそうになったら休むから」
大木の幹はかなり太い。能力値が上がっているラッセルと大柄なスミスの2人が斧を振り下ろして切り目をつけていく。そこにカイルが風魔法で削りに参加する。
「結構きついぞ」
「ああ、思ったよりも大変だ」
斧を振り下ろしている2人が言っている。言いながらも斧を振る動きは止めない。
木を切り出して30分が経った。幹の切り目はかなり大きくなっているがまだ倒れそうな気配はない。上からと下から斧を振って、”く”の字になる様に切る。カイルも時折休憩しながら精霊魔法を使って協力していた。
「もう少しだ、頑張れ」
切り始めて1時間近くが経ったころ、切り込みを入れた幹の一部がくの字の形に切り取られ、大木がゆらめいた。反対側からラッセルが強烈な蹴りをいれると大木がグラッとして、そのまま対岸に向かって倒れていった。自分たちの想像以上に大きな木だった様で、木の先端は渓谷の向こう側の森の木々を薙ぎ倒している。大きな音がしたが魔獣は寄ってこない。この周辺に魔獣がいなくてよかったとカイルは安堵する。
「お疲れ、これで渡れるぞ」
「いくら授かった能力があると言ってもだ、きつかったぞ」
「俺もだ。戦闘よりきつかった」
スミスが言うと皆笑った。
5人は木の上を歩いて向こう側に渡るとそこで休憩する。木の幹に座っているラッセルがカイルに顔を向けた。身体能力が上がっているラッセルも流石に息が上がっている。それでも座りながら左右を見ている。
「ここは大丈夫か?」
「大木が倒れた時に大きな音がした。近くに魔獣がいたら集まってきただろう。それがない。すなわち近くに敵はいない、だから大丈夫だ」
カイルの言葉を聞いてた全員が納得する。言われてみればその通りだ。
「なるほどね。カイルに任せておけば安心ね」
「そう言うこと。カイルは私たちの参謀、知恵袋ね」
レミーナとローズが言うとスミスもラッセルもその通りだと彼女たちに同意している。
「それよりもさ、これからどっちに進んで行くのが正解なのかな」
同じ様に木の幹に座っているカイルが左右を見て言った。
「言っていい?」
レミーナが言った。全員がもちろんと言う。
「山奥に強いのがいるのなら川の上流じゃない?つまりこっちよ」
渓谷の底には川が流れている。その激流は渓谷に向かって左側から右側に流れていた。
「レミーナの言う通りだな。何も分からないのなら渓谷沿いを上流に向かって進んでいこうか」
「いいんじゃないか」
「レミーナ、ナイスよ」
「姉貴、やるな」
「えへへ」
レミーナは周りから褒められて満更でもない様子だ。5人はしっかりと休憩と取ると川の上流を目指して渓谷の近くを進んでいく。これから先は道がない。山の中の歩きにくい道を周囲を警戒しながら進んでいく。平らな場所よりも斜めになっている場所が多いので余計に歩き難いが誰も文句を言わずに奥に進んでいった。
まだ日が暮れるまでは時間があるが、ちょうど山の斜面に大きな石があり、そこなら身を隠せるので今日はここで野営をすることにする。




