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多分世界に追われる日々  作者: 高橋 よう
第二章 あなたはぼくで僕は貴方
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第19逃 英雄の背中

「さて、二人の顔面に光戻ったことだし...」

くるりと回り、瞬きしたシルクの眼が青緑色に光る。

始め()るか」

「ヴヴォガァァア」


 ____________________魔法 『振動』!!!!!!!!!



「『雷切』」


魔物が吠え、『振動』を展開し、空間が動き出す一歩手前。レイコンマ数秒前にシルクの手のひらから黄色い一閃が轟く。

「グルヴヴゥゥ...!」

一直線で突っ切るそれを、魔物は難なく躱わすが、その代償で『振動』は解除される

「やっぱな。『振動』は発動者の位置が固定されていないと出力されない。お前ら危ねぇから逃げてろ〜」

ジャックスがメシアに肩をかし、シエロが安全そうな場所を探し、先導する形で一斉に逃げる。


「ググヴ......!!!」


 ____________________魔法 『竜巻』!!!!!!!!!


「『雷切』」


『振動』は出せないと悟った魔物は『竜巻』を繰り出し、シルクは魔法の変化に気づいても、構わず『雷切』を撃つ。


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!!!!!!!!!


魔法同士の衝突は相打ちで終わる。

「いいねェ!アガってきたァ!!!!! 『雷切』!」

「ゴォォヴ!!!!!!」

シルクが威勢よく声を上げ、手のひらに光を纏わせ、『雷切』を連続展開し、魔物を狙う。

魔物はそれを的確に避け、シルクに肉薄(にくはく)し、前足を支えに後ろ足でキックを繰り出す。

「ーーーーーーッッッッ!!!」



________________『雷切・(まどか)』!!!



シルクが『雷切』を円形の蜘蛛の巣状に展開し、魔物のキックを正面から受ける。

「とっておきだぜ!オイ!!」

シルクの受けと魔物攻めが、一瞬拮抗(きっこう)する。


数秒の後、シルクの足元の風が舞いだす。

それは、この硬直した隙を無駄にしない魔物からの『竜巻(プレゼント)』だった。

と同時に魔物が飛び退き、巻き添えを喰らうまいと避難する。

「それは流石に...ッッ!」

シルクの防御用の『雷切』展開に合わせるように、足元の風たちが、気流の流れ達が、形を成し、今すぐにでもシルクの強靭な体躯を切り裂かんと動き出しーーーーー



_________否。


                             

発動の一歩手前。可視化されるまでに成った『それ』が、一斉に()()始める。


それまでのやりすぎなほどのゆったりとした『竜巻』の発動演出はただの布石でしかなかった。


本命は、シルクの意識を『竜巻』向けた上で、変質させ、ノーガードの状態の『振動(超広範囲攻撃)』を、ジャックスたちも巻き込んで発動することだった。


しかし、一度完全に発動された魔法を別の魔法に変えるという行為は当然容易ではなく、猛スピードで直線を駆ける新幹線のレールの進行方向を、分かれ道にかかる 1mm 手前できり、安全に曲がるという机上の空論のような行為に等しい。


成功しても失敗してもそのリスクは大きく、これまでの魔力消費量から考えると、間違いなく魔物の全魔力を消費するものだった。


そしてその机上の空論は見事成功し、



「ヴグヴガアァァァア゛アァ゛ア゛ァァア゛ァア゛ァァ゛ァ゛ァア゛」!!!!!!!!!!!!!!!!!!


__________________『振動』!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



魔物を起点に土が、草が、木々が、空気が、『振動』し、とんでもないスピードで広がっていく。

それは、ジャックスたちに見舞ったそれを、はるかに凌駕していた。

魔法に乏しいジャックスたちは、その脅威に気づけていない。

唯一魔法が使えるはずのシエロは、持ち前の『すぐ取り乱す特性』を発動し、口をパクパクさせるだけで何もしない。


「『雷門』!!!!!」

シルクが『雷切』球状に展開し、『振動』を封じ込める。

が、

「っっぱそう簡単にゃぁいかねぇよなぁ...!」

その勢いは止まることを知らず、発射された散弾銃のように『雷門』内部から圧迫していく。


ーーーーーもって 10秒、か。


それはシルクの脳内が弾き出した『雷門』が破られるまでの具体数。

  ...第一優先はアイツらの避難...! そして最大課題...!

  シエロは何をやっている!? 寿も...安全を考えて遠くに置いてきたのが完全に裏目に出た...!

