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外伝 爆弾陛下と龍神 わがまま姫の日記帳

「ようし、始めよう!」

冬のある日、彼女の部屋からそう元気のいい声が聞こえてきた。そして、それに面倒そうに答える声も……。

「どうせあんたのことだから、なんでもかんでも出て来る内に収拾がつかなくなるのがオチだろ?」

「うっ……。」

返答に詰まってしまった。確かに、あれこれと懐かしい物が出て来る内にそちらに集中してしまって、片付けが手につかなくなってしまう、ということはしょっちゅうあった。彼は、彼女のそんな様子も全て見て来ている……。

「大体、なんであんたが急に片付けなんか始めたんだよ?そんな珍しいこと始めるから、今年は城にも雪が降ったんじゃないか?」

外には、チラチラと白い雪が舞っていた。辰南の国で、城の辺りに雪が降ることは非常に珍しいことだった。冷え込みがかなり厳しい……。その言葉で寒さという物の存在を思い出して、思わず肩を抱いて身震いする。

「この部屋じゃあ他国からのお客様がいらした時に手狭だから、って言われて、別の部屋に引っ越すことになったの!ほら、文句ばっかり言ってないで柳鏡リュウキョウも手伝ってよ!」

景華キョウカがふくれっ面で言った言葉に、彼は仕方なく手近な書物の山に手をつけた。どれも政治に関する本や兵法書ばかり……。その中に一つ、変わった装丁の本を見つけた。どこか見覚えがある、赤い花の押し花が表紙に飾られている……。

「あれ、確かこれは……。」

「あぁーっ!ダメっ!」

景華が、彼の手から慌ててその本をひったくった。その様子が、何かその本がただならぬ物だということを窺わせる……。片眉を吊り上げて、彼は意地悪に笑った。

「ほう、それはもしや、隠し事か……?」

「えっ、違うよ!ほら、続きしなきゃ!」

苦笑いして誤魔化そうとする彼女に向かって、ある紙切れを突き出す。

「ほら、夫婦の約束事第十七条。ここに隠し事はしない、って書いてあるぞ。確かこれは、あんたが決めたんだったよな……?」

彼が突き出した紙切れには、細かい字でびっしりと二人の間になされた約束事が綴られていた。あの大会から、二月が経過していた。景華の結婚相手を決める大会で柳鏡は見事優勝し、二人は毎日犬も食わない喧嘩をしながら仲良く暮らしていた。

「うっ……。な、なんでそんな物持っているのよ……?」

「こんな三十三条もあるような物、面倒くさくて覚える気もしねえよ。それなら、持って歩いた方が早いだろ?ほら、こうしてあんたに突き付けることもできる訳だし。」

さっとその顔色を変えた彼女に向かって、利き手である左手を差し出す。本を渡せ、ということだ。

「お、怒らない……?」

「それは内容次第だな。なんの本だよ?」

いい加減手がだるくなってきた。初めは何の気もないただの意地悪だったはずなのに、彼女があそこまで隠そうとするものだから、気になって仕方なくなってしまったのだ。

「日記帳……。」

「は?あんたもそんなものつけてたんだな。大体、片付けなんかするからそんなものが出てきたんだろうが。」

渋々と柳鏡の手にそれを預けてから、彼女はさっと自分の元いた場所、柳鏡の手が届かない場所まで逃げた。

「だって、部族長たちが帰郷して閣議がお休みの今でないと、ゆっくりできないじゃない。」

各部族長たちは年末年始を家族とともに過ごすために帰郷していて、そのために閣議が行えないので、暇潰しのついでに部屋を移ってしまおう、というのが彼女の考えだった。柳鏡が、日記のページを開いた。景華は誓った。できる限り、無視をしようと……。

「……。」

無言でページを繰り続ける彼の指先に、だんだんと力が込められて行く……。不穏な空気……。

「おい……。」

無視。なるべくなら、今は彼に近付かない方が良い……。

「うぉい、こら。」

歌を口ずさみながら、片付けに集中しているふりをする。だんだんと、彼の周囲に暗雲が立ち込めて行くのがわかる……。

「景華さん?シン景華さん?」

彼に名前で呼ばれたのは、かなり久しぶりだ。最後に呼ばれたのがいつだったのかも覚えていない程……。本当は喜んで返事をしたいが、今は堪える……。

「ダメか?じゃあ、女王陛下?」

笑顔が、冷たい……。だが、彼はなんとしても景華に返事をさせるつもりらしい。ついに、年貢の納め時だ……。

「な、なあに?あなた。」

声が緊張で上ずる。普段から彼をあなた、なんて呼んでいる訳ではないが、ご機嫌取りのために旦那様扱いをする……。

「ほう、ちゃんと聞こえていたんだな……。ちょっとこっち来いや……。」

笑顔なのに、冷たい物が内包されている。彼の手招きが、怖い……。

「あ、えっと……荷物の山から抜けるのが大変で……。」

「さっきこれを取りに来た時は早かったよな……?」

苦笑して苦しい言い訳をする彼女に、手に持った日記帳を指差して示す。万事休す、だ……。恐る恐る立ち上がって、彼の方へ歩く。

「ほら、ここに座れ……。」

「え、遠慮するわ。私重いから、柳鏡大変でしょ?」

自分の膝の上に彼女を招く彼にそう答えて、ギリギリその手が届かない所に正座する……。

「いいから。遠慮することはないぞ?」

黒い笑顔で、彼がそう言う……。

「あ、謹んで辞退させていただくわ。」

死にたくない、という一心で、彼に断りを入れる……。

「俺はあまり気が長い方じゃないんだがなぁ……。怒らない内に、素直にお兄さんのお膝に座っておいた方が身のためだぞ……?」

いや、醸し出している空気がすでに激怒していますよ、お兄さん……。そんなことを思っても、言ってしまえば大剣の錆にされてしまうので、口を固く閉ざしておく……。

「あぁ、ご希望なら俺がそっちに動いてやることも可能だが、そんなことをすればただじゃあ済まないこともわかっているよな、奥さん?」

なあに、あなた?に応酬すべく発動した奥さん、という言葉……。完敗だ……。いや、勝とうと思っていた彼女が間違いだったのかもしれない……。死刑台への階段を登るように、ゆっくりと彼の元に動く……。

「さあ、説明をしてもらおうか?これは、一体なんだって……?」

「に、日記帳……。」

彼の手の届く範囲に移動するや否や、即効で捕らえられてしまった。もう、逃げられない……。

「ほう、これが日記帳か……?だが、俺が見た所これには……。」

ぶにゅっ。彼の空いている右手に、頬をつままれてしまった。ぐにぐにと、何度も引っ張られる……。

「俺の悪口しか書いてないじゃねえか!どういうことか説明してもらおうか、なぁっ?」

「ぼ、暴力反対ーっ!」

「問答無用っ!」

バタバタと暴れて彼の膝からなんとか逃れようとする景華を、しっかりと捕まえる……。彼女の日記帳は穴を開けた紙を集めてひとまとめに綴じたもので、最新のページは彼女がこの城を脱出した当日を含む一週間のものだった。

「よくも毎日毎日ここまで違うことが書けたな!」

「だって柳鏡が毎日毎日違う意地悪をしたんだもん!」

「言い訳するんじゃねえ!」

景華が諦めたらしく、大人しく動かなくなった。それで柳鏡もやっと彼女の頬を放した。彼女の指先が、懐かしむようにその表紙の押し花を撫でる……。

「確かこれって……。」

柳鏡の視線も、白い指先に当てられた。

「あぁ、確かこの前趙雨たちと話になったよな。あんたが人騒がせにも行方不明になった時に持っていた花だろ?」

「う……。人騒がせ、は余計!しかも、あの花じゃないし……。」

口を尖らせて、それでもその表紙の花は優しく見つめる……。しかし、あの時以外に彼女がこの花に触れる機会があっただろうか。城の庭園にある花ではないのに。

「じゃあ、いつのだよ?」

いつ彼女が他に城を抜け出す機会があったのか、と思って訊ねる。もし彼女があの後も城を抜け出していたのなら、自分の管理不行き届きだ……。

「覚えてないの?あの後、柳鏡がいっぱい持って来てくれたじゃない。私が持って来たのはしおれてひどかったから、柳鏡がくれたやつで押し花したの。あ、日記にもつけてあるかも。」

二人で、そのページを探す……。四つの目が、どんどん後ろに行く程幼くなっていく文字を見て行く……。

「あれ、何歳の時だったかしら……?」

「あんたが六歳の時だぞ。……お、これじゃねえか?」

柳鏡が、あるページを指差した。六歳の少女が書いたにしては、美しい文字が記されている。

「あんた、字だけは綺麗なんだよな。」

「少なくとも、読めない、ってことはないわね。」

これは、嫌がらせ。彼の絵画作品・・・・、ゲテモノ協奏曲、に対する……。

「あんた、まだあのこと根に持ってたのかよ……。読むぞ?六歳、七月十二日。今日は、珍しく柳鏡が優しくて気持ち悪かったです。……この頃から良い根性してるな……。私が欲しがった花を、たくさん持って来てくれました。もう行方不明になるなよ、なんて言われました。余計なお世話です。……さすがあんただな……。」

あはは、と笑って誤魔化す……。確かに、今とほとんど変わっていない……。

「でも昨日も助けに来てくれたし、今日も花を持って来てくれたから、柳鏡は本当は優しいのかもしれません。……前言撤回です。散々文句を言われたのを忘れていました。……あんた、死にたいのか……?今日はこれで終わります。」

「あっ、柳鏡が助けに来てくれた時のこと、覚えてるよ!」

あまりにひどい日記の内容だったので、彼の思考を切り替えるために別のことを言う。

「あの時、暗くなっちゃって怖かったんだ。あれから暗いのが怖くなったの……。」


「ふぇ……。ここ、どこ……?」

気付けば、彼女は全く知らない場所まで来てしまっていた。辺りは、すでに暗くなっている。初めは城が見える範囲で遊んでいたが、花を摘んで歩く内に夢中になり過ぎて、気付けばかなり奥まで来てしまっていたのだ。

「帰らなきゃ……。お父様、お母様……。」

ふらふらと、当てもなく歩く。夜の森は、六歳の少女には十二分に恐ろしかった。暗さで、足元もおぼつかない……。

「あっ!」

ドサッ!

