第13話
森を歩き出して2日が過ぎた。道はまだ緩やかな登り道だ。森に入ると魔獣を見ることが多くなったが今のところ脅威になるほどの強さではない。
「レミーナとスミスがいた街の周辺の魔獣の強さと同じくらいかな」
「それくらい。平地よりは少し強めだけど脅威ってことじゃないわね」
ラッセルとレミーナのやりとりを聞きながらもカイルは周囲を警戒していた。2人が言うとおりで、今のところ出会う魔獣は自分たちから見たら脅威になる強さではない。こちらも装備を更新し強くなっているが、それでも自分たちが相手をするであろう魔獣のレベルがこれくらいだとは思えない。
今のところ敵のレベルにも変わりがない。交代で見張りをしながら夜を過ごした彼らが山道を進んでいった4日目の昼過ぎ、道の先、彼らの視界に廃墟が見えた。そこは小さな盆地になっている場所で、盆地の中央に崩れた城壁の跡があり、その中に街の跡が見えている。
「この道はここの街まで通じているんだな」
「この先は道が無さそうね」
小さな山の上から盆地にある街を見ている5人。レミーナが言う通り道は目の前の街まで伸びているが、街の向こう側には道らしきものはない。少し平地があるがその先は山だ。とりあえず街に行こうと周囲を警戒しながら廃墟の街に入った5人。
いつも通りまずは教会を探す。ここでも教会はそれほど被害を受けていない。中に入った5人は女神像の前に跪いて祈りを捧げた。
しばらくしてから全員が顔を上げた。
「何か聞こえたか?俺は聞こえなかった」
ラッセルが言うと他の4人も何も聞こえてこなかったという。
「つまり、私たちは間違っていないってこと?」
「俺はそう思う」
ローズの言葉に同意するカイル。
「ただし道はこの街までだ。俺たちの目的地はこの奥だと思うんだがどこに行けばよいか」
「とりあえず手分けして調べよう。カイルは街の外を見てくれるか」
ラッセルが言った。スミスとレミーナの姉弟。ラッセルとローズ、そしてカイルは1人で動く。街はスタンピードで壊滅的に破壊されていてそこらじゅうが瓦礫の山になっている。カイルは街の北側に移動すると崩れた城壁から外にでて北にある山々を見る。どこかに奥に進む道があるかもしれないと見ていると細い道が山間を奥に伸びているのを見つけた。その道は真正面にある山の西側、山あいを奥に伸びている。
それ以外の道があるかどうかじっくりと見てみたがここからは他の道は見えない。決め打ちも必要だろう。カイルが外を調べている間、ラッセルらは瓦礫を取り除いてその下に隠れているかもしれないにアイテムを探していた。
教会の前に戻ってくるとメンバーが戻っていて広場に集めた品物を広げていた。廃墟になってから時間が過ぎていることもあり。使えそうな物は少ないが、それでもいくつかの新しいアイテムを手に入れた。山の中の街だけあって元々林業で生活をしていた人が多かったのか林業関係のアイテムが多い。
ロープや斧、足元の草木を切る鎌や鉈、それに薪もある。
「斧は錆びているが使えそうだな」
「ロープもあると便利よ」
「決まっていないが黒幕が山の奥にいるとしたら山の中の道なき道を進んでいく可能性があるよな。全部持っていこう」
各自が手分けをしてそれぞれの魔法袋に収納する。それが終わった頃には周囲が薄暗くなっていた。山の盆地は日が暮れるのが早い。5人は教会の前の広場で車座に座りその中央で焚き火をたいた。
夕食を摂りながら昼間に街の外を見ていたカイルが状況を他の4人に説明をする。
「街の北側にさらに奥に伸びている道が1本あった。遠目に見ただけだけど道幅は狭い。それ以外の道は見つけられなかった。なので明日はその道を山の奥に進もうと思う」
「魔獣が強くなる可能性があるな」
ラッセルが言った。
「その通りだ。しかも今までと違って道幅が狭く横に2列は無理だろう。縦1列で進むことになるので皆周囲には注意して異変を見つけたらすぐに声を出す様にしよう」
「歩く順番はどうするの?」
ローズの質問はカイルも予想していた。
「俺の考えは先頭がスミス、それからローズ、レミーナ、ラッセル、そして俺だ」
「カイル。俺はローズの後ろを歩くよ。敵と遭遇したときに前に出やすいし、万が一後ろから来ても真ん中なら動きやすい」
「確かにな。じゃあそうしよう。他のメンバーはこれでいいかな?」
そう言うと皆頷いた。
「カイルは気配感知が広いから後ろでも大丈夫だよね?」
