第十三話 トラさんとキツネさんと月見団子
とある田舎にある古民家を改装した小さなお店。三つ編みに割烹着姿の森山 小春は、今日もひっそりと店を営業して――。
「待たせたな、小春! さあ、行こうぞ!」
「ほえ?」
店先に暖簾をかけて店内に戻った小春。そのあとを追いかけるように開かれた扉には、トラとキツネの姿があった。
「え? トラさんとキツネさん?」
「何をボサボサしておるのだ! 早く、行くぞ!」
「い、行くってどこに?」
「やだなぁ、小春ちゃん。今日は神界でお月見だって――」
『言ってなかったけ?』のところで、トラとキツネは顔を見合わせた。
「……あれ? 一つ聞くけど、トラくん。小春ちゃんにお月見のこと、連絡してくれたよね?」
「何をいうか、キツネ殿。それはキツネ殿の役目ではなかったか?」
小春にお月見の連絡が来なかったのは、どうやらこの二人のせいらしい。二人して小春への連絡を怠っていたのだ。
「……ウマさんから話は伺っていたので、大体のことは察しました。私は月見団子を作ればいいんですよね?」
「そ、そうだ! それでだな。我らも手伝うゆえ、神界で団子作りを頼みたい」
「神界って…人が行けるものなんですか?」
「もちろんだよ! 久一くんもよく来てるからね」
(おじいちゃん……只者じゃなさすぎるでしょ…)
「さあ、ついて来い、小春よ!」
「えっ、あの、材料は!?」
「全部、神界で用意してあるから大丈夫!」
トラとキツネに引っ張られる形で店を出た小春。向かった先は、近所にある小さな神社だった。
「はい、小春ちゃんはここに立って」
「え? あの、」
「はぐれないように、我の手を掴んでおくがよい」
ぷにゅっとしたトラの肉球。その強面とのギャップがたまらない。
「はーい、じゃあ行くよー」
キツネが何やら古い祝詞らしきものを唱える。すると足元から青白い霧が集まり、形を変え、五芒星のような光輪を描くと、小春たちを包み込んだ。
「え、これは――きゃあっ!」
びゅん!っと下から強い風が吹き抜け、小春は思わず目を閉じる。風が静まったところで恐る恐る目を開けてみると、目の前にはなんとも幻想的な光景が広がっていた。
「わあ…綺麗…」
頭上には、青というより透き通った翡翠色の空が広がっていた。雲は糸のように細く、風に溶けるように流れていく。
足元には、白砂の道が続いていた。粒一つ一つが淡く光り、歩くたびに陽光を反射して煌めく。道の両脇には、見たことのない花々が咲き誇り、風に揺れるたびに光の粒を零していた。
花の香りは不思議と強くなく、ほのかに甘く、清らかな空気にすっと溶け込んでいく。
「ここが、神界…?」
耳を澄ませば、遠くから穏やかな笛の音が聴こえてくる。どこか懐かしく、胸の奥を優しく撫でるような音色だ。
「小春ちゃん、こっちこっち!」
いつの間にかキツネが先を歩いていた。彼に続いて進めば、立派な台所が見えてきた。
「お団子はここで作るよ! 台所は神様たちから見えない位置にあるから、緊張しないでいつも通りにしてくれていいから!」
「わ、分かりました!」
「月見はもちろん夜からだが、付き人の分も団子を作ってもらいたくてな。早速、料理に取り掛かろうぞ!」
「はい!」
事前にウマから月見のことを聞いておいて良かった。小春は事前に考えていた月見団子のレシピを作ることにした。みんなが楽しんで食べてもらえるように、五種類の団子を用意するつもりだ。
「トラさん、キツネさん。今日は月見団子五種盛りを作ろうと思います!」
「おお!」
「わあ!」
「トラさんは手が大きいので、団子の生地作りをお願いします」
「あいわかった」
「キツネさんは私と一緒に具材作りをしましょう」
「はーい」
今日用意する団子は、みたらし、あんこ、よもぎ、きなこ、カボチャの五種類だ。まずは簡単なみたらしから。
小鍋に砂糖、醤油、片栗粉、水を入れて、だまにならないようしっかり混ぜ合わせながら火にかける。粉っぽさがなくなれば、みたらし団子のタレの完成である。
「次はあんことよもぎを作りまーす」
鍋にお湯を沸かし、小豆を入れる。アルミ箔で蓋をして、弱火で小豆が柔らかくなるまで煮る。小豆を煮ている間に、茹でたよもぎを刻む。
「キツネさん、刻んだよもぎをすり鉢ですってくださーい」
「はーい、ゴリゴリしまーす」
すったよもぎを団子生地と混ぜれば、よもぎ団子の完成だ。
次に煮上がった小豆を煮汁と分けて、小豆に砂糖を入れて、そっと掻き混ぜる。このとき、豆を潰さないように混ぜるのがポイントです。
「甘くなった小豆をバットに広げて、粗熱を取ればあんこの出来上がりー!」
あとは、きなことカボチャを作っていく。きなこの作り方はとっても簡単だ。
「キツネさん、きなこと砂糖を混ぜておいてもらえますか?」
「うん、任せてー」
その間に、小春はカボチャの準備をする。蒸して柔らかくなったカボチャをフォークで潰していく。つぶしたカボチャを生地と捏ね合わせれば、カボチャ団子の生地の完成だ。
「よーし! みんなで団子を丸めていきましょう!」
小春は慣れた手つきでころころ。トラは団子が大きくなりすぎないように気を付けながらころころ。キツネは手のひらいっぱいでちょうど良いサイズの団子がころころ。三人でひたすら団子を転がしていく。
丸めた団子は十五個ずつ積み上げれば、十五夜のお月見団子の出来上がり。
「んー、できたぁ! トラさん、キツネさん、おつかれさまです!」
いつの間にか午後になってしまったらしい。作った月見団子は別の付き人に渡して、小春は一休憩取ることにした。
「小春、ご苦労であった」
「お疲れさまぁ、小春ちゃん」
トラとキツネが小春を挟むように隣に座る。もふっとした感触に、小春は思わず頬を緩めた。
「夜になれば宴が始まる。せっかくの十五夜だ。我々もここで月見をしようぞ」
「おいしいお団子もあるしねー」
――『神様ごはん相談所』。時には出張営業も承ります。
その夜、小春は地上では見られない大きな満月を見上げながら、静かに団子を頬張っていた。
あなたに、あたたかいごはんが届きますように。
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