彼女がドジなのは昔からのようだ。足をもつれさせて転んでしまった。左の足首が、ジンジンと痛む……。どうやら、足をくじいてしまったらしい。もう、歩けない……。夜の闇は、一人で座りこんでいる彼女に迫って来る……。

「ふぇっ……。怖いよう……。お父様、お母様っ……。」

涙が出る。城から出てはいけない、とあれほど言われていたのに。こんな悪い子の私は、誰も迎えに来てはくれない……。

「やだぁーっ!お父様!お母様!」

そして。

「柳鏡っ!」

彼女がこんな時に喚んで・・・しまうのは、普段頼りにしている趙雨や春蘭ではなく、決まって柳鏡だった。それも、今も昔も変わっていない……。


「……!」

彼女の喚び声・・・が、彼の耳に届いた。そのまま、駆け出す……。

「あっ、柳鏡!どこ行くの?」

後ろから春蘭が呼び止める声が聞こえたが、振り返って説明している暇はない。彼女は、泣きながら助けを求めているのだ。一刻も早く助けに行ってやらなくては。大人たちは誘拐ではないか?なんて言っているが、あの人騒がせで面倒な姫のことだ、一人で城から抜け出して迷子になっているに決まっている……。

「まったく、面倒な奴……。」

正直、彼女から目を放したことで彼は責任を感じていた。自分が目を放さなければ、こんなことにはならなかったのだ。少なくとも、彼女を迷子にすることはなかった。その思いが、彼の足を余計に早く動かす……。


「ふぅっ……!お父様、お母様……。柳鏡……。」

泣き疲れた彼女が、そう彼の名を呼んだ時だった。

ガサッ、ゴソッ!

目の前の茂みが、不穏な動き方をした。喉の奥から、ひきつった音が出る……。熊や虎だったらどうしよう!その思いが、余計に彼女の恐怖心を煽る。ギュッと固く目を閉じた。

「もうやだぁーっ!景華、良い子になるっ!」

「その言葉、忘れるなよ……。」

聞き慣れたその声に、そっと目を開ける。目の前の茂みから現われたのは、彼女が無意識に喚んで・・・いた人物だった。座ったままの彼女の目の前に、しゃがみ込む……。深緑の瞳に見つめられて、彼女は堰を切ったように泣き出した。

「ふえぇーっ!怖かったよう!怖かったぁーっ!」

そう言ってボロボロと涙をこぼす彼女に、思わず苦笑が漏れる。こんな時位は、優しくしてやった方がいいのかもしれない。

「あぁ、はいはい。怖かった、怖かった。まったく、だから城から出るな、って言われてるんだよ。」

「だってぇー……。」

彼女の手を見て、彼は脱走の理由を知った。その手には、真っ赤な大輪の花が握られていた。城の庭園にはないものなので、彼女の目にはとても美しく映ったのだろう。

「なんだよ、そんなのが欲しかったのか?」

彼の問いに、涙を拭きながら頷く。怒られるかと思ったが、彼は優しく深緑の髪を撫でてくれた。

「先に言えよ、馬鹿。別にあんたが取りに来なくたって、俺が取って来てやったのに。……ほら、帰るぞ。大人たちが心配しているんだ。あんたはこの国の姫だから、行方不明になっただけで大騒ぎなんだよ、面倒くせえ。」

もうまっぴら、と言うように舌を出して、彼女の手を握った。しかし、彼女は立ち上がろうとしない。

「おい、早く戻ろうぜ。寒いし、虎や熊が出たら厄介だ。まぁ、こんな裏山にはそんなものいないだろうけどな。」

「足……痛いの。おんぶ。」

こいつは、一体何を言い出すんだ……?必死で、その言葉を飲み込む。遊び過ぎで足が痛いだと?しかも、おんぶ、だと……?

「見せてみろ。」

小さな足に、そっと触れる。確かに、彼女の左足首はほんの少し熱を持っている。もしかすると、くじいたり捻ったりしたのかもしれない……。

「あぁー、面倒くせえ。こんなわがまま姫、探しに来るんじゃなかったな。」

そう言いながらも、彼女に背を向けてその目の前で膝を折ってやる。背中に、重みがかかった。小さな手が、彼の胸の前で組まれる……。真っ赤な花が、彼の視界で揺れる。

「まったく、あんたは本当に人騒がせだな。迷惑だ。いいか?俺の服に鼻水なんかつけるなよ。」

まだしゃくり上げている彼女に向かってそう言ってから、立ち上がった。ゆっくりと、彼女を背負って歩き出す……。

「重いなぁ……。あんた、チビのくせになんでこんなに重いんだよ?頭も空っぽなくせに。」

「柳鏡、うるさいー……。」

反論に、いつものような元気がない。城に着くまでに、彼女は泣き疲れたのと安心したのとがあって、眠ってしまった。春蘭と趙雨が待っている、あの渡り廊下に向かって裏山を降りて行く……。

「あっ、帰って来た!おおーい、柳鏡!……あっ、景華も一緒だ!」

趙雨のその声に、大人たちが顔をあげた。二人の父親が駆けて来る……。

「おお、景華!無事だったのか!柳鏡、本当にありがとう!」

彼の背から娘を受け取って、抱き締める。それで、彼女が起きた。

「あ、お父様……。あのね、迷子になっちゃったの……。柳鏡が、助けに来てくれたよ……。」

そうかそうか、と娘の言葉に頷いてやるチン王の瞳は、潤んでいる。よほど本気で娘を心配していたに違いない。

「それから……お花、取って来てくれる、って……。」

それだけ言うと、彼女はまた眠りについた。その寝顔を見て、皆が安堵する……。

「あぁ、良かった……。本当に良かった……。娘を連れて来てくれてありがとう、柳鏡。……さて、この子を部屋に連れて行かねば。連瑛レンエイ、お前の息子には本当に助けられた。感謝している。」

「もったいないお言葉です、陛下……。」

連瑛は、そう深々と頭を下げた。珎王の言葉は続く。

「柳鏡になら、安心して景華を任せられるな……。」

後にして思えば、珎王の心はすでにこの時に決まっていたのかもしれない。柳鏡を景華専属の護衛にすることも、後には彼女の伴侶とすることも……。月が、裏山に浮いていた。


次の日、柳鏡は朝早くに景華の部屋を訪れた。その手いっぱいいっぱいに、色とりどりの花が抱えられている……。景華の目が、驚きと喜びに見開かれた。

「うわぁ、すごい!これ、くれるの……?」

ドサッとそれらを床に下ろして、柳鏡はドッカリとその場に座り込んだ。

「ああ。その代り、もう行方不明になったりするなよ。またあんたを探しに行かなきゃならないと思うと、面倒くさくてしょうがない。わかったな?」

「いーだ!余計なお世話っ!」

素直じゃないのは、百も承知だ。楽しそうに色とりどりの花をより分ける彼女を見て、彼は何も言わずに静かに溜息をついた。


「まったく、あんたと一緒にいてろくな目に遭ったことないぜ、俺?」

深く溜息をついた彼に、反論する。

「何よー、文句ないでしょ。責任とってちゃんと柳鏡のお嫁さんになってあげたじゃない。」

「いや、もらい手がなかったらあんたがあまりにも哀れだから、俺が仕方なくもらってやった、って説の方が有力じゃないか?」

むうっとむくれてみせるが、口ごたえはできない。確かに、どちらかというと彼の説に近いのだ……。その様子を見て、彼が勝ち誇ったように笑った。それから、また日記のページを繰り始める……。

「勝って気分もいいし、どうせだから、あんたの嘘も暴いておこうぜ?これだけ詳しく書いてあるなら、多分記録つけてあると思うから……。」

「何よ、いつ?」

彼の手から日記を取り上げて、今度は細い指がそのページをめくり始めた。

「あんたが五歳の、八月……。」

「はい、どこかこの辺。」

そう言って彼の手に日記帳を再び押しつける。この際、彼の機嫌が直ればなんでもいい。

「お?あった。これだ、これ。」

「なになに?五歳、八月五日。今日は、柳鏡がお城にうさぎを連れて来てくれました。ああ、あったね、そんなこと。それで?……白くてふわふわであったかくて、とてもかわいかったです。……あら?もしかしたら、柳鏡の悪口を書いてない日じゃない?珍しい……。」

「あんた、自分がどこにいるのか覚えていて言ってるんだろうな……?」

彼女がいる場所は、彼の膝の上。つまり、彼の手が十分に届く場所なのだ。

「あ、冗談、冗談。うーんと……とても嬉しかったので、思わずうさぎにちゅーしました。あっ、これのこと?あの時私が初めてだって言ったら、柳鏡、嘘だ、って言ったよね?」