シルクが足らない(と自負している)脳をなんとか回す。  


           

            経過時間 2秒。残り時間 8秒。


「...シルク様ーーーー!!」

「!!??」

己を呼ぶ謎の声に、シルクが思わず視線を当てると、そこには、開かれた道を爆走するコーガの姿があった。

「...ッッ コーガ!!!! 半径100m圏内で避難を!」

「!!! 分かりました!」

右足を接地させると同時に方向を転換し、森の方へと速度を上げる。

その足取りには迷いが無く、一歩そしてその方向にはシルクが確かにキャッチしていたジャックスたちの魔力の気配があった。その迷いのない一歩一歩が今のシルクから見ればものすごく頼もしかった。



           

            経過時間 5秒。残り時間 3秒。




「最高だぜアイツら...!」

これでやっと、余計な神経を使わずにシルクが真に全力を使う条件を満たすに至った。




              経過時間 満10秒。




おびただしい『振動』の嵐が待ってましたと雄叫びをあげて溢れ出す。

瞬間。シルクと魔物を省く半径50m内の木々が崩壊する。

この間、約 1秒。


「ちゃんと...全力には全力で応えてやる」

シルクが合掌し、手を額の上まで持っていき、静かに、そっと目を閉じる。


眼から、手から、頭から、全身へと雷が伝播し、激しく鳴る。


シルクの周囲で尚振動する空気が規律を取り戻し、ちょっとした電気を帯び始める。


『振動』の波は未だ衰えず、敵の息の根を止めようと必死に走る。


真に空気が帯電し、あちらこちらでバチバチという音が鳴る。


隙だらけのシルクだが、魔物はシルクを襲うようなマネはせず、ただただその瞳にシルクの姿を映す。


「ごめんな...」




___________________「『雷門・(ふう)』」





空間に漂うすべての電気が集まろうと動き、『振動』の波を取り囲むように門を正面に塀の形を成し、見事に()き止める。

そして、次の瞬間には山ぐらい大きさの提灯(ちょうちん)へと変形し、徐々に小さくなる。

山サイズから丘へ、丘から一軒家へ、一軒家から岩、岩から石へ。

最終的には手のひらに軽く収まるくらいに小さくなった。

一見アクセサリーと見間違うような電気でできた小さな提灯が完成する。


「封印...完了だな」

シルクが呟く。一安心、といった面持ちである。

自身の渾身を、封じたにもかかわらず、全く疲弊した様子が見せないシルクを魔物は目を見張ることしかできなかった。


「............」

魔物は少し考えるような表情をした後、魔物は腹を見せて仰向けになり、両手両足を曲げて上げ、雄々しい尻尾を地面に付ける。いわゆる、服従のポーズをとり、「降参」を告げた。

「......ヴヴゥ...」

「...あぁ ごめん」

上目遣いで見つめてくる魔物を相手に、シルクは謝罪の言葉を口に出した。

それは、簡単に魔法を破って、それとも なにか別の意味があるのか。

「...ちょっと...話を聞かせてもらえないか?」

「...ヴヴヴ......」

魔物はうなずく代わりに、低く(うな)った。



数十分後、雷鳴が分かりやすい爆音で響き、集合の号令が下った。



「......寿 二人を回復させてから、エジェリー家に行こう。頼んだぞ」

ジャックスとメシアの怪我を見ながら、シルクが言う。

「...はい お任せください......!」

コーガに厳重に守られていた 寿 は、メシアのそばにより、派手に傷のついた腹をさする。すると、みるみるうちに傷が治っていった。


「僕の怪我は大したものじゃないので、直してもらわなくて大丈夫です。......戒めとして一生刻みます」

ジャックスには目立った傷はないものの、かなりの数の細かい擦り傷がある。

大半は数日で治るものばかりだが、中には一生、あるいは年単位で治癒がかかりそうなものもある。

「......ふふ。じゃあちょっとした疲労回復だけでも」

ジャックスの真意を察した 寿 は静かに座り、ジャックスに魔法をかける。

「...ねぇ...... ジャックス君。もし、今後またあなたが怪我を負うことがあって... それでも戦意を失ってなかったら、遠慮なく、私を頼ってください。...もちろん、無理はなさらないようにですけど!」