レミーナがカイルを見て言った。
「大丈夫だ。ローズはスミスのフォローを頼む。スミスに何かあったらこのパーティは終わりだからな。普段は縦一列で歩く。戦闘になったらその時点でラッセルとレミーナは自分の得意なポジションに移動してくれて構わない。ただあまり道から離れないでくれよ。罠とかがあるかもしれないからな」
「分かった」
「俺も任せろ」
カイルの説明を聞いていたラッセルとスミスが言った。全員が理解したのを見たカイルが続けて言う。
「まだ確定した訳じゃないけど、あの啓示から考えるときつい戦いになると思う。明日からは急がずにゆっくりと進んだ方がいいと思う」
「参謀のカイルがそう言うのなら俺は異存はないぞ」
「私も。カイル先生の言うとおりにします」
ローズがそう言うと皆が俺も、私もと声を出して言ってから全員で笑った。カイルも笑いながらチームワークは悪くないぞと感じていた。
翌朝、しっかりと朝食を食べた彼らは街の北側から外にでるとカイルが見つけていた細い道を奥に進み出した。
スミスを先頭にローズ、ラッセル、レミーナ、最後にカイル。縦1列になって細い道を奥に進んでいく。最初の敵との遭遇は細い山道を進み始めて15分が過ぎた頃だった。道を塞ぐ様に獣人が立っている。身長は2メートル近くあり大きな棍棒を持っている。
今まで遭遇していたオークよりも図体がでかい。初めてみるタイプの魔獣だ。
スミスが腰を下ろしてがっしりとと構えて魔獣のヘイトを稼ぐ。そこに棍棒が振り下ろされたががっちりと受け止めた。すると後ろからラッセルがするすると動いたかと思うと魔獣の横に移動してそのまま剣を振る。それを見ていたカイルが精霊魔法を撃つと魔獣が倒れた。
「強くはなっているが問題ないな」
「その通り。まだ序盤だ。こんな程度じゃないだろう」
ラッセルの片手剣とカイルの魔法で倒せる、つまり2人だけで倒せる魔獣だ。今までは1人で倒していたがそれが2人になった程度だ。ローズは魔法を使っていないし、レミーナも矢を射ってない。
「これから奥に行くとさらに強くなるぞ」
ラッセルが気合いを入れた。魔獣を倒すと再び1列になって山の間を奥に進んでいく。魔獣との接敵の頻度は多くないが奥に行くにつれて魔獣が強くなっていく。今もラッセルが2度剣を振り、カイルの魔法を2度撃って敵を倒したところだった。
魔獣を倒すとカイルがレミーナに顔を向けた。
「矢を射るタイミングは任せるよ」
「うん、今は私が矢を射るまでもないかなって思って」
彼女の言葉を聞いて大きく頷くカイル。レミーナは自分の立ち位置を分かってくれている。
細い山道は山の間を縫う様に伸びていた。奥に進むと木々が深くなり視界が悪くなる。カイルは常に周囲の気配を感じながら最後尾を歩いていた。
「右から来るぞ!」
カイルが叫ぶと同時にスミスが右を向いて挑発スキルを発動した。同時にラッセルがスミスの前に出る。右から熊の魔獣がスミスをターゲットにして遅いかかってきた。それを盾で受け止めて片手剣を突き出したそのタイミングでラッセルの刀とカイルの魔法が命中。その直後にレミーナの矢が魔獣の眉間に突き刺さって魔獣が倒れた。
「いい感じだ」
「たまには射らないとね」
「その通りだな」
倒れている魔獣から矢を抜いたレミーナ。矢は綺麗に突き刺さっていたのでまだ使える。回収できる矢はできるだけ回収していく。熊の魔獣の肉は美味い。周囲を警戒しながら素早く解体し、必要な部分だけ取り出した。
細い山道を歩いていると日が傾いてきた。カイルは道を歩きながら野営に適した場所がないか探している。その間にも2体の魔獣を倒したところで道の前方の右、道から外れた場所に大きな岩が横たわっているのを見つけた。あそこなら身を隠せる。
「前の右側の斜面にある岩の裏を見てくれるか。問題なければ今日はそこで野営をしたい」
「任せろ」
ラッセルが戦闘に立って山道から外れると岩の裏側に回っていった。彼の能力なら仮にあの場所に魔獣がいたとしても一撃は躱すことができる。
「大丈夫だ」
その声を聞いて4人が山道から少し離れた場所にある大きな岩の裏側に回った。そこは岩の上部が出ていることもあって上からも見られない。気にするのが岩の左右だけでよい。
「いい場所だな」
「確かに。ここなら見つかり難い」
ラッセルとスミスが言った。左右を警戒しながら全員が腰を下ろした。