「はっ?うさぎっ?」

彼が慌てるのも無理はない。彼の記憶とは全く別のことが綴られていたのだから……。そのまま、続きを読む……。

「ほら、続きに書いてあるだろ。そしてその後……、は?その後っ?」

彼女が、ハッとした。どうやら、その時のことを思い出したようだ。

「あ、そうそう。お父様に見せに行こうと思って走って行く途中で、うさぎにしたの!それでその後、柳鏡にもお礼をしなきゃ、と思って……。」

頭が、真っ白になってしまった。

「俺……うさぎの後かよ……。」

とんだ誤算だった。彼の中に残されていた甘酸っぱい記憶は、まがいものだったのだ……。そして、それに長年騙されていた……。思わず、肩を落とす……。

「あ、ほら。でも、人間で初めては柳鏡だよ。これは本当!」

「嬉しくねえ……。」

一生懸命に彼を慰めようとするが、どうやら彼は相当な打撃を喰らってしまったようだ、当分は立ち直れそうもない……。

「ほら、いいじゃない。柳鏡がくれたうさぎだったんだし。うさぎ、かわいいからいいよね?」

彼女のその言葉で、彼が顔を上げる。その目は、完全にいってしまっている……。

「いつか、辰南中のうさぎを狩り尽くしてやる……。」

どうやらこの日記帳のせいで、彼のうさぎ嫌いには余計に拍車がかかってしまったようだ……。

「ダメだよ!龍神が弱い者いじめなんかしちゃダメ!うさぎ、かわいいじゃない!」

「かわいくねえよ!最悪だ!いいか?あんたは人に馴れたうさぎしか知らないからそんなこと言えるんだ。あのうさぎだって、最初は最悪だったんだぞ!人のことを蹴るわ暴れるわで、あんたと同じ位ひどかったんだ!」


ことの発端は、温かい春の日だった。

「ねえ、本にうさぎさんって出てくるけど、本当に真っ白なの?」

四人で一緒に読んでいた本の挿絵を指差して、景華が顔を上げた。どうやら、全員からの返答を期待しているようだ……。

「なんだよ、そんなことも知らねえのか?」

「柳鏡、そんなこと言わないの。そうだよ、景華。この位の大きさで……。」

優しい春蘭は、彼女に一生懸命その様子を説明してやる。趙雨がそれに協力して足りない部分をつけたしてやっている横で、柳鏡は溜息をついた。本当にこの姫は、城の外の世界に好奇心旺盛で、困る。なんでも聞きたがるから、手に負えないのだ……。

「説明するより持って来た方が早いだろ?明日獲って来てやるよ。」

「えっ、うさぎさん、連れて来てくれるの?」

真紅の瞳が、パッと明るく輝いた。その様子にドキリとするが、そんなことは決して表には出さない。

「ああ。ただし、死んでる奴だけどな。生きてるのは面倒だから……。」

「ダメっ!生きてるうさぎさんがいい!生きてるの!お願い、柳鏡!」

困った。言ってしまった以上は仕方ないが、生きているのを明日までに、というのはいくら彼でも無理だ……。

「景華、無理を言ってはいけないよ。柳鏡が困るじゃないか。」

趙雨が彼女の隣から優しくそう声をかける。景華が、小さなその口を今と同じように尖らせた。

「だって、生きてるうさぎさんの方がかわいいに決まってるわ。柳鏡ならできると思ったのに……。」

彼女は、無意識の内でだが、ずるかった。自分の願い事を誰に言えば叶えてもらえるか、小さなその頭で本能的に理解していたのだ。そんなことを言われては、面倒くさがりの彼も努力するしかない……。

「わかった。じゃあ、夏まで待て。今から捕まえるとなったら、その頃がやっとなんだよ。人に馴らさないといけないし……。」

真紅の瞳が上げられて、再び眩しい光を放った。

「うん、わかった!うさぎさん、楽しみだねぇー。」

ニコニコと笑う彼女を見て、趙雨と春蘭はホウ、と息をついた。柳鏡のおかげで、彼らは質問攻めから逃げることができたのだ。その後、眉根を寄せて仕方なさそうに笑う……。温かい日差しが、降り注いでいた。


清龍シンロンの里に一度戻った柳鏡は毎朝、山にうさぎを捕らえるために仕掛けた罠に足を運んでいた。今日で、もう三日目だ……。

「あーあ、面倒くせえ……。なんだって毎朝こんなに早く起きなきゃならねえんだよ……。」

そう言って、三つ仕掛けた罠を近くのものから順番に見て行く……。一つ目の罠は、空っぽ。そして、二つ目も……。

「仕掛け方が悪いのかな?全然ダメじゃねえか……。」

そして、少し離れた所に仕掛けた三つ目の罠を見に動いた時だった。

「おっ?」

何か白い物が、彼が仕掛けた木の檻の中で動くのが見えた。まさか……。

「……!」

いた。白くて柔らかい、あの生き物……。見た所、そんなに大きくはなさそうだ。これなら、彼女を怖がらせることもないだろう……。元々、彼はうさぎなんてどうでもいい。ただ一つ、彼女の喜ぶ顔が見たくてこんな面倒なことをしていたのだ……。これを渡してやった時の彼女の顔が想像できて、少し気は早いが嬉しくなる……。

「さてと、連れて帰るか。」

檻ごとそのうさぎを持ち上げる。しばらくは、これに入れて飼うことになるだろう。

「母さんも、こういうの見たら喜ぶかもな。」

家で毎朝、彼がどこに行くのかも聞かずに待っていてくれる母親の顔を思い浮かべる。ひとりでに、笑みがこぼれた。

「早く帰ろうっと。」

うさぎを驚かさないように慎重に運びながらも、気は家へと急く。彼は、ついには走り出してしまった。


「あら、柳鏡。それ、どうしたの?かわいいわね。」

家に帰った彼を迎えた母親は、彼が思った通りの反応をそのうさぎに対して示した。得意気に、ほんの少し胸を反らす。

「捕まえたんだ。お城の姫との約束で、夏までに城に連れて行かなきゃならないんだよ。人に馴らしたりしなきゃならないから、しばらく家で飼うから。」

そう言って家の隅に檻ごとそれを下ろす様子を見て、母親は微苦笑して見せた。その瞳は優しく、彼と同じ深緑の色をしている。

「わかったわ。じゃあ、うさぎの分も朝御飯を用意しなきゃね。」

母親はそう言って外に出て行き、青菜をたくさん抱えて戻って来た。それを、息子に手渡す……。

「ほら、ご飯をあげてね。うさぎのお世話は、柳鏡がちゃんとしなさい。いいわね?」

「わかったよ、母さん。」

そこに、柳鏡の腹違いの姉の明鈴メイリンが訪ねてきた。

「おばさん、おはようございます。」

「あら、明鈴ちゃん。遊びに来てくれたの?朝御飯は食べた?」

明鈴が首を横に振る。彼女は家で兄たちと対立してしまい、他の二人と仲良くできない、ということで自分の母親からも疎まれていて、しょっちゅう食事を抜かれたりしていた。そしてそういった時には、決まって村外れにある柳鏡とその母親の家に避難して来ていた。柳鏡とは父親は同じだが、母親が違う。しかし彼女は、母を同じくする兄たちよりも彼が好きだったし、自分の母親よりも彼の母親の方が好きだった。

「じゃあ、明鈴ちゃんの分も用意しましょうね。もう少し待てるかしら?」

その言葉に明鈴は素直に頷いて、うさぎに餌をやっている柳鏡の元にやって来た。

「何?捕まえたの?」

「うん。城にいるわがまま姫が、うさぎが見たいって言うから……。」

彼の手から餌を少し受け取って、明鈴もうさぎに青菜を与えてみる。忙しく口を動かすその様が、とてもかわいらしかった。

「じゃあ、またお城に行くの?うさぎ、捕まえたんだし……。」

「しばらくは行かないよ。うさぎ、人に馴らしてからでないと。姫様に怪我させたりしたら大変だし……。」

「そうだね。手伝うよ!」

隣でまだ餌をやり続けている二つ年下の弟に、明鈴は笑いかけた。本当は弟は、早く城に行きたくてたまらないはずだ。いつも城から帰って来た彼から聞くのは、その姫のことばかり……。どんな悪戯をされた、とか、どんなことを言われた、とか……。

「ありがとう、姉さん!」

弟からも、嬉しそうな笑顔が返って来た。


それから一月が経って、彼はうさぎを檻から出してみた。大分人の存在には慣れたようだが、逃げ出されないように、戸を閉めてからそっと抱きあげる……。

いてっ!このっ!暴れるなっ!」

案の定、抱きあげられたうさぎは慌ててその後ろ足で彼を何度も蹴りつけ、その腕から脱走した。しかしその後彼から逃げようとはせず、少し離れた所からこちらの様子を窺っている……。もう一度、試してみる。

「あっ!ちくしょう!」

やはり、彼のその腕からは懸命に逃げようとする……。しかし、近くに寄られる位では彼を怖がりもしなくなった。そっと、撫でてみる……。すると、うさぎは今度は逃げようとはせず大人しく彼にその体を撫でさせた。