「...? はい!」

ジャックスは 寿 の何か含んだ言い方に、すべての言葉は咀嚼できなかったものの、はっきりと うなずいた。



それとも疲労がどっと来たからなのか、ジャックスは泥のように眠りについた。

「...おやすみなさい......!」

もしくは 寿 の疲労回復魔法の影響だったのかもしれない。


「さて。では...ここからが(わたくし)のお仕事の本領ですね」

寿が振り向いた先には、竜巻やら振動やらで荒れに荒れた森の残骸があった。

「...あぁ、頼んだぞ。寿」

「はい」

「...?何するんだ...?」

シエロが疑問を投げかける。


「シエロ...いやむしろ、勇者が知っておいた方がいいか。 いいか、よく聞けよ。この世には『魔導』というものが存在している」

「『魔法』とは何が違うんですか?」

メシアが疑問をぶつける。

「効果とか、出力とか、基本的なことは『魔法』とあまり変わらない。大きく異なる点はたった一つ。『魔法』が練習して習得するのに対して、この『魔導』は血で継承される」

シルクが指を三つ立てる。

「現段階で俺が知っている『魔導』は“四つ”。王国王家のモン、名前と効果は国家機密で知らされていない。もう一つは賢者の『賢の者』。 そして......」

紹介をするごとに折り曲げ、残した人差し指の焦点をメシアに当てる。

「勇者の『勇の儀』。 んで......」


()の『陽刻』です!」

寿 が荒れた森に手をかざす。


「『魔導』の特徴はさまざまありますが... 特出すべきはその特異性です」

手のひらが(かす)かに光だす。


「名称は『魔法』と似ていますが、能力の性能を含め、実態は『ギフト』寄りです」

光が手から腕へとつながる。


「また、その血筋だろうと完全な習得は困難を極めますし、継承は毎代毎代されるわけではないので研究が停滞することもあります」

寿の体全体が光だし、寿の足元に雑草が生え始める。


「お待たせしました。これが...私の『魔導 陽刻』 です!」

寿の体が神々しく力強く発光したかと思うと、地面に、雑草から色とりどりの綺麗な花が咲き始める。

そして、見る影もなかった木々が生え始める。小さな木が形を保ったまま段々と大きくなるのではなく、少しずつ成長していくような生え方であった。

直線距離約20km。あっという間に草木が芽吹き、成長し、元通りの大きさになったかと思えばまだ成長は止まらず、周辺の木よりも一回り、頭ひとつ飛び抜けてようやく成長が止まった。

その様はまさに、百花繚乱であろう。


「......ふぅ... 通常の『魔法』は代償が魔力なので草が生い茂る程度ですが、私の『魔導(陽刻)』は“ 寿命”を代償にするので、ここまでの出力が出せるんです...! 」

ふんすっ。と鼻息を荒くした寿がそこにいた。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ...はぁ...はぁ...はぁ...ぁ......はぁ」

否、鼻息が荒いなんてレベルではないくらいの、もはや動悸が激しいと表現した方が適切だと言うくらい。


「...ごめん。ありがとう、寿。ゆっくり休んでくれ」

「......すみません... 不甲斐ないです...」

それを把握しているシルクが 寿 を労いの言葉をかけ、異常に脱力されたその体を優しく包む。


「え?いや...待てよ......それ...!」

メシアが青ざめ、困惑した表情で戸惑いながらシルクに形にならない言葉を投げようするが、喉の奥につっかえて何も出てこない。

「勇者...分かってるから...それ以上言うな...!」



「..................」

シエロは困惑はしているものの何も言わない。

不幸中の幸いは、ジャックスが眠っていたことだろう。

もし起きていたならば、犯したことへの罪悪感で自殺を図っていたはずだ。



「...ごめん...ごめん......俺は...取り返しがつかないことをした......ごめん...」

メシアは、後悔と罪悪感に押しつぶされそうになっている。

眠っている寿にその言葉は届かない。


「...............そうか...」

そう言ってシルクは空を見上げる。

『竜巻』の影響で空には雲ひとつ無い。


メシアは(うつむ)き気味に顔を傾け、申し訳ない気持ちいっぱいで一心に 寿 を見つめる。

瞬間、メシアの視界から寿が消える。


シルクが踏ん張り、寿 を力一杯に空高くに目掛(めが)けて投げたからだ。


「......えっ? ええええぇえぇえぇぇぇぇぇええ!!?!?!??!?!?!??」


シルクが空高く、投げたそれを見て、一拍置いてメシアが驚きの発狂をする。


「えちょ!!?ええ!?」


「ごめんな... 勇者、俺は割と警戒心が高いほうで、ずっとお前を疑ってた」


寿の上昇は止まることを知らない。


「命の脅威と対峙して、お前が自分を優先するか、ジャックスを優先するかそれでお前を図ろうとしてた...」


やっと上昇スピードがおち始める。


「ちゃんと見た、ちゃんと聞いた、ちゃんと確認した。 その結果お前はどうやらただの子供だったようだな」


重力に従って落ちる。


「まぁなんだつまりさ...... 寿 の深刻そうな感じとか...さ」


空から降ってきた寿が、疲れなんか微塵も感じさせない、華麗な着地を披露し、シルクと並んで、肩を組んでイタズラっぽく笑う。


「全部 うっっっっっっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお❤️❤️」

「ですっ!」


「えっ!!?えっっっっ!!!?え...はぇはぁぇ?はえ? はっ...はあぁあああぁああぁあああぁああああぁああぁああぁあっ!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????????????」



その瞬間、森一帯が、メシアの驚きの発狂によって埋め尽くされた。




「............は?」

ただ一人...シエロだけが()()を理解できていなかった。

だが、その小さすぎる呟きは、誰も耳にも入ることは無かった。

あるいは...それで良かったのかもしれない。




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