第八話 おサルさんとバナナ
月が変わって、雨と暑さが同居する季節になった。とある田舎にある名のないお店では、店主の森山 小春が昼食の後片付けをしているところだった。
「今日はもう付き人さんは来ないかなぁ」
暑さで火照った身体を冷やそうと、小春が氷を入れた麦茶を飲もうとしたところだった。
「こんにちは、小春さん。今日も相談いいかしら」
「あ、おサルさん。こんにちは」
午後一番にお店に訪れたのはサル。その背中には、何かが入った風呂敷を背負っていた。
「今日はどうされました?」
「我が主へのお供えものに、おいしそうなバナナをいただきましたの。こちら、何かおやつか軽食になる料理はあるかしら」
サルはカウンターの上で風呂敷を広げた。すると中から、ぱきっとした黄色で大ぶりのバナナが一房現れた。
「立派なバナナですねぇ。何か良いレシピがあったかなぁ」
顎に指を当てて、小春は考えを巡らせる。バナナといえばバナナケーキが一番に思いつくが、それじゃあ面白みがない気がする。焼きバナナや蒸しパンも良いが、もう一捻りほしい気がする。
「前はフルーツサンドにして我が主に召し上がっていただきましたのよ。そんな感じで手軽に食べられるものだと尚良いのだけれど…」
「あ! 同じサンドイッチで、良いのを思いつきましたよ!」
「さすが小春さんですわよ!」
サルにはカウンターに座って待ってもらって、小春は早速準備に取りかかる。
カウンターの奥から食パンやベーコンといった食材を運んできて、最後に大きな瓶詰めを持ってきた。
「あら、小春さん。それは――」
「最っ高においしいカロリー爆弾のピーナッツバターです!」
ピーナッツバターの瓶詰めをドンッとキッチンにおいて、にやりと笑った小春。フライパンでベーコンが香ばしい匂いがするまで焼き、バナナからじゅわっと甘みが染みるまでバターでじっくりとソテーした。そして食パン二枚の片面ずつにピーナッツバターをたっぷりと塗る。
「このサンドイッチを作るときは、健康やカロリーなんて気にしちゃダメですよ! 具材も調味料も、とにかくたっぷり挟むのがおいしさのポイントです!」
そしてベーコンとバナナを挟んだ食パンの両面に、バターを引いたフライパンでこんがり焼き目をつける。パンがトーストされる良い匂いがするまでしっかり焼けば完成だ。
「カロリー大爆発の悪魔の食べもの! 甘塩っぱいエルビスサンドの出来上がりー!」
「まぁ! なんだかとっても背徳な香りがしますわよ!」
しっかりとボリュームのあるエルビスサンドを目の前に、サルの目は輝いていた。
「どうぞご賞味ください」
「はい、いただきます」
小さな両手で、分厚いエルビスサンドを掴む。そして大きな一口で頬張ったサルは、その尻尾をピンッと伸ばした。
「こ、これは…! 信じられないくらいおいしくて、目を背けたくなるくらい不健康な食べ物ですわよ…!」
「そうでしょう! そうでしょう! でも、明らかにカロリーオーバーになるので、くれぐれも食べ過ぎないようにしてくださいね」
サルはエルビスサンドをだいぶ気に入ったらしい。小さな口いっぱいにサンドイッチを頬張って、ひたすら無言で食べ進めた。
小春はそんなサルの姿を微笑ましく見守ってから、そっとレシピを書き留めた。『作るときはカロリーなんて気にしない! ただし、食べ過ぎ注意!』の文字も書き込んでおく。
「小春さん、今日もありがとう。これ、お代ですわよ」
いつものように古い銀貨を一枚受け取って、小春はサルを見送った。
しばらくすると、サルが仕える道開きの神様がふくよかになったとか、ならなかったとか、そんな噂話が聞こえてきたのはまた別の話である。
『神様ごはん相談所』。三つ編みに割烹着がトレードマークの店主が、今日もあなたのご相談をお待ちしております。