「あーあ。景華もこの位大人しかったらかわいげがあるのにな……。」

うさぎの目の色は、彼女と同じ真紅。若干彼女の瞳の方が色が淡いようだが、よく似ていた。彼に捕まえられたら暴れ出す所までそっくりだ……。

「いつになったら城に行けるかな……。」

それは、このうさぎがいつになったら人に完全に馴れて大人しくなるのか、という意味。それまでは、彼女に会いに行けない……。

「早くなつけよ。」

そう言ってうさぎを撫でる少年の頭上を、初夏の風が吹き過ぎて行った。


そして、八月の五日。ついにうさぎを人に馴らすことに成功した少年は、彼女のためにそれを連れて城に遊びに来た。

「あ、柳鏡。遊びに来てくれたの?」

彼女の部屋を訪れると、そこにはすでに趙雨と春蘭の姿があった。そして、戸口をくぐって来た彼を迎えた彼女の真紅の瞳が、彼が持っているものにくぎ付けになる……。

「それ、もしかして……。」

「うさぎ。」

短くそう答えて、彼女の手が届く位置まで動いてやる。

「ほら、これだよ。」

ぶっきらぼうにそう言って、彼女の手に白くて柔らかい物を預ける……。彼女は、小さなその顔をパッと輝かせた。

「これが……うさぎさん?」

真紅の瞳をまん丸に見開いて、子供の手には余るそれを恐々と抱く……。

「人には馴らしてあるから、心配ねえよ。……かわいいだろ?」

「うん、ふわふわーっ。お父様にも見せて来る!」

本当に、柔らかくて温かい……。彼女は、それを父親の元に運ぼうと思って廊下に出た。そして、小さなその足で小走りをしながら、その腕に抱いたものを見つめる……。白い顔に、赤い目。なんとも愛嬌のある顔だ。

「かわいいね!」

そう言って、あまりのかわいらしさにその口に自分の唇を押し付ける……。そして、ハッと別のことに気が付いた。

「あ、柳鏡にお礼、言ってない!」

くるりとその向きを反転させ、彼女を見送ってくれていた彼の元へと戻る。そして……。

「ありがとう!」

勢い余って、とでも言うべきだろうか、そのまま、うさぎにしたのと同じように彼の口元に自分の唇を寄せる。深緑の瞳が、大きく見開かれた。彼女は、そのまま何もなかったかのように駆け戻って行く……。後に残された柳鏡は、その場に茫然と立ち尽くしてしまった。

「ちょっと柳鏡!大丈夫?」

春蘭が、固まったまま動けないでいる彼を揺すってくれる……。大打撃もいいところだ。彼の思考回路は、すでに機能を停止していた。再起不能。赤い頬でしばらくボーっと、彼女が行ってしまった方を眺める……。その様子を見た趙雨と春蘭は、肩をすくめて苦笑した。


「あ、ほら。うさぎとはあの後一回も……。」

「いや、なんのフォローにもなってないぞ……?」

意気消沈している彼を一生懸命復活させようとするが、逆にどんどん傷を抉っている……。彼女に、悪気は一切ない。こうなったら、また彼の機嫌を損ねるようなことを言って無理矢理浮上させる他ない。後が怖いが……。

「もーっ、うさぎに焼き餅焼かないの!仕方ないでしょっ?」

彼が、ピクリと動いた。回復の、兆し……。

「焼き餅じゃねえよ!調子に乗るな、アホ!大体、考えたらおかしいよな。なんで俺があんたなんかのために、あそこまでしてやらなきゃならなかったんだよ!」

「何よー、私のこと好きだったんでしょ?その位してよ!」

「ほう、それであんたが俺のことを少しでも気に止めた、っていうなら、やった意味もあったかもしれねえな……。だが、いつ俺の気持ちに気付いたって?俺の昇龍を止めた時、とか、どこかの誰かが言ってたよな……?」

墓穴掘りまくり。言うこと言うこと、失敗ばかりだ……。

「も、もういいの!結果オーライ!はい、この話はおしまい。他の所も見てみようよ!」

「何が結果オーライだ、アホ……。」

慌てて何かいいことが書かれていないかとページを繰る彼女の手が、ふと止まった。そこは、彼女が十一歳の時のページだった。

「あ、柳鏡が私の護衛になったのって、この日からなんだ……。」

「あ?あんたが十一歳の四月二十四日?……ああ、そうだな。……さすがあんただな、散々なことが書いてあるぜ?」

懐かしさに手を止めてしまったページだったが、彼の言葉通り、最悪とも言えるページだった……。

「十一歳、四月二十四日。今日は最悪だった。お父様の人選ミスだと思う。……あ、今はそんなこと思ってないからね。まさか、あの柳鏡を私専属の護衛に雇うだなんて、信じられない!わぁー、書いてあることが過激ね……。」

苦笑いをして、彼の顔色を窺う。頬が、ヒクヒクと痙攣しているのが見える。

「どうせなら趙雨の方が良かったわ。でもお父様に言われました。柳鏡以上の護衛はいない、って。意味がわからないと思ったけど、とりあえず言われた通りにします。最近のお父様は、不可解な発言が多いです。柳鏡には一生お世話になるんだからどうのこうの、とか……。」

「……あんたの親、食えない奴だな……。未来予知でもできたのか?」

その言葉に顔をあげて、ブンブンと首を横に振る。まさかそんな訳がない、と……。しかし、彼女の父が言っていたように、彼女は実際に一生柳鏡に迷惑をかけるつもりだ。とことんまで、わがままを言って……。

「あぁっ、クソっ!きっと、あんたの親父はわかってたんだな!……そんな危ない奴に娘預けるなよ、腹立つな……。」

「何が?何がわかってたって話?」

相変わらず、彼女は常軌を逸して鈍い……。

「なんでもねえよ。……ちなみに言うと、あの日はむしろ俺にとって最悪な日だったな。あの日のせいで、あんたのドジに散々付き合わされる羽目になっちまったんだから……。」


「景華、ちょっと来なさい……。」

父に呼ばれて、彼女はその部屋を訪れた。室内に足を踏み入れると、連瑛と柳鏡が頭を垂れた。一体、何があったのだろうか……?

「お前に専属の護衛をつけようと思うんだが、どうかな?」

笑いながら、父親は娘の柔らかい髪を撫でた。かわいらしい真紅の瞳が、見上げてくる。

「いらないわ。四六時中びっちり見張られてるなんて嫌!ぜーったい嫌!」

そう言って、腕を上下に強く振りながら頬を膨らませる。柳鏡は、吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。

「そんなことを言うな。最近色々と危険な輩がいるからね、お前を危ない目に遭わせたくないんだよ。」

「でもぉ……。」

自分のためだと言われてしまえば仕方ないが、納得はいかないので口を尖らせて俯く。父がその様子を見て笑った。

「それにどうせ四六時中一緒にいた相手なんだから、今更いいじゃないか。なぁ、柳鏡。」

「はい、陛下……。」

普段の彼からは想像もつかない程恭しい様子で、彼が腰を折る……。まさか……。

「お父様、まさか……。柳鏡を護衛に、なんて、言わないわよね……?」

「おお、そのまさか、だよ。どうだ、景華?嬉しいだろう?これで私も安心だ……。」

珎王は、一人で満足気に頷いている。どうやら、彼は独りよがりなところがあるらしい……。景華の肩が、ふるふると震える……。

「やだーっ!絶対に嫌!柳鏡だけはダメっ!」

いつも意地悪で、口が悪くて、お小言ばかり多くて……。そんな彼に四六時中見張られているなんて、地獄だ。しかし、父は取り合ってくれない……。

「ははは、お前が素直じゃないのは父も承知だ。いやあ、良かった、良かった。」

連瑛は、愛想笑いを崩さないように真剣になっている。かなり、辛そうだ……。

「本当に嫌ぁーっ!」

彼女の悲痛な叫びだけが、乾いた笑いが漂う部屋の中に響いた。


その夜、彼女は渡り廊下で膝を抱えて月を見ていた。その隣には、護衛の仕事としてそばに控えている彼の姿があった。

「意味わからない……。どうしてよりによって柳鏡なの?」

「あんたのドジに対応できるような器用な奴がそうそういないからだろ、反省しろ。俺だって嫌だし。あんたみたいなわがまま姫のおもりなんかするの、面倒くせえ。」

本当は、そんなこと微塵も思ってはいなかった。ただ、彼女のそばにいられることが嬉しかった。ふと、景華の顔が曇った。

「……そう言えば、聞いたよ。柳鏡、お母様が亡くなられた、って……。」

「ああ、先月な……。」

二人とも、視線は相手には向けず、月に向けたまま話す。それで、ちょうど良かった。

「……寂しい?」

「あんたじゃあるまいし、そんなこと言わねえよ……。」

そう言って月を見上げるその横顔は、大人びているが、辛そうだ。なんとかして、元気づけてやりたい……。

「まあ、いいや。仕方ないから私の護衛で雇ってあげる!そうしたら、柳鏡もずっと一人ぼっちにならないでしょ?」

笑いかける彼女に対する答えは、いつもの調子で意地悪い……。

「仕方ないのはこっちの台詞だ、アホ。俺に迷惑かけるなよ。」

景華の含み笑いを、青白い月光が映し出した。


「あぁー、そうか。俺はあの瞬間に人生の選択を誤ったのか。あの時珎王がなんとおっしゃっても断るべきだったな、わがまま姫のおもりなんか面倒くさくてできません、ってな。」

「失礼ねー!それなら、私こそ間違ったわ。あの時、柳鏡なんかに同情しないでクビにしておけば良かった!そうしたら、今頃……。」

柳鏡の片眉が、意地悪く吊り上がる……。本当に、何度墓穴を掘れば気が済むのだろうか……。

「俺がいなかったら今頃……。ああ、あんたは土の中だったかもしれないな……。それで満足か?ん?土の中は真っ暗だなぁ、明かりもないしなぁ……。」

「あうあう……。」

口ごたえはできない。彼の言う通り、もし彼がいてくれなければ、彼女は一年前に死んでいたはずだったのだ……。

「あは。感謝してるわ、本当に……。」

ひきつった笑顔を浮かべて、はぐらかす。どうやら、このページを選んだのは失敗だったようだ……。

「あ、見て。柳鏡が初陣から帰って来た日も日記つけてあるよ。」

「どれどれ……。」

背中の方で、彼が動くのがわかった。そのまま前にほんの少し屈みこんで、彼女の手元を見つめる。その感覚がなんとなくこそばゆくて、彼女は少しだけ身じろぎした。

「十二歳、九月三十日。今日、柳鏡が始めて行った戦場……えっと、初陣?から戻って来ました。……あんたらしい日記の書き方だな。初陣って言葉位知ってるだろ、普通……。お父様によく褒めてあげなさい、と言われたので、とりあえずそうしました。……ああ、あれはあんたの気持ちじゃなくて、親に言われただけだったのか。」

「確かにお父様にそう言われたけど、私も話を聞いてすごいと思ったわ!確か……。」

「うわぁ、曖昧だな……。」

彼の呆れ顔に、彼女は苦笑いを返すしかない。自分の目を捉えていた彼の目が、再び紙面に戻された。

「続けるぞ?……せっかく私が褒めてあげたのに、柳鏡からは一言もなし!かわいくない!戦場で根性曲がりが直ればいいのにと思ったけど、無理だったみたいです。残念。……あんたに根性曲がりとは言われたくねえな……。でも、なんとなく今日の柳鏡は悲しそうでした。どうしてかしら?……とりあえず無事に戻って来てくれたから良しとします。一応。」

「ほら、私がちゃんと柳鏡の心配をしてたことがわかるでしょ?それに、今ならあの時の柳鏡が悲しそうだった理由がわかるわ。」

一生懸命日記の良い部分を探して、どうやらやっと見つかったようだ。一生懸命その良い部分を売り込もうとする。

「そうだな、一応・・心配はしてたみてえだな。」

彼は、一応、の部分に力を込めた。確かに、文末には余計な二文字が記されている……。過去に戻って日記を書いている自分に言いたい。余計なことは書かないで、と……。

「ねえ、結局柳鏡が戦場に行く理由は何だったの?あの時、はぐらかしたでしょ?」

ゴン、と彼の頭に何か重い物が落ちてきた。いや、詳しくはそんなような衝撃を受けただけだった。彼は、全くはぐらかしたつもりはない。むしろ、彼にしては随分とはっきり言ってやった方だった。俺の戦う理由が、笑顔そこにある、と……。それなのに。

「さすがあんただな……。別になんでもいいだろ。あんたには一生教えねえよ。」

「気になるじゃない!ケチなこと言わないで教えてよぉ!」

甘えるように彼を見上げる。しかし、彼がくれたのはゲンコツのみ……。

「痛いー!」

「こうでもしないと、あんたの悪い頭は良くならないだろ!最悪に鈍いな、あんた!」

「またすぐそうやってぇー……。」

本来なら、彼女に口ごたえをする権利はない。本当に、彼女はどこまでも鈍感なのだ。子供の頃からどれだけその鈍感さに手を焼いて来たか、彼は考えることもしたくなかった。

「……この時のこと、少しか覚えてるか?」

仕方なく、話題を変えてやる。もし彼女が少しでも覚えていると言えば、それでその鈍さを帳消しにしてやろうと思って……。

「あ、うん。なんとなくだけど……。」

どうやら、彼のこの怒りはなんとか治めることができそうだ。そのまま当時のことを語りだす彼女の声に、耳を傾ける。その声音は、彼の耳には本当に心地良い……。


たたた、っと廊下を駆けて来る足音が、彼の耳に届いた。今日は、少し風が強い。それでも彼の耳がその音を拾った理由は、ただ一つ。それが、彼女の足音だったから……。

「あ、いたいた!柳鏡!」

城の渡り廊下の隅、誰の邪魔にもならない場所でじっと木の葉を眺めていた彼の元に、わがまま姫が転がり込んで来た。

「きゃっ。」

自分が戦場に行っている間もこうだったのだろうか、彼女のドジは相変わらずだった。反射的に、彼女が転ばないように支えてやる……。彼でなければできないような早業だ。

「助かったぁ……。あ、おかえり、柳鏡!」

「助かったぁ、じゃねえよ!転ばないように気を付けろ!大体、なんで走って来たんだよ?」

自分を笑いながら見上げる彼女に、なんとなく尖った言葉をぶつけてしまう。今は、彼女には会いたくなかった。戦場から帰ったばかりの汚れた手で、彼女には触れたくなかった……。

「だって、柳鏡が帰って来たってお父様が……。柳鏡すごいね!すごく頑張ったんだって、皆言ってたよ!」

「……。」

自分を褒めてくれているつもりなのだろう。しかし、彼女のその明るい笑顔が今は何よりも辛い……。自分は、人を殺したのだ。しかも、誰よりも大勢の人を……。彼の脳裏に蘇って来るのは、夥しい量の血と、人々の苦悶の表情、金属の不協和音……。彼の心には、大きな穴が開いてしまったのだ……。

「どうしたの?疲れた?大変だった?」

不安げな真紅の瞳が、自分を見上げて来る。彼女にこんな顔をさせては、いけない。努力して、今の彼には精一杯の笑みを返す。ぎこちなくて、曖昧で、寂しげな笑み……。

「別に……。なんでもねえよ……。」

「嘘つき!」

間髪入れずにそう言う彼女に、返す言葉がなくなってしまった。

「どこか痛いんでしょ?痛そうだもの!ダメじゃない、ちゃんと診てもらわなきゃ!来て!」

そう言って、彼女に腕を引っ張られるままに歩く……。痛い場所はあるが、誰にも癒すことはできない。それは、彼の内側にあるのだから……。

「はい、横になってね。具合が悪い時は、寝なきゃダメ!」

「いや、別にどこも怪我とかしてねえし……。」

あっさりと自分の寝台を提供する彼女に、断りを入れる。いくら功績を上げたとは言っても、彼女の寝台にただの護衛の自分が横になるなどということが、許される訳がない。

「じゃあどこが痛いのよー?頭?柳鏡がおバカなのは今始まったことじゃ……。」

「あんた、この剣の錆にしてやろうか……?」

真剣な顔でシャレにしかならないようなことを言う彼女に、そう凄んでみせる。しかし、対する彼女は怖がる様子など全く見せない。それどころか、落ち込んでしまったようだった。

「……だって、柳鏡の元気がないから……。」

そんなことを言って、俯く。どうしようもなくなって、とりあえず彼女の頭を撫でてやった。顔を上げた彼女が、とびっきりの笑顔を見せる……。この時、彼の心が脈打ち、蘇った。穴の開いていた個所が、あっという間に修復されていく……。誰にも治せないはずの傷が、彼女のその笑顔であっという間に消えて行った。そして、納得する。そうか、自分は。このために、戦って来たのか……。

「いや、あんたのアホな顔見てたら笑えてきた。」

「死んじゃえー!」

真っ赤になって怒るその様子が、たまらなく愛おしい。秋の風が、窓の外だけを強く吹き過ぎて行った。


「ね?確かこんな感じだったよね?」

「……。」

正直言って、絶句した。なぜそこまで鮮明にあの時のことを覚えていながら、自分が戦いに行く理由はわからないと言うのだろうか……。その方が、わからない……。

「いや、俺はわかったぞ。あんたは世界一鈍い!」

「ちょっと、どうしていきなりそんな喧嘩腰なのっ?柳鏡のくせに生意気ー!」

その頬を、ぐにぐにとつねる。

「ほう、それを言うならあんたの方じゃないか?生意気、という言葉はあんたのためにある言葉だよな!」

彼女が、急に真面目な顔になった。その変化に、正直言って慌てる……。その頬を放してやると、彼女はそのまま言葉を紡いだ。

「でも思うの。」

「何をだよ?」

彼女の言葉にそれらしい反応を返して、その目を見つめる。昔はその真紅の色が彼の心臓をきつく締めつけたものだが、この頃ではそんなこともなくなっていた。ただ、温かい感情が溢れるだけ……。

「柳鏡、私にそんな話し方しててよく怒られなかったな、って……。ほら、確かに頼んだのは私だけど、仮にも姫とその護衛だよ?色々と問題が……。」

「アホ、散々あちこちからお小言くらったんだ。」

じとーっと、白い目で彼女を見返す。真紅の瞳が、見開かれた。

「えっ?じゃあなんでやめなかったのよ?敬語の方が、柳鏡でもかわいげがあったかもしれないのに……。」

彼女が尖らせた口が、彼の指に強くつままれた。

「むむふむむーっ?」

何するのーっ?と言ってみたが、まったくもってわからない。しかし……。

「何するのーっ?じゃないだろ、アホ。あんた、自分もかわいげと言う物が全くなかったくせに、よく言うよな!」

彼の手を自分の口から引き剥がして、反論する。

「何ですってー!私のどこがかわいくなかったって言うのよ!少なくとも、素直な方だったとは思うわ!」

「俺以外に対してはな……。」

彼が間髪入れずに言った言葉に、ぐうの音も出ない。確かに、彼に対してだけは、自分はとことん素直ではなかった……。またしても味わう、敗北感……。

「あのなぁ……。俺があんたが何の気なく言ったわがままを叶えるためにどれだけ苦労してたかなんて、考えたこともなかっただろ?」

「うん、全然。なんか、柳鏡には叶えてもらうのが当たり前、って気がしてて……。あはは……。」

あっさりとそう答えてから笑って誤魔化す彼女をしり目に、彼はまたがっくりと肩を落とした。

「考えてもみろよ?あの父親だぞ?あんたにこんな口のきき方してて、怒られなかった訳がないだろうが。」


「柳鏡。」

「はい、父上。」

彼は、里の父の屋敷に呼ばれていた。部屋に入るなり、冷たい空気がピリピリとしているのがその肌に感じられた。まずい、自分は、一体何をやらかしたのだろうか……?

「そこに座りなさい。」

父が指し示したのは、彼の足もとの床。まずい、あそこに座れということは、父上は相当怒っていらっしゃる……。柳鏡はその瞬間に説教三時間、正座付きフルコースを覚悟した。大人しく、指定された場所に正座する。どうしても、父には逆らえない。恐ろしいという思いはない。彼は、すでに武芸ではその父を凌駕していた。それでも逆らえないのは、自分が父親を本当に敬愛しているからなのかもしれない……。

「最近、城からよく聞こえてくる噂があってな……。」

「はぁ……。」

城、城……。さて、一体自分はあそこで何をやらかしたのだろうか。姫の護衛の仕事を始めて三年以上になるが、その間姫に怪我をさせたり、曲者を近づけたりするようなことは一度もなかった。とりあえず、仕事上の問題ではないだろう。しかし、他に何か怒られるようなことをしただろうか……?

「姫君の護衛が、主人である姫君に対して大層失礼な口のきき方をしているとか……。確か姫君の護衛の奴は、この清龍族の族長、ロン連瑛の三男だったと思うが……。間違いないのか?」

「……。」

不敬……。わがまま姫、とか、あんた、とか、アホ、とか……。ああ、そうか。確かに、不敬ととられても仕方がない……。だが。

「父上、恐れながら申し上げます。確かに私は不敬ととられても仕方ない言葉遣いをしておりますが、あれは主人である姫の命なのです。」

「ほう、姫君の命、とな……。」

連瑛が、柳鏡の言葉に興味を示した。

「はい……。」

彼の目に思い出されるのは、渡り廊下から桜を眺める、彼女の寂しげな横顔……。


「春蘭も、成人しちゃったね……。」

欄干にその身を預けて、城から帰って行く春蘭を彼女は眺めていた。先程まで、彼女は景華の元に遊びに来てくれていたのだ。しかし……。

「趙雨も春蘭も、成人した途端に私に敬語、使うようになっちゃったね……。」

それは、当たり前の話だ。いくら彼女と親しいと言っても、身分が違う。成人すれば、大人としての対応が求められるようになる。子供の内であれば、彼女と対等な口調で話すことも許されていたが、大人になればそうもいかない。しかし、彼女にはそれが納得いかない……。

「なんか、寂しいね……。」

「仕方ねえだろ。姫と部族長の一族とじゃあ、身分に差があるんだから。」

欄干に背中を預けて、彼女の隣に立つ。少年の声は、いつの間にか低くなっていた。元々大きい方だったが、その背丈もぐんと伸びていた。体つきも、全体的に逞しくなってきた……。今ではもう少年、という言葉よりも、青年、という言葉の方がふさわしいのかもしれない……。その様子を見て、彼女が一層寂しげに微笑む……。

「柳鏡の声、変わっちゃったね。かわいくない……。」

「かわいくなくて結構。いつまでもなんの成長もしないあんたには、言われたくねえな。」

「放っておいてよ。柳鏡の方が二歳も年上なんだよ?先に大人になって当たり前でしょ!」

口を尖らせて、ほんの少し元気になる。それでも、寂しさは消えない……。

「ねえ、柳鏡。柳鏡が成人するまで、後どの位?」

一瞬、考える。頭の中で軽く計算してから、彼女の問いに答えた。

「一年と一カ月。そんなこと聞いてどうする気だよ?」

城の庭園にある桜は、散り始めていた。彼女が風に吹かれてその花びらが散るさまを、ぼうっと眺めている。その横顔の切なさが、苦しい。

「じゃあ、柳鏡も一年と一ヶ月後には私に敬語を使うようになっちゃうのかな……?」

「嫌なのか?いつもは散々、口のきき方が悪い、とか言うくせに。」

いつものように、ふざけた調子でそう訊ねる。隣の彼女が、笑った。

「口で言ってる程嫌じゃないよ。だって、その方が柳鏡らしいもん。かわいくなくて、腹が立って。でも、その方が良い。敬語なんか使われたら、友達じゃなくなっちゃうみたいで……。」

彼女の考えは、わかる。急によそよそしくされたら、寂しがりな彼女は人一倍寂しく感じるのだろう。その額を、長い指が軽く弾いた。

「痛っ。」

「アホ、誰があんたみたいなじゃじゃ馬で生意気な、わがまま姫なんかに敬語を使うか。死んでもお断りだ。」

その言葉を受けて、彼女が微笑んだ。嬉しそうに笑うその横を、薄桃色の花びらが通り過ぎる。それは、彼女の真紅の瞳によく映える。

「約束だよ、柳鏡!」

そう言って大きく伸びをした彼女の表情は、春の光と相まって、とても明るかった。


今思えば、それが失敗だったのかもしれない。彼女と約束をしてしまった以上は仕方ないが、彼女に対する口のきき方については、彼はあちこちから注意を受けていた。中には、成人したのにそんなこともできないのか、龍神はやはり武芸のみか、などと、ひどい誹謗中傷を受けることもあった。それでも彼が不敬な言葉遣いをやめなかった理由はただ一つ、彼女がそう望んだから……。

「そうか……。そのような話が……。」

連瑛は、そっと溜息をついた。彼の息子が姫に不敬な言葉遣いをしている、ということは、彼自身の教育に問題があったのでは、と言われかねないことなのだ。しかし……。

「柳鏡、お前は本当によくできた息子だ。」

「は……?」

お小言を喰らっている間に何を考えていようか、などと思っていた柳鏡は、父のその言葉に驚いて顔をあげた。

「周囲の目も気にせず、姫君の命に忠節をつくす。その様子、本当に立派だ……。お前も、他人に何度も注意を受けているのだろう?」

「はぁ、まあ……。注意から、いわれのない誹謗中傷まで……。」

そして、おそらくそれはこの父にも及んでいることだろう。自分がきちんとした対応をできなければ、当然その波紋は父にまで及ぶはずだ……。

「しかし、父上にまでそのような誹謗中傷が及んだのであれば、姫に理由を説明し、改善させていただきます。」

そう言って深く頭を下げた息子を、父は何も言わずに見下ろした。この息子に、姫の願いを切り捨てることなどできるはずがない。しかし改善してみせると言うのだから、なんとかして板ばさみにならなくて済む解決法を見つけるつもりだろう……。それを見守ることも、面白いかもしれない……。その成長を喜ぶ連瑛の上に、月光が降り注いでいた。


「ああ、そうか。だから公式の場所だけは敬語を使うようになったのね、柳鏡。」

「……。」

あまりにもあっさりとした反応……。今更真実を聞かせたところで、何の意味もない。何しろ、自分にわがままを叶えてもらうのは当たり前、と思っているような彼女だ。何らかの見返りを期待した自分が馬鹿だったのだ……。相変わらず、人の期待を踏みにじることは、彼女の得意技だ……。

「あ、その日のことも日記につけてあるかもよ。うーんと、春蘭の誕生日の次の日、だったっけ?」

「おい、重いからそろそろ降りろ……。」

彼の深い想いに対する言葉は、一切なし。まあ、彼女らしいと言えば彼女らしいが……。そして、彼はいい加減足がだるくなってきていた。彼が胡坐をかいているその上に彼女が座っているのだが、そろそろ疲れてきた。自分から、彼女にそこを指定したのだが……。

「うん、ちょっと待ってね……。あ、あったよ、これでしょ?読んでみて!」

そう言って彼の胸にその背中を預けて、日記帳を手渡す。降りる気は、なし。いや、自分がどこに座っているのかも、おそらく彼女は覚えていない……。柳鏡がそれを受け取って、溜息をついてから読み始める。

「十三歳、四月十三日。今日は、春蘭が城に遊びに来てくれました。でも、昨日成人した彼女は、趙雨が成人した時と同じように私に敬語で話すようになっていました。寂しいです。柳鏡も後一年と一カ月で成人します。彼は、敬語は使わないそうです。そうだよね、柳鏡に敬語なんかで話されたら、気持ち悪くて死んじゃう!……ほぉ、いかにもあんたが書きました、っていう日記帳だな……。」

「えへへ……。」

照れたように笑う彼女に、間髪入れず突っ込みを入れる。

「いや、褒めてねえし……。」

それにしても、かなりの紙の量だ。一体、彼女はいくつの時からこの日記をつけているのだろうか……?

「重いでしょ?五歳の誕生日の時からつけてるから、紙がたくさんになっちゃったの!」

彼の心の中での疑問に勝手に答えて、彼女は笑って見せた。確かに、その年からつけているならこの質量になってもおかしくはない……。

「ところで、なんでこんな面倒なことしようと思ったんだ?毎日その日にあったことを書くなんて、面倒過ぎないか?」

「柳鏡は面倒くさがりだからね……。お母様が、字の練習になるから書きなさいって言ったの。結構面白いよ?」

自分を見上げて来る真紅の瞳に、意地悪に笑って答えてやる。

「そりゃ、これだけ人の悪口書けば面白いだろうな……。」

「反省しまーす……。」

そう言ってしょんぼりとして見せるその姿に、苦笑が漏れる。また、彼女の悪口日記に目を戻した。

「あ?これ、何だよ?」

何気なく日記帳のページを繰っていた彼は、他のページとは違うつくりの部分を発見した。

「あぁ、それはね、誕生日の日につける日記なの。その時に好きなもの、とか、たくさん書いておくの!」

彼がたまたま見つけたのは彼女が十六歳になった時のページだった。彼女の話では他にも同じようなページがあるはずなので、見ていく……。

「あんた、笑えるな……。将来の夢、趙雨のお嫁さん、だと。叶わなくて残念だったな……。」

「い、いいの!……あ、私、好きな色だけはずっと変わってないねー。赤だって!」

「将来の夢、もな。」

意地悪に笑った彼の気をうまく別のことで逸らそうとする彼女だったが、彼の方が何枚も上手だ。その手には乗ってくれない。それでも、彼女の誕生日記念の日記をどんどん探して行く……。そして、日記の一番後ろのページ、五歳の彼女の誕生日記念の日記を、二人で見る。

「あれ?ここだけ違う……。」

彼女がそう言ったのは、将来の夢、の欄。そこにはこう書かれていた。

「柳鏡の、お嫁さん……?えー、五歳の私、趣味悪い!」

「それを言うなら今のあんたもだな……。」

また彼に頬をつねられるが、その指先には力が入っていない。振り返って、彼の顔を見上げる。

「あはは、柳鏡照れてるの?赤くなってるー。」

「うるせえよ!大体、あんたはそういうところがずるいんだ!」

意味不明な彼の言葉に、首を傾げる。つい、と眼が逸らされてしまった。

「あんたは絶対そうなんだ!最後の最後に必ずと言っていい程強烈な爆弾が仕掛けてある!それで大逆転決めるんだから、せこいんだよ!」

「意味わからない……。」

そう言って口を尖らせた彼女には、真実その意味はわからない。だが、彼はいつもその爆弾に当っていた。彼女のわがままを聞いた後、彼は必ずこう思った。二度と彼女のわがままなんか聞かない、と……。それでもまた次々と叶えてやりたくなってしまうのは、彼女が必ず自分に向けてくれる、とびっきりの笑顔のせい。その笑顔ばくだんに、彼はいつも被爆していたのだ。

「あんたに意味がわかるはずないだろ。世界一鈍いんだからな!」

「失礼ねー!そんなこと言うけど柳鏡だって……。」

「失礼します、陛下……。」

戸口で女官がそう声をかけて、戸を開けた。二人の動きがピタリと止まり、そちらに視線が向けられる……。

「御夕食の準備が……。」

そこで視線をあげた女官が、一瞬固まる。そして。

「しっ、失礼いたしました!」

彼女は、慌てて戸を閉めて逃げて行った。今度は、二人が一瞬固まる……。なぜ、女官にあんな対応をされたのだろうか?そして、思い出す……。

「ちょっとーっ!いつまでベタベタしてる気よ、変態!」

彼女が赤くなって立ち上がる。どうやら、自分たちの現状、という物がようやく把握できたようだ……。あまりにもその感覚が自然過ぎて、忘れていた……。

「俺は一度降りろと言ったぞ?重くて死にそうだった……。」

しかも至近距離で顔を突き合わせて言い合いをしていたのだ、別の状況に見えなくもない……。

「もーっ、誤解されちゃったじゃない!柳鏡のせいなんだからねっ!」

「なぜ俺一人に押しつけようとする?あんたがさっさと降りればそれで済んだ話じゃねえか!」

「柳鏡がやってたらなんでもいやらしく見えるの!わかった?変態のエロ大魔神様!」

真っ赤な顔で、照れ隠しのために必死で彼に悪態をつく……。

「あんた、良い根性だな……。仮に百歩も千歩も一万歩も譲って俺が変態のエロ大魔神だとしたら、あんたは変態と結婚してることになるんだぜ?それでいいのか?女王陛下?」

「うぅ……。」

やはり、勝ち目はない。すぐに白旗を上げる。

「私が間違っておりました……。」

「素直でよろしい。」

彼の得意気に笑う様子が、腹立たしい。いつかは一矢報いてやろう。そう決意を新たにする。

「ほら、飯食いにいくぞ。爆弾陛下。」

「ちょっと、何よその爆弾って!」

先程女官が消えた戸口を、彼が先にくぐった。それに半歩遅れて、彼女がついていく……。それが、二人の一番自然な歩き方だった。

「あーあ、結局全然進まなかったじゃない、片付け。柳鏡のせいなんだからね!」

「さすが八つ当たりの常習犯だな。」

ふと空を見上げる。まだ、白い物がチラチラと舞っている……。

「雪、まだ降ってるね。今夜、冷えるかな……?」

「まあ、いつもよりは寒いだろうな。布団、一枚増やしてくれるように頼んでおくか。」

渡り廊下の床も、いつもより冷たい。靴を履いていても、その冷気は足を伝ってくる。

「一枚で足りるかなぁ……。」

「あんた、寒がりだからな。」

曲がり角を曲がる。城の庭園は、うっすらと白くなっていた。この城がそんな風になっているのを見たのは、彼女には生まれて初めてのことだった。

「ま、いいや。いざ寒かったら柳鏡の布団も取って寝ちゃお!」

悪戯な笑みに返されるのは、いつもの意地悪な笑顔……。

「そんなことになったら、あんたの寝相の悪さが原因で離婚だな。」

「えええーっ!」

本気で不安そうな顔をして、彼女が立ち止まった。その様子に、思わず吹き出してしまう……。

「まぁ、嫌ならせいぜいお行儀よく寝ることだな。」

「ううう……。」

絶対に、口論では彼に勝てない。彼は、彼女の戦法を熟知していた。たった一つ、彼が彼女に勝てなくなる秘策があるのだが……。

「あ、そっか!良い方法があった!」

とてつもなく良いことを思いついた、というように、彼女が笑う。

「何だよ?」

どうせろくなことじゃないんだろうな、と思いながらも、あまりいじめると可哀想なので、仕方なく聞いてやる。

「柳鏡の布団、柳鏡ごと着ちゃえばいいんだ!そしたら、柳鏡も寒くないでしょ?」

彼の体が、ガクンと沈んだ。その様子を、彼女が不思議そうに目を丸く見開いて眺める。彼は、なんとか床に沈み込む前に復活した。まさか、自分の唯一の弱点が彼女につかれるとは思ってもいなかった。唯一の、秘策……。顔を上げても、彼女とは目線を合わせない。黒いくせ毛が、長い指に掻き上げられた。

「嫌だね。あんたの足、尋常じゃないほど冷たいんだ。こんな寒い日に俺に近付けるなよ。」

「何よー、いつも冷たいだろうと思って遠ざけてあげるのに、勝手に寄って来るの柳鏡の方でしょ!」

珍しく、彼の方が返答に詰まった。いや、言葉の返し方はいくらでもあるのだが、照れ屋な彼には彼女に真実を告げることができない。

「わぁ、柳鏡が大人しくなった!私の勝ち!」

その言葉にむっとして、突き動かされる。

「アホ、あんたの足が冷たいままじゃ可哀想だから、仕方なく温めてやってるんだろ!わかれよ、その位!だからあんたは鈍いって言うんだよ!」

今度は景華が言葉を紡げなくなってしまい、黙る。勝負あった。またしても、彼の勝ち。だが、なんとなく気恥ずかしい……。視線を、廊下の外に向ける。

「頼んでないのに……。大体どうして私が壁側なの?この前、頭ぶつけちゃったじゃない!」

頬を赤く染めながらも、手当たり次第に一生懸命彼に反論する。ここまで来たら、なんとしても一勝位したい。

「あぁ、あんたなら寝相が良いから・・・・ぶつけるかもな。だが、いいか?もし部屋側だったら、壁はない。どういうことになるかわかるか?」

「お、落っこちる……。」

「ご名答。」

彼が鼻で笑う。彼女の寝相は、お世辞にも良いとは言えない。そんな彼女を部屋側に寝せれば、どんな惨事が起こるかは目に見えている……。

「大体、不思議なんだよな。どうしたら寝てるのにあんなにもぞもぞと動けるんだよ?」

「知らないよー……。あ、柳鏡がいるせいで寝心地が悪いのかも!」

「離婚だな。」

「ふぇー、やだぁー!」

慌ててその腕にしがみつく。今彼に離婚なんてされたら、それこそ生きていけない。

「……決めたっ!」

「何をだよ?」

腕に景華をぶらさげたまま、いかにもだるそうに彼が訊ねた。夕食が用意されているはずの仮部屋の戸を開ける。

「それ、ちょっと貸して!」

そう言って、柳鏡の懐にしまわれていた紙切れを抜き取った。

「……何するんだ?」

ちょうど机上におかれていた墨と筆をとる。それから何事かをさらさらと書き加えて、よし、と言って顔をあげた。柳鏡の視線が、彼女がたった今書き加えたものに向けられる。

「……第三十四条、むやみに離婚する、なんて言わない。……アホだなあんた、あんなの本気にしたのかよ?」

「したよ!」

そう言ってその頬をぷぅっと膨らませて、席に着く。彼女の頬が、風船が萎むように一瞬で戻った。

「わぁ、苺!」

夕食の膳に添えられていた苺が、彼女の機嫌を一瞬で直してしまったのだ。その様子に、思わず笑みがこぼれる。そう言えば、彼女の日記帳の好きな食べ物の欄にはずっと苺、と書かれていた……。さりげなく自分の膳の苺を彼女の膳に移してやりながら、訊ねる。

「そう言えば、あんた、あの日記帳どうするんだ?やっぱり取っておくだろ?」

「うーん、あそこまで柳鏡の悪口ばっかり書いてあると、申し訳ないなぁ……。」

食事に手をつけるが、なんとなく上の空だ。他の部分も気になっているのかもしれない。

「いや、あの位は予想の範囲内だったぞ?考えてもみろよ、あんたの日記帳だぜ?ろくなことが書いてある訳がない。」

「失礼ねー!今はまともなこと書いてるわ、よ……。」

彼の片眉が、意地悪く吊り上がった。失言だった。これでは、今も日記をつけているということをばらしてしまったようなものだ……。

「今は、ね……。さあ、どこに隠してあるのかな?」

「な、内緒!」

食事に集中しているふりをする。彼の笑顔が、朝と一緒で邪悪なものを含んでいる……。

「さあ、さっさと話しておいた方が身のためじゃないか?」

無視。彼には、死んでも見せられない。

「お兄さんは気が長い方じゃないんだがなぁ……。」

朝も聞いたような台詞。それでも、景華の口は固い……。私は貝、と自分に暗示をかけているから……。また、あの紙切れが出てきた。

「第十七条、隠し事は……。」

「隠し事じゃないもん!内緒事!」

「同じじゃねえか……。」

開き直る彼女にそう言うが、彼女は涼しい顔で食事を続けている。

「そう言えば、破った時には罰則っていうのがあったよな……?ああ、そうそう。床で寝る、だっけ?この寒いのに御苦労だなぁ……。」

ギクリ。彼女の手が止まった。顔色が変わる……。それから、また開き直る。

「い、いいの!内緒事だから、隠し事じゃないもん!」

「無茶苦茶な論理だな……。」

仕方なく諦めて、彼も食事に取り掛かった。いや、本当は諦めてはおらず、いつか見つけてやろうと思っていた。見つけて爆死するのは自分の方だと言うことを、彼は知らない……。

『どこか見つからない場所に隠さなきゃ……。』

彼女の今の日記帳は、彼らの寝台と壁の隙間に隠してあって、その表紙に月桂樹の葉が飾られている。大会で優勝した柳鏡に被せた、あの冠の一部だ。そして、その中身こそ彼には見せられない。書かれているのが悪口なら笑い事で済ませられるが、彼に対する素直な気持ちがいっぱいいっぱいに綴られているのだから、死んでも見せられないのだ。

「ねえ、柳鏡?」

「何だよ?」

いつもの調子で、面倒そうな返事が返って来た。景華は、それに微笑んだ。

「また、寝る前に一緒に見ようね、日記帳!」

「俺の悪口を書いていない所があるならな……。」

自分と同じ位素直でない彼は、決して素直な言葉は返して来ない。それでも、その行動には彼の素直な答えが滲み出ている。たとえば今、一瞬彼の手がピタリと止まったのがそうだ。その了承のサインに、軽く微笑む。今度は、彼の方が顔を上げた。

「ところであんた、あの部屋何に使う気だよ?空き部屋にはしないだろ?」

彼が気にしていたのは、彼女が部屋を移った後に空いてしまう、今の部屋のことだった。あの部屋には、二人の幼少期からの思い出がいっぱいいっぱいに詰まっている……。

「あ、あの部屋はね、いつ使うことになっても良いように空けておくの。」

その言葉に、彼は不機嫌そうに眉根を寄せた。

「なんだよ、賓客用の客室にでもする気かよ?」

彼にとって、あの部屋はこの城の中でも特別な場所だった。城に遊びに来た彼を、いつも彼女が待っていたのがあの部屋だったから……。そんな場所だから、他人の手で蹂躙されるのはなんとなく面白くなかった。

「違うよ。……でも、いつでも良いように空けておくの。」

「はぁ?だから、何の部屋にするんだよ?」

ほんのりと頬を上気させて俯く彼女に、彼は苛立ちを隠さずに訊ねた。彼女の顔が、勢い良く上げられる。

「もう、わかってよ!柳鏡鈍いっ!」

「だから、さっぱりわからねえよ!大体、あんたに鈍いって言われるようじゃ終わりじゃねえか!」

「こ・ど・も・部・屋!」

柳鏡が、ピタリとその動きを止めた。まるで、一瞬にして彫像になってしまったようだ……。彼の顔が、みるみる赤くなっていく……。彼は、またしても彼女が仕掛けた爆弾に被爆してしまった。どうやら、かなり重傷のようだ……。

「……わかった?」

「ああ……。」

目は合わせずに、お互いに自分の手元にその視線を落とす。そう遠くない将来に、彼らも自分たちの子供を持つことになるに違いない。景華はそうも考えて、あの部屋を移ることに決めたのだ。父親と母親の思い出がたくさん詰まっている部屋で、自分たちの子を育ててやりたい。そんな思いがあった。だが、彼はどう思ったのだろうか……?

「嫌だった……?」

彼の顔色を窺いながら、訊ねる。まだ赤い頬のまま、彼は必死になって食事を続けていた。相当動揺しているに違いない、彼女が見ている間だけで、二度も箸を取り落としそうになったのだ……。

「ねえ、聞いてる?」

「ああ……。」

返事を促そうと思って彼にそう言葉をかけるが、はかばかしい返事は返って来ない……。

「いいんじゃないか……?」

やっと思考回路が回復したらしい、彼から賛成の返事が返って来た。

「うん!そうでしょ?」

その言葉に嬉しくなって、思い切り笑顔でそう答えた。彼らがそう決めた部屋に入る最初の住人が誕生するのは、これから一年半も後の話だった……。


景華の日記。

十七歳、十二月二十九日。今日は、片付けをしていて昔の日記を見つけました。柳鏡に見つかったのはまずかったと思います。だって、柳鏡の悪口ばっかり書いてあったんだもの!この日記帳の存在も知られてしまいましたが、今は死んでも見せられません。恥ずかしいもん!この日記帳は、二人がおじいちゃんとおばあちゃんになってから見せます。……柳鏡、おじいちゃんになんてなるのかしら?今はこんなにステキだから、信じられません。これで終わ……。

あっ、そうそう。私が使っていた部屋を子供部屋にしたい、って言ったら、柳鏡も賛成してくれました。二人の思い出がいっぱいの大事な部屋だもん、とっておきのことに使いたいよね!あ、夫婦の約束事は三十四条まで増えました。だって、柳鏡がすぐ離婚だなんて言って脅すんだもの。そんなことされたら、死んじゃう!あと、今日の夕食には苺がついていました。柳鏡がこっそり苺くれたの、本当はちゃんと知っていました。でも、わざとお礼は言わなかったの。柳鏡、照れ屋さんだもんね!日記帳の好きな食べ物の欄に苺、って書いてあったのを見てくれたんだと思います。やったね!今度こそ終わりま……せん。

やっぱり懺悔しておきます。今日って書いてあるけど、この日記は日付が変わってから書きました。ごめんなさい。柳鏡に見つからないようにしたら、日付が変わっちゃったんです。柳鏡のせいです。なんか随分長くなっちゃった。一週間に一ページの決まりだったのに無理そうなので、今日だけで一ページ書きます。今日は本当に色んなことが書きたかったし、良いよね?せっかく見せるって決めたんだから、柳鏡のことを書こうかな?

柳鏡のどこが好きなの?って訊かれたら、正直言って答えられません。だって、自分でもよくわからないもの!でも、一番好きなのは私のわがままを絶対に叶えてくれる所です。あ、あと、本当は優しい所も。口の悪さで誤魔化しているけど、ちゃんとわかっています。……今は、ね。それと、怒られるかもしれないけど、顔も好きです。いっつも吊り目で機嫌悪そうだけど、目の色は絶対穏やかで優しいです。それに、髪も好きです。黒のくせ毛。切り揃えるのが面倒だからって伸ばしっ放しにしないように、ちゃんと見張ります。あとは……あぁ、もう!書ききれないよぉ!……全部!全部好き!よし、書ききった!あ、いい加減じゃないよ!本当に、全部!

それから、最後に。二十九日は、珍しく城にも雪が降りました。結局、一晩中やまなかったみたいです。でも、ちっとも寒くありませんでした。ありがとう、柳鏡。大好き!

こんにちは、霜月璃音です。異国恋歌~龍神の華~最終話、「爆弾陛下と龍神」をお届けします。今回は主人公二人がこれでもか、と言いたくなってしまう位にイチャイチャしていますが、新婚さんなので、読者様の広いお心をもって見逃してやって下さい。

番外編を含めた全てを無事に完結させることができて安心しているのもありますが、登場人物たちには非常に愛着を感じており、彼らと別れなければならないということに寂しさも感じています。

最後の最後までお付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。もしよろしければ、感想、評価、なんでも良いのでいただけないでしょうか。今後の励みにさせていただけたらな、と思います。ここまでお読み下さった皆様に、深く感謝いたします。ありがとうございました。

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